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【連載】看護の力で全人的痛みを緩和する! ~がん患者の緩和ケア~

事例2:消化器症状への緩和ケア

  • 公開日: 2019/2/5

事例詳細

【事例2 環境の変化によるストレスからコントロール不能な嘔気・嘔吐へ対応】
<患者情報>
・Bさん、70歳代、女性
・ 既往歴は心房細動(カテーテルアブレーション治療歴あり)、高血圧
・家族構成:独居だが、退院を機に家族が同居

<経過>
 201X-2年、急性期病院にて直腸がんの診断を受け、腹会陰式直腸切断術、D3郭清、側方リンパ節郭清を受けました。術後化学療法は希望せず、経過をみていましたが、201X-1年Y月、骨盤内再発の診断を受け、66Gyの放射線療法を施行しました。疼痛は緩和されていましたが、3カ月後に多発肺転移、多発リンパ節転移が出現しました。

 以後の治療方針は、ベストサポーティブケア(bestsupportivecare:BSC)となり、カロナール®1,500mg分3、ロキソプロフェンナトリウム®180mg分3、フェントステープ®2mg1枚/日。レスキュードーズとしてオキノーム散®(2.5mg)を疼痛時に2包使用することで、疼痛緩和が比較的良好となり、嘔気・嘔吐については、制吐薬を数種類服用してコントロールが可能になったため、退院して訪問診療の導入となりました。

 しかし、実際に訪問してみると、診察中も嘔気反射が出現している状況で、食欲も減退しており、安楽な姿勢を自分で模索しながら不安そうな表情をしたまま、ベッド上でも洗面器を手放すことができない状態でした。


患者アセスメント

 消えない消化管症状に対し、腹部膨満感、イレウス、便秘などで閉塞が起きていないかを考えました。

 直腸がん手術においてストマが造設されているため、退院後はレスキュードーズの使用回数が増加し、便秘傾向が増強してはいるものの、排便・排ガスは確認できており、閉塞は否定できました。また、胃潰瘍などの胃粘膜障害については、診察上、否定されていました。そこで改めてBさんに話を聞くと、嘔気・嘔吐は疼痛緩和のためにオピオイドを導入したころから常にあること、制吐薬の使用でコントロールができていたはずが、退院後下肢のしびれを主訴にレスキュードーズを服用する頻度が多くなると増悪していることから、これが原因として考えられました。また、歯磨きや体動などによって嘔気・嘔吐が出現することもあるとの話も聞かれました。

 日中は独居で過ごすことへの不安や、退院をきっかけに別々に生活していた家族と同居になったことなど環境の変化への戸惑いがあり、それが心理的・社会的な側面に影響し、精神的な苦痛も重なり嘔気・嘔吐に少なからず影響している印象でした()。

Bさんの嘔気・嘔吐のメカニズム

■課題・問題点の抽出

1 薬による嘔気・嘔吐へのコントロール不良
2 心理、社会的要因の影響

課題・問題点への対応

1.薬による嘔気・嘔吐へのコントロール不良

 入院中からの嘔気・嘔吐への治療として、嘔吐中枢(VC)のドパミン受容体に作用するドパミンD2受容体拮抗薬であるプロクロルペラジン(ノバミン)、メトクロプラミド(プリンペラン)の内服に加え、ドパミン受容体拮抗作用や抗ヒスタミン作用などの作用をもつ多受容体作用抗精神病薬(MTRTA)として、オランザピン(ジプレキサ)をすでに内服していました。しかし、退院後の環境の変化によってレスキュードーズの使用回数が増えており、便秘傾向にありました。そこで緩下剤(酸化マグネシウム、センノシド)を増量し、消化管の閉塞の予防に努めました。

2.心理、社会的要因の影響

 このように主治医が薬剤で症状マネジメントを図りつつ、訪問時や緊急電話対応時にBさんの思いに耳を傾けると、日中の独居への不安や今まで同居していなかった家族が同居したことで、生活スタイルの違いや食生活の文化の違いなどにもつらさを感じていることがわかりました。

