【連載】あなたのリーダーシップ発揮法

なぜ看護の現場でリーダーシップが強く求められるか

執筆 別府 千恵(べっぷ ちえ)

北里大学病院 副院長・看護部長


目次

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中堅看護師に期待される役割

頼れる中堅看護師

 中堅看護師には、経験に裏打ちされた看護実践を基盤に、看護提供チームの中核にいることが求められます。さまざまな委員会への参加や勉強会の主催など、「看護管理者は優れた実践者である」という前提のもと、チームのリーダーシップがとれるだろうという期待が込められているのです。
 
 また、中堅看護師は、新人看護師やほかの病院から異動してきた看護師の指導などの場面で、頼られる機会も多いはずです。
 
 しかしながら、このような役割付与に対し、純粋に看護をしたいだけと思っている中堅看護師の皆さんは、戸惑いや反発を感じているのではないでしょうか?実際、中堅看護師が自分に求められている役割に対して、ストレスを感じていることが明らかになっています1,2)
 

多くのジレンマを抱える中堅世代

 中堅看護師は、ケアに対して、チームなど集団に働きかける管理的手法を用いるよりも、自分の専門性を高めることで患者のケアの質を上げるということに興味があるように見受けられます。日本看護協会の「2013年 看護職員実態調査」3)によると、看護職としてのキャリアプランに関して「特定の分野における能力・技術など専門性を高めたい」「幅広い能力・技術を身につけ様々な仕事に携わりたい」という項目に、「とてもそう思う」「まあそう思う」と答えている人は60%前後と高値ですが、その反面、「管理職として、組織の運営や管理に携わりたい」と考える人は、およそ22%に過ぎません。
 
 また、中堅看護師といわれる世代は、ライフイベントが多い時期でもあります。結婚や子育てなど、私生活に比重を置きたくなるのです。加えて、日本はまだ「ワーク・ライフ・バランス」が十分整っているとはいえません。そのため、断れない残業や好きなときに休日がとりにくいというのも事実です。
 

リーダーシップが求められる理由

 このような事情のなかでも、中堅看護師にリーダーシップが求められるのはなぜでしょうか。1つは、中堅というポジションだからこそだと思います。リーダーシップは、必ずしも管理者だけが行うものではありません。現場に最も近く、現場の課題がよくわかっていて、発言力もあり、臨床の実力があり、人望もある人にこそ求められるのです。そこで、中堅看護師の出番です。実際、中堅看護師がリーダーシップを発揮したほうが、課題が解決することも多いのです。
 
 みなさんは、経験を積み、臨床の実力をつけて得た影響力を、患者のケアに使わなくてはなりません。個人で患者によいケアを提供しても限界があります。あなた1人でよいケアをして自分が満足しても、それが真に患者のためになっているでしょうか?
 
 ナイチンゲールの著作『看護覚書』のなかに「Petty Management(小管理)」という章があります4)。このなかで、ナイチンゲールは「ある看護師が、自分の健康も顧みず、他の仕事をも放げうって看護に打ち込んだとしても、ただひとつの小管理が欠けているならば、その半分も打ち込んでいないが『自分自身を拡大する技術』を持っている別の看護師に比べて、その半分も充分な看護を行えないのである」とあります(表1)。ここで述べられている「自分自身を拡大する技術」こそが、リーダーシップであるといえます。
 
表1:ナイチンゲールの「Petty Management(小管理)」の一節
表1:ナイチンゲールの「Petty Management(小管理)」の一節
 
 看護は1人ではできません。患者に最後まで責任をもつということは、自分だけがよい看護をするということではなく、看護チーム全体でよいケアができるように手はずを整えることです。それは管理者がやるべきではないか、とあなたは言うかもしれません。しかし、患者の前であなたは「私以外の看護師がどんなケアを行うのかわかりません」と言えるでしょうか?私たち一人ひとりが患者に責任をもち、どの看護師にケアを受けても、患者が大丈夫なように整えていくことが必要なのです。
 
 それでも「このようなことに時間を割きたくない。私は家庭のことや私生活を大事にしたい」と言う人もいるかもしれません。ですが、それを理由に「無知・無視・無関心」という三無主義に陥れば、あなたは専門職ではありません。自分のことしか考えない「タコツボ化」は、事なかれ主義につながります5)
 
 患者によいケアをするためにリーダーシップをとることで、私生活が損なわれるということはありません。自分の限られた勤務時間は「チームと患者に尽くすこと=私生活を犠牲にすること」ではないということです。
 
 もう1つ重要なことは「自分にはリーダーシップがとれない。そういった能力はない」という誤った先入観をもたないことです。ともすれば、リーダーはチームのなかで最も優れていて、メンバーを引っ張っていかなくてはならない存在であると思いがちです。しかしそうではありません。Part1でも触れた「サーバントリーダーシップ」のように、メンバーに尽くすことでチームの成果が上がることもあります。リーダーのスタイルはさまざまですし、あなたに合ったリーダーシップスタイルが必ずあるはずです。
 
 リーダーシップを発揮するうえで重要なのは、患者に対して看護師として最善を尽くしたいという気持ちです。そうした気持ちは、役職の有無とは関係ありません。中堅看護師が最もよく知っているのは、日々患者を目の前にしている現場です。管理者ではなく、自分たちが一番現場のことをわかっているという自負と誇りをもってください。みなさんは、看護師長がみえない世界をみているのです。
 
