【連載】慢性心不全患者のセルフマネジメント支援

【事例5】末期・終末期にある患者の看護 ~最期まで自宅で過ごしたいという思いをかなえるための支援~

執筆 山部 さおり

三菱京都病院 循環器病棟師長 慢性心不全看護認定看護師

目次

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事例紹介

 Eさん、70歳代後半、男性
 
既往歴
 陳旧性心筋梗塞〔冠動脈バイパス術(CABG)+経皮的冠動脈形成術(PCI)〕、発作性心房細動、両室ペーシング機能付き植込み型除細動器
 
家族背景
 妻・長男家族と同居

心機能
 左室駆出率(LVEF)17%、左室拡張末期径/左室収縮末期径(LVDd/LVDs)82/70mm、PR(+)、MaxPG46mmHg、左室モヤモヤエコー、僧帽弁閉鎖不全症(MR)Ⅱ~Ⅲ

入院までの経過
 X年:動悸・息切れ受診→冠動脈カテーテル検査(CAG)→3枝病変→冠動脈バイパス術+僧帽弁形成術(MAP)
 X+2年:経皮的冠動脈形成術
 X+10年1月:心不全→虚血性心筋症(ischemiccardiomyopathy:ICM)
 X+11年1月:心不全→除細動+心臓再同期療法植え込み、体重64kg(入院時)→61.1kg(退院時)
 X+11年8月:心不全、体重60.4kg(入院時)→56.75kg(退院時)。訪問看護師導入

入院時の状況
 X+11年10月:心不全、体重55kg(入院時)数日前より呼吸困難・倦怠感が増悪していた。夜間トイレへの移動に伴い、症状が増悪したため、救急搬送され緊急入院となった。


事例アセスメント

 Eさんは、虚血性心疾患を発症してから10年目には虚血性心筋症となっていました。その間、心不全での入院はありませんでした。このことから、リモデリングの進行に伴って心機能が低下し、心不全を繰り返し発症するようになったと考えられます。
 
 入院後、強心薬や利尿薬の持続点滴を行っても、Eさんの症状は持続していました。さらに、強心薬を減量・中止すると症状が増悪するため、離脱が困難な状況でした。つまり、表1の「末期心不全の定義」のうち①~④をすべて満たしていると思われ、Eさんは末期状態であると考えられます。
 
 表1 末期心不全の定義
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 さらに、ACC/AHA(American Heart Association/American College of Cardiology)の心不全ステージ分類において、心不全は治療抵抗性のためステージD(図1)であると考えます。そのため、Eさんに対する治療目標は、再入院や心不全死の予防もさることながら、終末期をどこでどのように過ごしていくかを考える必要があります。

 図1 慢性心不全のステージ分類と推奨治療
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解決すべき課題
 課題1 意思決定支援
 課題2 最期まで自宅で過ごしたいという思いをかなえるために、症状に合わせた日常生活を考える。


課題解決のための実践

課題1への取り組み

病気の歴史を振り返る
 Eさんの病気の歴史を振り返ると、入院間隔が短くなってきているのがわかります(図2)。また、体重の推移は、1年間で約10kg近く減少しています。このように、病気の歴史を振り返るだけで、予後予測の判断がつき、先を見据えたかかわりが可能になります。
 
 図2 Eさんの病気の歴史

病気に対する気持ちの変化
【X+11年2月】
 Eさん「11年前に手術を受けてから、これまでこんなにしんどいことはなかった。先生からは、健康な人の20%しか心臓が動いていないと聞いています。弱っていたんだよね」
 
【X+11年8月】
 Eさん「延命はしてほしくない。でもあと5年、東京オリンピックまで生きたい。外来でもいろいろ聞きたいことがある。でも先生には聞きにくい」
 
 妻「体重や浮腫みばかり見ていた。結局は心臓が悪いということなんですよね。私が18歳のころに結婚して、これまで全部この人がやってきた。だから、どこに何があるのかもわからない。これまでしてもらってきた分、これからは私が助けてあげないと、と思っています」
 
