【連載】今すぐできる!セルフコーチング

イライラ、モヤモヤから脱出!セルフコーチングの ススメ

執筆 奥山 美奈

TNサクセスコーチング株式会社

目次

「~すべき」はパワハラの種

 急性期病院から転職してきた真面目な中堅看護師が「えっ?この病院ってまだ、この方法でやってるの!本当は〇〇すべきなのに」と思ったとします。このように考えていると、その業務を疑問なくこなしているスタッフに対しても、「本来、仕事って問題意識をもってするべきなのに、こんなことに気づかないのなら、ほかのこともきっとできてないに決まってる」、「そもそも師長が問題意識をもって改善すべきなのに、まずい病院に来ちゃった。せっかく転職したのに……」と、将来が不安で疑心暗鬼になってしまうかもしれません。
 
 このような心の状態が続いてしまうと、この中堅看護師は、いずれ新人に向かって「この病院のやり方が正解だと思わないほうがいいからね」などと言ってしまうかもしれません。ですが、この言葉は、病院への批判ですからよくありません。
 
 ほかの病院から来た人だからこそわかることもたくさんありますが、こうしたことは、アサーティブ(率
直)に上申して改善するのが望ましいといえます。ただし、上申の仕方によっては、「異動してきたばかりでまだ仕事を教えてもらわないといけない立場なのに、意見なんて早すぎる」と、悪くとられることもありますから、なかなか労力がいることです。

 この中堅看護師の「~すべき」思考は、真面目な人がもっている常識的な考えです。しかし、「~すべき」を人に強要しすぎると、人や状況をコントロールするパワーを行使することにつながってしまいます。この「~すべき」や類似語の「~しなければならない」という言葉の乱用は、パワハラを呼び起こすきっかけになるため、注意が必要な思考です。

あえて常識を疑い合理的思考に変換

 この中堅看護師が、思い切って師長に仕事のやり方について上申したとしましょう。
 
 この看護師を生意気だと感じた先輩数人が「異動してきたばかりなんだから仕事覚えてから意見すべきだよね」「そうだよね。あの人変わっているよ。だから前の病院も辞めたんじゃないの?」と、陰口を言ったとなれば、これは「個の侵害」「人間関係の切り離し」のパワハラです。また、この中堅看護師がいずれ昇格して主任になったとして、部下に「5年目なんだからこのくらいの仕事はすべきでしょ」と強要すれば、「過大な要求」のパワハラになってしまいます。
 
 このように「~すべき思考」の乱用は、パワハラの連鎖を産んでしまうのです。パワハラの多くは無意識の行為です。「人は教わったように教え、育てたように育つもの」なのです。虐待を受けたことのある人が虐待をするようになってしまう事例が多いのも、見たり、聞いたり、体験したりしたことは、簡単に再生しやすいものだからでしょう。
 
 筆者は「~すべきでしょ」とか「普通そうでしょう?」と思うとき、あえて常識を疑ってみること、そして合理的な思考に変換することをお勧めしています。「新人なんだから何でも報告すべきだ」と考えるから、思い通りに新人が動かないことにイラッとするのです。ここで「新人は報告することを判断できないのかもしれないな。報告できるように育てていこう」と柔軟に思考することができれば「イラッと」は予防できます。

セルフコーチングで自分を守る

 筆者は、皆さんに、いろいろなことが起こる日常のなかで、合理的な思考を手に入れ、相手の言動や出来事に一喜一憂することなく、自分自身の感情をマネジメントして、本当にやりたいことにこそエネルギーを注いでほしいと願っています。
 
 筆者がレッスンをしているコーチングテクニックは、相手のパフォーマンスを上げるのに有効ですが、セルフコーチングにも活用できます。自分自身の感情をマネジメントし、さらに一歩進んで「リソースフル(自分の能力を最大限に発揮する)」な状態を保ち、患者や他者とかかわることができたとしたら……?皆さんの日常はどのように変わるでしょうか。
 
 きっと、患者や周囲の人々とさらによい関係を築き、「看護っていいなぁ」と再確認する幸せな毎日を送ることができるはずです。まずはセルフコーチングのいくつかの手法を解説していきます。

「思考のゆがみ」が引き起こす感情の揺れ

表1 認知のゆがみ 1ヵ月課題シート
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 表1は、私がコーチングトレーニングで活用している「認知のゆがみ」を見直す一覧表です。

 コーチングのトレーニングにおいて、一番といっていいほど重要なもので、コーチ認定に合格するには、自分自身がある程度この認知のゆがみがない状態になっている必要があります。そのためには、1カ月から3カ月ほど、感情の日記をつけてもらいます。

 感情の日記とは、イラッとしたり、がっかりしたりと感情の揺れがあったときに、何があってどう思ったか、そしてそのときの感情の揺れを簡単に数値化するものです。そして、改めてこの一覧表を見ながら何番の認知のゆがみが、その感情を引き起こしたのかを同定していきます。「2番と3番があったから感情が揺らいだのだな」という具合にです。
 
 感情が揺らぐとき、私たちは感情だから仕方ない、どうしようもできないと思ってしまいがちです。感情は天気のようなもので、晴れのときも曇りのときもあると感じてしまいますが、実は感情が引き起こされる前提には、その感情を引き起こす考えが存在します。あまりにも思考の流れが速いので気づかないだけなのです。
 
