お気に入りに登録

【連載】手術室看護の基本を知ろう!

手術室での患者さんの体温変化と体温管理の必要性

執筆 佐藤大介

東北医科薬科大学病院 手術部 手術看護認定看護師

Ope

手術看護の中に重要な項目として〝体温管理〟があります。安全な麻酔のためのモニター指針(2014)という日本麻酔科学会の指針の中に、麻酔中のモニター指針として〝体温測定を行うこと〟とあります。換気や循環のチェックなどについて麻酔科医師と同等に話をすることは難しいかもしれませんが、体温管理は看護師にとっても身近な存在であり、積極的にかかわっていけるモニタリングの一つではないかと思います。今回はその〝体温管理〟についてお話していきます。


全身麻酔下では体温調節反応が抑制される

 人間には体温調整機序として体温調整中枢が視床下部という部分にあり、その働きにより体温が一定に保たれています。細胞が正常に機能するためのさまざまな酵素が作用する至的温度が37度とされていて、外部環境である〝温度〟が変化しても、脳のほか重要臓器の温度(核心温・中枢温)が一定に保たれるようになっています。

脳の図_視床下部

 体温調整の方法として、体内・体外の温度変化に誘発されて熱放散や熱産生の調節に有効な行動をとる行動性体温調整と、身体の中で生体が熱を作り出すこと(熱産生)と熱を体外に放出すること(熱放散)のバランスによって体温を調整する自律性体温調節の2つの方法があります。

 全身麻酔は、自律性体温調節に対して大きく影響します。

 全身麻酔を行うには麻酔薬を使用しますが、この麻酔薬が視床下部と脊髄レベルで体温調節反応を抑制するように作用します。これにより一定に保たれていた体温が変温性になり、核心温(中枢温)が外界温に近づいていきます。つまり、温かい身体核心部から末梢組織へ熱が移動していくことになります。この熱が移動することにより体温が低下することを再分布性低血圧といい、全身麻酔導入後1時間~2時間で核心温(中枢温)が0.5~1.5度低下するといわれています。手術中の体温低下の過程には第一期から第三期まであり、第一期での体温低下が初期低下の80%を占めるといわれています。
また熱放散のパターンとして伝導・対流・放射があります。

 伝導は熱が温度勾配によって核心部から末梢へ、温度の高いところから低いところへ移動することです。そのため、ベッドが冷たいとそれだけ体温が低下しやすくなります。その対策として術前にベッドを温めたり、必要以上に冷たくしないような対応をします。

 対流は温度差による空気の上昇下降のことをいいます。冷たい空気は下方に移動するため、部屋が寒ければそれだけ体温は低下しやすくなります。その対策として入室前の室温を26~28度に設定するなど、術前の部屋を暖めておくといった対応をしています。

 放射は物体が周囲に赤外線を放射して熱を移動させることで、物体との間の電磁波による熱の移動のことをいいます。肌を露出することによって外気に放射することになり体温が低下しやすくなります。その対策として、ドレーンやバルーンの固定を行うときなど不必要な肌の露出を避けるように配慮しながら業務を行います。

低体温は患者さんにも病院にも不利益なことを引き起こす

 では低体温になるとどのようなことが起こるのでしょうか。低体温になると免疫力や基礎代謝、酵素の働きなどが低下します。また、その他の低体温の影響をまとめました。

低体温の影響
  ①ふるえ(シバリング)・悪寒・末梢冷感
  ②術後疼痛の増加
  ③酸素消費量の増加
  ④心血管系のリスク増加
  ⑤血液凝固障害(出血量増加)
  ⑥創部感染率の上昇
  ⑦薬物代謝の遅延
  ⑧麻酔覚醒遅延
  ⑨入院日数の長期化
  ⑩致死率上昇            など

 低体温の影響として有名なのがシバリングです。シバリングとは平均体温低下時に末梢血管収縮と非ふるえ熱産生(nonshivering thermogenesis:NST)に引き続いて出現する骨格筋の不随意的かつ律動的収縮を伴う熱産生反応といわれています。

