【連載】慢性心不全患者のセルフマネジメント支援

【事例1つづき】課題解決のための実践|慢性心不全患者さんへの看護

執筆 鷲田 幸一

兵庫県立尼崎総合医療センター 看護部 慢性心不全看護認定看護師 神戸女子大学 看護学部看護学科 医療看護領域成人看護学分野助教

前回提示した事例のどこに課題があるか、またその課題をどう解決するかを解説します。
前回の記事はこちら → https://nursepress.jp/227845

目次

※「生活と関連した心不全増悪リスクを評価する」以下の閲覧はログイン(登録無料)が必要です。


解決すべき課題
 課題1 血圧・心拍数・体液量を管理していくうえで、Aさんの生活のなかにどのようなリスクが存在しているのか医療者がわかっていない。
 課題2 Aさんは今回が初めて体験する心不全であり、心不全がどのようなものであるか認識できていない。
 課題3 退院後、Aさんがどの程度の心不全セルフケアを行えるかを、医療者が把握していない。


課題1への取り組み

生活を捉える

 Aさん自身から、どのような環境で生活を送っているのか情報を得ていきます。このとき、Aさんが同じ内容を繰り返し医療者に伝えなくていいように、多職種で連携し情報を得て、情報を共有していくことが望ましいでしょう。
 
 実際に得られた情報は下記になります。
 
 住居環境
 団地の5階に居住し、階段は使用せずエレベーターを使用。布団で就寝。トイレは洋式。浴槽はあるが湯沸かし器が壊れていてお湯が出ない。銭湯に通っている。銭湯までは徒歩で20分。冬場は週に2回程度通う。

 家事
 ベランダにある洗濯機で週に1回洗濯を行う。掃除は掃除機で3日に1回ほど行う。買い物は片道徒歩10分のスーパーマーケットに3日に1回、また片道徒歩10分弱の総菜屋には毎日通う。
 
 食事
 ご飯は炊くが、おかずは惣菜屋のものを購入する。夫が調理担当だったが、5年前に他界してからは、買った惣菜での食事が続いている。味つけは病院食より濃かった。洗い物のことを考え、あぶら物は減らしていた。ミカンやバナナなど果物が好きでよく食べていた。
 
 運動
 団地の前の公園で毎朝ラジオ体操を行っていた。

 社会資源
 生活保護を受給している。他は利用なし。介護保険も申請していない。
 
 楽しみ
 団地の集まりで花見やパーティに参加するのが楽しみ。みんなで集まると缶ビールを350mL飲む。それ以外は、自宅でテレビを観て過ごすことがほとんど。野球や相撲などスポーツを観るのが好き。
 

生活と関連した心不全増悪リスクを評価する

 自宅でのAさんの様子から、活動度が高いことがわかります。また、テレビの視聴も、スポーツなど興奮する番組が好きな様子であり、活動や興奮により血圧や心拍数がどの程度上昇するのか評価する必要があります。
 
 実際の活動や、会話に際してどの程度血圧・心拍数が上昇するかは、心臓リハビリテーションで実際に運動や会話中の血圧・心拍数を観察することで評価します。心臓リハビリテーション室の多くには、自転車エルゴメータとトレッドミルがあります。高齢者の運動療法としては、転倒の危険性が低く、負荷の調整も容易で、長く運動が続けられる自転車エルゴメータが適しているでしょう。
 
 しかし、Aさんの場合、20分の歩行習慣があるので、トレッドミルで普段の歩行速度に合わせて運動を行い、歩行中の心拍数や血圧上昇の程度を評価することが望ましいでしょう。それにより、日常生活のなかでどの程度血圧や心拍数上昇のリスクがあるのかが明らかになります。リハビリテーション中に息切れや、血圧・心拍数の上昇などを認めれば、それをAさんが意識できるようにフィードバックします。

 Aさんが体験している運動時の血圧や心拍数の変化、息切れや疲労感などの症状にAさんが関心を向け、退院後もAさん自身で身体の変化に気付くことができるように支援すること、また、身体の変化に気付いた際にどのように対処するのかを伝えていくことも、心臓リハビリテーションの場で行います。
 
 食事に関しては、1日にどのような食品をどの程度摂取しているのか確認し、1日塩分摂取量を推定します。1品あたりの塩分濃度が高くても、1日の塩分摂取量がそれほど多くなければ、それほど過敏になる必要はないと思います。逆に、減塩食になると食事摂取量が低下し、必要なエネルギーを摂取できなくなる患者もいます。高齢者の場合、必要なエネルギーを摂取できなければ、やせていき、活動度も低下し、フレイルとよばれる状態に陥っていくため注意が必要です。今までの生活や、食の好み、退院後の食環境を考慮し、その患者にとって適切な食事療法を考えることが必要になります。

