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【連載】麻酔科看護師が解説! 術後疼痛管理

術後痛管理の実際〜さまざまな鎮痛方法〜

  • 公開日: 2019/6/26

鎮痛方法には代表的なものに薬物療法、理学療法、精神・心理学療法などがあります。今回は術後痛の管理で身近に行われている薬物療法について解説していきます。薬剤を用いて行われるさまざまな鎮痛方法と、それらの鎮痛方法を用いてより効果的に術後鎮痛を行う方法を紹介していきます。


さまざまな鎮痛方法

 まず鎮痛方法を考える時には、「薬剤の種類」と「投与経路」の選定を行う必要があります。ではこれから投与経路ごとによく使用される薬剤を含めて解説していきたいと思います。

■経静脈投与

 術直後の患者さんの多くは静脈ラインが確保されているため経路として選択しやすいという利点があります。効果発現が早いことから、痛みによる血圧上昇など早急に対処が必要な場合に有効であり、痛みの部位にかかわらず使用することができます。よく使用される薬剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、オピオイドです。

 また、患者さん自身が専用ポンプを操作して鎮痛薬を自己投与できる経静脈的自己調節鎮痛法(IV-PCA)では、患者さんが効果を実感できる安全な投与量を設定することで満足度の高い鎮痛が期待できます。意識レベルの低下や認知機能の低下がある場合には対象となりませんが、この後に解説する硬膜外麻酔の禁忌症例にも使用できることから適応症例が多いのも特徴です1)。IV-PCAに用いられる薬剤は主にオピオイドであるため悪心嘔吐や掻痒感が出ることもあり、さらに過量投与では呼吸抑制を生じるためそれらに配慮した看護が必要になります。

■硬膜外麻酔

 硬膜外麻酔は多くの場合に患者さんの意識がある状態で術前に行われ、麻酔科医は手術部位に合わせて硬膜外麻酔の穿刺部位を決めています。例えば肺などの胸部手術ではTh4-8、胃など上腹部手術ではTh6-8、子宮などの下腹部手術ではTh8-Th11、下肢の手術ではL1−4というように皮膚分節に一致した部位にカテーテルが挿入されます1)(図12))。硬膜外腔への薬剤の広がりを調節することで、目的とする脊髄分節のみの鎮痛が可能になります。多くの場合に専用機器を用いた持続投与に加えて、自己調節鎮痛法(PCA)が併用されます。

図1 デルマトーム(皮膚分節)
デルマトーム
KEEGAN JJ,et al:The segmental distribution of the cutaneous nerves in the limbs of man.Anat Rec 1948;102(4):409-37.を引用改変

 安静時はもちろん体動時の鎮痛効果に優れているため、深呼吸や体動が促され、早期離床や無気肺など呼吸器合併症の減少にも繋がります。硬膜外麻酔は鎮痛作用に加えて交感神経を遮断することにより消化管の蠕動運動が保たれます。

 短所はカテーテルを挿入することによる神経損傷、硬膜外血腫、感染といった合併症のリスクがあることです。使用する局所麻酔薬の濃度によっては運動神経にも機能低下を及ぼしたり、また交感神経の遮断により血圧低下を引き起こしたりするため初回離床時には注意深い観察が必要です。薬剤は局所麻酔薬にオピオイドを併用することが一般的で、単剤投与に比べて体動時の痛みに鎮痛効果を発揮します。より良い鎮痛効果によって局所麻酔薬の使用量が減ると、運動神経への作用が軽減し離床を妨げるような下肢の運動障害が起こりにくくなります。

 硬膜外麻酔の禁忌は止血・凝固異常、穿刺部位の感染、極度の循環血液量減少、患者さんの拒否がある場合などです3)。近年、高齢化により循環器疾患などで抗凝固・抗血小板療法を行なっている患者さんが増え、また術後に周術期抗凝固療法を行う患者さんではカテーテルの抜去時期に注意が必要です。

 硬膜外麻酔中は、患者さんへの痛みの聴取に加え、アルコール綿や氷を用いて行う冷刺激検査(Coldtest)や尖ったもので行うピンプリック検査で麻酔の効果範囲を確認し、十分な範囲の効果があるかを評価します。さらにカテーテルが固定された長さは変化していないか、刺入部からの薬剤の漏出はないかなどをチェックして必要に応じて投与量の増量や薬剤の変更、カテーテル位置の調節などを行います。カテーテルの抜去後24時間は特に、背部痛や急激に進行する下肢の運動障害など合併症の一つである硬膜外血腫の徴候に注意する必要があります。
 

■脊髄くも膜下麻酔

 手術のための麻酔としても用いられ、術後も効果が持続している間は鎮痛が図れます。用いられる薬剤はマーカイン®などの局所麻酔薬であり、使用薬剤によりますが3時間程度の効果があります4)。フェンタニル®やモルヒネ®などのオピオイドを加えて投与すると局所麻酔薬単独よりも作用時間が延長し、術後の鎮痛もある程度は可能になります。帝王切開や術後に膀胱内灌流などの処置を行う泌尿器科の手術で有用です。

