【連載】「できる」に注目する高齢者看護

【事例】インフルエンザを発症した認知症高齢者の感染管理~患者の不安を軽減し、病室内で過ごせるよう工夫することで感染拡大を防ぐ~

執筆 野呂 修平(のろ しゅうへい)

青梅慶友病院 感染管理認定看護師


目次

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事例紹介

Aさん、90歳、女性、アルツハイマー型認知症
・障害高齢者日常生活自立度:A2、認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅱ b、臨床認知症評価尺度(Clinical Dementia Rating):2
・個室入院中
・中核症状として、短期記憶障害(数分前に話したことを忘れてしまう)。時間・場所の見当識障害(今が何時なのか、ここがどこなのがわからない)などがみられる。食事の時間はその都度知らせ、席に案内することで、自分で食べることができる。また自室内のトイレに「トイレ」と表示をすることで、一連の排泄動作はできるなど、環境の調整や声かけをすることで、自分で行えることも多く、落ち着いて生活を送ることができる。

事例の経過

■インフルエンザA型を発症

 前夜、Aさんは夕食を半分残し、早々に自室へ戻りました。その後、夜中に突然起き上がり、どこかへ行こうとする、意思の疎通ができないなど、普段はみられない行動があり、夜間せん妄が考えられました。昨夕以降のAさんの様子も併せ、体調の変調と考え、状態の観察に努めました。朝になると咳嗽と38.5度の発熱がみられたため、検査を実施しインフルエンザA型と診断されました。
 
 一昨日には、家族の面会があったため、家族に確認すると、同伴した孫が面会した夜に発熱し、昨日インフルエンザA型と診断されたとのことでした。
 

■インフルエンザの経過とAさんの状態変化

 翌朝、37度台まで解熱すると、身体を動かせるようになり、室内で過ごすことが難しくなりました。Aさんは、認知症の中核症状である理解・判断力の低下があり、自分の置かれている状況がわからないため、室内で過ごすように説明しても理解できません。さらに、短期記憶障害により、説明を受けてもすぐに忘れてしまいます。自室の入口から人の姿を見かけると、スタッフの手を振り払い部屋から出ようとする行動もみられました。そわそわしていることも多く、体調の変調に加え、いつもと異なる環境、1人で過ごす不安から、落ち着きがなくなっていることが考えられました。
 
 そこで、感染拡大防止とAさんの不安軽減について、カンファレンスを実施しました。
 

■インフルエンザ拡大防止とAさんの不安軽減に向けて

 当院では、表情が見えなくなり、認知症高齢者に不安感を与えるという理由から、日常的にマスクは使用していません。しかし、インフルエンザは飛沫感染と接触感染が感染経路となるため、入室時にはマスクを着用し、退室時には破棄すること、そして手洗いの徹底をスタッフ全員に再確認しました。
 
 また、Aさんが、自室の入口から見えるホールを気にしないよう、パーテーションで仕切りました。そして、自室内で少しでも快適に過ごせるよう、好きな民謡を聴けるようにする、普段ホールで行っている手芸ができるよう準備するなど、余暇を楽しめる環境を整えました。さらに、Aさんの不安を和らげられるよう、身体・精神状態をスタッフ全員で見守りながら、落ち着かないときはすぐに付き添うことができるように、チーム間で連携する体制を整えました。
 

■その後の経過

 3日後には解熱し、咳嗽も消失。自室での対応は5日間で解除することができました。スタッフが連携し工夫することで、自室で行える楽しみを提供しながら、Aさんの不安を軽減し、ADLを低下させることなく、感染拡大を防ぐことができました。
 

施設で取り組む際のアドバイス

1.看護師による標準予防策の徹底が感染症予防の基本

 今回は、高齢者ケア施設を主体に、インフルエンザやノロウィルスに焦点を当てて、取り組みを紹介しました。急性期の医療機関では、薬剤耐性菌の感染防御が主体かもしれません。しかし、どちらであっても標準予防策を基本とし、看護師が日頃から徹底することで、高齢者の自由な生活を脅かすことなく、多くの感染症を防ぐことが可能となります。
 
 感染症が発症した際は、感染経路、感染期間、潜伏期間を踏まえ、必要期間は徹底した感染対応を行わなければなりません。また、病院の機能や治療過程によっては、入院期間中の徹底した感染対策が必要な状況もあります。
 
 しかし、そのようななかでも、看護師は、高齢者の生活が無味乾燥なものにならないよう配慮するとともに、高齢者を全人的に捉え、尊厳を守れるよう対応していく必要があります。そして、感染を制御することだけに視点を向けるのではなく、最期のときを見据え、高齢者の「生活」を大切にし、「リスクはあっても尊厳は守る!」感染対策をともに実践していきましょう。
 

参考文献

●塩塚優子:第6章 2感染管理におけるケア管理実践. 高齢者のエンドオブライフ・ケア実践ガイドブック第2巻 死を見据えたケア管理技術. 桑田美代子, 他編, 中央法規出版, 2016, p.139-50.
●渋谷智恵:認知症者の感染予防, 認知症ケアガイドブック. 日本看護協会編, 照林社, 2016, p.161-8.
●大曲貴夫, 他:部門別感染予防対策 15高齢者施設・在宅領域, 感染管理・感染症看護テキスト. 照林社, 2015, p.375-9.
●満田年宏, 訳著:隔離予防策のためのCDCガイドライン医療環境における感染性病原体の伝播予防2007, ヴァンメディカル, 2007.
●矢野邦夫, 監訳:CDCガイドライン医療環境における多剤耐性菌の管理2006年. 丸石製薬, 2006.
●国際的に驚異となる感染症対策関係閣僚会議:薬剤耐性対策(AMR)アクションプラン2016-2020(2018年1月10日閲覧).
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

(ナース専科2018年6月号より転載)

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