【連載】発見!私たち中堅の成長スイッチ

【術前・術後ケア】患者中心の医療を調整する場面~乳がん患者へのケアより~

執筆 志田 沙織

獨協医科大学埼玉医療センター  看護部E5病棟 看護師

目次


私の看護のエッセンス
 ●患者中心の医療とは、患者の意思決定のプロセスを支援し、患者を取り巻くさまざまな人がつながれるよう、その連携を図っていくことが、看護師の大きな役割となります。
 ●患者の不安、日常生活での影響について一番身近な存在である看護師が情報収集を行うことで、入院中、通院時だけでなく地域での生活者として患者を捉えることにつながります。


事例紹介

 Aさん、乳がん、40歳代、女性。夫、娘、息子の4人家族。市で行われたマンモグラフィ検診で異常を指摘され、精査目的に当院の乳腺センターを受診。外来にてエコー検査、細胞診を行った結果、左乳がんと診断されました。他臓器への転移はなく、ステージⅠとの診断でした。ルミナールタイプであり、治療は手術とホルモン療法を行うことになりました。

 術前検査の結果では、温存術が可能であり、温存術を行うか全摘術を行うかの選択をするように医師から言われましたが、なかなか決断することができずに悩んでいる様子がありました。
 
 入院までの間に何度か医師による説明の場を設け、Aさんの不安や疑問点に対応しました。その結果、Aさんは左乳房全摘術を行うことを決断しました。術後の経過は順調であり、現在はホルモン療法のため、定期的に外来に通院しています。

看護上の問題の抽出

■迷いがみられるAさん

 Aさんは、外来で医師から左乳がんであることの告知を受けました。その場で治療方針の説明があり、同時に、2カ月後の手術枠を確保し、手術のために必要な検査を進めていくこととなりました。

 その間、外来通院するなかで、Aさんから「告知を受けてからショックで眠れなくなり、気持ちが落ち着かないなどの精神症状を自覚するようになった」との訴えが聞かれ、医師から睡眠導入薬の処方がありました。そのときも取り乱したりする様子はなかったものの、「予後についての恐怖感が拭えない」など、Aさんは不安を言葉にして医師に訴えていました。
 
 術式を決定するにあたり、Aさんは温存術が可能な症例であることから、医師からは温存術を提案されました。しかし、Aさんは再発の可能性を考えると全摘術をしたほうがよいのではないかと迷い、なかなか決断できずにいました。
 
 温存術を行った場合、術後放射線治療を行えば再発率への影響は低いとされていることなどについても医師からさらに説明を受けましたが、その場では決定できず、2週間後の受診までに検討してもらうこととなりました。

■術後の不安を抱えるAさん

 診察後、看護師がAさんに声をかけると、疑問点や不安についての質問がありました。
 
 ボディイメージの変調をきたすことから医師は温存術を提案しましたが、Aさんは乳房を失うことよりも、再発や日常生活への影響を心配していました。「万が一、再発や再手術といったリスクがあるのなら全摘術を行ったほうがよい」との希望でした。ですが、「全摘術を行うことで術後の疼痛や感覚障害、腕の動きが制限されてしまうのではないか」という不安があり、結論を出せない状態でした。
 
 家族にも病状は伝えているとのことでしたが、外来は本人のみで受診しており、家族からも「本人の判断に任せる」と言われ、一人で悩んでいました。
 


この事例からは、次の3つの看護上の問題を見ることができます。

問題点1 治療の意思決定ができない
問題点2 治療に対し、不安がある
問題点3 疾患や治療についての知識や情報が不足している可能性がある


看護上の問題に対する介入方法の検討プロセス・看護展開とその結果

問題点1 治療の意思決定ができない

介入方法の検討プロセス
 告知後の患者の精神状態が危機的状態にあるということを理解し、受容過程に問題がないかを判断することが必要であると考えました。

 受診時のAさんの表情や訴えなどから精神状態のアセスメントを行い、感情の表出を促すことで治療に対する思いなどを把握し、患者自身の意思決定を阻害する要因がないかどうかの確認を行うことにしました。
 
 特にAさんは告知後から不眠や不安を訴えており、精神的な症状に対しても他職種と連携したかかわりが必要であると考え、なかでも医師との連携を図り、精神症状が改善されるような介入が必要であると考えました。
 
 通常、当院の乳腺センターでは告知から治療決定までの期間は約1カ月です。そのなかで患者自身が治療の選択、決定を行うことができるよう、看護師が診察に同席し、患者に不足している情報や患者の抱える不安についての情報提供を行います。そして、必要があれば再度、医師の説明の場を確保し、薬剤師や医療ソーシャルワーカーなど他職種との連携を図るよう検討します。

看護展開とその結果
 Aさんが感情を表出できる場をつくるため、診察後に看護師から声をかけ、話を聞く時間をつくりました。告知から間もないころのAさんは、「抗がん剤治療はやりたくない」「恐怖が拭えない」など、抽象的な不安の訴えでしたが、何度かかかわりをもつうちに、「がん告知というものが自分のこれまでの人生において、最も衝撃的な出来事であった」「家族には相談しているが、治療の決断は自分に任されており、自分のことのように考えられていないのではないかという孤独感を感じていた」など、具体的な不安の内容を表出してくれるようになりました。不眠の症状については診察の際に医師に報告を行い、睡眠導入薬の使用を開始したことで中途覚醒が改善され、睡眠の質がよくなったとの結果が得られました。
 
