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【連載】事例で考える! がんの緩和ケア

倦怠感への対応|症状別がんの緩和ケア

執筆 髙野嘉子

那須赤十字病院 看護部 緩和ケア認定看護師

目次

I.はじめに

倦怠感は、がん患者さんによくみられる症状の1つです。患者さんの状態をよくアセスメントし、どうかかわるとよいのかを考えましょう。

II.事例の概要

A氏:70歳代、男性、肝細胞がん、肺転移、ステージⅣ
妻は他界し、息子は他県に住んでいるため一人で通院をしていました。A氏は全て告知を受け、一人で意思決定してきました。

 悪心、食欲低下、倦怠感があり近医受診され肝機能障害のため当院紹介となり、検査の結果上記の診断となりました。肝機能が保たれていること、全身状態はPS(Performance Status)1のため外来通院を行いながら分子標的薬の内服が開始されました。時々腹部や右背部の鈍痛があるためアセトアミノフェンやオキシコドンが開始になりましたが、疼痛増強のため疼痛コントロール目的で緩和ケア病棟に入院となりました。入院後オピオイドスイッチングを行い、疼痛時はナースコールを押してNRSで痛みを表現し、レスキューの効果もNRSで「7から5になった」と言っていました。レスキューを使用することで疼痛緩和が図れ、デイルームに設置しているトースターで朝食のパンを焼くのが日課になりました。

 徐々にレスキューの使用回数が減り痛みを訴えない日もありましたが、デイルームで見かけることが少なくなりました。疼痛の有無や気がかりなことがあるのか伺うと表情が険しくなり「ほっといてくれ」「何でもない」との言葉だけでした。A氏は元々言葉数が少ない方でしたがさらに言葉数が減り、頷きやジェスチャーで表現するようになりました。検温で訪室した際もトイレからベッドに戻る場面で「疲れた」と一言発し、ベッドサイドに身を投げるように座りそれ以上の言葉はありませんでした。

III.アセスメントとケアの計画・実践

Point①カンファランスで症状の確認とケアを統一

 入院目的の疼痛コントロールは図れましたが入院時のPS2からPS3に低下、言葉数の減少などがみられていたため、A氏にかかわる医師、看護師、助手、事務など多職種でカンファレンスを行い症状の確認とケアの統一を行いました。

 訪室すると背を向けたりイライラ感を表出したりしていたこと、A氏に苦手意識をもちかかわりを避けているスタッフがいることがわかりました。また、A氏への面会者は、妻が他界し近隣に血縁者がいないため、月に1回程度来院する一人息子のみでした。A氏は人とのかかわりが少なくなったことで孤独を感じている可能性がありました。

 イライラ感や活動量低下、対人関係、そしてトイレからベッドに戻る時の場面を統合すると倦怠感が生じていると考えました。倦怠感には身体的、精神的、社会的な側面があり、それらが複雑に絡み合ってA氏の倦怠感に繋がったと考えました。そして、A氏の言動は性格的なことから生じるだけでなく、身体症状からの表れであることも考えられ、これらを念頭にA氏との関係性の再構築が必要と判断しました。 

 A氏の日課を把握してかかわっていましたが、今後の希望などの情報が足りていませんでした。そのためA氏の目標や希望を確認し目標達成できるようにA氏のエネルギー温存と分配を図った看護計画の修正や追加を行いました。

Point②リラックス効果や爽快感のあるケアを実施

 A氏は活動が低下し、入浴などが行えていませんでした。エネルギー温存を図りながら部屋で行えるケアを考えました。リラックス効果や爽快感、また触れることでケアを受ける側もケアする側もオキシトシンが放出すると言われ、爽快感だけでなくケアが心地よい時間になる足浴を行いました。A氏から「ありがとう」の言葉や足浴の要望があり計画に反映しました。倦怠感のNRSが低値のときはベランダやデイルームで一緒に過ごし気分転換が図れる時間をもつこと、歩行時の様子をみながら下肢筋力の程度を確認しリハビリを取り入れて筋力維持に努めました。

