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【連載】基礎から解説!いますぐ実践できる「がんの緩和ケア」

第11回 呼吸困難の薬物療法を知って、安心・安楽をつくろう!|終末期の症状緩和④

執筆 白川峰子

広島大学病院緩和ケアセンター 緩和ケア認定看護師

Cancer kanwacare

<呼吸困難とは>
患者さんの主観的な「呼吸時の不快な感覚」

 がん患者さんにおいて、呼吸困難は痛みと同様に大きな苦痛を伴う症状です。呼吸困難は、末期がん患者さんの50%、肺がん患者さんの70%に生じます1)。呼吸困難は、「呼吸時の不快な感覚」と定義される主観的な症状であり、呼吸不全(動脈血酸素分圧:PaO2≦60Torr)とは区別して考えます。

 がん患者さんにおける呼吸困難の原因には以下のようなものが挙げられます。

がんに直接関連するもの:原発性・転移性肺がん、がん性胸膜炎による胸水貯留、胸壁浸潤、心嚢水貯留、気道の閉塞、上大静脈症候群(がんにより上大静脈が狭窄・閉塞し、頭・腕からの静脈血に還流が滞ることによる症状)、がん性リンパ管症(がん細胞が主に肺などのリンパ管を浸潤・閉塞することによる症状)など
がん治療に関連するもの:肺切除後、化学療法による薬剤性肺障害や心毒性、放射線治療による放射線肺臟炎など
その他:貧血、肺炎、心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、不安など

<アセスメント>
1日のなかでの変化、増強因子や緩和因子を捉える

 患者さんは呼吸困難について「息が苦しい」「息が吸えない」「空気が足りない」などさまざまな表現をするので、訴えをよく聞く必要があります。

 患者さんの表現(息苦しさの程度、どのような息苦しさかなど)、1日のなかでの息苦しさの変化、安静時の息苦しさの有無、増強・緩和因子、日常生活(睡眠・会話・食事・排泄・入浴・歩行など)への影響、今までできていたことができないことによるつらさ、不安の有無などを確認し、アセスメントします。

<呼吸困難の治療>
酸素療法や、モルヒネ、コルチコステロイドなどによる薬物療法

 まずは、呼吸困難の原因によって治療が可能な場合は治療を行います。

酸素療法

 低酸素血症時には、酸素投与を開始します。低酸素血症でなくても、酸素投与により酸素の流れを感じることで呼吸困難が軽減する場合があります。しかし、酸素投与による圧迫感、拘束感、口渇感が出現することもあるので、本人が安楽であるかを確認しながら酸素投与をするかを検討する必要があります。

薬物療法(モルヒネ、コルチコステロイド、抗不安薬など)  

 酸素療法で呼吸困難が緩和されない場合は、薬物療法を検討します。呼吸困難の主な薬物療法である、モルヒネ、コルチコステロイド、抗不安薬について、それぞれの作用の特徴や注意点を示します。

【モルヒネ】
 モルヒネは、薬物療法の第一選択になります。モルヒネの呼吸困難に対する作用機序は定かではないですが、①呼吸中枢における呼吸困難の感受性の低下、②呼吸数減少による酸素消費量の減少、③鎮咳作用、④中枢性の鎮静作用、抗不安効果などによると言われています。

 呼吸困難によって内服が困難な場合は、持続静脈内注射、持続皮下注射による投与(内服の1/3~1/2の量)に変更します。呼吸数10回/分以下は慎重に投与します。

【コルチコイドステロイド】
 コルチコステロイドには以下のような作用があり、呼吸困難の緩和に効果があるとされています。

腫瘍周囲の浮腫軽減作用:がん性リンパ管症(がん細胞が主に肺などのリンパ管を浸潤したり閉塞させることによる症状)、上大静脈症候群(がんにより上大静脈が狭窄、閉塞し、頭・腕からの静脈血の還流が滞ることによる症状)、主要気道閉塞(MAO)
抗炎症作用:薬剤性肺障害、放射線肺臓炎