 そのため体調のよいときは、自分の家やほかの家族の家に行くことで気分転換を図ることなどを勧めました。

 実際に、そのように過ごしているときは、嘔気も出現することが少なくなりました。訪問看護師の訪問時には、精神的に苦痛と感じていることを言葉で表出するようにもなりました。また、Bさんが必要だと感じたときに服用できるように、抗不安薬を使用できるように準備しました。

 Bさんは、自身で対処することで自己コントロール感を得ることも可能になり、徐々に嘔気・嘔吐の頻度が減少していきました。そこで長期にわたり投与されていたドパミンD2受容体拮抗薬(ノバミン、プリンペラン)を減薬しましたが、症状の増悪はありませんでした。

消化器症状に対するケアのポイント

 嘔気・嘔吐は主観的な症状であるため、患者の話をよく聞くことが大切です。嘔吐の状況、身体状態、治療内容などを把握し、生活背景や心理・社会面の状態がどのような影響を与えているかも観察して的確にアセスメントすることが必要です()。

アセスメントに必要な観察項目

 主観的・客観的情報をもとにアセスメントし、主治医や薬剤師など多職種と協働して、考えられる主要な原因を特定し、治療を進めていくことになります。

 Bさんの場合は、オピオイドが開始されたことで嘔気・嘔吐が出現したため、入院中にオピオイドスイッチを行った上での在宅移行でした。そのため、嘔気・嘔吐に配慮して、さらなるオピオイドスイッチを行うことが困難でした。訪問診療介入時には、すでに制吐薬も多剤にわたり使用しており、入院中の症状マネジメントに苦慮していたことがわかりました。この状況で退院して環境が大きく変化したこと、レスキュードーズ使用が増えたことで、嘔気・嘔吐が増悪したと考えられました。

 在宅に移行する際には、すでに問題への対処がなされており、薬物療法などが決定している状況で引き受けることが少なくありません。しかし、退院などで患者を取り巻く状況が変化すれば、安定していたはずの症状に大きな影響を及ぼすこともあります。そのようなときは、再び主観的・客観的情報を収集し、影響を及ぼしていると考えられる原因についてアセスメントを行い、家族、医師、ケアマネジャーなどの多職種で共通に認識できるよう、看護師が中心となり情報共有していくことが大切です。

 さらにBさんの場合は、少しでも安心・安楽に過ごせる時間を作れるよう、日中の独居の時間に訪問看護師がリラクゼーションなどの介入を行いました。これらはBさんへの心理的サポートにもなり、症状緩和の一助にもなったものと考えています。

 看護師にはもてるあらゆる知識と技を用いて、患者の安心・安楽を目指し、症状の緩和に努める姿勢が大切です。


コラム 病棟の場合はここに注意!
 病棟の集団生活のなかで患者は、ほかの患者に対して嘔吐による吐物の臭気や、嘔吐している声などを、申し訳ない気持ちで過ごしていると考えられます。また、食事時間の匂いや食事をとっている人を見るだけで気持ちが悪くなる患者もいます。

 私たち看護師がすぐできるケアとしては、患者を取り巻く病棟環境を快適に整備することでしょう。また、病院機能や病棟機能によっては、嘔気時や便秘時、発熱時などの包括指示が出されている場合があります。その包括指示に従って薬剤を使用し、苦痛症状の緩和を図ることもあるでしょう。しかし、原因に合った薬剤が使用されなければ、効果が得られず副作用などの苦痛を患者に与える可能性もあります。

 消化器症状に限ったことではありませんが「患者の心と身体に何が起きているのか?」と日頃から繰り返しアセスメントし、看護師だけではなく、医師、薬剤師など多職種でカンファレンスすることで、チームとして効果的な症状マネジメントが可能になると考えています。病棟では、他職種にタイムリーに相談できるメリットがあると考えています。

参考文献

●NPO法人日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会編:がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2011年版.金原出版,2011.
●池垣淳一編著:がん患者の症状緩和とマネジメント.日総研出版,2016.
●田村恵子編著:がんの症状緩和ベストナーシング.学研メディカル秀潤社,2010.
●NPO法人日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学.南江堂,2014.
●森田達也,他編:秘伝 臨床が変わる緩和ケアのちょっとしたコツ.青海社,2010.


この記事はナース専科2018年11月号より転載しています。

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