【連載】あなたのリーダーシップ発揮法

スタッフ・同僚・患者へのリーダーシップ

執筆 土肥 加津子(どひ かずこ)

医療法人社団慈恵会 新須磨病院 看護部長


目次

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1.リーダーシップの正体を探る

あなたが思うリーダーシップのイメージは?

 「リーダーシップ」と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか。フランスの画家・ドラクロワが描いた絵画『民衆を導く自由の女神』のなかのフランス国旗と銃をもつ女性、そして水に浮かぶカルガモの親子の親鳥・・・・・・いかがでしょう?
 
 百獣の王ライオンのボスは、普段は悠然と寝ています。ですが、外敵が来た途端、ほかのライオンよりも先に先頭に立ち、相手を威嚇し、子どもやメスをはじめとする仲間を守るといいます。つまり、時と場合によってボスの様子が変わるということです。
 
 また、歌舞伎に登場する「黒子くろこ役」。黒衣は、歌舞伎の舞台上でストーリーを邪魔することなく、物語がスムーズかつタイミングよく進むよう、舞台上で絶妙な動きをしています。黒衣はただのメンバーなのでしょうか?見えないリーダーシップを発揮しているようにもみえませんか?・・・・・・。
 
 筆者はこれまで、管理やマネジメントを勉強したり、看護職として経験を重ねるなかで、リーダーシップとは、組織のメンバーに強く命令したり、集団の先頭に立って旗を振りかざすことだけではないことを知りました。
 

スタッフにも必要なリーダーシップ

 看護部長や看護師長にリーダーシップの力が必要なのは誰もが理解できると思います。ですが、一緒に働くスタッフにはその力は必要ないのでしょうか?
 
 リーダーシップの力をもつには、『民衆を導く自由の女神』がもつ「国旗」、つまり「ビジョン」をもっていることが必要といわれます。これは「部署の目標」などだけでなく、看護目標なども該当します。
 
 つまり、同僚だけでなく患者やひいては自身に対しても発揮する力といえます。
 
 それでは、リーダーシップの正体とは何でしょうか、みなさんと一緒に理解を深めていこうと思います。
 

スタッフ・同僚へのリーダーシップ

ケース紹介 ある日の病棟。昼食配膳が終わると、新人看護師が当日のチームリーダーだった先輩に、ある報告と相談をしました。

NG行動

新人「すみません、Aさんの昼のインスリン注射なんですが・・・・・・。血糖測定をせずに4単位を打ってしまって・・・・・・今から測ったほうがいいでしょうか?」
先輩「えーっ!?(一瞬、驚くが、気をとり直して・・・・・・)今朝のミーティングで『確認しよう』って言ったばかりだよね(また医師に叱られる、困ったな・・・・・・)。とにかく患者さんのところに行きましょう。まずは、謝って、念のために血糖測定をしなきゃね」
新人「あっ、はい、すみません・・・・・・。でも、患者さんは、さっきお昼を配膳したら、すぐに召し上がられ始めましたよ」
先輩「えっ?(少し考えて・・・・・・)じゃあいいわ。今日の昼の血糖測定ができなかったと、あとで主治医に報告しましょう」
新人「あっ、はい(すぐに内線を鳴らそうとする)」
先輩「今すぐじゃないわよ。主治医は今、外来診察中じゃない」
新人「あっ、はい・・・・・・、えっと、はい・・・・・・」
先輩「(どうしよう。Aさんの昼の血糖測定は、先週も別のスタッフがうっかりして、抜けてしまっていたしな・・・・・・。謝るしかないか。面倒だな。もう新人には任せられないな・・・・・・。あとで師長に相談しよう)今度から1人でしないで、誰かと一緒にしてくださいね」

