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【連載】慢性心不全患者のセルフマネジメント支援

【事例3】入退院を繰り返す心不全患者の看護 ~できない患者と思わない、思わせない~

執筆 秋庭 拓生

公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院 一般病棟 慢性心不全看護認定看護師

目次

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事例紹介

 Cさん、70歳代後半、女性
 
身体状況 
 身長146cm 体重54.1kg BMI25

診断名
 慢性心不全急性増悪、陳旧性心筋梗塞、発作性心房細動、慢性腎不全、腎性貧血、高血圧症、脂質異常症

現病歴
 Cさんは「生活は特に変わりなかった。トイレに行ってあまり便が出なかったからふんばったら、苦しくなったような感じかも」「ムカムカする感じで、お嫁さんに電話したけど連絡がつかなくて。そのとき焦っちゃったんだけど、(知人に連絡して)スプレーをするように言われて」と話している。呼吸困難にて当院へ救急搬送、集中治療室へ緊急入院となる。

入院時バイタルサイン
 血圧140/90mmHg、心拍数102回/分(洞調律)、SPO₂75%(酸素6L)、喘鳴・呼吸困難あり、下肢浮腫軽度あり

血液検査結果

入院時胸部X線
 心胸郭比(CTR)63%、肺うっ血・胸水貯留あり
 
入院時ポータブル心エコー
 新たな壁運動異常なし、三尖弁収縮期圧較差(TRPG)34mmHg、下大静脈(IVC)1.8cm、呼吸性変動あり、僧帽弁逆流軽症(MRmild)

入院後心エコー所見

入院時の主な内服薬
 ビソプロロール:2.5mg、エナラプリル:5mg、トルバプタン(サムスカ®):3.75mg、アミオダロン:50mg、アゾセミド:15mg、硝酸イソソルビド(フランドル®テープ):40mg、頓服:クロチアゼパム:5mg、その他:抗血小板薬や緩下剤など

心不全による入院歴
 2年前10月 塩分過多によるCS2
  1年前1月 オーバーワークによるCS1
    4月 感冒によるCS1(入院中2回CS1再燃)
    6月 庭仕事を契機にCS1
    7月 トイレを契機にCS1
    8月 トイレを契機にCS1
    9月 体液貯留によるCS2
  本年2月 仏壇を拝んでいる契機にCS1
    4月 家の片付けを契機にCS1

家族歴
 夫と死別し独居。近隣に住む息子夫婦や他県在住の娘が夜間は交代で泊まり、サポートしている。

生きがい
 掃除・洗濯など家事を行うことに使命感をもっていた。「人の世話をするのが好きなの」と、若いころに同じアパートに住む大学生の世話をしていたことを楽しそうに話す。

セルフマネジメント状況
 毎日、血圧・体重測定をしている。
宅配食の利用、オートセットCS:ASV(マスク式人工呼吸器の一種)の使用、訪問看護・リハビリテーションを導入。息子夫婦や娘も活動過多とならないよう、食事や掃除など家事を協力して行い、再発防止に努めていた。

食生活
 朝食7時:無塩パン60g、ヨーグルト1個、牛乳180mL+コーヒー、りんご1/4個
 昼食12時:ご飯100g、豆腐、もずく、その他あるもの
 夕食19時:ご飯100g、肉野菜炒め、魚のホイル焼き、刺身、野菜の煮物などが中心、ほかに果物
 間食をたまにとる、摂取食塩量:推定6g程度
 
症例の経過 
 心不全は、完治することがない悪性の病態です。心不全をきたす原因は複雑ですが、食習慣や喫煙、飲酒、運動不足などに起因する生活習慣病と関連する場合が多いです。いったん心不全を発症した患者は、長年の生活習慣を見直すとともに、体調をモニタリングしながら服薬の遵守や食習慣を改善し、禁煙と節酒を続けていくセルフマネジメントが重要となります。
 
 心不全は症状が増悪すると、呼吸困難などの苦痛により身体活動が著しく低下し入院となりますが、治療によって症状が寛解すると身体活動も回復することが多いのが特徴です。そのために、患者は症状の寛解によって「良くなった」という感情を抱き、生活習慣の改善や服薬の遵守などを継続する意識も薄れてしまいがちで、心不全増悪をきたすケースが少なくありません。入退院を繰り返すたびに心臓および全身の機能は落ち、身体活動能力や生活の質は低下していきます。わが国の心不全増悪による再入院は、退院後6カ月以内で27%、1年後は35%と欧米の報告1)と同様に高率であり、心不全増悪による再入院を予防していくことが重要とされています。

 事例のCさんは要介護3で、日常生活は杖を使用していましたが、脳神経系や筋骨格系疾患の既往歴はなく、屋内のADLは自立し、息切れなどの症状もなく歩行可能でした。2年前に急性心筋梗塞を発症して、経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)を施行し在宅療養をしていましたが、退院後は2カ月に1度のペースで慢性心不全の急性増悪によって入退院を繰り返していました。
 
 Cさんの心機能は、心エコーで心尖部、前壁および中隔壁運動が無収縮で左室駆出率(LVEF)35.3%と、左室収縮性が低下した心不全(HFrEF)でした。Frank-Starling機序(前負荷が心拍出量に与える影響)により左室拡張末期径/収縮末期径(LVDd/Ds)5.5/4.5cm、左室拡張末期容積(LVEDV)124.2mLと左室径や左室容積は拡大、また左室流入血流速波形は急速流入期(E波)/心房収縮期(A波)(E/A)0.64(DcT:300秒)と弛緩障害型を示していました。
 
 さらに、僧帽弁輪部運動速度はSep e’ 2.6cm/s(E/e’ 18)と左室拡張障害による影響もあり、左房負荷で左房が拡大(左房径(LAD)4.8cm・左房容積係数65.7ml/m2)していました。Cさんは利尿薬を服用していましたが、Cre 1.78mg/dL、eGFR 21.8mL/分と慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)ステージ分類G4の腎機能障害があり、体重2kg程度の増加でも左房圧と肺静脈圧が上昇して左心不全症状が出現するため、体液許容範囲が狭い状態でした。かつ左室拡張末期圧(LVEDP)が上昇していることが示唆され、容易に心不全急性増悪をきたしやすい病態であると考えられました。
 
 入院後、治療による反応は良好で、非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)や血管拡張薬などで呼吸困難が改善することから、慢性心不全ステージ分類Cと考えられました。しかし、トイレや荷物を整理している程度の活動負荷で生じるクリニカルシナリオ(CS)1は原因が不明確な状況でした。血圧コントロールやASV導入などをしても症状コントロールに難渋し、排便や入浴といった予測される心負荷の前にニトログリセリン(ミオコール®スプレー)の使用が導入されていました。

 入院前のCさんの療養生活は、入院中の心不全増悪予防の教育により、自宅では毎日体重を測定・記録するほか、かつ塩分摂取を控えるために宅配食を利用、活動量も意識して制限をしていました。もともと不安を感じやすくクロチアゼパムを服用していましたが、訪問看護やリハビリテーションのサービスを導入して日中の独居の時間を減らし、症状増悪への不安が軽減できるように環境調整をしていました。
 
 今回、10回目の入院となったCさんに初めて出会い、「また入院しちゃって、本当に恥ずかしくて」という発言を聞いたことをきっかけに、入退院を繰り返す患者へのかかわりを改めて見つめ直すと同時に、療養支援を行う際に配慮した点を紹介します。


事例アセスメント

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