【連載】慢性心不全患者のセルフマネジメント支援

【事例1】初めて心不全で入院した患者の看護 ~患者の望む生活を支えるセルフケア支援~

執筆 鷲田 幸一

兵庫県立尼崎総合医療センター 看護部 慢性心不全看護認定看護師 神戸女子大学 看護学部看護学科 医療看護領域成人看護学分野助教

目次

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事例紹介

 Aさん、80歳代、女性

生活背景
 独居、夫とは死別、子供とは疎遠で連絡を取っていない(兄弟とも同様)

既往歴
 高血圧症

現病歴
 1月某日起床後、朝6時ごろから胸苦しさ・呼吸困難を自覚し、隣人に依頼し救急要請。救急車内で酸素カヌラ2L/分投与受け呼吸困難感は改善

来院時バイタルサイン
 血圧186/116mmHg、心拍数188回/分、SpO295%(O2カヌラ2L/分)

身体所見
 意識清明、皮膚湿潤あり、末梢冷感あり、下腿浮腫あり

胸部X線写真
 心胸郭比63%、胸水なし、肺血管陰影増強あり(図1)

図1 入院時の胸部X線写真
zu1

心電図所見
 心房細動(atrial fibrillation:Af)、心拍数180 ~190回/分(図2)

図2 入院時の心電図所見 
zu2

血液検査結果
kensa

医師の問診
・今までこのような症状を体験したことはない
・1週間前から顔のむくみは自覚していた
・高血圧で近医に受診していたが、最近薬は飲んでいなかった

心エコー検査(後日)
 左室駆出率(EF):39%、大動脈弁逆流Ⅰ度、LVDd/Ds:51/42mm、僧帽弁逆流Ⅱ度、左房径(LAD):39mm、三尖弁逆流Ⅰ度、Mild AS〔弁口面積(AVA)1.12cm2、最大流速(Vmax)2.48m/秒〕

 上記の検査結果から、心不全増悪で緊急入院となる。


事例アセスメント

 事例をアセスメントするときは、「どのような病態の患者さんか」「なぜ心不全が増悪したのか」を、得られている情報から推論していくことが重要となります。


 Aさんの場合は、1週間前から顔のむくみを自覚していたとのことですので、体液量が過剰であったことが推測されます。入院時の血清アルブミン値(Alb)は、(仮に体液過剰により血液が希釈されていたとしても)3.4g/dLであり、浮腫が浸透圧低下で起こったとは考えにくく、「静水圧の上昇があった」ということが推測されます。
 
 おそらく、Aさんは、1週間前、もしかするとそれより前から、心不全症状の体験があったのかもしれません。徐々に心不全増悪傾向にあったと推測することができます。一般的にも、心不全が急性増悪する1週間ほど前から心不全増悪傾向にある患者が多いと報告されています1) (図3)。

 図3 心不全急性増悪をした患者の入院前の左室拡張末期圧の変化

 
 次に、Aさんの急性増悪について考えてみます。救急車を要請しなければならないほど急激に症状が出現し、かつ苦痛が強かったと考えられます。来院時の血液検査結果を見れば、酸素投与により酸素化は保たれていますが、乳酸(Lac)は上昇しており、末梢組織の酸素化不全があったと考えられます。Aさんは強い苦痛を体験しただろうと思います。
 
 なぜ、末梢組織の酸素化不全が起こったのでしょうか。来院時の胸部X線写真では、心胸郭比(CTR)の拡大と肺動脈陰影の増強を認め、現在肺うっ血が強くなくても、肺うっ血を起こしていたのではないかと思われます。また同時に、末梢組織への循環不全も起こっていたと考えられます。急激に肺うっ血や循環不全が起こった理由を考えていく前に、下記の「心不全とは」「心拍出量が低下するのはなぜか?」「肺うっ血が起こるのはなぜか?」を読んで、基本的な知識に一度戻ってみましょう。

 事例に戻ります。Aさんは、来院時に著明な血圧上昇と頻脈を認めています。血圧上昇も頻脈も、心拍出量を低下させ、また左室拡張末期圧を上昇させ肺うっ血を惹起します。
 
 実際にAさんの脳ナトリウムペプチド(BNP)は高値を示しています。BNPの上昇は左室拡張末期圧の上昇を反映しているといわれています5)。心房細動がもともとあったのかはわかりません。しかし、体液量が増え、心不全増悪傾向となり交感神経活性が亢進していたところへ、1月の寒い朝、寒冷刺激や労作を契機に交感神経がさらに活性し、血圧が急激に上昇したのだと考えられます。それにより、後負荷不整合を起こし、心拍出量低下と肺うっ血をきたしたと思われます。
 