 体重の変化だけでは、体脂肪量と体液量のどちらが増減しているのか評価が難しいため、多周波生体電気インピーダンス法(BIA)による体組成の評価を行ってもよいでしょう。多周波BIAで得られる細胞外水分量(ECW)と体水分量(TBW)の比(ECW/TBW)は、心不全や末期腎不全、重症患者の体液量の評価や予後予測に有用であるとの報告も複数あり、同一患者で継続的に測定することで、心不全の評価が可能であると考えられます7),8),9),10)。ECW/TBW値の増減と体重の増減を同時に捉えていくことで、体液量と体脂肪量の増減から栄養状態の評価も可能となります。

課題2への取り組み

患者が体験した症状を心不全として意味づける支援

 Aさんは、1週間前から顔のむくみを自覚していました。おそらく毎日鏡を見ている状況で、しわが浅くなったことに気づいたり、知人に「むくんでいる」と言われたりして認識したのでしょう。

 患者には、体験していても意識できておらず、記憶に残っていないことが多くあります。患者が体験を認識し、それに意味づけを行い、経験として記憶のなかに残していくことで、次の学習につなぐことができます。患者が入院前の生活を語りながら振り返り、「そういえば……」という気づきを得られるように支援していきます。
 
 うまく思い返すことができない患者には、看護師から体験していそうなことを確認し、振り返りを支援します。Aさんも、看護師と振り返りをし、「そういえば、歩いて10分のスーパーに行くのに息が切れてたし、おかしいと思ってた」と入院前に労作時息切れを体験していたことを思い出していました。
 
 「むくむ」「歩いて息切れがする」「普段より疲れやすくなってくる」などの症状が心不全によるもので
あると伝えていくことで、患者は体験していた症状を「心不全」として意味づけし、心不全というものを経験的に理解していくことが可能となります。

課題3への取り組み

服薬管理の支援

 Aさんにとって、服薬管理の支援は重要です。入院前に降圧薬の処方があったにもかかわらず、服薬を自己中断していた経験があるからです。
 
 まずは、患者が服薬に抱いている認識や価値観を確認します。誤った情報により誤った認識をもっているのであれば、修正していく必要があります。服薬行為や、薬剤による身体反応が生活に支障をきたし、服薬の自己中断に至っているのなら、生活に支障の出にくい服薬時間や方法を、一緒に考えていくことが大切です。
 
 Aさんは、「寒くなってきたため薬をもらいに行くのが億劫になった」と話していました。「薬を飲まないといけない」という意識はありましたが、「薬を飲まなくても体調は変わらなかった」という体験をしていたため、そのまま服薬を中断し過ごしてしまったようです。
 
 薬の必要性を伝え、理解してもらえるように支援しながらも、服薬を継続しやすいような工夫や、飲み忘れに早めに気づける支援も必要です。この事例では、医師と相談し、朝のみの内服とし、さらに一包化することで、服薬行為の負担を減らせるようにしました。
 

セルフモニタリング支援

 心不全患者にとって、「心不全が増悪しないように管理する」ことも重要ですが、「心不全が悪化していないかをモニタリングする」ことも重要な療養行動になります。

 Aさんの場合は、体液量評価のための体重測定と、血圧の確認が重要になります。また、心不全症状や徴候が出現していないかの確認も必要です。これらは「心不全セルフモニタリング」といわれ、心不全セルフケアにおいて重要な項目です。
 
 毎日の体重・血圧測定の重要性や目的を伝え、心不全手帳などを活用しながら、患者自身で関心をもち測定・記録できるように促していきます(図5)。測定や記録を促すだけでなく、数値の変化を評価できるように、また数値と体調とを関連づけて評価できるように支援することも重要です。目標は、患者自身が自分の体重や血圧に関心をもち、それによって体調を確認し、変化があった際に適切な対処がとれるようになることです。退院後、患者自身が適切にモニタリングや、モニタリングしたことの解釈、対処方法の選択を行えるように、入院中から一緒に練習していきます。

 図5 慢性心不全手帳
zu5
 患者が、体重や血圧測定に関心をもち、必要性を認識するようになれば、自宅でも継続できそうか意欲や意思、そして必要物品を確認します。

 セルフモニタリングには体重計や血圧計の準備が必要になります。体重計は正確な数値を得るために、可能であればデジタル表示のものが望ましいでしょう。自宅にない場合は、どのようにすれば退院後も体重や血圧測定が継続できるかを一緒に考えていきます。Aさんは、自宅に血圧計はあり毎日測定できるとのことでした。体重計は自宅にはなかったのですが、購入すると話してくれました。
 

他者の支援を調整する

 Aさんは独居です。退院後、心不全の療養行動を1人で行っていかなければなりません。「1人で負担なく療養行動を継続できそうか」「体調が優れず買い物や食事の準備ができないときにどうするか」などを一緒に考えていきます。
 
 医療者としては、ヘルパーや訪問看護師が介入したほうが、患者は安心して生活できるのではないかと考えるものですが、患者によっては「他人に頼りたくない」「他人が自宅に入ってくるのが嫌だ」という価値観をもった人もいます。