入院中のかかわり
【X+11年10月】
 入院後は、強心薬・利尿薬の持続点滴、トルバプタン(サムスカ®)増量など薬剤による治療が開始されました。体重は減少し、食欲不振・嘔気・倦怠感の症状は持続していました。Eさんは、「もう治らないのかな。みんなに伝えている時間はあるのかな。遺産をどうしようか考えて夢にまで出てくる。今度家に帰ったら、家のことや銀行や判子のある場所やら伝えようと思っている」と語り始めました。
 
 強心薬持続点滴を中止すると、尿量が減り、Eさんの症状は悪化しました。そのため、強心薬の持続点滴を再開しましたが、今後は強心薬の離脱が困難になる可能性が高いことが考えられました。しかし、Eさんは、「家に帰りたい」という気持ちが強くなっていました。
 
 そこで、医師を含めた多職種でカンファレンスを行いました。その結果、「症状がある程度残るかもしれないが、Eさんや家族の希望を聞いて自宅へ帰る方法を考えよう」ということになりました。
 
 カンファレンス後、Eさんと家族に対しては、現在の病状と予後が厳しいことを話したうえで、最期をどこで過ごしたいか、一緒に考える場を設けました。その際、Eさんは「しんどくても家に帰りたい」と話し、妻も「家に連れて帰ってあげる」と決めました。
 
 それを受け、強心薬は持続点滴から内服薬へ変更しました。倦怠感・食欲不振は残っていますが、日常生活に大きく影響することはないと判断し、Eさん・家族と相談し退院を決めました。

課題2 への取り組み

退院支援
 ・訪問看護師→特別指示書による頻回訪問:Eさんは風呂が好きだったため、訪問看護師による入浴介助を依頼
 ・療養環境→1階で生活(ポータブルトイレ設置)
 ・往診医との併診体制へ移行する
 ・退院前に多職種カンファレンスを行い、患者の予後予測を踏まえ、退院となった経緯を伝える

看護外来での支援
【看護外来の工夫】
 ・事前に訪問看護師から情報収集
 ・退院時のEさんは、低心拍出量症候群(LOS)状態であったため、医師の診察前に看護外来で面談を行った→診察前の待ち時間を利用して、看護外来では臥床する時間を設けた
 ・症状・食事量・活動範囲については、聴取内容・記録方法を同じにする→同じ内容を時系列にすることで、変化がわかりやすくなるため
 ・Eさん・妻の思いを聴く時間を別々につくる

【面談1回目】
 検査データ:心胸郭比CTR70%程度、胸水なし、Cre1.50mg/dL、BUN25.3mg/L、AST29IU/L、ALT23IU/L、γ-GTP132IU/L、Na140mEq/L
 症状:NYHA心機能分類Ⅳ、倦怠感・口渇が強い
 食事量:朝=パン1個、牛乳、果物、昼=お粥(小鉢碗1杯)、夕=親子丼(小鉢1杯)、果物(小4切れ)、みそ汁(数口)、間食(シャーベット)
 活動量:ほとんどベッド上での生活(動くのは、トイレ移動・入浴時など)

 Eさんの思い:「できていたことができなくなってきた。気を遣われるのはうれしいけど、家族に迷惑をかけていることがつらい」
 妻の思い:「家ではリラックスしているような様子です。帰ってきてよかった」

 退院後のEさんは、少しずつ動けなくなった喪失感を言葉にしていました。しかし、Eさんが残された時間をどのように生きていくかを考えるためには、大切な時間であると考えました。妻は、Eさんの誕生日に、家族での外食を希望しました。

【面談2回目】
 2週間後に会ったEさんの表情は、とても穏やかになっていました。最初に語ってくれた内容は、「家族みんなでご飯を食べに行った。食べる量は少なかったけど、とても楽しかった。久しぶりに家族みんなで会えた」と家族で過ごした時間についてでした。
 
 家族が症状モニタリングばかりを考えると、食事内容や活動制限に集中してしまい、最期の時間をどのように過ごすのかを考え実行することが少なくなります。そのため、面談のなかで症状による生活の苦痛がないかを確認しながら、どのように過ごしたいのかEさんが語る時間を多くとりました。
 
