【連載】教え方&指導術~中堅・ベテラン・看護学生編~

中堅・ベテラン看護師への指導術3つのポイント

執筆 内藤 知佐子(ないとう ちさこ)

京都大学医学部附属病院 総合臨床教育・研修センター助教


目次

※「ポイント2:「相談」という形でお願いする」以下の閲覧はログイン(登録無料)が必要です。


行動変容を促すための3つのポイント

 すでに独自のやり方をもっている中堅・ベテラン看護師に対し、行動変容を促すことは容易ではありません。まずは話を聴き、信頼関係を構築しながら相手を十分に捉えたならば、次はアプローチの段階です。ここからは、中堅・ベテラン看護師の行動変容につなぐアプローチ方法について解説します。
 

ポイント1:承認する

 先ほど、相手の強みを捉えることを推奨しました。強みを捉えたら放置せず、言葉に出して伝えましょう。それが承認です。
 
 マズローの欲求でも知られているように、人間には「承認欲求」があります。承認欲求には、他者承認と自己承認の2つがあり、前者は他者から認められたい、尊敬されたいという欲求です。SNSの「いいね!」が少ないと寂しい気持ちになるのは、他者欲求が満たされないためです。後者は、自分が理想とする自分でありたいという欲求です。理想とする自分になるために、高価な品物を購入したり、スキルを磨くなどの行動として表出されます。
 
 承認欲求が満たされないと、劣等感や無力感が生じます。つまり、モチベーションが低下するわけです。やる気がないなと感じたら、まずは承認欲求の充足度に注目しましょう。
 
 他者承認を認める方法は至極簡単です。先ほどの強みに注目し、それを言語化し伝えるだけです。本人も気づいていない強みを伝えることは、モチベーションアップの鍵といわれています1)。また、佐々ら2)の調査によると、中堅看護師の職務満足感を高める要因に「承認」があり、特に「上司からの信頼と権限委譲」が最も影響していたと述べています。指導者だけでがんばらず、上司も巻き込みながら指導をするのがコツです。
 
◎ここに注意!
 一時期、褒める教育が注目されていました。しかし、筆者は無理に褒める必要はないと感じています。無理に褒めると、相手は何か裏があるのではないかと勘ぐってしまうからです。それよりも、できていることを素直に承認し、言葉に出して伝えるほうが効果的です。指導者のなかには、「できていることがないので、無理です」という人もいるでしょう。そんなときには、「ありがとう」を伝えることを意識しましょう。承認欲求には、個として認められたいという要素が含まれています。大事な病棟スタッフの一員として捉えていることを、「ありがとう」という感謝の言葉で伝えるのです。書類を拾ってくれた、ドアを開けてくれた、片づけをしてくれた、報告をしてくれた、どんな些細なことでも笑顔で「ありがとう」。これだけです。
 

ポイント2:「相談」という形でお願いする

 突然ですが、皆さん、次の話題に似た経験はありませんか?ある日、家族でレストランに行きました。なかなかメニューが決められず迷っていると父親が、「お前はオムライスが好きなんだから、オムライスにしておけ」と一方的にメニューを決定し、注文してしまうのです。たしかにオムライスは好きだし、候補の1つではあったけれど、なんだか腑に落ちない。むしろ、反発したい気持ちが生まれてくる。
 
 人は、自分の行動や選択を自分で決めたいという欲求があります。しかし、それを他人から強制されたり奪われたりすると、それが自分にとってプラスの提案でも、無意識に反発的な行動をとりたくなります。これを「心理的リアクタンス」といいます。
 
 先述したように、中堅・ベテラン看護師には、それなりの経験があり自負があります。頭ごなしに否定したり改善を求めるのではなく、相談という形でアプローチし、あくまでも本人に選択させるのが行動変容を促すコツです。事前にじっくりと相手の価値観を捉え、信頼関係も構築できているならば、あなたの提案に対し真伨に向かい合ってくれるはずです。また、相談という形式をとることで、個としての存在意義を認め大切に扱われていることや、頼られているということも伝わります。
 