 熱産生を行うために大量の酸素が必要になり酸素消費量が2~8倍に増加し、心拍出量増加や二酸化炭素産生量増加といった状態になります。それにより心筋酸素供給バランスが崩れ、末梢血管・心臓に負荷がかかり心筋虚血や重篤な心室性不整脈を引き起こします。特に心肺機能低下患者さんや高齢患者さんにとっては危険な状態であり、迅速な治療が求められます。

 また、血小板・血液凝固因子の機能低下により出血量が増加します。体温が2度下がると出血量が500mL増えるといわれています。出血量の増加により輸血を使用する機会が増え、患者さんへの影響だけでなく病院のコスト面でも影響が出てしまいます。低体温を予防し、適切な体温管理をすることは患者さんだけでなく病院にも優しいといえるでしょう。

 薬物代謝への影響として、肝臓・腎臓への血流不足による薬物の代謝時間延長があります。それにより麻酔覚醒遅延を招き、術後の呼吸管理が長引き入院日数の長期化に繋がってしまいます。

 織への酸素供給不足により末梢血管収縮・血圧低下・免疫機能低下が起こり、創部治癒遅延を招きます。感染リスクが増大し、入院日数の長期化に繋がってしまいます。

手術中の体温測定方法それぞれのメリットとデメリット

 手術中の体温はどのように測定しているのでしょうか。心温 (中枢温)を測定するには肺動脈温、直腸温、食道温、膀胱温、鼻咽頭温、鼓膜温、前額部深部温などがあります。それぞれについて解説します。

肺動脈温(スワンガンツカテーテルにて測定)

 中枢温として深部体温の基本となっており、すべての血液が混合する温度を示すため、右心室温と同等に体熱出納を知る目的で平均的な中枢温を知りたいときは、最適な部位とされています。特に心臓外科手術において、心臓の血液温度は心房細動の発生との間に密接な関係があるため1)、心臓の血液温度を知ることは重要な意味を持ちます。中枢温の測定部位としては、理想的ではありますが身体への侵襲がかかるため、ごく限られた手術以外通常は困難であり、非観血的に測定することが可能な部位を選択する必要があります。

直腸温

 骨盤内臓器の温度を反映し、おそらく手術室で中枢温として最も多く利用されているかと思います。肛門内に体温計あるいは測定用プローブを成人だと約8cm、乳幼児だと約3cm挿入します。低体温からの復温中、正常温度に戻るまで直腸温は肺動脈温に比べ遅れて変化するため、温度変化に対する反応が遅いといわれています。腸内ガスや糞便の影響を受けることから、体温が低く測定されることがあったり、下腹部手術では外気や洗浄液などの影響を受け、外気温や洗浄液温を反映した温度が測定されたりします。また、プローブによる直腸穿孔の危険性あります。

食道温

 中枢温としての信頼性が高く、左心房の高さに位置し大動脈温を反映します。肺動脈、大動脈血流の影響を受けるため、急激な体温変化にきわめて迅速に反応が追随するとされています。食道の下位1/3の部位(下部食道)までプローブを挿入します。上部開腹手術や開胸手術など手術手技や外気、洗浄液の影響を受けやすい症例では適しません。また、粘膜損傷や穿孔の危険があるため、食道静脈瘤患者さんには禁忌とされています。開頭術では影響が少なく有効とされています。

膀胱温

 尿量が保たれている場合は中枢温として信頼性が高く、血液温(膀胱動脈)を反映するといわれています。尿量が少ない場合は値が不正確であり、下腹部手術では外気や洗浄液などの影響を受けやすくなります。非開腹術や開胸術、上腹部開腹術では直腸温よりも迅速に変化し、手術を行う場合ほとんどの症例で膀胱留置カテーテルを使用するため、そのついでに測定できるメリットがありますが、膀胱温センサー付きのカテーテルを使用することになり、その分コスト面では高くなります。

