【連載】Q&Aで考える高齢患者さんのせん妄ケア

せん妄と認知症の見極め方は?

解説 金盛琢也

日本赤十字豊田看護大学 老年看護学 講師 (旧:聖路加国際大学 大学院看護学研究科 老年看護学)

Q.せん妄と認知症、どのように見極めればよいのですか?

A.せん妄は身体疾患に伴う一過性の脳機能の障害ですが、認知症は脳の病変により慢性的に進行するものです。発症の仕方や経過、症状の変動などの違いが重要ですが、見極めにこだわりすぎないことも大切です。

せん妄と認知症の違い

 せん妄と認知症の見極めが難しいという声をよく聞きます。確かに記憶障害や見当識障害、知覚障害、情動障害など、せん妄は認知症の症状と似ている点が多いために、せん妄を認知症ととらえたり、認知症の患者さんに起きたせん妄を認知症の症状が進んだと誤解することも多いでしょう。

 認知症とせん妄の大きな違いは、症状の長期経過にあります(図)。せん妄で出現する心身の不適応反応は一過性の脳機能低下によるもので、多くの場合は可逆的です。持続期間はおおよそ3日~1週間程度といわれており、原因となっている疾患の改善に伴い、自然に治癒することが一般的です。一方の、アルツハイマー型認知症等に代表される多くの認知症は進行性の疾患であり、発症から長期間にわたり症状が徐々に進行していきます。

せん妄と認知症の違い

 また、症状の日内変動の有無も特徴的な違いです。せん妄では、朝は落ち着いていたのに、夜になると場所がわからなくなったり、徘徊するなど、一般に日内変動があることが特徴です。これに対し、状態が安定している認知症の場合は、症状の日内変動が少ないといわれています。例えば、朝は計算ができていた認知症の患者さんが、夜になると計算ができなくなるということはそれほど多くありません。

 ただし、高齢患者さんの場合、認知症とせん妄が併存していることがあります。診断別など調査対象にもよりますが、一般的に認知症患者さんのせん妄の有病率は高いことが知られています。認知症はせん妄の準備因子でもあるのです。

低活動型せん妄とうつの違い

 このほか、せん妄と間違いやすい疾患としてうつが挙げられます。特に低活動型せん妄では、うつとの見分けが難しいことも多くなります。どちらも会話の返答が遅かったり、反応が乏しいなどの類似点がありますが、うつはせん妄のような見当識障害を伴わないため、ゆっくり返答を待つなどの方法が見分ける手段として有効です。
 
 しかし、実際には急性期病院などでは、せん妄と認知症やうつを見分けることは困難であることが少なくありません。例えば、緊急入院してきた高齢者に記憶障害や見当識障害、幻視などの症状がみられたとき、その患者さんの普段の生活状況などについて外来や家族からの情報が得られない場合には、それが認知症なのか、せん妄なのかを見分けることは困難といえます。

せん妄と認知症、治療のアプローチは異なるがケアは同じ

 では、せん妄と認知症の対応に、違いはあるのでしょうか。治療という点からみると、せん妄と認知症では大きく異なるので、見極めが必要でしょう。しかし、認知症の診断は全身状態が安定しているときに行うことが基本です。記憶障害や見当識障害が患者さんにみられたとしても、入院後間もないころには認知症かせん妄かの見分けにはこだわりすぎないほうがよいでしょう。

 どの患者さんにもいえることですが、患者さんが入院生活に適応できているか、療養環境への適応を評価しながら1日を通してせん妄の評価を行い、もし患者さんが環境の変化に戸惑っていたり、せん妄様の症状を呈していたら、その患者さんが落ち着いて治療を受けられるようケアをすることが重要です。例えば、緊急入院の患者さんで入院前の認知機能がわからない場合には、まず入院することになった身体疾患の治療を優先し、そのうえで目の前にあるせん妄様の症状に対応します。基本的にはせん妄でも認知症でもケアに大きな違いはあまりないからです。
 


参考文献
●日本精神神経学会,日本語版用語監修,高橋三郎,他 監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014.
●亀井智子 編著:高齢者のせん妄ケアQ&A 急性期から施設・在宅ケアまで.中央法規出版,2013.
●酒井郁子 他編:どうすればよいか?に答える せん妄のスタンダードケアQ&A100.南江堂,2014.
●八木一馬:入院患者におけるせん妄のマネージメント.みんなで解決!病棟のギモン.レジデントノート 2016;18(9):1758-63.
●林安奈 他:せん妄の鑑別診断と鑑別のポイント.せん妄に対する治療戦略最前線.臨床精神薬理 2017;20(2):149-55.
●粟生田友子 他:らくらくせん妄/不穏 予防・アセスメント・対応マニュアル.BRAIN NURSING 2017;33(3):7-49.


この記事はナース専科2017年10月号より転載しています。

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