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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

4. 憧れの職業の現実が見えたときこそ、「看護を考え抜く力」を養うチャンス

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

「看護を考え抜く力」はどうやって身につくの?

 前回の「3. 看護と看護師のQOL向上につながる可能性がある“看護を考え抜く力”とは何なのか」では、看護実践の事例に則して考えて、臨床判断における知識・認識の視点や、対象の日常情報把握の視点から、「看護を考え抜く力」とは、「熟考」する「直観的な過程」でもあり、初学者や新人でも研鑽可能な「思考能力」だといえるということを、お伝えしました。

 今回は、看護を考え抜く力は、どのようにして、いつ、身につくものなのかを考えたいと思います。

看護基礎教育における看護過程の現状とは

 看護基礎教育の中で学習する看護過程は、患者さんに提供する看護を考えるうえで重要となります。看護過程は一般的に、情報収集、アセスメント、問題点の抽出、看護計画や計画の再構成における一連のプロセスで、対象者から得た「主観的情報」と「客観的情報」を相互に裏づけながら、対象者を取り巻く看護上の問題点を理論的に分析することをいいます。この分析により、対象者が抱える問題点やその優先度を判断して、看護ケアの方向性を明確にしていきます。そのため、アセスメント能力は看護師の臨床判断能力の基礎になるものとして重要であり、看護基礎教育においても試行錯誤している教育機関は多いように思います。

 実際の看護過程の学習では、一般的には、「主観的情報」である対象者自身の主な訴え(痛み、苦痛、悩みなど)や「客観的情報」である看護師が客観的に把握できる情報(バイタルサイン、検査データ、表情、皮膚や排液の状態など)を収集し、看護理論を枠組みとして看護学的な視点で展開し、分析します。看護理論の枠組みとしては、ヘンダーソンの「看護ケアの14の構成要素」、ゴードンの「11の健康機能パターン」、ロイの「4つの適応様式」などがあり、看護診断の基準となるものとしてNANDAの「13領域」などがあります。

 看護基礎教育時の学習内容は非常に多く、また、看護過程を考える枠組みやツールも数多く学ぶため、学生は混乱しがちな傾向にあるといえます。教える側としても、学生は基本的な看護過程の考え方やポイントを学習することで精一杯である、と考える看護教育関係者もいるのが現状です。

 私自身も、それに近い状況を経験したことがありますが、「学習者の可能性を伸ばすかかわりができているのか」と自問自答し悩んだ時期に、逆に学生から学んだことがあります。

熟考する思考過程の経験が「看護を考え抜く力」を養う

 それは、対象者を前にした学生の看護への感性は鋭敏であり、看護の基本的な考え方やポイントの学習では収まりきらないほどの情報が集まるため、対象者の小さな変化や個別性も大切に、丁寧に考えたいという思いになる学生が多い、ということでした。

 例えば、私には次のような経験があります。脳梗塞後の患者さんが、リハビリしてもなかなかよくならない停滞期に入り、「同じ部屋の人たちが次々回復して退院していくので、とても焦っている」と学生に話したため、学生は患者さんのニードを中心に看護問題を整理しはじめ、リハビリ時間を増やし回復を促進しようと、多職種に働きかけるケアを立案しました。しかし、70歳であった対象者が、リハビリをしたときに身体機能が劇的に回復する可能性やリハビリ時間延長による体力面からの転倒リスクなどの「基本的な看護の考え方」を私が示唆すると、その学生はベッド上で寝たままできるリハビリを考え、夕食後で特に歩行のリハビリに影響がない時間帯に1人で実施できるように計画を修正してきました。

 それは、回復する意識が高い対象者に対して、歩行で使う筋力や、転倒リスクが高くなるリハビリ時間の延長よりベッド上で行う筋力運動を計画したことやその効果・留意点をリハビリ担当者から聞いて時間帯や回数で無理のない範囲を設定したことなども説明する計画となっていました。

 このときは、担当看護師・指導者・リハビリ担当者と私で、積極的に相談し一緒に考えたため、対象者の個別性を捉えた丁寧な計画となり、相乗効果で対象者の回復も促進されていくような実習になったことを見届けました。そして、知識・認識の視点や日常情報把握の視点から熟考して、対象者のQOL向上に影響するような実習ができた学生は、次からも自然とそのような視点で情報を収集し、看護ケア立案までの思考過程も身についていると感じました。

 このように、初学者である学生時代に熟考する思考過程が身につくと、自然と「看護を考え抜く力」が養われるように思います。

看護の現実に直面して向き合うことを余儀なくされたら、身につけるチャンス

 また、看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセスの研究1)では、看護師の自律的な臨床判断は,自分の知識や技術の不足を自覚する【知識を深める土台を築く】ことから始まり,【育んだ技能を活用する】、【自分以外の知識・技術を消化する】、【判断の中身を振り返る】、【知識と実践が深化する】ことを循環し磨かれていた、とされています。看護師自身が知識や技術の不足を自覚して、知識を深める自己研鑽の土台をつくり、他者の意見も取り入れて臨床判断をして、その判断の中身を振り返るようなプロセス、つまり「看護を考えぬ抜く力」を使ったプロセスにより、知識と実践が深くなると考えられます。

 実際に、私が看護記録や看護ケア実践から「成長した」と感じた看護師の共通点があります。それは、看護の現実や現場の限界を突き付けられ、それに悩み、意欲やパフォーマンスが低下したような時期の新人や学生という点でした。その新人や学生が現実を受け止めて、「自分なりのスタンスでその場でできる最大限のことを考えたい」という思いになり、一緒に1つひとつの看護ケアについて現場の限界を加味して考え始めるようなときに、「看護を考え抜く力」のすごさを感じた経験もあります。そのとき、まさに看護師が自身の知識や技術の不足を自覚して、知識を深める自己研鑽をしながら、他者の意見も取り入れてケアの臨床判断をして、その判断の中身を振り返るような看護ができていたのです。

 このことから、看護を考え抜く力を身につけるタイミングは、看護学生、新人看護師、中堅看護師、ベテラン看護師という時間的経過によるものではなく、看護と向き合うことを余儀なくされた個人的なタイミングではないかと私は考えます。

看護師の成長


【引用文献】
1)杉山祥子,他:看護師の自律的な臨床判断が磨かれるプロセス.日本看護科学会誌 2017;37:141–9.

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