【面談3回目】
 検査データ:血圧88/69mmHg、心拍数80回/分、SpO296~99%、呼吸数20回/分(チェーン・ストークス)、症状:NYHA分類Ⅳ、末梢冷感(+)
 
 Eさんは「両親が夢で、そろそろこっちに来るかと言っていた。こっちもよいところだよって言っていた」と穏やかに語っていました。妻は「息が楽そうになっているのがわかる。しんどそうなのもなくなりました。これからどんな感じで悪くなりますか?」と、これから起こる経過に対して関心が出始めました。おそらく、症状が安定しているなかで、「本当に悪くなるのか?」といった思いもあったようです。
 
 しかし、検査データには大きな変化はないものの、体重は退院時の52.8kgから49kgへ減少しており、悪液質の状態(カヘキシー)が進行していることがわかりました。つまり、end-stageは進行し、看取りの準備が必要な段階になってきたと考えられます。

妻と相談したこと
 症状は悪化していませんが、体重が減少し、活動範囲が少なくなっていることから、最期の日が近づいている可能性がありました。そのため、次の内容を妻とともに、確認していきました。

 ・看取り→病院を希望していたが、往診医と相談し自宅看取りも可能であること
 ・不整脈による突然死もあること
 ・自宅で突然死となった場合は、往診医へ連絡すること


まとめ
 Eさんは退院してから約1カ月半を自宅で過ごすことができました。最近、緩和ケアのディスカッションが活発になるなかで、強心薬が症状緩和の方策としてよく使用されています。一方で、自宅に帰りたいと願う患者が、強心薬の持続点滴を中止できないことで自宅に帰れず、転院をせざる得ないケースを経験することもあります。
 
 強心薬を使用したまま自宅退院をすることは、患者・家族にとっても、往診医にとっても負担が非常に増えるため、その患者にとっての「退院する意味」を考える必要があります。
 
 今回介入したEさんは、妻の介護力が低く、持続点滴薬や器具を自宅に持ち帰って管理することは困難であると考えました。そこで、多少症状が残っても強心薬の持続点滴はない状態で退院させることを決めました。
 
 末期・終末期患者に対する継続看護マネジメントを実践していくためには、その患者の予後予測をしっかり見極めることです。今回のようなend-stageの患者とかかわるときに、予後予測が短いなかで再入院予防のことばかり考えていると、検査データや食事指導・活動評価にばかり重点を置いたかかわりになってしまいます。

 病院の役割は、患者が病気をどのように理解し、治療をどのように選択し、疾患をもちながらどう生きていくかを一緒に考える支援を行うことです。そして、それを在宅につないでいくことが大切です。また在宅では、患者と家族の意思決定した気持ちを継続して支えていくこと、さらに、これからどのように過ごしていきたいか、日ごろ話をしている内容を治療に生かすために、病院と情報共有していくことが大切になります(図3)。
 
 図3 意思決定における病院スタッフと在宅スタッフの役割
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 患者は、入院をすると治療優先の生活になると同時に、家族も生活を再編する必要が出てきます。また、生活機能が低下したなかで、生活のなかに医療をどのように組み込んでいくか(生活と医療の統合)が必要になってきます4)。看護外来は、心不全患者が少しでも住み慣れた場所で最期まで生活できるように、「病院」と「生活」を切れ目なくつなぐために、重要な役割を担っています。

引用・参考文献

1) 日本循環器学会,他編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008-2009年度合同研究班報告):循環器疾患における末期医療に関する提言.2010,p.7
2) Yancy CW,et al:ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines.J Am Coll Cardiol 2013;62(16):e147-239
3) 厚生労働省HP: 地域包括ケアシステム(2018年2月4日閲覧)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushikaigo/kaigokoureisha/chiiki-houkatsu/
4) 日本循環器学会,他編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008-2009年度合同研究班報告):循環器疾患における末期医療に関する提言.
2010,p.7

参考図書

①長江弘子編著:生活と医療を統合する継続看護マネジメント,医歯薬出版,2014.
■おすすめ理由 心不全は生活と医療を統合した再編が必要になります。本書では、そのためのポイントが記載されています。

(ナース専科2018年4月号より転載)

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