お気に入りに登録

【連載】看護の力で全人的痛みを緩和する! ~がん患者の緩和ケア~

疼痛への緩和ケア

執筆 深澤 真由子

あおば在宅クリニック 緩和ケア認定看護師

%e3%82%b5%e3%83%a0%e3%83%8d%e3%82%a4%e3%83%ab


目次


【事例1 乳がん末期の疼痛と呼吸苦のなか自宅退院を望んだAさん】
<患者情報>
・ Aさん、50歳代、女性(主婦)、左乳がん末期(リンパ節転移、骨転移、肺転移)
・家族構成:夫、子ども2人(息子・娘)

<経過>
 左乳がん診断後化学療法、左乳房除去およびリンパ節廓清術を施行。ホルモン療法を行うが再発。再度、化学療法を行うが効果が乏しく、緩和ケアの方針となりました。腫瘍増大により左胸部には自壊創があり、さらに背部の疼痛もありました。また、左上腕から指先まで重度のリンパ浮腫があり、自力で上肢を動かすことが困難になっていました。それにより、リンパ浮腫による皮膚表面の痛みも持続していました。疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)を使用していましたが、徐々に鎮痛効果が不十分となり、オピオイド内服開始となりました。さらに肺転移およびがん性リンパ管症により呼吸状態は悪化していきました。内服困難となり、皮下からPCAポンプを使用しオピオイドの持続投与に変更となりました。
 
 Aさんの希望として自宅退院を強く望まれていました。しかし家族は介護経験もなく、疼痛や呼吸困難の症状があることから自宅退院には消極的な状態でした。


患者アセスメント

 当初は、左乳房周囲にピリピリとした皮膚表面の疼痛を訴えており、神経障害性疼痛や体性痛が考えられましたが、NSAIDsを開始したことにより疼痛は改善していったため、体性痛によるものであった可能性が高いと考えます。
 
 その後、胸部や背部の鈍痛やうずくような痛みを訴えるようになっており、腫瘍増大による体性痛と骨転移に伴う骨痛、腫瘍増大による神経障害などが考えられました。そして、安静時のほかに体動時に突出痛があったため、屯用のオピオイドから開始し、屯用の使用回数や頻度、疼痛の持続時間などを観察しながら、オピオイドの定時内服へと変更していきました。

 また、重度リンパ浮腫により上肢は通常の2倍程度になっており、疼痛を訴えることも頻繁にみられました。これはリンパ液の貯留により腫脹・熱感があり、皮膚伸展などが原因で疼痛が出現していたと考えられます。その上、リンパ浮腫によって可動域が制限されたことにより、上肢の活動量が低下し、リンパ液の循環をさらに悪化させ浮腫が悪化していた可能性もあります。寝起きなどには、特に疼痛が強く、上肢を安静にしていたことによるリンパ液の貯留が原因であると考えられました。

 さらに、突出痛やリンパ浮腫による痛みが1日のなかで繰り返されることで、疼痛に対する恐怖だけでなく死に対する恐怖なども混ざり合い、精神的につらい状態になっていたと考えられます。
 
 また、個室に入っていたため1人で過ごす時間が多く、孤独や不安が疼痛にも影響を及ぼしていた可能性がありました。

■課題・問題点の抽出

1 体動時の疼痛増強、リンパ浮腫による疼痛が繰り返されることによる苦痛
2 自宅退院の希望があったが、医療的処置が多く家族の介護不安により環境調整に難渋

課題・問題点への対応

1.体動時の疼痛増強、リンパ浮腫による疼痛が繰り返されることによる苦痛**

 安静時はオピオイドの使用により、ある程度の除痛は図れていましたが、起き上がりや移動時など体動時に疼痛が増強する傾向にありました。Aさんの場合、左胸部の自壊創とリンパ浮腫から多量の浸出液の漏出があったほか、軟膏処置をしていたこともあり、連日のシャワー浴は必須でした。
 
 シャワー浴により、リンパ浮腫による疼痛は一時的には改善しましたが、その他の体性痛が増悪するため、清潔ケアは苦痛なものになっていました。そこで、清潔ケアの前には屯用のオピオイドを使用してから行うことで疼痛コントロールを図っていきました。また、リンパ浮腫により生じる疼痛に対しては、屯用NSAIDsを使用しました。