OK行動

新人「すみません、Aさんの昼のインスリン注射なんですが・・・・・・。血糖測定をせずに4単位を打ってしまって・・・・・・今から測ったほうがいいでしょうか?」
先輩「えーっ!?(一瞬、驚くが、気をとり直して・・・・・・)報告ありがとう。患者さんの様子はどう?」
新人「さっき配膳したら、すぐに召し上がられていました」
先輩「患者さんにいつもと変わった様子はなかったかな」
新人「はい。いつものように、テレビを観ながら、召し上がっていましたよ」
先輩「ひとまず、患者さんは安心ね。ところで、どうして血糖測定をし忘れたのかな?」
新人「えっと、11時すぎにAさんのインスリン注射の必要物品を準備していたんです。でもそのとき、Bさんからナースコールが鳴って、トイレに行きたいとおっしゃったので、『まだ時間もあるから・・・』と思って、Bさんのところに行ったんです」
先輩「うん、それで?(うなずきながら、話を聞く)」
新人「Bさんのトイレへの歩行介助を終えて・・・・・・そうしたら、同室のCさんに声をかけられて話し込んでしまって・・・・・・、時計を見たら11時半になっていたので、あわてて処置室に戻って、準備していたトレイをもって、Aさんのところに行って・・・・・・」
先輩「うん、うん、それで?」
新人「Aさんと単位は確認したんです。それで、注射して・・・・・・」
先輩「血糖測定のことは忘れてしまったんだ・・・・・・」
新人「・・・・・・はい」
先輩「今朝のミーティングで、『先週、測定漏れがあったから、注意しましょう』って申し送りがあったの覚えてる?」
新人「はい。メモに書きました。でも、あのときは、あわててしまって・・・・・・」
先輩「そう。せっかく覚えていたのに、実践できなかったのは残念だったわね・・・・・・。今度からはどうすればできるようになるかな?」
新人「Bさんからのナースコールが鳴ったときに、誰かほかの人に行ってもらって、私は準備を終わらせたらよかったかもしれません」
先輩「なるほど、そうね。ほかにはあるかしら?」
新人「11時半にはインスリンだけ準備すればいいように、血糖測定器は朝から余裕あるうちに準備をすればよかったかもしれません・・・・・・」
先輩「そうね。時間の使い方も大事ね。優先順位をつけるということは、看護師の仕事では常に考えておかないといけないことなの。でも、今度は落ち着いてできそうね」
新人「本当にすみませんでした」
先輩「謝るなら、私でなくAさんに、ですね。私も一緒に行くから、血糖の確認をしましょう。でも、トイレ介助も上手にできて、患者さんのお話に耳を傾けられて、患者さんたちは安心されたでしょうし、よい看護ができたわね」
新人「いえ、でも今度は優先順位を考えながら、もっとよい看護ができるように頑張ります」
先輩「(患者さんは、もう退院の方向でインスリン量も安定してきて血糖測定の必要性も低くなっていたので、主治医にはそのことも伝えてみよう。でも、話を聞いてよかった。新人さんなりに考えていたんだ)


新人の力を信じて引き出すリーダーシップ

 このケースのNG行動とOK行動でポイントとなるのは「先輩のビジョンがどこにあったのか」ということです。治療上のモニタリングデータである血糖測定を行わなかったことは、インシデントでなくアクシデントにあたります。
 
 患者の生命に直結する処置や行為は、看護における重要な位置づけとして、日々の業務の優先順位は高くなります。しかし、朝に立てた計画通りには、動けないこともしばしばあるでしょう。そのなかで、OK行動での先輩は、「入院患者における優先順位を考える大切さ」と「新人の人材育成」に視点を置いていることがわかります。
 
 一方、NG行動では、目の前の「血糖測定をしなかった」ことだけに注目し、さらには「主治医に怒られる」「先週も、そして今日も」と自身の立場などに注視してしまっているように思います。指導内容は間違いではありませんが、ここにOK行動の先輩のように「人材育成」の視点が入るだけで、新人看護師にはミスを反省するだけでなく、自分の行動の何がよく、何が悪かったのかを具体的に理解し、振り返る機会になります。そして、次からはきっと血糖測定に注意を払えるはずです。同時多発的に起こった複数の課題の場面に遭遇したときにも、完璧ではないかもしれませんが、これまでよりもほんの少し、上手に対応できるようになるでしょう。OK行動は、病棟の安全な看護を遂行し、新人の力を信じ引き出すリーダーシップが働いた場面といえます。
 