◎ここに注意!
 決してポジションパワーには頼らず、相手の心を動かすことを意識しましょう。また、それでもなお相手が選択を拒否したり、回答を先送りにされる場合があることを想定しておくのがコツです。我々は日頃、患者の意思決定支援を行っていますが、対応方法は、そのときと同様です。情報の過不足がないか、また話の内容は理解できているか、その他気になっていることがあればすべて話してもらい、十分な時間を与えて回答を待ちます。
 
 もし、その場で何らかの回答や次への展開を得たい場合には、DESC(表3)を活用しましょう。アサーションの技法として知られていますが、医療安全のツールとしてなじみ深い方もいるかもしれません。アサーションとは、自分の言いたいことも相手の言いたいことも大切にするコミュニケーションです。ポイントは、Noと言われたときの答えを準備しておくことです。
 
表3:DESCによるアプローチ
表3:DESCによるアプローチ
 
 例えば、委員会の仕事をお願いしたいが、そのベテラン看護師は定時での帰宅に価値をおいており、なかなかYesとは言ってくれなかったとします。そんなときには、表3のようにDESCを活用してアプローチをします。ベテラン看護師のニーズは定時帰宅、こちらの願いは委員会活動への参画です。どちらにとってもWIN-WINになるよう進めます。
 

ポイント3:柔らかいコミュニケーションを意識する

 話し方、特に主語と形を意識しましょう。もし可能であれば、自身の指導場面を録音し、聞き直してみましょう。声の大きさやトーンはもちろんですが、意外と命令口調だなとか、一方的だなと感じるかもしれません。目指すは、柔らかいコミュニケーションです。
 
◎主語:人以外に焦点を当てる
 例えば、インシデントが発生した際の振り返り場面です。よくありがちなのは、「なぜ(あなたは)ミスしたのですか?」と人に焦点を当てて質問をします。すると、受け手は自分が責められているような気持ちになり、心を閉ざしてしまうのです。ポイントは、人ではなく事実や内容に焦点を当てることです。例えば、「どのような状況がミスを引き起こしたと思いますか?」のように、視点を人からずらし、状況を俯瞰できるような問いかけにします。
 


×:なぜ(あなたは)ミスをしたのですか?
○:どのような状況がミスを引き起こしたと思いますか?


◎形:不完全な質問や開かれた質問にする
 話を聴きながら、「○○すべきでしょ」と感じることはありませんか?実は「○○すべき」は、すでにあなた自身の価値観が加わっているメッセージです。患者に対して、「○○すべきだと思いませんか?」とは言わないはずです。
 
 不完全な質問の形で伝えることを心がけましょう。「こうしたほうがいいでしょうかね?」「こういう方法もありそうですね」など、あくまでも提案というスタイルで相手に伝えます。
 
 また、開かれた質問の形で伝えることも得策です。「○○すべきだと思いませんか?」ではなく、「どのようにするとよさそうですか?」と伝えます。
 


×:「○○すべきだと思いませんか?」
○:「こういう方法もありそうですね」(不完全な質問の形)
○:「どのようにするとよさそうですか?」(開かれた質問の形)


◎意見も質問の形で伝える
 自分の意見を伝えることに重きをおくと、つい口調も厳しくなりがちです。直球で来られると、相手も身構えてしまうものです。そんなときは、意見も質問の形で伝えることを意識しましょう。
 
 「私はこう思います」は、「こういう考え方もできるでしょうか」と言い換えましょう。伝え方を質問形式にするだけで、柔らかい印象になります。
 


×:「私はこう思います」
○:「こういう考え方もできるでしょうか」


 以上が、中堅・ベテラン看護師の捉え方とアプローチ方法です。「○○な人」と決めつけず、まずは相手を知るところからスタートしましょう。看護と同様に、相手のニーズを捉え、柔らかいコミュニケーションを意識しながらアプローチしていきましょう。
 

