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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

3.看護と看護師のQOL向上につながる可能性がある「看護を考え抜く力」とは何なのか

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

臨床現場の特徴や業務内容の違いによっては「看護と看護師のQOL向上」はしない?!

 前回の「2.看護業務内容と職場風土」では、参加型の職場風土でケアする看護師たちで業務を改善し、「看護を考え抜く力」を使って対象のQOL向上を短時間で実践化することが、看護師のQOL向上につながる可能性があることを伝えました。
 ここまで第1回・第2回までの内容も含めて、私が臨床勤務で知り得た現場と俯瞰して現場をみられる看護教員の両方の立場に立ち、さまざまな病院・病棟の看護師や看護学生と共に経験した内容を中心に、リサーチや研究で明らかにされているエビデンスを用いて述べました。ですが、体験や感じ方の違いから、「そうは思わない」と感じる人も、もちろんいると思います。しかし私は、臨床現場の特徴と業務形態によって変わる内容(ICU業務と外来業務など)ではなく、あくまでもそれぞれの業務における特徴的な多忙性の中で、「看護と看護師のQOL向上のために何ができるのか」というところに視点をおいて考えています。

 今回は、看護と看護師のQOL向上につながる可能性がある「看護を考え抜く力」とは何なのか、看護師のケアの実践事例を通して考えてみたいと思います。

発赤のある患者さんに対する看護の事例

 私は、20代後半に病棟の研修担当者や教育委員をしていた経験があります。そのころ悩んでいたことは、同じテーマで筆記やディスカッションで看護を考えるような内容の研修を行っても、テーマの内容を考える深さや分析力が、経験年数や教育歴(専門学校や大学など)にもある程度左右されるものの、看護師個々で相当な差異が存在するということでした。

 この考える深さや分析力の差異は、普段の看護にも影響しており、ケアを通じて患者さんの現状からリスクを予測する観察の表記や申し送り内容の違いからもみてとれました。例えば、全身清式のケアを実施し発赤を見つけた場面では、A看護師は最近ADLが低下している患者さんですが、全く動けないわけではないからそのまま様子を見て、発赤部位が拡大するようならカルテに表記する必要があると考え、申し送りも記載もしないという判断をしました。

 しかしB看護師は最近、この患者さんの食事摂取量が低下していることが気になり、栄養状態を確認した後、発赤のない皮膚部分の弾力性や表皮の乾燥の有無などを確認しました。そして、もともと皮膚が脆弱である可能性もあることを考慮して、発赤のサイズを測定し、その部分の湿潤・圧迫を避けることや、継続して発赤の観察が重要であることをカルテに表記し、申し送りました。

 このように、A看護師とB看護師が同じ患者さんをみていても、同じ看護にならないわけは何でしょうか? この違いの理由を研修やカンファレンスなどで問うと、たいていは「B看護師はベテランでA看護師は新人だから……」と答える人が多かったように思います。しかし、実際にあったこの事例は、A看護師が10年以上経験のある看護師で、B看護師は2年目の看護師でした。

臨床判断に必要なのは“熟考”と“直観的な過程”

 臨床判断とは、Corcoran1)によると、「患者のデータ、 臨床的な知識、状況に関する情報が考慮され、認知的な“熟考”と“直観的な過程”によって患者ケアについて決定をくだすこと」と定義されます。

 この定義に則して事例を考えてみると、A看護師もB看護師も「ADLが低下している」、「全く動けないわけではない」という患者さんの状況に関する情報は同じくありました。しかし、B看護師はさらに“熟考”し、褥瘡リスクに関する臨床的な知識を用いて「栄養状態」や「皮膚の器質的状況」を考慮して、食事摂取量や皮膚の観察をしたほうがよいという“直観的な過程”を経て、発赤サイズを測定して、湿潤・圧迫を避け、継続して発赤を観察するというケアを行うことを決めたことになります。

 このように、臨床判断に必要な“熟考”に求められる視点は、今までの経験的な直感だけでなく、褥瘡に対する知識・認識の視点や、患者さんの日々の日常を気にかけ把握しているかなどの視点から考える“直観的な過程”でもあるため、一概に経験の多さと比例する現象ではないということになります。つまり、初学者や新人でも研鑽可能な「思考能力」だといえます。

臨床判断

臨床判断の力=「看護を考え抜く力」を育成するために

 近年では、思考能力育成が課題であるとされている日本の看護基礎教育において、Tanner2)の臨床判断モデルを導入することにより、看護学生や新人看護師が実践的に考える訓練を積むことが可能ではないかといわれています。Tanner2)の臨床判断モデルの「気づき、解釈、対応、リフレクション」を組み込んで効果を評価するカリキュラム開発研究3)や、臨地実習での卓越した看護師の頭の中の臨床判断を、看護学生や新人看護師にわかるように説明する「思考発話」の効果も期待されています4)

 またTanner2)は、「臨床判断は、その状況が発生した文脈とケアユニットの文化に影響される」と述べています。つまり、看護と看護師のQOL向上に重要な臨床判断の力=「看護を考え抜く力」にも、第2回で述べた「職場風土」が影響するということであり、私も関連があることは否めないと考えます。

 「看護を考え抜く力」を育成するために、上記の事例のように看護ケアの違いを検討したり、卓越した看護師の臨床判断を言語化するなど、なかなか出しにくい看護師個々の判断基準や価値観をカンファレンスで話し合える職場風土であることが重要だと思います。


【引用文献】
1)Corcoran SA:看護におけるClinical Judgement の基本的概念.看護研究 1990;23(4): 351-60.
2)Tanner CA:Thinking like a nurse: a research-based model of clinical judgment in nursing.J Nurs Educ 2006;45(6):204-11.
3)Haobin Y:The design of simulation learning using Tanner's clinical judgment model.Hulixue Zazhi 2016;31 (23):53-6.
4)池田葉子:臨床判断力開発のための「思考発話」.看護教育 2016;57(9):716-9.

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