 副作用(消化性潰瘍、高血糖、精神症状:不眠・せん妄、など)に注意するとともに、予後を考慮しながら長期投与にならないように配慮が必要です。

【抗不安薬】
 呼吸困難時は不安や恐怖が出現し、さらに、その不安や恐怖が呼吸困難を増強させます。そのため、抗不安薬が呼吸困難改善に期待できます。

<すぐ実践できる看護>
動作時の負担を軽減し、精神面のケアを行う

 酸素療法、薬物療法以外にも、看護師が行うケアが呼吸困難の緩和に効果を発揮します。呼吸困難のある患者さんが安心・安楽に日常生活が送れるようにケアを実践することが、看護師の役割になります。

安楽な体位の工夫

 ギャッジアップや起座位になることで、横隔膜が広がり呼吸困難が緩和する場合があります。また、クッション、枕、オーバーテーブル、電動ベッドなどを使用し患者さんにとっての安楽な体位を工夫します。

酸素需要を最小限にするためのケアの工夫 

 呼吸困難が増強しないように、電動ベッド、膀胱留置カテーテル挿入、尿器、ポータブルトイレ、車イスの使用を促し、必要な物を手の届くところに整えるなど、身体を動かさなくてもすむように工夫します。また、すべての動作をゆっくりするように促します。

 体動時の呼吸困難が増強しないように、動作前にモルヒネ製剤のレスキュー薬(呼吸困難が強いときに臨時に追加する薬)の使用を促します。排泄移動が負担になる場合は、膀胱留置カテーテル挿入を検討しますが、患者さんが排泄移動を強く希望する場合は、思いを傾聴し、患者さんの負担にならないよう排泄移動を看護師数人で行うなどの工夫も必要になってきます。

環境調整

 室温は低めにし、換気や涼風(うちわ、扇風機)など風を感じることで呼吸困難が緩和することもあります。

排便のコントロール

 怒責により酸素消費量が増加し呼吸困難が増悪するので、下剤を使用した排便のコントロールが必要です。  

精神面のケア

 呼吸困難が出現すると患者さんは「このまま息ができなくなるのではないか」と思い、死への不安や恐怖が生じ、その不安や恐怖がさらに呼吸困難を増強させるので、不安を緩和させるための援助はとても重要です。

 呼吸困難出現時は、パニックになることもあり、看護師は患者さんの側を離れずに付き添います。安心できる声かけや、背部のマッサージや手をにぎるなどのタッチングを行い、安心感につながるケアを実践します。口すぼめ呼吸や、ゆっくりと深呼吸ができるように促すことも大切です。

 特に夜間には、「夜が怖い」「眠るのが怖い、寂しい」と不安を訴える患者さんに対して、睡眠導入剤を使用するなど、睡眠の確保も必要になります。

 また、呼吸困難出現時にはすぐにモルヒネが内服できるよう、1回分を手持ちにすることを検討します。手持ちにすることで患者さんは安心が得られます。モルヒネ持続静脈内注射投与時には、IV-PCA(自己調節鎮痛法)を使用することを検討します。呼吸困難出現時には自己で一定量注入することで、セルフコントロール感を得ることができ、不安が軽減します。呼吸困難が強くなると内服が困難になるので、薬剤の投与経路は内服から注射剤への変更を早めに行います。

家族への支援

 家族にとって呼吸困難を訴える患者さんを側で見るのは、とてもつらいことです。呼吸困難を和らげることを保証し、家族にできること(安楽な体位、環境調整:換気、うちわなどで風をおくる、声かけ)を伝えます。

呼吸困難の緩和ケアのポイント

上述の対応を行っても症状緩和が困難な場合は、鎮静を検討します。

鎮静開始前には、患者さん・家族の意思確認、医療者・患者さん家族間での十分な話し合いが必要です。     


【引用・参考文献】
1)恒藤暁,他編:系統看護学講座別巻10 緩和ケア.医学書院,p161,2007.
●がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.日本緩和医療学会編,金原出版,2016.   
●宮崎和子,他:がん看護・緩和ケア.中央法規,2010.
●奥宮暁子,他:図でわかるエビデンスに基づく呼吸困難のある人への看護ケア.中央法規,2006.
● 沢村敏朗:緩和医療の基本と実践、手とり足とり教えます がん患者さんの身体と心の痛みの診かた.羊土社,p125- 127,2015.

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