Point③患者さんに寄り添ったことで気持ちを表出してもらえた

 夜間の巡視で訪室したときに、A氏はベッドサイドに座りカーテンを開け外を眺めていました。眠れないのか声をかけると「別に」の返答だけでした。夜景の明かりだけのため表情を伺うことはできない状況でした。A氏の希望などが聞けていない状況でしたので、A氏が今何を見て、何を感じているのかを少しでも知りたい気持ちで「少し一緒にいてもいいですか」と声をかけ隣に腰を下ろして同じ目線で時間を過ごしました。A氏はしばらくの沈黙の後、息子への思いや過去の出来事などをポツリポツリと話し涙を流しました。

 A氏の呼吸に合わせて背中を摩っていると息子の将来の不安、思うように動けない不安、心細さを感じていることを話されました。また倦怠感が持続していましたが、疼痛コントロール目的の入院だったためスタッフに表現してよい症状として捉えていないこともわかりました。A氏の一番の願いは、息子に託したいことを直接話したいことでした。話してくれたことに感謝を伝え、今後も話を伺いたいことやいつでも聴く準備ができていること伝え退室しました。朝の検温時に「夕べはありがとう」の言葉がありました。

Pont④カンファレンスで希望に沿ったケアを再考

 A氏の不安や希望がわかり、再度カンファレンスを行い情報の共有をしました。息子の面会に向けてエネルギー温存と分配をA氏とその日の担当看護師が一緒に日々考えました。A氏は入院時からNRSを使用して症状の評価が行える強みをもっていました。その強みを活かしながら、どんなときに倦怠感の症状が変化するのかも評価に加えてもらいました。その日の担当看護師が調整したスケジュールを他のスタッフに周知しました。同時にA氏は元々口数が少ないため評価の数値だけでなく声のトーンや表情、仕草などの観察を継続し評価も行いました。A氏自身が評価をして一日のスケジュールに参加、実行することで達成感に繋がるように支援しました。

IV.ケア実践後の評価・アセスメント

 ケア中や一緒に歩いているときに「少し違う」「できた」「行ける」などの言葉が聞かれることがありました。A氏と一日の目標を考え、目標達成のためエネルギーの温存や分配などの調整を行い実行したことは、達成感や成功体験の積み重ねになり自己効力感に繋がったと考えます。また爽快感が得られるようケアや気分転換を図ったことで行動意欲にも繋がり、徐々に活動範囲が広がり日課であった食パンを焼くことができるようになったと考えます。

 A氏と一緒に評価した内容をスタッフに周知したことで、A氏の状態を知り訪室するタイミングなどを考慮したり、一緒に過ごす時間が増えるスタッフが増えました。カンファレンスを繰り返し行い、A氏の現状や病状、A氏からその日の体調を知ることで、かかわり方を考えるなどスタッフの意識の変化が生じ人間関係の再構築の一歩になったと考えます。さらにときどき息子と交わしたメール内容を話すなどA氏の変化がみられ心細さの軽減にも繋がったと考えます。

 ケアの介入方法を考えながら、息子の面会に合わせてステロイドを使用するかも検討しました。

V.おわりに

 薬剤投与だけでなくかかわるスタッフで多角的な視点で現状を分析、ケアの再検討などを繰り返しカンファレンスで話し、お互いの気持ちを共有し共通理解することが大切です。そして、言葉や態度で表現されるのは氷山の一角であり、影に潜んでいる感情や症状を理解するように努めましょう。

引用・参考文献

・恒藤暁、他編:系統看護学講座別巻緩和ケア、医学書院,2015
・榮木実枝、他編:見てできる臨床ケア図鑑がん看護ビジュアルナーシング、学研,2015
・恒藤暁:系統緩和医療学講座身体症状のマネジメント、最新医学社,2013

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