【連載】語りと言語化で発見! あなたの看護観

今、看護師を続けていることの意味

執筆 陣田泰子

聖マリアンナ医科大学4病院 ナースサポートセンター長(統括看護部長)


目次

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「現代」という時代背景と医療状況

ハイスピード化する医療

 皆さんは今、すでに看護師としての経験があるので、ある程度の看護の出来事については「できる」という自信はあるでしょうか?それとも「やってもやっても、やりきれない・・・・・・、手ごたえが感じられない」と、ちょっぴり自信喪失のときでしょうか?
 
 看護師という職業を選択し、長い間看護師という仕事を継続してきたみなさんに、先輩の1人として、今回は「看護という知」についてお話したいと思います。
 
 その特徴が理解できると、現在考えたり、悩んだりしていることが、少しだけ解けるきっかけになるかもしれません。
 
 現代社会、さらに医療の状況を一言で表現するとしたら、さまざまな言葉が浮かぶと思いますが、まず「スピード」が挙げられます。そして、そのスピードに影響を与えたものとして、「多量な情報」と「通信手段」が挙げられるでしょう。
 
 「電車のなかで異様な光景が起きている!」と話題になったのはいつ頃だったでしょうか。居眠りをしたり、本や新聞を読む乗客がいるのが電車のなかの風景だったのが、「異様な・・・・・・」と表現されたこと、それは携帯電話を操作している人々の姿でした。今は「スマートフォン」に変わっていますが、もはや不思議な光景と思う人はいないと思います。人々の意識もハイスピードで変化しているのです。
 

国の政策が大きく影響

 こうした変化は、当然、医療へも影響を及ぼしていますが、現代医療のハイスピード化は、国の政策によるものです。
 
 「なんて忙しいんだろう・・・・・・」と思わずつぶやいてしまう医療の高速回転状況は、患者の入院期間、つまり在院日数といわれる入院患者の入院期間の平均日数をみればわかります。
 
 平成の初め頃の平均在院日数は30日前後であり、もっと長い人もいました。それが20日程度になり、14日程度になり、急性期病院では1週間から10日前後で退院していくという「現象」が起き始めたのが、2003年以降のことです。
 
 医療が社会や一般企業と同様にハイスピードになったのは、先ほど述べた「国の政策」によるものです。その政策とは、2003年に導入されたDPC評価*です。従来の出来高払いとは異なる「疾患により定額の点数が定められている包括評価」で、入院期間が長くなればなるほど、DPC該当の点数が低減されていく方式です。諸外国よりも入院期間が長いことと、超高齢社会を迎え、医療費が増大することは目に見えているため、「医療費抑制策」として入院期間の短縮化が図られました。
 
 このことにより、急性期を早く退院した患者は、次の施設などに移る必要があり、医療依存度の高い患者が地域に出て行くことになりました。これも一時期は大きく社会問題化しましたが、今では「普通」になりました。このような国の政策による変化は、今後も留まることはないでしょう。「この病院を辞めたら、どこかもう少し楽なところがあるかもしれない・・・・・・」という、安易な期待はできないことがわかると思います。
 
 私は、以前の「ゆっくり丁寧な看護の現場」と、現在の「ハイスピードな看護の現場」の両者を経験してきました。本当は、もう少しゆっくり、患者一人ひとりに健康指導などを行ってから退院してもらうと、入院期間は長くなったとしても再入院率は低下し、長い目で見ると「医療費削減」につながるのではないかと思うこともあります。しかし、この流れはどうにもなりません。国の動きをしっかり理解することが大事です。
 
*DPC評価:診療群分類包括評価のこと。入院患者の病名や診療内容をもとに定められた1日あたりの点数(診療費)に入院日数を乗じたものと、出来高の点数(診療費)を合計したものが入院時の医療費となる

「看護」という仕事の特徴

「看護」という仕事

 私たちが選んだこの「看護」という仕事は、かなり特徴をもった職業であるといえます。「看護」という仕事がほかの仕事と異なる最大の点は、「いのちにかかわる」ということでしょう。
 
 生後まもなくから高齢者に至るまで、そして生から死までの人間を対象に行う「ヒューマン・ヘルスケア・サービス」といわれるものです。
 
 ヒューマンサービスは、教員やホテルに勤める人まで幅広いものですが、中でも医療は「ヒューマン・ヘルスケア・サービス」として「プロフェッショナル・ヒューマンサービス」という独自の対人支援職に分類している人もいます1)
 