 患者の価値観をまず捉えるようにし、現状に合わせてどのような社会資源が活用でき、それによってどのような利益が得られるのか情報提供します。患者は、退院後の自分の生活を想像しながら、「必要がありそうだ」と考えれば自ら導入を希望します。
 
 Aさんは、「ご飯のことがやっぱり心配。ご飯は炊けるけどおかずが作れないからね。ヘルパーさんとか来てくれるならうれしいわ。話し相手も増えるしね」と介護保険での訪問介護サービスの導入を希望しました。そこで、入院中に介護保険を申請し、サービスの導入に向けて手続きを進めました。同時にヘルパーに、体重・血圧・服薬管理も手伝ってもらうように調整しました。

退院後の継続支援を調整する

 在院日数の短縮が求められている状況では、入院中に時間をかけて患者教育や退院調整が行えるわけではありません。患者によっては、療養支援の目標に到達することなく、退院の日を迎えてしまうこともあるでしょう。大切なのは、退院後、患者に不利益を生じさせないことです。在院日数が短いことはわかっているので、早期から計画的に支援に着手することはもちろん、入院中に行えないことは退院後、継続して支援できるように調整していきます。

 当院では、心不全入院患者に対して、「生活情報の把握」「心不全セルフモニタリングと受診タイミングについての説明」「社会資源活用の検討」「栄養士・薬剤師の介入」「心臓リハビリテーションの導入」は少なくとも行うように調整し、退院してからの支援は、外来心臓リハビリテーションもしくは、循環器外来の看護師に引き継ぐようにしています。

 Aさんも、外来心臓リハビリテーションに支援を引き継ぎました。外来で、心不全モニタリングと療養行動の継続支援を行っていくことになりました。


まとめ
①なぜ心不全が急性増悪したのか、病態からそのシナリオを考えます。
②心不全増悪のリスクが生活のなかのどこに潜んでいるのかを明らかにし、支援を考えます。
③心不全の療養生活を患者が無理なく継続できるように、多職種で継続的に支援します。

引用・参考文献

1)Adamson PB,et al:Ongoing right ventricular hemodynamics in heart failure.J Am Coll Cardiol 2013;41(4):565-71.
2)Weber KT,et al:Cardiopulmonary exercise testing for evaluation of chronic cardiac failure.J Am Coll Cardiol 1985;55(2):22A-31A.
3) Inagaki M,et al:Impaired force-frequency relations in patients with hypertensive left ventricular hypertrophy. A possible physiological marker of the transition from physiological to pathological hypertrophy.Circulation 1999;99(14):1822-30.
4)Rawles JM:What is meant by a “controlled” ventricular rate in atrial fibrillation? Br Heart J 1990;63(3):157‒61.
5) Maeda K,et al:Plasma brain natriuretic peptide as a biochemical marker of high left ventricular end-diastolic pressure in patients with symptomatic left ventricular dysfunction. Am Heart J 1998;135(5 Pt 1):825-32.
6) 大北裕,他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012ookitah.pdf(2017/12/25閲覧)
7)Sergi G,et al:Body fluid distribution in elderly subjects with congestive heart failure. Ann Clin Lab Sci 2004;34(4):416-22.
8) Ohashi Y,et al:Assessment of body composition using dry mass index and ratio of total body water to estimated volume based on bioelectrical impedance analysis in chronic kidney disease patients. J Ren Nutr 2013;23(1):28-36.
9) Lee Y,et al:Use of bioelectrical impedance analysis for the assessment of nutritional status in critically ill patients. Clin Nutr Res 2015;4(1):32-40.
10) Sergi G,et al:Reliability of bioelectrical impedance methods in detecting body fluids in elderly patients with congestive heart failure.
Scand J Clin Lab Invest 2006;66(1):19-30.

参考図書

①佐藤幸人編著:最強!心不全チーム医療 スペシャリスト集団になる!.メディカ出版,2014.
■おすすめ理由 心不全の臨床について、多職種の視点から簡略にまとめられています。1冊で心不全のことがある程度理解でき、かつ心不全多職種チーム医療をどう進めていくかも考えることができます。
②佐藤幸人編著:臨床心不全のいちばん大事なところ60.メディカ出版,2014.
■おすすめ理由 心不全の臨床を考えていくうえで役に立つ、基礎医学的な内容から臨床医学まで幅広く記載されています。急性心不全や重症心不全についても記載されています。
③大西勝也:カテーテル時代に知っておきたい新しい心血行動態入門 いちから学びたい人にDr.大西から80のクエスチョン.メディカ出版,2014.
■おすすめ理由 心臓生理学の解説は基本的に難しくなりがちですが、本書ではシンプルにわかりやすくまとめられています。血行動態がわかれば、心不全の病態も治療も看護もさらに理解が深まると思います。

(ナース専科2018年4月号より転載)

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