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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

1.看護のQOL向上と看護師のQOL向上は相反するのか?

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

臨地実習でしばしば起こる現象

 看護のQOL向上は、看護師が対象者に丁寧に対応することが求められる場合が多く、看護の時間的な労力という観点から、「看護師のQOL向上」と相反すると考えられる傾向にあります。看護学の臨地実習では1人の対象者のみを受け持ち、指導者や教員に見守られ、時には導かれながら比較的ゆっくり丁寧に対象者と向き合う機会が多いため、対象者のQOLが向上し周辺の満足度が上がる状況に度々遭遇します。このような現象が起こることを、臨地の看護師や管理職の看護師の間では「学生が時間をかけて1人のみを丁寧に看護した結果起こる現象」と囁かれます。しかし、これは時間をかけて行った結果ではなく、対象者の病状・ADLのレベル・今までの生活習慣から推測するニード・対象者の価値観等をアセスメントして、対象者の変化をとらえながら、絶妙なタイミングでケアを提供したときに起こるという法則があり、看護を考え抜くことでつかむことができる現象であることを解っている臨地の指導者や教員もいます。 
 
 つまり、この「看護を考え抜く力」を研鑽することこそが対象のQOL向上を、短時間で実施できる「人的技術方略」なのではないでしょうか。
この、”看護に関するQOL向上のWINWINの法則”12回のシリーズでは、「看護を考え抜く力」が看護のQOLを向上させて相互作用で周囲に良い影響が起こる1つの人的技術方略に成りうるのかということを、著者が体験した事例を交えて第1部の1回~6回で示し、皆さんに考えてもらい、その後の12回までの第2部では、「看護を考えぬく力」が看護師のQOLを向上させるための人的技術方略として、どのように活用すればよいのか、臨床看護教育のシステムとして、どのように組み込めばWINWINの法則を活用した運営ができるのかを検討したいと思います。
   

丁寧に時間をかけることがQOL向上につながるわけではない

 まずは、先程の臨地実習で学生のかかわりによって、対象者のQOLが向上し周辺の満足度が上がる現象が起こることが、1例や2例のまれな現象ではなく、また、ビギナーズラックでも何でもない現象であることを、事例を通して説明いたします。

 Aさんは看護大学3年目の実習で、慢性期の病棟の高齢者Bさんの受け持ちとなりました。脳梗塞後の麻痺により可動域が制限され、健側を使いすぎて、健側の筋肉や関節に痛みがあり、生活動作すら苦痛な状況でした。医療者側はリハビリにて筋肉を強化する以外、ADL拡大は望めないため、それを促すかかわりをします。それを見たAさんも、徐々に状況が把握でき、対象のアセスメントが進み、疼痛時に励ましの声をかけ、リハビリ後にねぎらう態度でかかわることで、信頼関係を築きました。このため、Bさんの疼痛の出現やタイミングについて、Bさんからよく話を聞いたり、客観的に観察したり、リハビリ担当者と情報交換する中で、リハビリ後の筋肉疲労より、臥位や坐位から身体を起こす際に荷重がかかる瞬間に負担がかかり、関節と筋肉の痛みが起こるBさんの主な問題であることを把握できました。

 緩和目的で臥位や坐位への動作前に膝関節と大腿部への簡単な温罨法を実施すると、疼痛なく生活動作やリハビリができるようになり、笑顔が増え、徐々にではありますが積極的にADLを拡大することができました。指導者や教員、Aさん、他の学生とで、BさんのQOL向上の状況について話し合い、Bさんの1番のニードは疼痛緩和であるとアセスメントし、疼痛出現症状・ADLのレベルから、的確に痛みのタイミングを判断し、緩和方法を考えたことが、QOL向上に繋がったという看護状況の認識を一致させました。

 そして、Aさんが受け持ちする期間のみしかBさんに温罨法できないと、また、痛みが出る恐れがあることを考えさせる内容で助言を投げかけました。するとAさんは、使い捨てカイロでBさん自ら温められるように試し、受け持ち看護師と医師に相談し、温湿布を処方してもらい起床後に貼るなどを試みました。このAさんのかかわりは、Bさんのリハビリ担当者や医師、看護師なども巻き込み、皆が温湿布の効果を気にする等の声掛けや訪問も多くなりました。さらに、活き活きとした意見交換がなされ、BさんのQOL向上が伝染するかのように周囲の医療者も活力を得る様子がわかる状況でした。

 AさんはBさんの担当看護師や病棟管理者から、「今回の実習は、Bさんがとても元気になった。学生さんが丁寧にかかわってくれたから、ありがとう」と言われました。同じようにどの学生も患者さんのそばで時間をかけて丁寧に実習しているはずですが、指導者と教員である私は、このような現象が起こらない場合もあることを知っています。このような現象が起こった要因は、「時間」でもなければ「丁寧」でもなく、まさに看護の基本に忠実にニードや機能別の問題をしっかり考えぬいたかどうかに他ならないと考えました。

 BさんのQOL向上が伝染し、周囲の医療者の意欲を高めるようなAさんのかかわりに対して、指導者と私は「論理的な視点で適切に看護を評価する」というフィードバックでAさんに返すしかないと考え、何がどのように良かったのかを具体的に伝え、この貴重な体験を「時間」と「丁寧」の神話で置き換えてしまわないようにと願いました。

 以上の事例は、私が体験した1例の体験ではなく、対象によって看護の中心は変わりますが、学生がかかわりQOLが向上した事例は複数例体験してきました。そして、物理的な時間の長さではなく、丁寧とは何をもって「丁寧」と考えるのか……によって、“看護のQOL向上=時間がかかる”の神話が崩れ、看護と看護師のQOLの向上は相反しないのではないかと考えます。これは、看護師の勤務への物理的な時間拘束が減る手掛かりになる現象だと、看護を学ぶ学生を通して気づかされました。


次回は、看護業務内容と職場風土についてお話しします。

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