【連載】Q&Aで考える高齢患者さんのせん妄ケア

せん妄の症状や状態って?

解説 金盛琢也

日本赤十字豊田看護大学 老年看護学 講師 (旧:聖路加国際大学 大学院看護学研究科 老年看護学)

Q.せん妄とはどのような症状・状態をいうのですか?

A.脳の機能不全に基づく軽度から中等度の意識障害、認知の変化を呈する症候群で、3つのタイプに分類されます。

せん妄は急激に起こる注意・認知の障害

 せん妄とは、一時的な脳機能の失調によって起こる心身の不適応反応であり、注意障害を伴った意識障害が突然に現れ、さまざまな精神神経症状を呈する症候群です。せん妄の診断基準には、米国精神医学会のDSM-5などがあります。

 せん妄の症状は多彩で、「記憶障害」や「見当識障害」、幻視、幻聴、幻覚などの「知覚障害」、妄想、興奮、多動、刺激に反応しないなどの「精神運動障害」、不安や恐怖、抑うつなどの「情動障害」、不眠や昼夜逆転などの「睡眠障害」等が現れます。これらは急激に発症するものの、多くは可逆性であり、数日以内に改善します。また、1日の中で症状が変動することも特徴で、夕方から夜間にかけて症状が出現しやすくなります。

見過ごされやすい低活動型せん妄

 せん妄は症状の出現の仕方によって、「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「混合型せん妄」の3つのタイプに分類されます(図)。
 
せん妄の分類

 過活動型せん妄は、動作性の活動量が増加した状態で、大脳辺縁系の過剰興奮により興奮や幻覚、妄想などの症状が現れます。例としては、チューブ・カテーテル類を自己抜去する、安静が守れず暴れる、夜間に徘徊するなどの言動がみられます。低活動型せん妄は、意識混濁により精神活動が抑制される状態で、活動量の低下が特徴です。ボーっとしている、傾眠傾向、話しかけても反応がないなどの症状を呈します。混合型せん妄は、過活動型と低活動型の症状が混ざって現れるタイプです。

 一般的にせん妄というと、興奮して家に帰ろうとしたり、幻覚が見えると訴えたりする、危険で制御できない状態をイメージしがちです。このような過活動型せん妄は、スタッフや介護者の負担が大きいため注目されやすいのですが、実際には、同じくらいの頻度で低活動型せん妄も生じているといわれています。低活動型せん妄はあまり治療やケアに支障が出ないために見過ごされやすく、気づかれないことによって長期化し、ADL低下等を引き起こします。また低活動型のほうが死亡率が高いという研究報告(Journal of Gerontology.2007;62:174-9)もあるので、注意が必要です。

高齢者はせん妄に伴う合併症にも注意

 せん妄は患者さんの苦痛を伴うため、せん妄そのものがケアを要する症状ですが、せん妄により生じる転倒・転落や廃用症候群などにも注意を払わなければいけません。

 特に高齢者はもともとせん妄が起こりやすいうえに、聴力や視力などの感覚器官の衰えによってせん妄が発見されにくいという特徴があります。そのため、せん妄の発症に付随して医療事故が起こりやすく、その結果として寝たきりになるなど、より大きな問題に発展してしまうことも少なくありません。


参考文献
●日本精神神経学会,日本語版用語監修,高橋三郎,他 監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014.
●亀井智子 編著:高齢者のせん妄ケアQ&A 急性期から施設・在宅ケアまで.中央法規出版,2013.
●酒井郁子 他編:どうすればよいか?に答える せん妄のスタンダードケアQ&A100.南江堂,2014.
●八木一馬:入院患者におけるせん妄のマネージメント.みんなで解決!病棟のギモン.レジデントノート 2016;18(9):1758-63.
●林安奈 他:せん妄の鑑別診断と鑑別のポイント.せん妄に対する治療戦略最前線.臨床精神薬理 2017;20(2):149-55.
●粟生田友子 他:らくらくせん妄/不穏 予防・アセスメント・対応マニュアル.BRAIN NURSING 2017;33(3):7-49.


この記事はナース専科2017年10月号より転載しています。

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