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【連載】診療報酬2018をおさらい!

2025年に向けた医療政策の方向性

  • 公開日: 2019/9/15

2025年問題とは何か

 「2025年問題」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか?昨今の医療・介護業界のメインテーマといっても過言ではないほど、2025年問題というキーワードは重要です。

 現在、約800万人いる団塊の世代が2025年に後期高齢者(75歳)となり、後期高齢者人口が爆発的に増加することによる社会保障費(医療費や介護給付費など)の急増が懸念されています。

 図1からもわかるように、日本の総人口は、2010年から減少を始め、今後50年間の予測をみても総人口の減少には歯止めがかからない見通しです。その一方で、65歳以上の人口は、2040~2045年頃まで増加し続けることが予想されています(ピークは2042年と予想されている)。また、2040年の総人口推計11,092万人のうち、65歳以上の人口は3,920万人とされており、その割合は35.3%にまで達することが予想されています。特に、75歳以上の後期高齢者人口の伸びが2025年から急激に増加することが読みとれ、医療や介護を必要とする人の急増が見込まれています。

図1:年齢区分別将来人口推計
図1:年齢区分別将来人口推計

 皆さんが勤務する医療機関においても、入院、外来ともに高齢患者の割合が増加しているのではないでしょうか?高齢患者は、これからさらに増えていくことでしょう。特に、これからさらに増えては、東京を中心とした首都圏や関西圏、愛知県や福岡県のような都市部です。

 現在の医療政策や診療報酬・介護報酬改定などでは、このように急増する高齢患者に対し社会としてどうサポートしていくかということが、話し合われています。難しいのは、働き手となる若い世代の人口減少に伴い、保険料収入が減少していくことです。限られた財源(お金)のなかで、いかに医療や介護の質を落とさずに効率的かつ効果的にサポートしていくかが問われているといえるでしょう。

 「減る働き手」「増える高齢者」「限られた財源」「医療・介護の質は落とさない」というキーワードをすべて満たした社会を実現させるためにはどうすればよいか、ぜひ、考えてみてほしいと思います。

地域包括ケアシステムの構築

 2025年問題に対応するために目指すべき社会の形が、2005年に初めて提唱されました。それが、「地域包括ケアシステム(図2)」です。

図2:地域包括ケアシステムの姿
図2:地域包括ケアシステムの姿

 地域包括ケアシステムとは、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的(包括的)に提供される」ような地域づくりです。この地域包括ケアシステムは、国が全国を画一的に構築していくのではありません。あくまでも主体は地域にあり、市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づいて、それぞれの地域特性に応じてつくり上げていくものです。すなわち、地域包括ケアシステムの形に正解はなく、地域の数だけ地域包括ケアシステムの形が存在するということになります。

 現在、厚生労働省では、全国の地域包括ケアシステムの取り組み事例を、都道府県や市町村別にまとめて公表しています1)。地域包括ケアシステムでは、当然、医療もそのなかに含まれています。

 それでは、地域包括ケアシステムにおける医療の役割を考えてみましょう。主な役割としては、「外来」「入院」「住宅」の3つに分類することができます。まず、高齢者の日常の医療的サポートを行っていくのが、外来における“かかりつけ医”の役割です。“かかりつけ医”とは、「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義されています2)。つまり、高齢者は自分のかかりつけ医をもち、日常の医療的な管理・相談などを依頼します。

 かかりつけ医は、日常診療の結果から専門的な医療が必要と判断した場合は専門医へ、または、入院が必要と判断したときは病院へ適宜紹介を行います。病院側は、かかりつけ医からの紹介を受けて患者を診察し、入院が必要と判断したら入院してもらいます。そして、入院した時点で退院後を見越した支援(退院支援)を行い、退院時にはかかりつけ医に逆紹介を行います。要するに、入院する患者は、在宅へ戻すことが前提であり、病院はあくまでも一時的な医療施設なのです。これは、介護施設においても同じ考えです。

 外来への通院が困難な患者については、在宅でサポートします。看護師が主体となる在宅サービスといえば、訪問看護です。訪問看護ステーションは、2016年時点で8,613施設3)あり、2012年時点(5,974施設)から5年間で約1.4倍になっています。