 さらに苦痛が交感神経を活性化させ、頻脈も亢進し、心不全の急性増悪の悪循環に入ったと推測されます。Aさんはもともと高血圧の既往があり、降圧薬の服薬中断があったことで、人一倍血圧が上昇しやすかったといえます。
 
 多くの患者は落ち着いたころに、生理検査室で心臓エコーの検査を受けます。心不全増悪のシナリオと合わせて、その患者の心臓がどの程度、前負荷や後負荷の影響を受けやすいのかを把握しておくことも重要です。
 
 Aさんの場合、左室駆出率(EF)が39%と低下しています。心臓の収縮力が低下しているということは、普段は前負荷を増やして心拍出量を維持していることになります。しかし、ある限度を超えると心拍出量は増えず、左室拡張末期圧が上昇してきます。Aさんは腎機能も決してよくはありませんので、腎血流の低下もしくは腎うっ血により、腎機能が悪化することでさらに体液量は貯留しやすいと思われます。
 
 また、Aさんは中等度の大動脈弁狭窄症をもっています。大動脈弁狭窄症の重症度は、弁口面積(AVA)や最大流速(Vmax)によって定まります6)。大動脈弁狭窄症があると、左室から大動脈へ血液を拍出する際に、左室に余計な圧負荷が加わります(左室と大動脈の圧の差=4×V2)。Aさんの場合、最大圧較差は約25mmHgで、収縮期血圧に25mmHg加算した圧が左室にかかることになります。

 したがって、Aさんの心臓と推測される心不全増悪のシナリオから、体液量が増えやすいこと、そして、体液量が増えた状態に血圧上昇が加わることで、心不全は急性増悪しやすいことが見えてきます。

●病態から考える心不全管理のアセスメント

 Aさんの心不全増悪のシナリオが見えてくれば、再び心不全を増悪させないために、疾患管理として何を重視すればよいかも見えてきます。
 
 Aさんの場合、体液量の増加・血圧上昇・頻脈をいかに抑制するかが重要となります。服薬としては、体液量を調整する利尿薬、血管抵抗を下げる降圧薬、交感神経の活性化を抑制するβ遮断薬が特に重要になってきます。

● 心不全管理のポイントから生活上のリスクをアセスメントする

 Aさんの場合、血圧、心拍数、体液量の管理が重要であることが見えてきました。では、Aさんが生活していくうえで、どの管理が容易で、どの管理が難しくなってくるでしょうか。
 
 生活に関する情報は、「独居であること」しかわかっていません。Aさんが、どのような環境で一人暮らしをし、どのように毎日の生活を送っているのか、追加情報が必要です。それをもとに、疾患管理が行えるように支援していく必要があります。
 
 また、私たち医療者は、心不全が何かということを、知識としてもっていますが、Aさんは体験したことが心不全とはわかっていません。初めての体験であればなおさらです。Aさんが、「心不全が何か」を全く知らないことも、心不全増悪のリスクになります。Aさんが、「体験したことは心不全である」と認識できるように、体験したこと1つずつに意味づけを行い、次に同じ体験をした際に心不全と認識し、どう対処すればよいかを伝えていく必要があります。


解決すべき課題
 課題1 血圧・心拍数・体液量を管理していくうえで、Aさんの生活のなかにどのようなリスクが存在しているのか医療者がわかっていない。
 課題2 Aさんは今回が初めて体験する心不全であり、心不全がどのようなものであるか認識できていない。
 課題3 退院後、Aさんがどの程度の心不全セルフケアを行えるかを、医療者が把握していない。


■心不全とは

 心不全とは、心臓から血液がうまく拍出できず、心臓から下流では“血流減少”が起こり、上流では拍出されない血液が貯留する“うっ血”が起こる状態のことをいいます。
 

■心拍出量が低下するのはなぜか?

 心臓からの血液の拍出(心拍出量)を調整するのは、前負荷(心臓が収縮する前に心臓にかかる容量負荷:一般的に静脈還流量を指す)と後負荷(心臓が収縮を始めた後に心臓にかかる圧負荷:左室においては一般的に収縮期血圧を指す)、それに心ポンプ機能(収縮能と拡張能)になります。心ポンプ機能は、心筋の収縮性や伸展性などの筋肉の性質や、弁膜疾患の存在による心拍出能の効率性によって決まりますが、心拍数なども機能的に心拍出能に影響を及ぼします。
 
 通常は、前負荷を増やすことで心拍出量を増やす(フランク・スターリングの法則)のですが、心ポンプ機能の低下した患者では、うまく血液を拍出できなくなるため、前負荷が増えても心拍出量を増やすことができません。増えすぎた前負荷は、後述する肺うっ血を引き起こします。