適度な葛藤が新たな学習を生み出す

 さて、ここからは今回のもう1つのテーマ“皆さんの成長につなぐ”ためのお話です。
 
 皆さんは、日々の看護や教育活動を通して、さまざまな葛藤を経験しているのではないでしょうか。成人教育学博士であるユーリア・エンゲストロームは、葛藤が新たな学習を生み出すと述べています3)。つまり、皆さんのなかにあるモヤモヤが、実は自身の成長の種になるというのです。言い換えれば、たくさんのモヤモヤを抱えている人は、それだけ多くの成長の種を保有していることになります。

 そう聞くと、葛藤も悪くないものだという捉え方に変化しますね。しかし、問題はその葛藤の程度です。葛藤が強すぎると、活動の継続が困難となります。一方、葛藤がなくても新たな学習は起こらないといわれています4)
 
 そこで、少し時間をとり、自身のなかに潜む葛藤を客観的に見つめてみましょう。イメージとしては、もう1人の自分をおき、対話をしながら自身の奥深くに眠る潜在的な声に耳を傾けていきます。葛藤が見えてきたら、忘れないうちに用紙に書き留めておきましょう。見える化をすることが、解決へのポイントです。
 
 さて、皆さんのなかにはどのような葛藤があったでしょうか?あふれ出るように多くの葛藤を用紙に書かれた皆さん、自分と対話をしながら、「なんで○○は・・・・・・」「そもそも・・・・・・」「ふつう・・・・・・」「わかってはいるけど、でも・・・・・・」などのフレーズが聞かれませんでしたか?そして、その葛藤の背景には、「こうあるべき」「こうあらねば」というマイルールや、自身が大切にしている信念が影響していませんでしたか?
 

怒りのピークをどうやり過ごす?

 人は、事象に遭遇していきなり感情が発生するのではなく、その間には「受け止め」が入ります(ABC理論、図2)。その受け止めがいわゆるマイルール、個々の信念に当たります。信念は人それぞれであるため、同じ事象に遭遇しても、怒る人もいれば怒らない人もいるというわけです。イライラしやすい人は、イライラしないで済む受け止め方へとシフトチェンジする方法を、少しずつ練習してみましょう。シフトチェンジをするには、今までとは違う角度からの視点や思考が必要となります。もし1人で考えることが難しい場合には、仲間の力も借りながら取り組んでみましょう。
 
図2:ABC理論
図2:ABC理論
 
 そして、シフトチェンジをする前に取り組んでほしい、大事なことが1つあります。それは、苛立っている自分を感じたら、まずは丸ごと自分自身を受け止めてあげることです。自分のなかに沸き起こる感情をつぶさに感じ、即座に受け止めてあげられるのは世界中でたった1人、自分しかいないのです。「あぁ、自分、怒っているね。そうだよね、だって大事にしている口腔ケアを適当にされちゃったからだよね。そりゃあ、腹が立つよね」というように、自分と対話をしながら、まずは素直な気持ちを受け入れます。つまり、自分を許すということです。チベット仏教の高僧であるダライ・ラマは言います。「怒りは力ではなく、弱さのしるし」「許しとは“相手を無罪放免にする手段”ではなく、“自分を自由にする手段”である」と。まずは、弱い自分を認め、許し、受け入れてあげましょう。ただ、なかには瞬発力が強く、反射的にパッと怒りを相手に返してしまう人もいますね。そんな人には、秘密の呪文をお教えします。イラっとした事象に遭遇したら、心のなかでこう唱えてください。
 
『そうきたか、斬新~☆』

 怒りのピークは6秒といわれています5)。この時間を、どうやり過ごすかが鍵です。実は、私も“いらち”(関西の言葉で、怒りっぽい人のことをいう)なので、この呪文を多用しています。「斬新」をつけるのがポイントです。さっきまでイラっとしていた事象が新規性を帯び、自身を成長させるための特別な体験に遭遇しているような感覚が生まれてきます。看護職は、感情労働の職業といわれています。感情の起伏が激しいと精神的な消耗も激しくなりますので、感情の振り幅が大きくなりすぎないよう気をつけましょう。
 

