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【連載】看護の力で全人的痛みを緩和する! ~がん患者の緩和ケア~

看護の力で成し得るー多角的・複合的ながん患者の緩和ケア

執筆 霜中貴美

株式会社いずみ薬局 ホスピス事業本部室長 緩和ケア認定看護師 (元)マザー湘南 訪問看護そよかぜ

 がん患者の痛みや苦しみは、治療による副作用やがんそのものによるものだけでなく、社会的・精神的・スピリチュアルなものなどさまざまです。さらに外来による治療や在宅による看取りが増えている現在、患者の痛みは複合的に絡み合い、個別性に富んでいます。いまやがん患者への緩和ケアは、全人的痛みへのケアといえるでしょう。本特集では、看護だからこそ成すことができる、緩和ケア実践のさまざまな形を紹介します。


 現在、「がん」は日本人の死因の第1位を占めています。2人に1人が「がん」に罹患し、3人に1人が「がん」により、命を落としている現状があります。その「がん」によってもたらされるさまざまな苦痛を和らげるためのケアが「緩和ケア」といわれています。「がん」による苦痛はさまざまで、「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルペイン(霊的苦痛)」と、多くはこの4つの枠で語られます。また、これら4つは大きく「トータルペイン」として捉えられています。

 「トータルペイン」は、患者の生活の質(qualityoflife:QOL)と密接に関係しているともいわれています。まずは、それぞれの「苦痛」について解説していきます。
 

【身体的苦痛】

 痛み、呼吸困難感(息切れなど)、倦怠感などの身体に関する苦しみを示します。

【精神的苦痛】

 心の苦しみ全般を表す表現に思えますが、特に「がん」という病によってもたらされる不安や苛立ち、孤独感、恐れ、うつ状態や怒りなどの状態を示します。

【社会的苦痛】

 「がん」になったことによる、治療中の就労の心配、経済的な問題、そして家庭や人間関係のなかでの役割の変化に伴う苦痛などを示します。

【スピリチュアルペイン(霊的苦痛)】

 自分のいのち(存在)が消滅する危機、生きる意味がないと感じるような危機を示します。「どうしてこんな病気になってしまったのか」「自分だけがなぜこのような苦しみを味わうことになったのか」など、どれほど医学や科学が発達しても、答えが見つからない、答えることが困難な理不尽な苦しみでもあります。

 さらにWHO(世界保健機関)は、緩和ケアについてのように定義しています。
 
WHOによる緩和ケアの定義
特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会:WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002年).ホスピス緩和ケアの歴史と定義.(2018年8月21日閲覧)https://www.hpcj.org/what/definition.htmlより作成

 例えば、仕事をしながら「がん」の治療を行っている患者が、治療による苦痛を抱えているとします。その苦痛に対して介入を行うことにより、患者の苦痛が軽減して、それまでよりも少しでも就労がしやすくなれば、患者のQOLは保たれる、もしくは向上したといえるでしょう。
 
 このように「緩和ケア」は、患者をさまざまな角度や視点から捉え、そのQOLの維持向上に向けて、包括的にかかわることによって行われています。そしてこのようなケアを行うことができるのは、患者や家族の最も近くに存在して寄り添うことができ、経過を把握して予測することができる看護師だといえるでしょう。

 では、「がん」による苦痛がさまざま存在することは理解できても、「いつから」緩和ケアは始まるのでしょうか。

「緩和ケアは(積極的な治療が行えなくなった段階で)最後に受ける医療だ」
「麻薬を使ったら終わりだ」

 これらの言葉は、実際の患者たちの言葉です。
 
 とかく「医療用麻薬」使用に対して、医療者と患者や家族の認識の違いは、まだまだ大きいように感じます。

 「緩和ケア」は正しくは終末期のみに行われる医療ではありません。

 「がん」と診断され、「がん」の治療の初期段階から同時進行で行われる医療なのです。

 治療による苦痛を軽減することも「緩和ケア」ですし、「がん」そのものによる苦痛を軽減することも「緩和ケア」になります。

 以上をまとめると「緩和ケア」とは、以下のようであると考えられます。

・身体的苦痛の緩和だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインの緩和を目的とする。
・患者のQOLの維持向上を目的とし、その人らしく最期まで生活できるように支える。
・患者の抱える困難にチームでアプローチして対処する。
・患者だけでなく、家族もケアの対象とし、死別後の遺族の悲嘆にも配慮する。
・がんに対する治療の初期から並行して行われる。

 チームアプローチに関していうならば、病院では「緩和ケアチーム」の創設や活動が行われています。

 一方地域でも、往診医や訪問看護ステーション、薬局、ケアマネジャーなど、さまざまな職種がチームとして、地域で生活する患者に多角的にかかわることで支えているのです。そして、これらチームアプローチの要となるのもまた看護師です。患者や家族を包括的に捉える立場にいる看護師が、医療者との橋渡し役を行ってこそ、効果的なチームアプローチが実践され、緩和ケアが叶えられるのです。


参考文献
●小澤竹俊:小澤竹俊の緩和ケア読本 苦しむ人と向き合うすべての人へ.日本医事新報社,2012.
●宮下光令編:ナーシング・グラフィカ成人看護学(6)緩和ケア.メディカ出版,2013.


この記事はナース専科2018年11月号より転載しています。

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