看護という知

 通常は、「看護」といいますが、今回は「看護という知」という表現をします。なぜなら「知の性質」に特徴があるからです。
 
 知識の「知」には、言葉や数字になりにくい「暗黙知」と、反対に言語や数字にしやすい「形式知」という分類があります2)。そして、看護は「暗黙知」に該当します。見るからに何かはっきりしない「捉えにくい知」という感じが伝わってきます。経験を重ねても、「ここまでできるようになった!」と明確に言いにくいのは、実は個人の問題ではなく、「看護という知」のもつ特徴が大きく影響しているのです。
 
 ちなみに、「暗黙知」の対極にある「形式知」は客観性が特徴の知です。そして、その代表格は医師です。医師とはどこか考えがかみ合わないと感じたこともあると思いますが、それは寄って立っている「知」の違いによるもので(教育背景の違いが大きい)、価値観の違いにもつながります。ですが、異なる知を有する両者がいるからいいのです。必要なときには対立してぶつかり合って、よりよい答えを求めていくのです。
 

看護の知を見える化するナラティブストーリー法

 時代背景もわかり、見えにくい看護の知の特徴も理解しました。それでは、このようななかで、どのように「実践の手ごたえ」を得ていけばよいのでしょうか。また、数字や言語になりにくい看護の知ということをお話しました。では、どのような形で、看護の知は実践のあと残っていくのでしょうか。それとも消えていくのでしょうか。
 
 「何年も看護をしているのに、言えるだけの知識として残っていない・・・・・・」と看護師たちはよく嘆きます。しかし、10年も20年も前の患者のケアに関する記憶は「知識」という形ではなく、多くは「ストーリー」として記憶されています。その忘れられない患者の記憶から、自分でも気がついていなかった「知」を見つけ出す「看護の知の見える化」の方法「ナラティブストーリー法」についてお伝えします3)
 

まずは原点を自覚する

1)自分のヒストリーをたどる
 まず、「なぜ、看護師という職業を選択したのか、辞めていく人もいたなかで自分は続けてきたのだろうか」と自問自答します。
 
2)「わたしのヒストリーシート」に記入する
 そして、「わたしのヒストリーシート」(図1)に、①生年月日、②現在の日時、職場、役割など(メモ程度で可)、③いつ頃看護師になりたいと思ったのかを書き入れます。「小学校?中学校?それとも・・・・・・」と考え、浮かんできたら、例えば「小学校4年生のとき、作文に書いていた」といったように簡単でよいので記します。
 
図1:わたしのヒストリーシート
図1:わたしのヒストリーシート
 
 ①②③とたどっていくと、今よりもずっと前に看護師になりたいと思い、受験や国家試験や職場選択を通して、ここまで来ていることがつながって見えてきます。これを「文脈(プロセス)」といいます。
 
3)文脈にする
 この「文脈」というものが、「暗黙知」の見える化につながる重要なポイントです。出来事を点としてだけで捉えるとわかりにくいのですが、線でつないで「文脈」になっていくと、その意味が見えてきます。
 
 そして、③以降の「まだ見えていない先」は「未来・将来」ということになります。①から③をたどったうえで、その先の未来・将来に向かっている自分がいるのが見えてくるはずです。
 
 このヒストリーシートは、「看護師という職業を選んだ私の強い意志と継続する力」が入っている重要な表です。時々たどって、「意識」してみてください。
 

一番忘れられない患者を思い出す。そして書く

1)記憶に残る患者を意識する
 目をつぶって「今までで一番忘れられない患者さんは誰だろう?」と自問自答します。何人かが浮かんでは消え、最後に残る患者がいるはずです。
 
2)自然な内省(自問自答)へつなげる
 その患者の記憶を思い出しながら「概念化シート」(図2)に記入していきます。このとき、無理に書く必要はありません。書ける範囲で、メモでも、単語の羅列でも、どのように書いてもかまいません。
 
図2:概念化シート
図2:概念化シート
 
3)内省により概念化を促進させ、言語化する
 シート上の①~⑤の空欄を順番に書き進めていきます。①から④までは「過去を思い出しながら書く」ことになります。⑤は「現在」です。現在のあなたは、多くの職業のなかから看護師という職業を選択して、その仕事に就き、今も辞めずに続けています。そのあなたの「大切にしている看護への思い」を短く記述します。
 
4)仲間とナラテイブする
 概念化シートに記述(書けない欄があっても大丈夫です)したら、4~5人くらいでグループになります。そして、①から⑤の順に自然の流れに沿って、時にお互い感じたことや聴きたいことなども挟みながら、一人ひとり自分のストーリーを「物語って」いきます。持ち時間は、1人5~8分としておきましょう。