自己との対峙が成長につながる

 さて、特に葛藤はないという皆さん、すべてが順調でうまく進んでいるのであれば素晴らしいことです。そんな人は、ぜひ次のステージへと挑戦してみましょう。価値観の違う人や他職種と協働したり、医療とは違う業種とかかわる機会をもてるとよいでしょう。家でも職場でもない、第三の居場所(サードプレイス)6)が皆さんに多くの刺激を与え、さらなる成長へと導いていきます(越境学習)7)
 
 もし、葛藤から目を反らし、あえて見えないふりをしているならば、自己の成長は期待できません。しかし、なかには自身の葛藤に対し果敢に取り組んだ結果、うまくいかずに諦めてしまった人もいるでしょう。そんな人は、たとえどんなに時間が経過していても構わないので、当時の葛藤の洗い出しと自身の受け止めを振り返りましょう。ポイントは、当時の葛藤に肯定的な意味を見出すことです8)。過去は変えられませんが、意味づけを変えることはできます。当時の混乱していた自己と向き合う内的体験は、困難なプロセスから立ち直るために必要な意味ある時間である9)といわれています。また、過去の経験を振り返ることは、新たな学びや自信を得ることにつながり、問題に挑戦していく過程にもつながる10)ことが知られています。自己との対峙が、成長を助けてくれます。あるがままの自分を真摯に受け止め、自己と向き合う習慣をつけましょう。
 

教育とは共育でもある

 指導する立場にある人には、ぜひ自身のことも大切にしてほしいと筆者は願っています。心身ともに健康的でないと適切なケアが提供できないように、自身を大切にできない人は、その乱暴さが無意識に指導場面で現れます。患者が看護師を観察しているように、学習者は指導者を観察しています。そして、その乱暴さを、目線や声のトーン、表情や態度などから敏感にキャッチし、さまざまな反応を呈するのです。学習者は、指導者を映す鏡です。学習者の反応が気になるときには、自身の振る舞いも点検しましょう。
 
 教育は、スキルだけでは成り立ちません。指導者としてのマインドも大切です。教育は「共育」とも書きます。共に学ぶ、共に育つ、共に歩む、という謙虚な姿勢でかかわることを心がけましょう。笠松11)は、「教育を楽しむ方法を学ぶ」ためには「効果的な教え方を学ぶ」ことと、「自分の成長を感じる」ことが必要であると述べています。自身の成長にも目を向けながら、一緒に取り組んでいきましょう。
 
 

引用・参考文献

1)伊藤守:3分間コーチ ひとりでも部下のいる人のための世界一シンプルなマネジメント術. ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2008.
2)佐々信子, 他:中堅看護師の職務満足感と臨床実践力及び他者からの承認との関連性. 東京医療保健大学紀要第一号. 2016, p.25-31.
3)ユーリア・エンゲストローム, 山住勝広, 他訳:拡張による学習―活動理論からのアプローチ―. 新曜社, 1999.
4)荒木淳子, 他:キャリア教育論. 慶應義塾大学出版会, 2015, p.36-7.
5)野津浩嗣:人がおもしろいように育つ ホメシカ理論. 梓書院, 2014, p.93-4.
6)中原淳, 他:ダイアローグ 対話する組織. ダイヤモンド社, 2009, p.202-8.
7)中原淳:職場学習論 仕事の学びを科学する. 東京大学出版会, 2010, p.155-64.
8)谷口清弥, 他:看護師の困難からの立直りのプロセスと困難な体験が看護に与えた影響. 日本保健医療行動科学会年報 2016;26, 89-103.
9)前掲8).
10)千治松, 他:A病院看護師のレジリエンスを高める力について―逆境に強い看護師を目指して―. 第47回日本看護学会論文集 看護管理. 2017, p.105-8.
11)笠松由利:中堅看護師の“導き方・育て方”. ナーシングビジネス 2016;10 (12), 1045-50.

(ナース専科2018年5月号より転載)

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