【連載】コーチング・ティーチングを活かしたCKD看護指導の極意

知っておきたいCKD患者への指導成功のコツ

執筆 喜瀬はるみ

東葛クリニック病院 透析統括師長 / 透析看護認定看護師

CKD患者に理解してもらい、実施・継続してもらうためには、行動変容を促すかかわりが必要となります。
この連載では、コーチングとティーチングを使い分けて行う、CKD患者や後輩への指導方法を紹介します。
第1回となる今回は、行動変容を促すかかわりとコーチング・ティーチングの関係について解説します。


目次


価値観形成を尊重しつつ変容させる

生活習慣病を原因とした透析導入が多くを占める

 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)とは、原因を問わず、慢性的に腎機能が低下した状態を指す病名のことです。このCKDが進行して腎不全になると、体内から老廃物が排泄できなくなり、最終的には透析や腎移植など腎代替療法を受ける必要があります。
 
 CKDとは、どのような原因であろうと腎機能が低下した状態だと述べましたが、透析導入に至る原因となる疾患が何かをみてみましょう。
 
 日本透析医学会の統計調査によると、1998年に糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜き、原疾患第1位となって以来、現在も4割以上が、糖尿病が原因で透析導入に至っています。また高血圧・動脈硬化が原因といわれる腎硬化症も増加しており、この2つを合わせると透析導入原疾患の半数以上を占めています(図1)1)
 
図1:透析導入患者の主要原疾患の推移
図1:透析導入患者の主要原疾患の推移

 言い換えれば、腎炎など腎臓そのものが悪くなるケースより、糖尿病・高血圧症・動脈硬化症など、生活習慣病が原因で腎臓が悪くなり、透析を導入するケースが多くを占めているということになります。そのため、CKD患者の生活習慣の改善・管理は大変重要になってきます。
 
 しかし、生活習慣とは、生まれ育った家庭や地域の慣習、環境が大きく影響するなど、非常に個別性が強いものです。さらに長期間にわたり繰り返し行う行動や習慣は、それが当たり前だという個々の価値観が形成されており、それらは年齢を重ねれば重ねるほど変えることが容易ではありません。そのような患者に対し、個別性・価値観を尊重せず、押しつけるような態度で指導を行ってしまうことは、効果的でないどころか野蛮な行為ともいえます。私たち医療者は、生活習慣の指導や管理にかかわる際、患者の個々の生活、それも習慣というプライベートな部分に踏み込んでいるといった意識を常に忘れてはいけません。
 
 そこで本稿では、CKD患者の生活習慣の管理を行う際、看護師が陥りやすい傾向とその対策についてお話ししたいと思います。
 

納得してもらいつつ自己決定を支えるには

 よく透析室の看護師から「あの患者さんは、何度説明しても、生活習慣改善の必要性を理解してくれない。どうしたらわかってもらえますか」といった質問を受けます。その際、筆者はいつも「その患者さんは本当に必要性を理解できていないの? それともわかってはいるけどできないの? どっち?」と聞き返します。
 
 急性期の患者では、急激な身体状態の変化に、今自分に何が起こっているのか、どうすればよいのかがわからないケースが多いと思います。しかし、CKDなど慢性期の患者は、病状が慢性的に進んでいくため、その都度、医療者から病状の説明や、生活習慣の改善について説明を受けていることがほとんどです。
 
 そのような患者に話を聞くと「もう耳にタコができるくらい聞いたよ。わかっちゃいるけど、できないんだよ」と言います。このようにCKD患者のほとんどは、「知らないからできない」のではなく「わかってはいるけどできない」のです。
 
 看護師は、患者をなんとかよい状態にしなければといった使命感や役割意識を強くもっています。そのため、目の前の患者に説明・指導という名の説得を必死に続け、「こうしてください」と行動変容を強要してしまいがちです。この「説得と強要」は、生活指導の場ではよく見受けられる光景です。そもそも人間とは、それがどれだけ正しく、自分にとってよい内容であっても、押しつけられると反感を抱きがちです。また、物事を決める際には、納得したうえで自分の意志で決めたいと思う生き物です。このような「納得と自己決定」は、人間の基本的な欲求であるということを私たちは理解しなければなりません。
 