 初めはぎこちないかもしれませんが、徐々に「物語」に引き込まれ、自然に会話や沈黙が生まれてきます。後半ごろになると、まるで旧知の仲間と会話をしているかのように盛り上がっていきます。この間、30分程度です。
 
5)実践論へと生成させる
 個人や仲間同士で振り返り、内省したことが「物語」を広げ、深めていったことに気づくと思います。初めに書いた概念化シートの記述をはるかに超えた会話がなされているはずなので、仲間とのナラティブのなかで発していた言葉をシートに追記します。
 
 追記する際は、初めに書いた文字と異なる色を用いて記述します。色の違いで、初めの言語化とその後の言語をわかるようにするためです。1色から2色になって、看護の知がナラティブにより広がったことが視覚的に見えてきます。
 
 なお、このシートは自分で追記していくことにより、完成させていくことになります。考え続け、書き続けることで、実践論へと生成させていくのです。完成は3年後になるかもしれませんし、10年後になるかもしれません。
 

看護実践と認識の関係

 「看護は実践の科学、実践は認識に導かれる」―――実践を長くすれば、つまり、長く経験すれば「質」は上がるのかということです。私は一時期まで、無意識にそのように思っていました。しかし、自己の経験を通して、そうではないことに気がついたのです。
 
 図3は、「概念化シート」と「認識の3段階」を並べたものです。右側の三角形は、「人間の認識」で、庄司和晃氏の「認識の三段階連関理論」を参考に作成したものです4)
 
 忘れられない患者の物語を、認識の3段階で解いていきます。
 
 認識は「何かが起きている」「○○を実践した」というような、「現場で起きている現象」のレベルが1段階目になります。次に1段階目でとどまらず「今、起きていることは一体、看護のどのようなことに当たるのだろうか?」と考え、それを言葉や図にしてわかりやすくします。これが2段階目の「表象」です。少し難しいですが、イメージのように、「言葉が消えても、心に残る像のような構造」といえるものです。最後に、一番上にある「本質」は、看護でいうと「看護の本質」であり、専門職として社会から求められる「良質な看護の提供」といえると思います。
 
 あまりに忙しいと、「この看護は・・・・・・」と考えようとしても、それができないまま行動をし続けることになります。それでは認識の1段階目で終わってしまいます。
 
 今回、詳細は割愛しますが、エキスパート看護師という達人になると、1段階目で3段階目が見えてしまうようなことが起きてきます。しっかりと経験を学ぶことによって、このようなことが起きるのです。経験しっぱなしでは、長い間仕事をしても「認識ののぼり」が起きにくくなります。
 

「認識ののぼり」をガイドする概念化シート

 概念化シートは、1段階目から2段階目、3段階目へと認識を発展させていけるように誘導する順番になっています。図3にその連動している関係を示しました。
 
図3:概念化シートと認識の3段階との連動
図3:概念化シートと認識の3段階との連動

 認識の1段階目の人の行動は「○○をした」で止まってしまいますが、2段階目の人は「○○をして、患者さんの仏痛の軽減ができた」となります。それは「安楽への看護」へと、提供する看護の領域が広がったことが自他ともにわかることになります。3段階目へ行くと、「その安楽への看護は、患者さんにとって今必要な良質な看護」といえるかと自問自答して、「もう少しマッサージもしてみよう」というように、よりよい看護へつなげようとします。
 
 このように、認識がのぼっていくことを「認識ののぼり」といいます(抽象化)。そして、これが「看護経験の概念化」という認識の発展をうながすプロセスです。「認識ののぼり」があれば「認識のおり」もあります。3段階目から2段階目、そして、より具体的な現象レベルである「1段階目」へとおりてくる認識の道です(具体化)。
 
 実践を継続しているみなさんには、ぜひこの「認識ののぼり」を意識して、3段階をのぼってほしいと思います。ですが、このたった3段階が、現代はのぼれなくなっているなと時々感じます。スピードは、認識の発展を阻害する因子になりやすいと記憶しておいてください。それをわかって実践すればできることもあるはずです。
 
 概念化シートは、認識の3段階と関連させているため、順番をたどっていくと、「認識ののぼり」ができるようになっています。繰り返し訓練することで、認識の3段階が理解できるようになり、「今起きている出来事=現象」と捉えて、2段階目へとのぼることができます。
 

看護師の成長に有効なナラティブ学習

 今回紹介した「物語る」は、ナラティブストーリーといいます。ベナーという理論家は「看護師は、3年くらいまでは定期的なナラティブ学習の場をもち、経験を共有したりすることで、孤立感の回避や安心感を得ることにつながる」と述べています5)
 
