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日本認知症ケア学会とはー理事長 繁田雅弘先生に聞く学会の現在と今後の展望ー

取材 繁田雅弘

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授/日本認知症ケア学会 理事長

2019年5月25、26日に第20回日本認知症ケア学会大会が開催されました。
今大会の大会長でもあり、日本認知症ケア学会の理事長でもある東京慈恵会医科大学精神医学講座教授の繁田雅弘先生に、学会についてお聞きしました。

日本認知症ケア学会は唯一の認知症ケアに関する学会

インタビューカット

 日本認知症ケア学会は、認知症ケアに限らず認知症医療と福祉に携わる多職種の人たちが勉強できる学会が必要だということで2000年6月に設立されました。2000年4月に介護保険法が施行された直後に設立されたことになります。介護保険法に合わせたわけではありませんが、社会的にそういう流れがあったのだと思います。

 認知症の医療に関する学会というと日本認知症学会、日本老年医学会、日本老年精神医学会など、いくつかありますが、認知症のケアに関する学会というのは、日本認知症ケア学会以外にはありません。アジア諸国では日本にならってここ数年の間に次々と設立されています。

 会員数は27,653名(2019年5月現在)です。また、学会認定資格として認知症ケア専門士がありますが、この資格保有者は50,682名となっており、介護福祉士、ヘルパー、ケアマネジャー、看護師、保健師、管理栄養士、作業療法士、理学療法士、医師など多岐にわたる職種の人が取得しています。
 
 学会で扱う内容は認知症のケア全般となります。医療や看護だけでなく、介護保険制度、施設だけでなく、建築や環境などについても含まれます。大会では、できるだけ広い範囲の内容を取り扱いたいと考えていますが、住宅改修などについては高齢者施設専門の建築士がなかなかおらず、テーマとして多く取り上げるのは難しい状況です。

第20回日本認知症ケア学会大会を振り返って

 学会の目指しているところは、ケアの質を上げることによって認知症の人の生活の質を上げ、ひいてはよりよい人生を送れるようにサポートすることです。

 今回のテーマである「認知症という希望」にもその思いを反映しています。

 このテーマについて「明るいテーマでいいですね」といわれることがありました。しかし、今回のテーマは、必ずしも明るいだけのイメージの希望という意味合いではありません。

 今、医療では当事者の声を聞くという時代になってきています。認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)には7つの柱があります。この中の7つ目の柱が「認知症の人やその家族の視点の重視」となっており、これが当事者の声を聞く、ということに当てはまります。認知症の人たちの思いや要望を踏まえて施策を考える流れになっていますし、最近では家族会だけでなく認知症の人たちのワーキンググループもできてきています。ご本人たちが厚生労働大臣に面会するなど顔を出す機会も増えていっています。

 認知症の人たちが何を考え、何を大切に思っているのかを理解して支援しようという流れの中で、聞こえてくる声が「希望」なのです。ご本人たちからは「希望がもてない」「安心して、こんなことやりたいといえるような状況ではない」という声がしばしば聞かれます。日本認知症本人ワーキンググループの代表理事で元看護師の藤田和子さんが「希望をもって生きられる社会になってほしい」とおっしゃっていたのを聞いてなるほどと思いました。ですから、今回のテーマである「希望」は、認知症でも希望をもって生きていきたいという気持ちを強く持つ覚悟のような意味合いです。

 具体的に今回のプログラムを振り返ると、シンポジウム1「後悔のケア;本人の意思はどこまで尊重されていたのか」は、本人の意思を十分に反映できなかったという反省が随所に散りばめられた内容となりました。また、日本認知症ケア学会ができてから約20年経ち、認知症に対する意識も変わりつつあります。そこで、シンポジウム2「社会は認知症ケアと医療をどのように見てきたのだろうか」では、新聞編集委員、映像プロヂューサー、弁護士、社会学者、人類学者といった医療従事者以外の方々に認知症をどう見ているのかを話してもらいました。

 今回は、どうケアするのかということよりも、ケアをしてもらったとき認知症の人がどう感じているのか、どういう支援の仕方をすると気持ちが楽になるのかといった視点を入れました。

 また、来年の大会のテーマは「認知症とともに育つ」と決まっています。このテーマに決めたのは、一歩大きく前進したいという大会長である阿部哲也先生の思いが込められていると思っています。

 今までは、家族支援では介護者の負担を減らすという発想でしたが、今後は家族も介護にやりがいを感じ、よい介護ができたときに被介護者とともに喜びを感じられるようなケアをどのように実現していくかなど、新しいケアの形に入っていくのではないかと思っています。なかには、AIやITなどについて触れる講演もあるかもしれません。

認知症の人にとってよいこととは何かを考える

 効率化を図るだけではなく、認知症の人の尊厳やプライドを守りつつ、どう新しいことを取り入れていくか、というのも今後の課題です。

 まだまだ認知症と聞くと戸惑ったり、認知症の人に接するときに緊張したりする人がいると感じています。しかし、理想は自然な形でサポートできることです。そのためには、認知症への理解が不可欠です。
認知症というと物忘れといったできなくなることに目を向けがちですが、そうではなくて、どういうふうにサポートすると本人が苦痛に思わず暮らしていけるのか、どのような気配りが本人にとってよいことなのかを考えられるようにしていきたいのです。

 「そんなに気にしなくても大丈夫、認知症の人はそんなこと気にしないから」ということと、「これはやはり周りで注意してあげないと、本人もとても敏感だし傷つくから」ということがわかっている社会になるとよいのではないでしょうか。むしろ、医療も介護もそうあらねばならないと思います。ここに到達するのが次のステップだと思っています。

医療従事者以外の人たちにも知ってもらう活動を展開

 例えば、認知症に関するの公開講座をやります、となると普段から関心をもってアンテナを張っている人しか参加しません。イオングループに協力してもらって、学会がこの1年で取り組んだ認知症に関する相談会は、生活している場で行なっているため認知症について普段考えもしないし、親も元気というような人も寄ってくれて、認知症について理解してもらうよい機会となりました。家族だけの問題ではなく、近所の人も認知症について理解できていると、何か支援ができるかもしれない。これが広がると地域の力になっていくと考えています。次は、こうした地域の力をつけていくステップに入っていきたいと思っています。

 一般の人たちに認知症を知ってもらい理解してもらうと、実際に認知症のケアをやっている人たちも社会的に自分の行なっていることを認知してもらえますし、やりがいも責任も感じられるでしょう。そうするともっとよりよいケアができるのではないかと思います。

本人の意見を尊重し、ともに考え実施するケアを目指す

 基本的には、こういう障害にはどうケアをすればよいかといったセオリーやガイドラインがあると思います。一方で、認知症は生活にかかわる問題なため、下肢の障害があるとか視覚障害があるといったこととは違い、どうケアをすればよいのかがなかなかわからないですし、単純に決め付けられません。本人がしたいことや、やってほしいことをどう汲んでケアするのかが大切です。看護師さんは、もうすでに専門知識はありますから、あとは認知症の人ご本人から、どうすべきかを教えてもらうだけでよいと思うのです。認知症の人と一緒に考え、支援の内容を決めていくようになると、非常にクオリティの高い看護になるのではないでしょうか。このことを心に留めてケアをしてほしいと思います。


一般社団法人 日本認知症ケア学会
http://www.chihoucare.org/

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