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【連載】基礎から解説!いますぐ実践できる「がんの緩和ケア」

第12回 せん妄の幅広い症状から異変をキャッチする|終末期の症状緩和⑤

執筆 白川峰子

広島大学病院緩和ケアセンター 緩和ケア認定看護師

Cancer kanwacare

<せん妄とは>
急性で一時的な精神症状であり、がん終末期で多く出現する

 がん患者さんに多くみられる精神症状に、せん妄があります。急性に発症し一時的で、軽度から中程度の意識混濁に興奮・錯覚や幻覚・妄想などの認知・知覚障害を伴う意識障害です。

終末期せん妄の発生率

 せん妄は、がんの全病期を通じて、数%~30%程度の発現率と報告されており、終末期になるにつれその有病率は増加し、死亡直前には約90%の患者さんが不可逆性のせん妄を経験するともいわれています1)

 終末期のせん妄の原因は多要因によることが多いです。30~50%が回復する一方で、50~70%は回復しないままに死亡にいたります2)。終末期の治療抵抗性のせん妄の場合は、鎮静を検討する場合もあり、患者さん・家族の意思確認、医療者・家族間での十分な話し合いが必要です。

せん妄の主な発症要因

 3つの因子が複雑に重なり合い、せん妄が発症します。

1 準備因子:せん妄の準備状態になるもの
・高齢
・脳血管障害の既往など脳の器質的病変の存在
・認知症、ないしその前駆状態(認知機能障害)

2 誘発因子:せん妄を悪化・遷延化させるもの
・環境(がん治療による入院生活や定期的外来受診による環境変化)
・感覚遮断(視覚、聴覚など)
・睡眠・覚醒リズムの障害
・治療上の身体拘束、強制臥床
・不快な身体症状(疼痛、呼吸困難、便秘、排尿障害、尿閉) 

3 直接因子:せん妄の引き金となるもの
がん患者のせん妄の原因
・薬物(オピオイド、ステロイド、ベンゾジアゼピン系薬剤など)
・脱水
・臓器不全による代謝性脳症(肝・腎機能障害、呼吸不全)
・電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム血症)
・感染症(敗血症、肺炎など)
・中枢神経系への直接浸潤(脳転移、髄膜播種など)
・血液学的異常(貧血、DIC〔播種性血管内凝固症候群〕)
・治療の副作用(手術、化学療法、放射線療法)
・栄養障害(低栄養)
・腫瘍随伴症候群(遠隔効果、ホルモン産生腫瘍)

せん妄の分類

 表1にせん妄の分類を示します。過活動型、低活動型、相互に移行する混合型に分類されます。低活動型せん妄は、症状に乏しいため見過ごされることがあります。

表1 せん妄の分類
せん妄の分類
*いずれの型でも、短期記憶障害、幻覚や妄想は認める場合がある。

伊藤聡子:せん妄の種類とは.特集 実はそれ、せん妄です!.ナース専科2016 ; 36(1) : 11.

<アセスメント>
リスク要因を把握し、「いつもと違う」言動に気づく

 せん妄のリスク評価をして予防すること、また、「何かいつもと違う」など、せん妄が疑われたらすぐにケアを始めることが大切です。看護師は特に、せん妄を見逃さないことが必要です。

リスク評価と早期発見

 せん妄のハイリスク要因は、70歳以上、脳転移などの脳器質的障害、認知症、アルコール多飲、せん妄の既往、ベンゾジアゼピンなどのせん妄リスクのある薬剤の内服などです。ハイリスクの患者さんに対しては、誘発因子、直接因子を可能な限り除去することが必要です。

 せん妄の発症に気づくのは患者さんの一番側にいる看護師の役割です。興奮、幻覚、活気がない、見当識障害がある、話のつじつまが合わないなどの症状が出現したときは、せん妄を疑います。患者さんの少しの変化にも気づきやすい家族に「普段と何か違いますか」と尋ねることも必要です。

 せん妄が遷延化、重症化すると治療が中断してしまいます。がん治療を継続していくには、せん妄のリスクを把握し、せん妄の予防、早期発見、早期対応が必要です。

<せん妄の治療>
直接誘発因子を除去し、薬剤を投与する

 せん妄を起した患者さんに対しては、まず原因(直接因子)を検索し可能な限り治療を行うことが必要です。進行・終末期がん患者さんのせん妄の原因で多いのは、オピオイド、脱水、肝・腎機能障害などです。原因に対する治療でせん妄が改善する可能性が高いのは、オピオイド、オピオイド以外の薬物(ベンゾジアゼピン系薬剤、ステロイドなど)、脱水、高カルシウム血症などです。

