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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

9.相互作用で看護を高めあう人的技術方略と組織的な取り組み

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

さらなるスキルの獲得と組織的取り組みでQOL向上につなげる

 前回の「8.看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則の活用方法~トレーニングの実際~」では、時間の概念と個々の価値観の見直しを支援されるような教育風土において、業務のコツ以外に何が重要であるのかを看護師自身で見出すような能力を身につけることが専門職として重要ではないかということをお伝えしました。

 また、これらの見直しを支援する教育風土づくりの一環である集団教育の場合は、見直す目的を明確にして実施したほうが効果的だということを述べました。

 今回は、前回の看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則を活かす教育風土づくりとしての集団教育で必要なスキルとして、相互作用で看護を高めあう人的技術方略についてと、組織的な取り組みについて述べたいと思います。

ファシリテーションの相互作用で看護を高めあう

 WIN-WINの法則である相互作用で看護を高めあう人的技術方略についてですが、今までは「看護を考え抜く力」が重要であることなどを伝えてきましたので、その他の人的技術方略をご紹介します。

 相互作用で看護を高めあうためには、カンファレンスなどのグループ討議が有効です。シミュレーション教育は、臨床場面を再現した状況で、学習者がその経験を振り返り、ディスカッションを通して専門的な知識・技術・態度の統合を図ることをめざす教育です。カンファレンスはシミュレーション教育の一部でもありますので、ファシリテーターによるファシリテーションが重要となります。

 内藤ら1)によると、ファシリテーターとは「集団による知的相互作用を促進させるようプロセスを管理し、チームの成果が最大になるよう中立的立場で支援する人」とされています。

 ファシリテーターは、そこにかかわる1人ひとりが自分で考え、学び、気づき、想像する“きっかけ”を投げかけることによって、学習者が主体的に取り組めるよう環境を調整する人であり、ファシリテーションスキルとして関係構築力・傾聴力と発問・構成力が必要であるとされています。

 ファシリテーターのファシリテーションスキルによってカンファレンスの効果は大きく影響されるため、教師・指導者・教育担当者はもちろん、それ以外の中堅の役割を担う人のファシリテーションスキルの研鑽は非常に重要だといえます。

 またファシリテーションは、チームに自律的な問題解決を促し、業務課題を解決することでチーム力を高めることをめざすことにより、チーム力を強化するとされています。このため、現在、ファシリテーションスキルについては医療従事者に対する臨床教育スキルの研修も増えています。研修がない環境であったとしても、内藤らの成書に非常にわかりやすく記述してあり、自己学習も可能であると私は考えます。

コンフリクト・マネジメントによるQOL向上の組織的な取り組み

 今まで、QOL向上の組織的な取り組みについては、職場風土づくりやそれに基づく教育風土づくりについてお伝えすることが多かったと思います。

 今回は、職場でのストレスに対するコンフリクト・マネジメントという、組織と管理職が行う人材管理のマネジメントに関する効果的な方略について、お伝えします。

 現在は、多くの職場で、職場内に「第三者機関の監査」や他部署の「監査委員」を設置します。これは、人が集まる「組織」で何かをする場合、多様な考えのもとでは人と人との価値観の相違が生まれ、ストレスが多い場になることを、必然と認識したうえで、その対策機関がある、ということです。

 価値観の相違により理不尽に感じることが繰り返し行われないようにするためのシステムが存在するかどうか、ストレスに弱い人に対する対策があるかどうかは、そこで働く人々を、組織がどのように考えているのかを反映するため、非常に重要だと考えます。手前味噌ながら、今、私が勤務している了德寺大学では、ストレスフリー療法が行われています。普段は地域の難病の患者さんが利用していることが多いようですが、大学内の学生や職員も利用できます。ここでは、ストレスによる血流不良へ働きかける機材があり、機材装着により血流不良を改善するため、ストレスによる身体の悪影響を軽減する目的で行われています2)

 現代社会だからこそ、予測される「人と人との価値観の相違」に対する組織としての具体的な対策も必要なのです。
そこで、「人と人との価値観の相違」の悪化を防ぐコンフリクト・マネジメントの視点を含めたリーダーシップを管理職がとれることが重要となります。その能力の研鑽も必要だと思います。

 その際には、これまで述べてきたように、個人特性や集団特性をできるだけ正確につかむ努力として、普段からのコミュニケーションのとり方やリーダーシップの見直しをすることが必要だと考えます。個人特性や集団特性を総合的に考えて、よい方向に進むように働きかけ方の工夫をしてみることが大切です。

 例えば、ある人が職場で不満を抱え、いら立ちを表していたとします。これに対し、周りの人々がこの不満やいら立ちに振り回されないように指導したとすると、問題を特定して指導したということになります。これは、コンフリクト・マネジメントの視点で考えるとあまりよい方法とはいえません。さらに不満やいら立ちを高めて、管理職から見えない個人攻撃を周辺の協力者を介して行うなど、事態を悪化させる可能性があるからです。

 この場合、管理職は集団に対して「私たちが本来向き合うべきことは何か」を伝えます。そして、それぞれの個人特性のよさを活かして不足をサポートし合う姿勢が重要であるという自己の考えを集団に向かって伝え、そのような場をつくるために自ら調和的な姿勢で対応し、必要なことを論理的に説明できることが重要だと考えます。

 医療の領域で、コンフリクト・マネジメントという概念が提起されてからおよそ10年程度ですが、苦情への対応のあり方の検討や、医療メディテーションというモデルの普及という形で徐々に広がりつつあります。ただし、医療の領域におけるコンフリクト現象に関する科学的・学術的研究は、いまだ緒に就いたばかりだとされています。

 松浦ら3)の「看護師長のコンフリクト対処行動」の研究によると、看護師長のコンフリクト対処行動には、<留保>、<装う>、<利用>、<説得>の4つの対処行動があります。これらは、さっさと決断することに慣れ、無用な引き延ばしはしないというこれまで研究を重ねてきたアメリカの文化的背景の中では、これまで抽出されえなかった対処行動であったとされています。

 日本文化の中で世間が女性に期待する価値観として「耐える」、「忍ぶ」、「察する」などがあるため、看護師の心理的葛藤や否定的感情が適切に言語化されずに抑圧されてしまう傾向にあり、日本の文化的背景をうまく利用した,看護師長の知恵を表しているとも推察されています。

 このような研究を、個人特性・集団特性を視野に入れずにそのまま問題解決方法ツールとして使うのではなく、文化的背景に基づいた方法で、「説得」の部分で「納得」できるような対応が重要だと思います。

コンフリクト・マネジメント

【引用文献】

1)内藤知佐子,他:シミュレーション教育の効果を高めるファシリテーターSkills&Tips.医学書院,2017,p.2-44.
2)了德寺健二:健康の悩みを解決する「長生きのスイッチ」.幻冬舎, 2014,p.20-36.
3)松浦正子,他:看護師長のコンフリクト対処行動.日看管会誌 2005;8(2):21-9.

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