 2018年度診療報酬改定では、訪問看護は全面的にプラスの評価となりました。特に、病院が行う訪問看護の評価が引き上げられたことから、今後は病院が訪問看護ステーションを立ち上げる動きが増加することが予想されます。

2025年に向けた地域医療構想

 日本の医療費の構成は、入院医療費と外来医療費がおよそ50%ずつでした。しかし近年は、入院医療費の割合が緩やかに増加傾向にあります。この大きな要因の1つが、高齢者人口の増加です。図3をみると、75歳以上の後期高齢者から入院医療費が飛躍的に増加することがわかります。先に述べたように、団塊世代が後期高齢者に入る2025年から入院医療費が爆発的に増加することは、想像に難くありません。

図3:年齢階級別1人あたり医療費
図3:年齢階級別1人あたり医療費

 このような予測から、2025年に向けて、入院医療を担う病院の機能を細分化し、「病病連携」によって、効率的かつ効果的な入院医療の提供体制を構築することを目的に、地域ごとの病期別必要病床数を試算し、計画が策定されることとなりました。これが地域医療構想といわれるものです。地域医療構想は、おおむね二次医療圏単位、都道府県ごとに策定されており、都道府県庁のホームページなどで公開されています。

 地域医療構想では、地域ごとに2025年における高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの病期における必要病床数が試算されています。今までは、一般病床、療養病床と病床機能を明確化していなかったものを、明確にしていこうとしています。では、この地域医療構想の病期別必要病床数の推計をみてみましょう。

 図4は、2013年時点の病床数(病院が自院の病床機能を報告したもの)と、国が試算した2025年における必要病床数の推計です。これによると、2013年時点で一般病床と療養病床の合計134.7万床が、2025年には115~119万床で充足する可能性があるということが示されています。

図4:2025年のあるべき病床数の推計結果
図4:2025年のあるべき病床数の推計結果

 病床機能別(病期別)にみると、高度急性期は19.1万床から13.0万床(6.1万床減)、急性期は58.1万床から40.1万床(18万床減)、回復期は11.0万床から37.5万床(26.5万床増)、慢性期は35.2万床から24.2~28.5万床(6.7~11万床減)となっています。つまり、現在よりも病床数が不足すると見込まれている機能は、回復期領域のみなのです。

 このような推計から、現状で多過ぎる高度急性期や急性期病床を減らし、回復期領域へ機能転換を図る病院を増やす方向にあります。そのため、診療報酬改定のたびに、急性期病床の施設基準要件(平均在院日数や重症度、医療・看護必要度等)が厳格化されてきているのです。なかでも、最大のターゲットになっているのは、一般病棟入院基本料7対1病床といえるでしょう。現在、一般病棟入院基本料7対1は、一般病棟のなかで最も多い病床数(2016年10月時点で約36.2万床)となっており、その要件は厳しくなっていくばかりです。

 皆さんが勤務する医療機関でも、急性期病棟から地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟などへ病棟機能転換が行われているかもしれません。そしてこれから一層、病院の病棟機能の見直しは増えていくことが予想されます。その背景には、このような医療政策の流れもあることを理解しておくことが大切です。ただし、地域医療構想の目的は、単純に急性期や慢性期など、数の多い病床を削減することではありません。本来の目的は、限られた医療資源を効率的かつ効果的に活用し、本当に必要とする患者に適切な医療提供を行っていくための体制づくりなのです。

 これは病院内でも同じです。例えば、「急性期のベッドに長期で慢性的な医療処置を必要とする患者が入院している」「慢性期のベッドに医療的処置をあまり必要としない患者が入院している」などが対象となります。前者であれば、早期に慢性期の病院や退院支援を通じて在宅医療のサポートを行います。そして、後者であれば、2018年度改定で新たに創設された、介護医療院や在宅でのサポートを行います。その時々の患者の状態に見合った医療提供をきめ細やかに行っていくということなのです。

病床機能再編に伴う看護配置の見直し

 皆さんの勤務先でも、病棟機能の再編は行われてくるでしょう。図5に病棟機能再編の例を挙げました。特に、病床数が多いとされている急性期一般入院料1(旧7対1)を有する病院は、病棟の一部の機能転換を図ったり、7対1配置から10対1配置へ見直すケースが増えてくると思われます。