 合併症の一つには、座位または立位で増悪する非拍動性の比較的強い頭痛を起こす硬膜穿刺後頭痛(PDPH)があります。ベッドの初回歩行時の頭痛の訴えには注意が必要です。カテーテルを留置する硬膜外麻酔とは異なり施術後に抗凝固療法を行うことができます。

■末梢神経ブロック

 これは末梢神経の近くを穿刺し局所麻酔薬を注入しておくことで、その神経が支配する領域の痛みを軽減する方法です。最近では超音波ガイド下に行われるようになり以前に比べて効果の確実性と安全性が向上しました。四肢の手術では腕神経叢ブロックや大腿神経ブロック、腹部や胸部の手術では腹横筋膜面ブロックや肋間神経ブロックなどがあります。アナペイン®、ポプスカイン®などの局所麻酔薬が使用され、薬剤を単回注入する方法とカテーテルを留置しておき持続注入する方法があります。必要最小限に近い範囲の麻酔効果が得られることから、硬膜外麻酔と比べて血圧や脈拍などの循環動態の変化が少ないという特徴があります5)。主な合併症は出血、感染、神経障害です。
 
 効果持続時間は長く、患者さんによっては24時間経過しても筋力低下や知覚鈍麻を訴えることもあります5)。神経症状の経過を注意深く観察し看護を行う必要があります。

■局所浸潤麻酔

 手術の前後に創部へキシロカイン®やアナペイン®などの局所麻酔薬を注射しておく方法です。体表手術や腹腔鏡手術など創部の小さい手術では十分な局所浸潤麻酔が有用に働きます6)

より良い術後痛管理のために

マルチモーダル鎮痛(多様性鎮痛)

 術後痛はさまざまな要因によって生じます。マルチモーダル鎮痛は作用機序の異なるさまざまな鎮痛薬や投与経路を組み合わせて使用することで、相乗的な鎮痛効果を得ることができ、各々の投与量を少なくし、副作用の軽減を期待するというものです7)8)。硬膜外麻酔または神経ブロックと経口や経静脈的にNSAIDsやアセトアミフェンの投与を組み合わせるというように複数の鎮痛法を組み合わせます。

Around the clock(ATC)指示

 鎮痛薬を定時で投与する指示のことです。痛みによる交感神経刺激があると筋肉や血管が収縮し、組織の虚血と痛みを生じます。虚血はさらに発痛物質を産生させ、より痛みを増強するというように悪循環が生じてしまいます。また術後患者さんは痛みの域値が低下して痛みを感じやすくなっていることからも、常に痛みを軽減させておくことが大切です。

 ATC指示にすることで鎮痛薬の頓用(PRN)よりも患者さんの感じる痛みの程度は低く、満足度が高くなることが多くなります7)。ATC指示で使用される薬剤はNSAIDsやアセトアミフェンです。フェンタニルやモルヒネといったオピオイドは鎮痛効果に優れていますが、悪心嘔吐、便秘など患者さんにとってつらい副作用があることから、オピオイドの使用量を減少させるために他の薬剤でのATC指示になることがあります。米国麻酔科学会でもNSAIDsやアセトアミフェンをATCで投与すべきであるとしています9)

 術後鎮痛は術前からの計画が大切です。術後の疼痛管理がうまくいかない場合は鎮痛薬の使い方や鎮痛方法の組み合わせについて検討し、より質の高い疼痛管理を目指しましょう。次回はこれまでの内容をさらに実践的にイメージできるよう事例で解説をしていきます。


引用文献

1)中塚秀輝,他:術後痛サービス(POPS)マニュアル -postoperative pain service manual-.POPS研究会,編.真興交易医書出版部,2015,p.47-65.
2)KEEGAN JJ,et al:The segmental distribution of the cutaneous nerves in the limbs of man.Anat Rec 1948;102(4):409-37.
3)Pardo, Manuel C, Miller, Ronald D: Chapter17 Spinal, Epidural, and Caudal Anesthesia, Basic of Anesthesia Seventh Edition, Elsevier inc, 2018,p273-302.
4)稲森雅幸,他:わかりやすい麻酔科学:基礎と実践.中尾慎一,編.中山書店,2014.P.110-3.
5)藤原祥裕:術後鎮痛のこれから 末梢神経ブロックを最大活用した周術期管理の試み、日臨麻会誌 34(2)、2014、p192-197
6)稲田英一:「麻酔への知的アプローチ 第7版」、日本医事新報社、2010、p160-161
7)飯島哲也,他:術後痛サービス(POPS)マニュアルポケット版 アップグレードのためのプロトコール集.POPS研究会,編.POPS研究会,2015,p.16-21.
8)White PF, Kehlet H : Improving post operative pain management :what are the unresolved issues? .Anesthesiology. 2010;112(1):220-5.
9)Practice guidelines for acute pain management in the perioperative setting: an up dated report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Acute Pain Management. Anesthesiology 2012;116(2):248-73.

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