 では、患者に納得してもらいながら、自己決定を支える生活指導を行うには、どのようにすればよいでしょうか。
 
 まずは患者がなぜ納得できないのか、原因・理由は何なのかを見極める必要があります。患者の知識が不足し、何をどのようにすればよいのかわからない場合は、不足した知識を補います。知識はあるが、行動を変えられない場合は、まず患者の変えられないことに対する思い、自身の生活・透析人生をどのように過ごしていきたいのかを確認します。これは言い換えると「傾聴」です。そして、今までやってきたこと、現在できていることを承認します。そののちに、自身の望む生活・透析人生を送るためには、今後どのようにしたらよいのか、できないことはどこまでだったらできるのかを問いかけ、今後の行動を納得した形で患者自身に決めてもらいます。
 
 万一、その選択した答えが、医療者からみて足りない、ベストな選択でなくても、選択した患者の思い、行動を尊重し支援します。そして、うまくいかなかった場合は、また傾聴・承認・質問を繰り返しながら支えていきます。
 
 このようなスキルは「コーチング」といい、問題の解決策を自主的に引き出すようにかかわるコミニュケーションスキルとして広く知られています。このスキルは、従来から知られている、与える・教える(ティーチング)のみの受動的かかわりだけでは、答えや教えを待つ“指示待ち”になり、自律した人材を育成するには限界があることから、コミュニケーションを通じて、目標の達成のための行動を自発的に考えられるように構築されたスキルです。
 
 CKD患者が納得し自己決定できるよう、これらスキルを使い分けることで、有効な生活指導が可能になってきます。またこのスキルは、CKD患者の生活指導だけでなく、看護師の後輩育成にも有効です。後輩の何が不足しているかを見極め、これらのスキルを適切に使うことで、何事も自分で考え行動できる、自律した看護師に育成することができます。
 


 

Column ティーチングとコーチング

 近年、医療業界でも主体性を引き出す人材育成法として、さまざまな研修が組まれるなど話題になっている「コーチング」ですが、すべてのパターンに当てはまるような万能なものではありません。
 
 従来の人材育成法である「ティーチング」と、この「コーチング」を適正に使い分ける、また両方を合わせて使うことで効果的な人材育成が可能になります。
 
 そこで、まずはそれぞれどんな育成法なのかを簡単に確認しておきましょう。
 
 「ティーチング」とは、「教える」を意味するティーチ(teach)が語源で、学校で先生(teacher)が授業をするように、知識やスキルを相手に一方的に教えることをいいます。言い換れば「知っている人が知らない人に教える、できる人ができない人に教える」指導法で、「問題とは?その解決法は?」を相手に教えることで目標達成を促す育成法です。「ティーチング」のメリットは、具体的な指示やアドバイスを与えることができるので、新しい知識や技術を得るうえでは効果的な育成法です。デメリットは、答えを与えているため相手の依存心が強くなり、自発的に考え行動しなくなってしまう危険性があります。
 
 次に「コーチング」ですが、もともとの語源は、英語の馬車(coach)からきており、人を望む目的地まで運ぶということから、「人を指導する」という意味になったといわれています。
 
 この「コーチング」は、相手が望む目標を達成できるよう、問題解決に向け自発的に行動できることを促す育成法のことをいいます。指導時には、基本的に指示やアドバイスはせず、相手に質問を繰り返すことで、「何が問題なのか?そのためにはどうすればよいのか?それには何が必要なのか?」などに気づき、考えて、行動できるよう促します。メリットとしては、自らが考え問題解決能力を身につけていくことにあります。デメリットは、知識が少ない、経験の浅い人の場合、いきなり自ら考え問題解決を促されても混乱してしまう危険性があります。
 
 前述したように、「コーチング」とは「相手が望む目標があり、達成を望んでいる」ことが大前提です。ですから、相手が何からすればよいのかわからない場合には、まず「ティーチング」が必要になってきます。
 
 このように、「知らない・できない」など、知識やスキルが不足している場合はそれらを補う「ティーチング」、「知っている・できる」が、「どうしたら行動につながるか」「どうすればよいか迷っている」など問題解決の経験が不足している場合には「コーチング」を用いるといったように、適切に使い分けることが必要になります。
 
 それぞれのメリット・デメリットを念頭に、相手の状況やケースを見極め、最も効果的なかかわりを選択することが重要になるのです。
 


引用・参考文献

1)日本透析医学会統計調査委員会:2)透析導入患者(3)導入患者の主要原疾患の推移(図表16), 図説わが国の慢性透析療法の現況(2018年7月3日閲覧)
https://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2017/p017.pdf

(ナース専科2018年10月号より転載)

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