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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

2.看護業務内容と職場風土

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

WIN-WINの法則を“絵に描いた餅”にしないために

 前回の「1.看護のQOL向上と看護師のQOL向上は相反するのか?」では、事例を提示しながら、読者の皆さんに看護師が対象者に丁寧にケアを提供することは時間的な労力とイコールなのかどうかについて、「看護を考え抜く力」をキーワードとして説明しました。

 「看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則」では、この「看護を考え抜く力」が看護のQOLを向上させて相互作用で周囲によい影響が起こる1つの人的技術方略になりうる可能性について検討していきたいのですが、それに大きく影響する要因として、今回のテーマである“看護業務内容と職場風土”が関係するため、今までWIN-WINの法則は“絵に描いた餅”または理想論と称されてきました。したがいまして、この法則を現実的に活用する力として、今回のテーマを検討することは必須であることを最初にお伝えしておきます。

収益性・組織成長性が高い「参加型」の職場風土

 「看護」と「看護師のQOL向上」と「看護業務内容と職場風土」の3点の関係は、次のように考えることができます。例えば、新人看護師の職場の組織風土とコミットメントおよび離職意向の関連性の研究1)では、職場とのコミットメントが離職防止になるとされ、それには従来の職場風土を見直し、「参加型」の職場風土とすることが重要であると結論づけられています。

 また、リクルートマネジメントソリューションズにより2005年に実施された分析2)では、職場風土・組織風土に関する152社の160の組織風土に関するキーワードが12尺度によって特徴づけられ、近年の日本の組織風土は4タイプに分類されました。

 この分析によると、パイオニア風土・チャレンジャー風土・オフィサー風土・コーディネーター風土の4つの典型的な組織風土のうち、開放的でコミュニケーションが活発であり意志と理想をもってポジティブに変化を生み出していくパイオニア風土が、収益性が最も高く組織成長性が2番目に高い風土とされています。そして組織成長性が最も高く2番目に収益性が高い風土は、環境の変化に合わせて迅速にかつ大胆に決断しながら競争に挑み高い目標をハングリーに追い求めていくチャレンジャー風土とされています。

 この結果からみても、収益性・組織成長性が高い風土は積極的に参加していく内容であるといえます。「参加型」の風土は、新人からベテランまでの意見交換により、今いる人材が作り出す収益性・組織成長性が高い職場風土となり、職場へのコミットメントも自然と高くなるのではないのかと感じます。

「参加型」の職場風土が離職を防ぎ、看護師のQOL向上につながっていく

 実際に、卒業した後の学生たちが看護師になり、各病院や病棟で働きだした後に数名で訪ねてくると、大抵が職場風土に関する話となり、その比較をしはじめます。この話の中で、「うらやましい」と称賛される職場風土では、「先輩が話を聞いてくれる」という環境があったり、自分の提供したケアに対してアドバイスを受け、それを実施できた経験があったりなど、仕事のやる気につながるような出来事が多いと感じます。

 逆に、看護師不足であるのに、業務や体制を見直されていない繁雑な職場では、業務の改善すらされないのですから従来からの職場風土も変えられず、看護に関するQOLに関しても悪循環(WIN-WINの法則とは反対の現象)が起きやすいのではないかと、卒業生たちの話や実体験から感じます。繁雑な業務により、看護と看護師のQOL向上の両方の時間的な観点が奪われてしまうため、仕事・私生活両方の意欲が削がれ、参加型の職場風土でない場合は組織コミットメントも低くなるなど、複合的な要因が絡み合いバーンアウトや離職につながる可能性があると感じます。

 しかし一概に、離職につながる要因は職場風土のみとはいえません。山口曜子らの「新人看護師の離職につながる要因とそれを防ぐ要因」3)では、職場風土に関する内容として「先輩たちへの気兼ねと恐怖感」が挙げられていますが、新人であれば「初めて体験する技術の連続」や「臨床の実践レベルと大学での学びのギャップ」、「同期に対する劣等感と自己の未熟さの認知」なども離職につながる要因として挙げられています。「参加型」の職場風土であれば、昔からの規範を押し付けられない環境で、自由に仕事に関する意見交換やアイデアを出し合える場であり、これが離職を防ぐだけでなく看護や看護師のQOL向上のWIN-WINの法則に欠かせない要因であると感じます。

 このように、「看護を考え抜く力」を使って対象のQOL向上を短時間で実践化するためには、業務が繁雑でなく「参加型」の職場風土であることが重要だと思います。また、参加型の職場風土であれば、業務改善についても管理者だけが考えるのではなく、現場で直接ケアを行う看護師がより安全性・安楽性・効率性・経済性を考慮した業務内容を生み出す可能性があると思います。このため、参加型の職場風土でケアする看護師たちが業務を改善し、「看護を考え抜く力」を使って対象のQOL向上を短時間で実践化することが、看護師のQOL向上にもつながるのではないかと私は考えます。

職場風土


【引用文献】
1)難波峰子,他:Organizational Climate, Organizational Commitment and Intention to Leave among Hospital New Nurses in Japan.岡山県立大学保健福祉学部紀要 2012;19(1):1-7.
2)リクルートマネジメントソリューションズ:業績をあげている組織の特徴とは 企業の組織風土と業績の関連をデータで探る(2006年9月27日WEB記事)(2019年4月24日閲覧)https://www.recruit-ms.co.jp/research/study_report/0000000268/
3)山口曜子, 他:新人看護師の離職につながる要因とそれを防ぐ要因.日本看護医療学会雑誌 2014;16(1):51-8.

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