 語りを聞いていくことで認識の発展過程がわかるため、お互いの成長が見えてくることにもなります。「学習の場」「研修の場」と考えなくても、同僚や先輩らとのコミュニケーションが活発に行きかう場では、どんなに忙しくても、ミニナラティブのような会話が実は起きています。それを繰り返すことで「職場が学習の場」に変わっていきます。こうなったらしめたものです。
 

今、取り組んでいること

看護経験の概念化をマネジメントの根幹に

 主任や師長、副部長、そして看護部長と、現代のマネジャーは本当に大変です。マネジャーは、いつの時代も忙しく大変なものですが、やはりDPC以降の現代のマネジャーは、相当厳しい職場環境のなかで必死に仕事している様子がよくわかります。
 
 しかし、背景がどんなに変化しても、看護のマネジメントの中心的な目的は「良質な看護実践により患者の回復を促進して、自宅や社会に戻ってから自分らしい生活ができるようになること」です。先に述べた「実践の質」を導く「認識」について、経験を通して発展を促すことは「認識と実践の一貫」した看護師の育成法の基盤となるものです。
 
新任師長研修
 新任師長研修では、「忘れられない患者」の記述と語りから、「看護管理の核」を明確にして、職場のマネジメントを行います(看護観から管理観を明確にして、管理行動を導く看護管理の認識を発展させていく。)
 
 師長とはいえ、新任の時期は、新卒看護師と同様の現象が起こります。今まで、主任もしくは職場のリーダーとしてやってきていたのに「マネジャー」と名前がつくと、「マネジメントの勉強をしていないので・・・・・・」と引いてしまう人も多いようです。また、「どうしたらいいのだろう、師長って・・・・・・?」となりやすいものです。これを「現場から学ぶ」、つまり認識の3段階をのぼっていく過程ができるようにしていきます。
 
 今まで経験してきた年月は、貴重なものです。その経験から学んでいく、つまり、経験しっぱなしにしないで、経験を基に概念化をしていきます。見えにくい看護の見える化が起こると、「見えてきた、やっていた・・・・・・」と進んでいきます。
 
 その次に大事なことが、それらの見えてきた現象を2段階目に進めるために、「言葉で表現する」ことです。そして、3段階目へ向かって「自分の大事にしている看護」を表現して「看護管理観」へと発展させていきます。チーム内での認識の発展も起きてくるので、時間とともに「自己とチームの内省の促進」が起き、相乗効果でチーム全体の概念化が進んでいきます。
 
「看護の見える化」研修
 この研修は、主として中堅看護師以上を対象とした人への研修です。見えにくい看護の知の見える化と、「経験の概念化」の方法を学んで「実践している自己の看護を見えるようにしていきましょう」というものです。さまざまな部署や、時には他施設からも参加を募るなどして交流を図りながら「それぞれが大事にしている看護」を語り合います。
 
 この短いひとときが、参加者に「職場ではなかなか味わうことが少なくなった“看護実践の語り”」を思い出させます。そのときの参加者の“いい顔”は、看護を職業に選んだ仲間たちであることを再認識する場になります。
 
       ***
       
 看護という「見えにくい知」の特徴を知って、その見える化の方法としての「看護経験を語り、書くこと」の重要性についてお話してきました。そして、その方法である「看護経験の概念化」について、「忘れられない患者の記憶―――語りと言語化」の具体的方法をお伝えしてきました。
 
 最終的には「何が私に長い間記憶させたのか」と、研修修了後も続けていくと、そこに「こだわる看護の知」がより明確になって表れ、それが自己の強みになっていることにも気づくことと思います。
 
 そしてそれは、これからも仕事を続けるあなたの拠り所となって(看護観・看護管理観)、さらなる良質な看護実践へと導いてくれるエンジンになってくれるはずです。
 

引用・参考文献

1)島津望:医療の質と患者満足――サービス・マーケティング・アプローチ. 千倉書房, 2005, p.9-10.
2)大串正樹:ナレッジマネジメント――創造的な看護管理のための12章. 医学書院, 2007, p.61.
3)陣田泰子:看護の“知の見える化”で現場が変わる! 陣田塾 より良い看護実践のための概念化スキル教えます!. メデイカ出版, 2015, p.35-38.
4)庄司和晃:認識の三段階連関理論. 季節社, 1999, p.13-18.
5)パトリシア ベナー, 他:ベナー 看護実践における専門性――達人になるための思考と行動. 早野ZITO真佐子訳, 医学書院, 2015, p.517.

(ナース専科2018年10月号より転載)

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