 上肢が緊満しているときには、マッサージにより、症状が一時的に和らぐこともありました(※リンパ浮腫に対するマッサージは医師の許可が必要です。実施の際は医師に確認してから行います)。痛みの性質や部位などから疼痛評価を行い、痛みに合わせた疼痛コントロールを行っていきました。予測される疼痛に対して事前にオピオイドや鎮痛剤を使用することで、Aさんの疼痛に対する恐怖心や不安を軽減することができたものの、疼痛や不安から流涙してしまうことも多かったため、ベッドサイドで傾聴したり、そばに寄り添うことで精神的なケアも行っていきました。

2.自宅退院の希望があったが、医療的処置が多く、家族の介護不安により環境調整に難渋

 入院が長期にわたっていたことで、Aさんには家族とともに住み慣れた環境で過ごしたいという思いがありました。しかし、疼痛に対する対応やリンパ浮腫の処置など、継続的に医療処置が必要な状態でした。また、家族は介護経験がなく、Aさんの苦痛をそばで見るのもつらい状態でした。

 Aさんの疼痛は増強しており、内服も困難になってきていることから、PCAポンプによるオピオイドの持続点滴を導入することになりました。Aさんの意識はクリアであり、疼痛時に自らのタイミングでオピオイドのフラッシュを行うことができる状態でした。
 
 そこで、退院に合わせて、数日前からPCAポンプを開始し、Aさんと家族に使用方法を指導しました。その他の医療的処置は、訪問看護と連携することで継続した処置が行えるようにしました。主な介護者である夫は日中就業していることから、自宅での介護負担が多くならないように考慮し、処置計画を立てていきました。

 このように在宅療養のための環境整備を行うことで、呼吸状態が悪化するまでの数日間でしたが、Aさんは自宅で過ごすことができました。
 

疼痛に対するケアのポイント

 疼痛は患者のADLを低下させるだけでなく、生きる希望や意欲の低下などQOLにも影響を及ぼします。痛みを緩和することは患者の生活を支える上でも重要であり、疼痛コントロールを行うためには、痛みのアセスメントが必要です。

 痛みには、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインがあり、それらをトータルペイン(全人的苦痛)といいます。がん性疼痛はこれらの痛みが複雑に絡み合っており、患者の痛みの原因を多角的にアセスメントすることが必要です。
 
 最終的な疼痛コントロールの目標は全人的痛みの緩和ですが、まずは身体的苦痛の緩和が優先です。

 そこで、どのような痛みが患者の生活に影響を及ぼしているのか把握していきます。また、身体の痛みのほかに病気に関連したさまざまな症状など、痛みの増悪因子を緩和することは疼痛緩和にも役立ちます。

 疼痛にはがんによるもの、神経障害によるもの、創傷によるものなど種類があり、痛みの性質により効果が期待できる鎮痛薬は異なるため、患者の訴える痛みがどのような性質で、どのようなときに出現するのかなどを情報収集し、そのうえで使用する薬剤を検討していくことが重要です。
 
 医療者の役割として患者・家族への指導も必要です。オピオイドに対して、否定的な考えをもっている患者・家族は少なくありません。痛みを我慢して、患者のQOLの低下を招くことは避けるべきです。適切な使用であれば余命を縮めたり、依存的になることはないという、正しい知識を提供することも看護師の重要な役割です。

 鎮痛薬を開始したあとも、定期的な痛みの評価が必要となります。痛みは主観的なものであるため、患者の訴える痛みがどの程度のものであるかを正確に評価することは難しい面があり、医療者側の判断により痛みが過少評価されてしまうことがあります。そういったことを防ぐためにも、痛みの評価にツール()を使用することが客観的な指標となり、患者が感じている痛みをより正確に評価することができます。
 
痛みの評価ツールの例

 Aさんの場合、はNRS(numericalratingscale)を用いて痛みの評価を行い、鎮痛薬の種類や容量を変更した際には適宜評価を行いました。また、屯用薬を使用する際もツールを使用し、薬の効果を確認していきました。このように痛みを客観的に評価することで、現在のオピオイド使用量がAさんにとって十分なものであるかアセスメントすることができ、医療者間での認識の統一にも有用なものとなります。
 
 薬物療法以外にも看護師ができる疼痛緩和のケアがあります。精神的な不安や不眠などは痛みに影響を及ぼします。タッチングやマッサージのほか、患者の話を聞いたり、そばに寄り添うだけでも疼痛の緩和には役立ちます。患者の性格や病状などを考慮しながら個別性のあるケアを考えていくことが、よりよい疼痛コントロールにつながると考えています。
 


この記事はナース専科2018年11月号より転載しています。

ページトップへ