新人に対して活用したい「ほうれんそうのおひたし」

 少し余談になりますが、最近ネットでは、先輩が新人に使うと効果的なコミュニケーションの方法として、「ほうれんそうのおひたし」が話題になっているようです。従来の「ほうれんそう=報連相」に加え、「お:怒らない」「ひ:否定しない」「た:助ける」「し:指導する(筆者としては、支持または支援をお勧めします)」を追加した考え方だそうです。
 

患者へのリーダーシップ

ケース紹介 救急車で運ばれた患者のDさん。入院後、治療4日目に「お風呂に浸かりたい」と言われたら、皆さんならどうしますか。

NG行動

看護師「お風呂は、まだ難しいですね」
患者D「気持ち悪くて、入りたい・・・・・・」
看護師「あと1週間はお風呂には入れないんです。それもシャワーしか・・・・・・」
患者D「(表情がとても暗い)髪もベタベタでしょう。息子が来たら恥ずかしい」
看護師「でも・・・・・・じゃあ、先生に聞いてきますね。少しお待ちください」(医師に、入浴の可否を確認し、あと1週間は無理と再確認する)
看護師「Dさん、やはりあと1週間ダメでした。もう少しの我慢です。頑張りましょうね」
患者D「・・・・・・」

いつもの清拭の際、洗髪剤を使って、乾式の洗髪を同時に行いました。その日の夕方、息子さん夫婦が見舞いに訪れましたが、Dさんの表情は、やや冴えませんでした。

OK行動

看護師「お風呂は、まだ難しいですね」
患者D「気持ち悪くて、入りたい・・・・・・」
看護師「気持ちが悪いんですね」
患者D「そうなんです。お風呂が大好きで、毎日、浸かってたの。ダメかしら?」
看護師「(Cさんの言動にうなずきながら)毎日、お風呂に入っていらしたんですね。4日間も入れなくては、気持ち悪いですよね。うーん」
患者D「髪もベタベタでしょう。息子が来たら恥ずかしい」
看護師「そうですね・・・・・・ベッドに寝たままでも、髪を洗うことはできますよ。その方法では、いかがですか?」
患者D「本当ですか!? ここに寝たままで?」
看護師「はい。気持ちいいと皆さんおっしゃられますよ」
患者D「うれしいわ。お願いします!」

看護師は、介護福祉士とともに、ベッドサイドで短時間の洗髪を行いました。Dさんには、あと1週間は治療上、安静が必要なこと、そして、このような方法ならこれからも洗髪ができることをさりげなく伝えました。その日の夕方、息子さん夫婦が訪れましたが、Dさんは明るい表情で話をされていました。


患者の納得・理解を得ながら効果的な看護につなげる

 NG行動とOK行動、どちらの場面も治療上の生活制限を守っていますが、ただ守るだけでは、患者が治療に参画している度合いが少なく、効果的な看護にはなっていません。また、ただでさえいろいろな我慢をしている患者に対し、看護師の指示的言動は患者の回復への意欲や力を弱めてしまう可能性があります。
 
 急性期病院では、どうしても病気やけがの治療・回復を優先することが多いため、患者の希望を叶えられない場面に遭遇します。ですが、少しでも患者が納得し、理解しながら医療に参画してもらうことで、効果的な治療を患者とともに行うことができるのです。
 
 余談ですが、これがホテルの場合だったらどうでしょう。体調が優れないお客様に「大きなお風呂に入りたいんだけど」と尋ねられたら?お客様の言うとおりに準備をしますよね。ここにリーダーシップは生まれていません。あるのは「お客様の希望通りに対応する」というサービスの提供になります。

(ナース専科2018年7月号より転載)

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