 例えば、「社会人として遅刻なんてもってのほかだ」と考えているから、他人の遅刻に対して「イラッと」感じるのです。また、「新人は仕事ができるようになってから意見すべきだと」という考えが前提にあるため、新人に何か言われて「ムカッと」するのです。
 
 「お前の母ちゃんでべそ」と言われると、大抵の人はムカッとしますが、ポルトガル語で言われたらどうでしょう。ポルトガル語に詳しい人なら頭にくるかもしれませんが、言葉の意味がわからない人にとっては、「???」でしかありません(私もポルトガル語はわかりませんが……)。つまり、私たちは「でべそ」はよくない言葉で、人に対して言うべきでないという前提の考えがあるので、頭にくるわけです。

 感情とは過去に学習された産物です。ならば、逆も真なりで、感情は思考、つまり「認知の仕方」を見直していくことでマネジメントすることができます。自分の考え方の癖を知り、合理的に思考する習慣を身につければ、感情は波立たず、穏やかに暮らしていくことができるのです。

 冒頭で挙げた中堅看護師や先輩看護師のセリフのところを改めてみてみると、「本来、仕事って問題意識をもってするべきなのに、こんなことに気づかないのならほかのこともきっとできてないに決まってる」(認知のゆがみ=7番、6番)、「そもそも師長が問題意識をもって改善すべき(認知のゆがみ=7番)なのに、まずい病院に来ちゃった。せっかく転職したのに……」「新人でまだ仕事も教えてもらわないといけない立場なのに、意見なんて早すぎる(認知のゆがみ=7番、6番)」といったように、認知のゆがみの7番の「~すべき思考」と6番の「決めつけ」があります。感情が揺らぐ原因は、これらの思考なのです。人は自由に発言する権利もあるし、振る舞うことも許されています。そもそも、他者はこちらの自由にはならない存在なのです。
 
 日常のいろいろなことで心が容易に揺れるのであれば、それは相手や事柄がどうこうというよりも、自分の認知の癖が問題です。
 
 相手を変えようとすると、相当のエネルギーを使いますし、エネルギーを使った割には結果が伴わなかったりもします。それは決定権が向こうにあるからです。自分の認知を見直し、合理的な思考にする習慣をつければ、決定権はこちらになり、対処可能な事柄になります。
 
 そのため、筆者は「認知のゆがみ日記」によるセルフコーチングを勧めています。やり方は簡単で、今日からでも始められます。表1を用いて心が波立ったときに日記をつけましょう。そして、感情を数値化し、どのゆがみなのかを同定し、「こう考えれば感情が落ち着く(合理的思考)」という状態に至ることができるまで考え続けます。1カ月も続けていけば、自分がさまざまなことに対して心が動じなくなっていることに気づくと思います。

ハラスメントにも動じない心をつくる

 「わからないことがあったら何でも聞いてね」と言われていたにもかかわらず、本当に何でも聞くと「こ
んなことまで聞いてくるの?」と否定される。聞きに行かなければ「質問がない」と叱られる──このような否定的ダブルバインドによるハラスメントに負けないためには、相手の矛盾に気づくことが大切だとPart2でお伝えしました。

 この人の言っていることは矛盾しているとか、この人はまだ起こってもいないことを必要以上に心配している(5番:先読みの誤り)だけだとか、「あの病棟は師長が甘いから、あそこから異動してくるスタッフは育ちが悪いんだよね(6番:決めつけ、XだからY)」とか、「前のところも何かあって辞めたんでしょ?辞め癖がついちゃうよ(6番:決めつけ、5番:先読みの誤り)」などのセリフの「何が」「どんなふうに」ゆがんでいるのかを、はっきりと理解することが大事です。
 
 人間関係やパワハラに悩んでいる人が、真っ先に筆者に聞いてくるのは、「自分が間違っているのでしょうか」ということです。認知のゆがみとして紹介している項目は、たったの9項目です。それらをしっかりと頭に叩き込み、相手の言い分のどこがどのように間違っているのか、説明できるくらいになってほしいと思います。
 
 結局のところ、認知のゆがみが多ければ多いほど、人の心は揺れてしまいます。「~すべきでしょ!」と、人を裁いてくる人たちは一見強そうですが、実はそうでもありません。この思考をもっている人は、「~
すべき」が他者に向いていないときには、自分自身に向ける傾向が強いため、自分自身にもいつもフラストレーションを抱えています。

 筆者は、人に上下があるのだとしたならば、幸福感が強いかどうかではないかと思っています。さまざまな状況下にあっても、合理的な思考をする習慣が身についていれば、自分の心の静寂を守ることができるのです。
 
 葛藤にみえることは、自分自身の思考の癖を知らせてくれているようなものです。相手が問題なのではなく、自分の捉え方、考え方の癖が感情を揺らしている正体なのだと気づければ、日々起こるいろいろな出来事も、人生の砥石とすることができるでしょう。

参考文献

小林展子:ストレス対処実践法―認知療法によるアプローチ―.チーム医療,2001.

(ナース専科2018年6月号より転載)

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