 終末期はせん妄は多要因で、全身状態が悪化しており、原因の治療が困難になります。また、例えばオピオイドが原因である場合、せん妄への対処としてオピオイドの減量やオピオイドスイッチ(モルヒネから他の強オピオイドへの変更)を行うことで、痛みが増強する可能性もあり、十分な検討が必要になってきます。

 同時に、誘発因子を除去し、少量の抗精神病薬を早期に投与します。抗精神病薬の投与は、注意障害を改善することを主な目的としています。

<すぐ実践できる看護>
見当識に働きかけ、不快な身体症状を取り除く

誘発因子の軽減・除去

 せん妄の誘発因子を取り除いたり、軽減できるよう、環境整備や患者さんへの働きかけをします。

1 見当識を保つ
・時計・カレンダーを見えやすい場所に置く
・時間や場所を細めに伝える
・意図的に患者さんの現実見当識を保つような声かけをする。
 例:「もうすぐお昼ご飯ですね」

2 感覚障害への対応
・眼鏡・補聴器を使用する
・昼夜がわかるように、昼は明るく、夜は薄暗くする
・テレビ・ラジオをつける

3 睡眠障害への対応 
・日中の覚醒を促す
・入眠の改善を図る
・24時間点滴の見直し

4 不快な身体症状の軽減
・疼痛を緩和する
・呼吸困難感を緩和する    
・排便コントロール(便秘・下痢)を図る
・尿意・便意のサインに気づく

 がん患者さんの場合は、痛み、呼吸困難などの症状を抱えている人が多いので、身体症状の緩和が重要です。また、オピオイドを使用している患者さんも多いので、オピオイドの副作用に配慮した排便コントロールも重要です。

安心感の保証

 せん妄の体験を記憶している患者さんは、つらい体験(孤独、起き上がろうとした際に阻止された、医療者からイライラした表情や口調で話しかけられた)になっており、安心感を与えるケアが必要です。

・体験・不安な気持ちを尊重した声かけをする
・傾聴し、否定せずに共感を示す
・穏やかに訂正する(間違った認識の助長になるため、話を適当に合わせない)
 例:「家にいるように感じるのですね。ここは病院なので不思議ですね」

家族ケア

 今までとは様子が違う患者さんの姿を見て、家族は「おかしくなったのではないか」と戸惑います。せん妄について説明し、体の症状として出ていること、患者さん本人の人格が変化したのではないこと、家族の存在が安心感となることを伝えます。また、家族が疲弊しないように休息を促します。家族には、患者さんを叱ったり説教したりしないようなかかわり方を説明します。

 残念ながら、がんの終末期に起こるせん妄には回復しにくいものもあり、そのまま亡くなる場合もあります。その場合には、家族ケアがより重要になります。家族ができるケア、例えばマッサージなどを一緒に考えていきます。また、鎮静を開始した場合には、家族は「もう話はできないの? 食べられないの?」と悩みは続きます。揺れ動く気持ちに寄り添いながら、家族の疑問を把握してこまめに説明をしていくことが大事です。

せん妄の緩和ケアのポイント

せん妄はまず予防を行い、早期発見、早期対応を行い、せん妄の重症化や長期化を防ぐ必要があります。

がん患者さんでは、オピオイド、脱水、肝・腎機能障害などが、せん妄の原因となることが多いです。せん妄は身体の症状として、まずは原因を考えて対応します。

せん妄の回復が困難な場合は、不穏症状の緩和、睡眠確保、家族のケアを行い、せん妄症状の緩和を行うことが必要です。


【引用・参考文献】
1)小山敦子:サイコオンコロジー総論.心身医学 2014;54(1):12-19.
2)難波美貴:日本緩和医療学会ニューズレター 2009;Aug,No44.
●恒藤暁,他編:系統看護学講座別巻10 緩和ケア.p200-202,医学書院, 2007.
●酒井郁子,他:どうすればよいか?に答える せん妄のスタンダードケアQ&A100.南江堂,2014.
●渡邉眞理,他:がん患者へのシームレスな療養支援.p100-106,医学書院, 2015.
●小川朝生,他:がん患者のせん妄.がん看護20 (5):496-514,2015.
●伊藤聡子:せん妄の種類とは.特集 実はそれ、せん妄です!.ナース専科2016 ; 36(1) : 11.
●山川宣:今日の夜からはじめる一般病棟のためのせん妄対策.学習研究社,2017. 

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