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口腔のサルコペニアと摂食嚥下障害 飲まない、ムセる、残るを どう診るか【PR】

座長 石井 良昌 先生

海老名総合病院 歯科口腔外科

講師 藤本 篤士 先生

札幌西円山病院 歯科診療部

提供 株式会社東京技研

http://www.tokyogiken.com/

第34回 日本静脈経腸栄養学会学術集会 バレンタインセミナー

口腔のサルコペニアと摂食嚥下障害 飲まない、ムセる、残るを どう診るか

2019年2月14日、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(JSPEN2019)バレンタインセミナー「口腔のサルコペニアと摂食嚥下障害」が開催されました。「飲まない、飲めない」だから「口の中に残る」、さらに「ムセる」といった症状を、歯科医師はどう診ているのでしょう。超高齢社会のなかで嚥下がどれほど大切か、そして嚥下にかかわる筋力維持が人生のQOLを高めることへと話が広がりました。

seminar
撮影/田子芙蓉


1.咀嚼と嚥下のメカニズムと筋力の重要性

札幌西円山病院は、病床数603床(回復期リハビリテーション病棟87床)に、介護医療院60床を併せもつ病院です。また当法人の143床の渓仁会リハビリテーション病院にも訪問診療を行っており、回復期や慢性期の患者さんを中心に診療を行っています。当院のような慢性期の施設では中心静脈栄養法を施行した状態で亡くなる人が半数を超え、経管栄養法が2~3割、つまり7~8割が最期は口から食べられずに亡くなっているという報告があります。

食べるためには、咀嚼して嚥下するという2つの機能が必要ですが、超高齢社会が進展するなか「咀嚼はできるけれど嚥下できない」患者さんも増えています。歯を治して噛めるようにしても、いつまでも咀嚼していて「飲まない、飲み込めない」高齢者がたくさんいます。上手く飲み込めないことを、認知症のせいにしていないでしょうか。機能低下による嚥下障害は、認知症が原因ではないことも少なくありません。

咀嚼運動は、食べ物を口の前方から舌で後方に取り込み、舌と頬で挟んで噛み、バラバラになった食塊をさらに繰り返し噛み、飲み込める状態の食塊にすることです。そして舌の真ん中、舌背にあるものを飲み込むのが嚥下運動です。このように舌の働きは重要で、舌の筋力が落ちてくると、食べられなくなる人が増えていきます。

ここで、3回唾を飲み込んでみましょう。

[その1]指1本程度、軽く口を開け、舌を口蓋に付けないようにして、口を開けたまま唾を飲む
[その2]指1本分、口を開けたまま、舌を口蓋に付けて、口を開けたまま唾を飲む
[その3]口を閉じて普通に唾を飲み、自分の舌の先にどれくらい力が加わっているか実感する

1]では唾は全く飲めません。[2]はとても変なところに力が加わりますが、なんとか飲み込むことはできるでしょう。[3]では舌に加わる力の大きさを実感できると思います。

ヒトは覚醒時は3分に1回、就寝時は12分に1回、食事時は20秒に1回、おおよそ1日600回飲み込む動作を行っています。また常時呼吸運動もしています。これだけ頻回に筋肉を鍛えているから飲み込めるともいえるでしょう。

また大切なのは保湿です。生理的な嚥下運動がうまくできるように、口腔ケアを行ったうえできちんと保湿を行い、唾液が飲める環境を整えることができれば、自然に嚥下運動が行われて間接訓練となります。

2.「飲めない」「残る」「ムセる」理由と訓練法

ヒトは液体でも固形物でも舌の上にあるものしか飲むことができません。食塊形成が終わると、食塊を舌背の上に 移送します。ですから舌が萎縮したり、巧緻性が低下してしまうと、食塊を舌の上に移送することができなくなり、 食塊形成はできていても飲み込めず、「口の中に残る」ことになるのです。

これを補うものとしてつくられたのが舌接触補助床(palatal augmentation prosthesis:PAP)です。口蓋部に厚みをもたせた入れ歯によって舌と上顎の距離を縮め、舌と口蓋との接触関係を改善することができます。

口の中に水分を溜めるとき、軟口蓋と舌の奥の部分で咽頭、気管に流入しないようにしますが、これができなくなると、「飲み込む動作の前に起こるムセ」が生じます。気管への流入防止のために舌の奥の筋力を強化するため、間接訓練として「カカカカカ」と発音してみたり、水を飲むときに顎を上げないように姿勢調整をし、少しずつ口に入れる配慮などをすればムセが少なくなります。

「飲み込んでしばらくしてから起こるムセ」は、飲み込んだ食塊の一部が咽頭に残留し、呼吸の際などに気管に入ることで生じます。食後しっかり強く水を飲んだり、お茶ゼリーなどをしっかり摂って、咽頭の残留をなくすようにします。うなずきながら飲み込むようにすると、咽頭部の収縮を補助してくれます。

ヒトは飲み込むときに45もの筋肉を使い、その協調運動により嚥下運動を成り立たせています。そこで患者さんに話しかけて話をさせることも、摂食嚥下の訓練になります。高い声を出すと咽頭部が収縮しますから、一緒に歌を歌うことも日常生活の中でできる訓練なのです。

誤嚥せずにスムーズに食べるためには、姿勢や介助方法にも注意します(図1)。まず背筋をできるだけ伸ばし、 深く腰をかけ、軽く顎を引きます。膝は必ず90°、足底も90°にし、足がぶらぶらする場合は足台を置きます。肘が不安定にならないようにタオルなどで支え、疲れにくくします。
fig1

食事を介助する際、顎を上げてしまうと舌骨筋群が伸びてしまい誤嚥しやすくなります。そこで顎から鎖骨までおよそ4横指の距離を保つことをひとつの目安とします。またスプーンを口より下の方向から援助することが大切です。入れ歯が合わないから食べられないと考えがちですが、入れ歯はあくまでも道具です。しっかりと入れ歯の調整を行うと同時に、入れ歯を使うための筋肉や摂食嚥下運動に関連する筋肉を鍛えることも大切です。簡単な訓練を2つ 挙げてみましょう。

頭部挙上訓練は、平らな床に仰向けに寝て、肩を上げず に頭だけを上げ、足の親指を見つめます。30 ~ 60秒を目安に頑張り、同じ時間休みます(図2)。
fig2

舌前方保持嚥下訓練は、舌を少し出したまま、口を閉じて舌をそのままで力強くゴックンと唾を飲み込みます(図3)。
fig3

3.QOLを左右する嚥下にかかわる筋力

私たちは日常生活のなかで、粉塵や細菌を吸引していますが、気管内の粘液が異物を捕らえ、繊毛組織が喉頭まで運び出し痰にします。前述のように頻回に嚥下運動を行い、痰を、口腔細菌や残渣を含んだ唾液とともに飲み込んでいます。胃では平常時pH1.3の胃酸による殺菌作用が働き、このシステムによって口腔や肺の健康が守られているのです。健全な嚥下運動ができなければ、痰がいつまでも喉に絡まっていたり、痰を誤嚥して発熱や肺炎ということにな りかねません。

高齢者のなかには身体的機能、精神的機能、社会的機能が低下しているフレイルの人がたくさんいます。またサルコペニアの人もたくさんいて、大腿筋が弱まれば寝たきりに、呼吸筋が弱まれば呼吸障害に、咀嚼筋が弱まれば咀嚼障害になってしまいます。

嚥下にかかわる筋力が健康の維持につながり、ADLや QOLを高めるためにとても大切なことなのです。

tokyogiken
記事提供:株式会社東京技研

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