鼻腔頭温

 脳温を反映する内頸動脈温を持続的に測定することができますが、鼻腔を通して鼻咽喉にサミスタープローブを挿入するため、ある程度の測定技術が必要になります。測定値は吸引される酸素の温度に影響され不正確なことが多く、急速に体温が変化しているとき肺動脈温と鼻咽頭温は相関しません。正確な温度を測定するには4~6cmの深さ程度の挿入が適切とされており、深すぎても浅すぎても信頼できる値は計測できません。挿入時は粘膜からの出血の誘発に注意が必要で、鼻咽頭に外傷がある場合、この方法は好ましくありません。

鼓膜温

 外頸動脈で環流されている鼓膜が脳温を反映しており、中枢温測定部位として適合性があります。視床下部に流入する血液が内頸動脈から出ており、鼓膜の血液温をよく反映します。接触型鼓膜温は、直接、鼓膜温に接触するようにプローブを挿入し電子モニターに接続し測定します。連続的な測定が可能であり、臨床的にも体温が急速に変化する場合などの中枢温の指標として有用であるとされています。体外循環による冷却加温時にも、送血血液温によく追従するとされていますが、挿入時若干の痛みを伴い、また鼓膜を傷つける恐れがあります。特に全身麻酔時には患者さん自身が痛みを訴えられないため注意が必要です。
 
 非接触型鼓膜温は鼓膜から放射される赤外線エネルギーを測定する赤外線反射式体温計を用いて測定します。体温を簡単にしかも患者さんに不快感を与えることなくわずか数秒(2~5秒)で測定することが可能であり、精度と信頼性に関するいくつかの臨床的調査の結果精度がずば抜けていることが示されました1)2)。しかし連続測定できない、正確に測ることが難しいといったことがあります。その対策としてイヤホン型の赤外線式鼓膜体温計があります。

 その他口腔温や舌下温、前額部深部温があります。中枢温(核心温)と末梢温の較差が3度以内で管理できれば、効果的な体温管理ができたといえるでしょう。

体温測定の方法まとめ
体温測定の方法の特徴

加温器やブランケットを使用して体温を調節する

 では実際の体温管理はどのように行っているのでしょうか。
 
 現在手術室で使用されている加温器にはさまざまなメーカーの物があり、ブランケットの種類も数多くあります。これらを術式や体位、手術部位によって使い分けています。どの症例にどのメーカーの加温器、ブランケットを使用するかは病院によってさまざまでしょう。一つの例として当院の管理の仕方を紹介します。

 当院では温風加温装置のチューブタイプを使用しています。外科の開腹や呼吸器外科どの手術で使用していますが、耳鼻科や外科の虫垂炎など比較的侵襲の少ない手術では上半身のみのブランケットを使用するなど使い分けています。患者さんの状態によっては、この限りではありませんし、麻酔科医師と相談をして患者さんに適した体温管理ができるようにしています。
 
 全身麻酔をすれば必ず体温が低下すると考えて、温風加温装置での加温を行いますが、手術途中で思うよう体温が上がらない状況では麻酔科医師と相談し、加温装置の温度を高くします。また、体温が必要以上に上がってしまった場合は加温を止め、不必要に体温が上がらないようように調整します。

 看護師だけの単独判断だけでなく麻酔科医師と連携し相談しながら体温管理を行うこと、チーム医療の考え方が重要になると思います。


【引用・参考文献】
1)体温のバイオロジー,体温はなぜ37℃なのか,1(1),株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京
2)周術期の体温管理,1(1),克誠堂出版株式会社,東京
●安全な麻酔のためのモニター指針(2014)日本麻酔科学会
●日本麻酔科学会・周手術期管理チームプロジェクト:周術期管理チームテキスト第2版.20111.公益社団法人 日本麻酔科学会
●OPE NURSING 第31巻6号,長谷川素美,株式会社メディカ出版,2016

ページトップへ