 もし何か変えたいことがあったときには、看護師長からお墨付きをもらうといいでしょう。「エンパワーメント」には、上位の権威をもつ人が権限移譲を行うという意味もありますが、力を勝ちとるという意味もあります。エンパワーメントによってあなたが能動的に事に当たろうとすれば、希望は叶いやすくなるでしょう。
 

医療の質を高めるリーダーシップ

看護師のリーダーシップで医療の質は大きく変わる

 昨今、医療は専門分化し、患者の医療に対する価値観は多様化してきています。また、在宅を中心とした医療環境の整備が進み、看護師の果たすべき役割は拡大しています。筆者は、医療チームにおいてリーダーシップを看護師が発揮することにより、医療の質が大きく変わると思っています。
 
 患者の社会的背景や病気に対する価値観、身体的状況を丸ごと知っているのは、看護師です。その看護師が、患者や家族の代弁者として彼らと医療チームとをつなぐことで、患者の意思を反映した質の高い医療が提供できるのです。
 
図1:医療チームにおける看護師の役割
図1:医療チームにおける看護師の役割

 反対に、看護師が活躍しないチーム医療を想像してみてください。患者のニーズが反映され、医療チームの方針が患者に伝わった医療になるでしょうか。ほかの職種とのチーム医療がうまくいくかいかないかは、専門職性の確立と相互依存です。専門職として看護師だからできるよい仕事をすることにより、他職種から尊敬と信頼を得て、頼ってもらえるのだと思います。
 
 また、他職種の専門性に対する信頼と尊重も重要です。ここでは、看護師がほかの職種に依存するのみでなく、自分が責任を負うべきところであると判断したときには、一歩踏み出して発言し、医療チームに影響力を発揮することが重要なのです。それが看護の専門性が高く、影響力を発揮できる中堅看護師のみなさんの役割です。
 

困難を成長の機会として捉える!

 多くの看護職が求めている「管理者になるのではなく、現場で一看護師として、よい仕事をしていきたい」という願望は、専門職として最も基本的な考えです。ですが、はたしてそれだけで患者さん一人ひとりを支えることにつながるでしょうか。
 
 ただ黙々と仕事をするだけで、専門性が高まることはありません。自分の経験を、意味のある経験にしていくことが重要です。組織行動学者のデービッド・コルブは、具体的な経験を内省し、概念化して、それを別の機会に試すということを「経験学習」として紹介しています(図2)6)。何かを経験したときに、やり過ごすのではなく、「あれは何だったのか」と問い返すことで、専門職として意味のある成長ができるのではないでしょうか。特に、仕事で起こる困難に対しては、それを避けるのではなく、成長の機会として捉えることが重要です。
 
図2:経験学習モデル
図2:経験学習モデル
 
 人が成長する機会となる「一皮むけた経験」の多くは、仕事や人生の節目で、修羅場に巻き込まれたことがきっかけになるといわれています。「何かやろうと意欲的にリーダーシップを発揮する」と最初に決めて動くよりも、巻き込まれてやらざるを得ないことのほうが多いのです。このときに重要なのは、現実を直視することと、節目では局面から逃げないことです7)
 
 管理者からワーキンググループのリーダーに指名されたり、異動になったり、退職者が多くなり自分の責任が重くなったりと、仕事をしているとさまざまな節目があります。難しいかもしれませんが、そのときは逃げないで、最善を尽くすことが重要です。
 
 課題を解決するために足りない能力を自分で獲得することや、自分の足りないところを補うために人を巻き込むこと、そしてやり遂げること、そのために手伝ってくれた人をサポートすること・・・・・・。このように問題を解決するため(または、自分のやりたい看護をやるため)に行っている行動がリーダーシップです。
 

リーダーシップは特別なことではない

 リーダーシップは、何も特別なことではありません。日常の看護の場面で「この患者のために何とかしてあげたい。でも、自分1人ではできないから、人を巻き込む必要がある」と、そのことに気づいたあなたがリーダーなのです。
 
 あるいは、職場で「このようなシステムにしたほうがスタッフも患者もいいはずだ・・・・・・」と、何らかの課題に気づいたときに声を上げればいいのです。あなたには、課題が解決した後の患者や職場の姿が思い浮かんでいるはずです。
 
 リーダーシップは日常のことです。あなたの看護と同じところにあるものだと考えて、リーダーシップを発揮してください。
 

引用・参考文献

1)佐野明美, 他:中堅看護師の仕事意欲に関する調査. 日本看護研究学会誌 2006;29 (2):81-93.
2)瀬川由紀子, 他:中堅看護師の離職意図の要因分析――役割ストレスと役割業務負担感の関連から――. 大阪市立大学看護学雑 2010;6:11-18.
3)日本看護協会政策企画部編:2013年看護職員実態調査. 日本看護協会調査研究報告
4)フローレンス・ナイチンゲール著, 湯槇ます, 他訳:看護覚書――看護であること看護でないこと. 現代社, 2011.
5)遠藤功:見える化――強い企業をつくる「見える」仕組み, 東洋経済新報社, 2005.
6)中原淳:経験学習の理論的系譜と研究動向. 日本労働研究雑誌 2013;639:4-14.
7)金井壽宏:仕事で「一皮むける」―関経連「一皮むけた経験」に学ぶ. 光文社新書, 2002.

(ナース専科2018年7月号より転載)

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