図5:病棟機能再編の例
図5:病棟機能再編の例
図5:病棟機能再編の例
図5:病棟機能再編の例
※以下、Case 1~3において共通。
・ 看護師数は、「1人の看護職員の月間実労働時間数から考える配置」を基準に計算
・ 必要看護師数は、最低看護配置数に15%を乗じて算出

 このような看護配置の見直しは、現場からするとどうでしょうか。病棟転換のケースによっては、病棟の患者像に大きな変化はないにもかかわらず、入院基本料の届け出内容によって看護師の配置人数が見直される(減少する)ことも想定されます。当然、病棟機能の再編内容によっては、看護師数が不足し、採用しなければならないというケースもあります。勤務している医療機関が、これから地域においてどのような医療を担っていくのか、そのためにどのような機能が必要なのか、これらのことを考えていくと、自ずとその病棟構成がみえてくるのではないでしょうか。

2025年問題と在宅医療の拡大

 昨今、在宅医療に対する注目は高まるばかりです。この背景にある大きな理由が2025年問題です。今後、団塊世代の後期高齢者入りを控えて、医療需要の一層の増加が見込まれることは前述した通りです。高齢者人口の増加に伴い、年間死亡者数は約130万人(2015年)から約160万人(2025年予想)になると見込まれています。医療需要と死亡者が増える一方で、生産年齢人口(15~65歳未満)の減少により財源は逼迫ひっぱくします。この二律背反する状況をどう解決するか、その1つの手段が、在宅医療の普及拡大と在宅などでの看取りの推進といえるでしょう。なぜ在宅などでの看取りが、これらを解決するための手段となり得るのでしょうか。その大きな理由の1つが、終末期医療にかかわる医療費の問題であるとされています。

 2007年に厚生労働省が公表した「終末期における医療費について」という説明資料のなかで、死亡前1カ月間にかかった医療費は平均112万円であったと示されました。入院医療費の1カ月あたりの平均が41万円であることから、死亡前1カ月間の医療費は約3倍になると推計されています4)。また、日本慢性期医療協会の2016年調査によると、医療の内容によっては「入院中」よりも「死亡前7日間」のほうが多くの処置が行われている状況が明らかになりました(図6)。

図6:入院患者とターミナルの医療提供状況の比較
図6:入院患者とターミナルの医療提供状況の比較

 また、死亡場所は、戦後まもなくは約80%が自宅でしたが、現在は約70%が医療機関で死亡しています。2012年に内閣府が実施した「高齢者の健康に関する意識調査」では、人生の最期を迎えたい場所として、約55%の人が自宅を挙げています。つまり、自宅で最期を迎えたい人が半数以上である一方で、実際には約70%が医療機関で亡くなっていることになります。

 終末期医療費の課題や国民意識調査の結果から、2007年には「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が策定され、2018年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」として改訂されています。ガイドラインでは、患者が医療従事者と話し合い、患者本人による意思決定を原則として「人生の最終段階における医療とケアの方針を決定する」ということが記載されています5)。ただし、国民意識調査結果では、意思表示の書面の作成は8%程度しか実施されていない6)という課題点も明らかになりました。

 これらを踏まえて、2018年度診療報酬改定では、地域包括ケア病棟や療養病棟でのガイドラインを踏まえた看取りに対する指針の策定が要件化され、在宅ターミナルケアや訪問看護では、ガイドラインを踏まえた対応を取ることが算定要件として定められることとなりました。
このように、昨今の在宅医療の拡大は、これからの医療需要や国の財源、国民のニーズなどを踏まえた背景のなかで進んできているのです。

引用文献

1)厚生労働省:地域包括ケアに関する事例集. (2018年6月19日閲覧)
http://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/chiiki-houkatsu/
2)日本医師会・四病院団体協議会:医療提供体制のあり方 日本医師会・四病院団体協議会合同提言. (2018年6月6日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000015541.pdf
3)厚生労働省:訪問看護について 医療と介護の連携に関する意見交換(第1回). (2018年6月6日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000156007.pdf
4)厚生労働省:終末期における医療費について(平成14年度). (2018年6月6日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0322-11a.pdf
5)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン. (2018年6月6日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf
6)厚生労働省:平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書. (2018年6月6日閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryoah29.pdf

(ナース専科2018年8月号より転載)

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