 精神状態が安定したことで、治療についても前向きに考えることができるようになり、自分から進んで調べたり、医師への質問を積極的にできるようになりました。手術方法の検討について医師から温存術と全摘術それぞれのメリット、デメリットについて再度説明を受け納得したことで、今後の自分の生活や再発への懸念を考慮し、最終的にAさんは全摘術を選択することができました。

問題点2 治療に対し、不安がある

介入方法の検討プロセス
 医師からの説明に対する患者の理解度を確認し、そのうえで、Aさんの不安を具体的に抽出し、今後の生活への影響を日常生活行動レベルで検討できるようなかかわりが必要であると考えました。

 そして、手術や入院生活、術後の生活について具体的なイメージができるよう、パンフレットを使用しオリエンテーションを行い、わかりやすく説明することが必要であると考えました。
 
 そこで、外来でのAさんの不安の訴えを記録に残し、入院病棟に申し送りを行うほか、カルテを通して多職種間でも情報共有をすることで、よりAさんの生活に合わせた医療を提供できるようにしようと考えました。

看護展開とその結果
 医師からの説明に加え、看護師はパンフレットを使用し手術のオリエンテーションを行い、治療の経過を具体的にイメージできるようかかわりました。

 特にAさんは、「乳房切除後の疼痛や神経障害についてイメージができない」との訴えがあり、写真や冊子を使用し説明を行いました。「乳房を全摘することへの抵抗は少ない」と言っていましたが、実際の生活において、補正下着の必要性や温泉など公共の場での対応について考えておくことで、退院後の経過や生活のイメージができるようになりました。
 
 外来での医師や看護師のかかわりを記録に残し、病棟に引き継ぎを行うことで、入院後のAさんは不安が増強することなく過ごせ、希望した手術を受けることができました。
 

問題点3 疾患や治療についての知識や情報が不足している可能性がある

介入方法の検討プロセス
 Aさんが自分の病状や治療について、どの程度知識や理解があるのかを判断するために、現在の病識や今後の治療について、Aさんに具体的に聞くことが必要であると考えました。
 
 さらに近年、インターネットの普及やテレビ報道が過熱するなか、誤った情報や認識に惑わされる患者も多く、そのことによりAさんの意思決定やセルフケアに影響がないよう、知識や理解の確認を行うことにしました。
 
 そのうえで、Aさんに足りない知識や情報、誤った認識がみられれば、看護師から再度説明することが必要であると考えました。
 
 外来診察という限られた時間では十分な説明の時間を確保することができないことが多く、その場合には何度か通院してもらい、疑問点をそのつど確認することが必要であると考えました。看護師から伝えられる情報、医師からの説明が必要なことは何かを見極めることが必要であると考えました。そして、患者に最適な医療を提供できるよう、担当の医師の勤務体制や必要な資源の供給などをよく検討し、調整することを考えました。

看護展開とその結果
 Aさんの疾患や治療への理解度を確認し、不足している知識や情報を提供しました。医師に確認が必要な内容については、診察中に看護師が仲介し、Aさんが質問しやすい環境をつくるようにしました。
 
 説明の場をセッティングし、より医師とコミュニケーションが図れるよう調整を行いました。ほかに、患者サロンを案内したり、がん相談窓口の情報を伝えることで、他の専門職者のかかわりを必要とする場合の対応も可能であることを情報提供しました。

振り返り

■看護師は患者の代弁者
 診療の補助や療養の世話に当たる看護師は、患者にかかわる時間が最も長く、医療スタッフのなかでは一番患者に近い存在です。患者・家族と医療チームとをつなぐ看護師は、患者の代弁者としての役割を担います。
 
 患者中心の医療では、患者を代弁する看護師の存在はキーパーソンであり、チーム間の連携や協働に積極的にかかわることとなります。チームに伝えるべき患者の情報を得るために、日々の患者のサポート、メンタル面でのケアにも看護師として向き合う必要があります。
 
 インフォームドコンセントの場にはできる限り看護師が同席し、患者が病状や治療法の選択肢を理解し、意思決定を行う支援を心がけることがとても重要です。
 
■ライフステージの観点から患者を捉える
 医療スタッフは、それぞれが専門的なスキルをもっています。看護師は、看護職としての自覚を高くもち、そのスキルを発揮すべく知識や技術の習得・研鑽に努めることが期待されています。同僚や後輩看護師に対しても知識や情報を的確に伝え、教育・指導していくことも必要です。患者は病院を一歩出ると一生活者であり、患者の置かれている生活環境や職場の立ち位置を考え、人生におけるステージの観点で捉えることが必要です。
 

成長のヒント

 日々多くの患者と接しますが、その患者の病状や家族関係、生活背景はさまざまです。限られた時間のなかで患者の状態をアセスメントし、必要な看護を提供することは難しいと思うかもしれません。
 
 しかし、さまざまな価値観があることを理解し、日々のケアのなかで患者とかかわるタイミングを逃さないこと、訴えや表情の裏にある患者からのサインを受け取ることができるよう観察の視点を養っていくことで、患者に寄り添った看護を提供できることにつながります。
 
 患者に興味をもち理解を深めることで、日々のケア一つひとつが業務ではなく、一人ひとりの患者の個別性に合わせた看護を提供することにつながり、さらには生活者として患者を捉えることで、より患者中心の医療の提供につながると考えます。

引用・参考文献

1) 川崎優子:看護者が行う意思決定支援の技法30 患者の真のニーズ・価値観を引き出すかかわり,医学書院,2017,p.2-8.
2) 川崎優子:がん患者の意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデルの開発.日本看護科学会誌 2015;35:277-85.
3) 大西秀樹:女性のがん 心のケア.土屋書店,2013,p.14-15,p.34-39.

(ナース専科2018年3月号より転載)

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