 また、後負荷が高くなった場合も、うまく血液を拍出できなくなります。心臓の収縮能を上回って後負荷が高くなる状況を、「後負荷不整合(afterload mismatch)」とよびます。

 ゴムホースで水を飛ばすときのことを考えてみてください。ゴムホースの口を指で挟み水の出口を狭くすると、水の勢いは増し遠くまで水を飛ばすことができます。血管でいえば、血管を収縮させ、血管抵抗を上げ血圧を上昇させることになります。ゴムホースの口をさらに強く挟むと、水の流れが滞ってしまいます。この状態が、心拍出量が低下した状態、つまり後負荷不整合の状態と考えることができます。
 
 心拍数は、基本的に増えることで心拍出量を増やします(心拍出量=1回拍出量×心拍数)。しかし、心拍数の増加も限度を超えると、左室拡張時間が短くなり、左室が拍出に必要なだけの血液量(左室拡張末期容量)を保てなくなることで、心拍出量を増やすことができなくなります。

■肺うっ血が起こるのはなぜか?

 肺うっ血とは、肺毛細血管周囲の間質や肺胞に水分が漏出することをいいます。間質や肺胞に水分が貯留することで、肺胞-毛細血管間における酸素の拡散が障害されます。肺うっ血を起こすのは、肺毛細血管の静水圧が高くなるからです。肺毛細血管は肺静脈に続き、肺静脈は左房に流入します。
 
 左房の内圧は僧帽弁狭窄症などがなければ、左室が収縮に転じる際の左室の内圧、左室拡張末期圧に等しくなります。よって、左室拡張末期圧が高いと、肺静脈圧が高くなり肺うっ血をきたしやすくなります。
 
 左室拡張末期圧は、どのような状態で高くなるのでしょうか。ここでも、前述した前負荷・後負荷の考え方で整理します。前負荷が増えた際、血液が拍出されなければ、左室拡張末期圧は上昇します。また、後負荷が高くなり、血液が拍出されなくなっても左室拡張末期圧は上昇します。
 
 もう一点、実は心拍が速くなりすぎても左室拡張末期圧は上昇します。一般的に、洞調律の際には心拍数が110回/分を超えると左室拡張末期圧が急速に上昇し、さらに心筋張力も急激に増悪するといわれています2),3)
 
 また、心房細動中に130回/分以上の心拍数が持続すると、左室拡張不全により左室拡張末期圧が上昇するといわれています4) (図4)。

図4 左心不全と左室拡張末期圧の上昇

引用・参考文献

1)Adamson PB,et al:Ongoing right ventricular hemodynamics in heart failure.J Am Coll Cardiol 2013;41(4):565-71.
2)Weber KT,et al:Cardiopulmonary exercise testing for evaluation of chronic cardiac failure.J Am Coll Cardiol 1985;55(2):22A-31A.
3) Inagaki M,et al:Impaired force-frequency relations in patients with hypertensive left ventricular hypertrophy. A possible physiological
marker of the transition from physiological to pathological hypertrophy.Circulation 1999;99(14):1822-30.
4)Rawles JM:What is meant by a “controlled” ventricular rate in atrial fibrillation? Br Heart J 1990;63(3):157‒61.
5) Maeda K,et al:Plasma brain natriuretic peptide as a biochemical marker of high left ventricular end-diastolic pressure in patients with
symptomatic left ventricular dysfunction. Am Heart J 1998;135(5 Pt 1):825-32.
6) 大北裕,他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012ookitah.pdf(2017/12/25閲覧)

参考文献

①佐藤幸人編著:最強!心不全チーム医療 スペシャリスト集団になる!.メディカ出版,2014.
■おすすめ理由 心不全の臨床について、多職種の視点から簡略にまとめられています。1冊で心不全のことがある程度理解でき、かつ心不全多職種チーム医療をどう進めていくかも考えることができます。

②佐藤幸人編著:臨床心不全のいちばん大事なところ60.メディカ出版,2014.
■おすすめ理由 心不全の臨床を考えていくうえで役に立つ、基礎医学的な内容から臨床医学まで幅広く記載されています。急性心不全や重症心不全についても記載されています。

③大西勝也:カテーテル時代に知っておきたい 新しい心血行動態入門 いちから学びたい人にDr.大西から80のクエスチョン.メディカ出版,
2014.
■おすすめ理由 心臓生理学の解説は基本的に難しくなりがちですが、本書ではシンプルにわかりやすくまとめられています。血行動態がわかれば、心不全の病態も治療も看護もさらに理解が深まると思います。

(ナース専科2018年4月号より転載)

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