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ゲノム医療時代におけるバイオマーカーの重要性と今後の展望ーバイオマーカー研究の最新動向とがん治療選択に与える影響ー

Gakkai report

2018年8月29日丸ビルホール&コンファレンススクエアにて、MSD株式会社によるプレスセミナーが行われました。テーマは「ゲノム医療時代におけるバイオマーカーの重要性と今後の展望 バイオマーカー研究の最新動向とがん治療選択に与える影響」。講演は大阪大学大学院医学系研究科病態病理学 教授 森井英一先生です。

がん治療は変化の時代を迎えている

 数十年前までは、がんは治らない病気であると考えられ、手術以外の治療方法は細胞障害性のある抗がん剤が主流でした。細胞障害性抗がん剤は、代謝の良い細胞に作用するため、がん細胞だけでなく腸や毛根などに影響した結果、下痢や脱毛といった副作用が発現し、患者さんにとっては負担の強いものとなっていました。

 2000年代以降には、がん細胞の持つ抗原に対してのみ効果を発揮する分子標的薬や、がん細胞による免疫機能低下を防ぐ免疫チェックポイント阻害剤が開発され、腫瘍のメカニズムに合わせた治療が可能となりました。また、生存予測に有用なバイオマーカーに基づく治療も進みつつあり、がん治療はそれまでの画一的な治療から個別性のある治療へと変化しています。

個別化医療を一歩進めたその先へ

 個別化医療とはヒトゲノム情報などを基に個人に適した治療を目指した医療を指し、個別化医療をさらに一歩進めた医療をPrecision Medicineといいます。

 Precision Medicineでは次世代シークエンサー(NGS)などを使用し、個人ゲノムやその他の生体分子情報のデータに基づいてより精密な診断を行い(疾患の詳細サブグループ分け)、そのサブグループごとの治療や予防を行います。

 また、コンパニオン診断という検査で薬剤そのものと患者さんとの相性を調べることで、より負担なく正確な効果を期待することができます。

コンパニオン診断とその重要性

 医薬品の効果や副作用を調べるために行う検査をコンパニオン診断といいます。がんによって測定されるバイオマーカー※1は変わりますが、薬剤が標的とするバイオマーカーが陰性の場合、薬剤の効果が期待できないということになります。そのため、効果が期待できる患者さんのみに投薬する、副作用が強く出ると予測される患者さんには別の選択肢を選ぶなど、患者さんに合わせて治療を選択することが可能となります。

 コンパニオン診断が行われるようになる以前の病理診断では、がんは組織型で分けることが主流でしたが、コンパニオン診断の登場により、特定の治療が有効または無効か、という分け方へと変化しつつあります。

※1 生物学的プロセスの測定可能な指標のことで、正常な状態と病的な状態の差異または治療反応性の評価や予測が可能

臨床での治療選択にバイオマーカーを活用

 人の遺伝子の中にはがんを引き起こす「がんドライバー遺伝子」が存在し、ドライバー遺伝子に関連したバイオマーカーを特定することで、がん化する細胞のみをターゲットとして分子標的薬を使用することができます。がんによってバイオマーカーの有無は異なるため、コンパニオン診断により治療方法を選択します。

 さまざまながんに共通して発現するバイオマーカーの探索や、そうしたバイオマーカーにもとづく「がん種横断的」な
治療の開発も進んでいます1)

 最近注目を集める「免疫チェックポイント阻害剤」でもバイオマーカーは重要で、がんの種類によってはコンパニオン
診断が必要になり、注意を要します。例えば、ペムブロリズマブの場合、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、古典的ホジキン
リンパ腫、尿路上皮がん、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんに使用できます。このうち、非小細胞肺がんにペムブロリズマブを単独で使用する場合には、「PD-L1」というバイオマーカーの発現状況を調べる必要があります。また、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するがんへの使用は事前に「MSI-High」というバイオマーカーを調べる検査実施が前提です。

*2018年12月、ペムブロリズマブは、MSI-Highを有する固形がんへの適応の承認を取得しました。これは、がんの発生部
位でなく、複数のがん種に共通のバイオマーカーにもとづいた「がん種横断的」な治療についての日本で初めての承認です。

Precision Medicineへの取り組み

 アメリカ、フランス、イギリスなどの先進国でPrecision Medicineは推進され、特にアメリカでは100万以上のボランティアや、莫大な公的予算を投じた取り組みが進められています。

 日本でも、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業が開始されたり、がんゲノム医療中核拠点病院が決定されるなどPrecision Medicineへの取り組みが進んでいます。

最後に

 がん治療は一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療に変わりつつあります。

 また、これまでは単一または少数のがん種におけるバイオマーカーの探索が進められていましたが、今後はさまざまながん共通のバイオマーカーに基づいた薬剤が開発されていく可能性があります。NGSパネル等を活用したがんゲノム医療の発展により、がん治療のパラダイムが変化のステージに来ている今、病理医の育成も課題となっています。


【引用文献】
1)Berry DA:The Brave New World of clinical cancer research: Adaptive biomarker-driven trials integrating clinical practice with clinical research.Mol Oncol 2015;9(5):951-9.

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