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【連載】事例で考える! がんの緩和ケア

せん妄|症状別がんの緩和ケア

執筆 檜山千春

那須赤十字病院 看護部 がん看護専門看護師

Ⅰ.はじめに

 せん妄は、入院患者に頻発する精神症状・病態であり、身体疾患の疾病状況を悪化させ、このために医療費を上昇させて社会資源への負担を増大させる1)と言われています。そのため、せん妄へのケアは重要な課題となっています。しかし、臨床においては、せん妄と認知症が混同されていたり、せん妄に対するケアの難しさを体験している看護師の話を聞きます。そこで、本稿では臨床でみられるような、せん妄の事例を用いて、アセスメントや具体的なケアについて考えていきたいと思います。

Ⅱ.事例の概要

70歳代 男性 Aさん
病名:肺扁平上皮がん 食道がん 化学療法後間質性肺炎

 Aさんは、食道がんによる放射線化学療法を施行されました。食道がんの治療後に肺の扁平上皮がん(以下肺がん)が見つかり、患者さんと家族の希望で化学療法を施行しました。しかし、肺がんの初回化学療法後に間質性肺炎を合併し、呼吸状態が急速に悪化したため患者さん、家族の希望でBSC(Best supportive care)の方針となりました。

 Aさんの身体的苦痛には、全身倦怠感、食欲不振(一日数口程度)、呼吸困難があり、食欲不振に対してステロイドの点滴、呼吸困難に対して塩酸モルヒネ注が施行されていました。Aさんは、ステロイド開始後も全身倦怠感は継続しており、食欲不振も続いていました。食事もむせることが多くなり、嚥下状態にもムラがある状態でした。さらに、夜間になると「買い物へ行く。お客さんが来ているから準備をする」などの言葉を話し、興奮してベッド柵を越えようとする行動が見られるようになりました。前述のような行動が伴うと、看護師との意思疎通も困難となり、点滴が身体に巻き付いたまま歩き出そうとする様子も見られため、看護師はブロチゾラムを与薬し睡眠の導入を促しました。しかし夜間の興奮は落ち着かず、不眠が生じたままで、妻が付き添いを希望することもありました。一方で日中は傾眠で、ベッド上で生活する時間が多くなりました。連日夜間の興奮があり、不眠も続いたため緩和ケアチームに介入依頼がありました。

Ⅲ.アセスメントとケア計画

Point①本当にせん妄か? せん妄に気づくことから始まる。

 そもそも、Aさんはせん妄なのでしょうか?

 せん妄のケアをするためにはせん妄であるかもしれないと気付くことから始まります。Aさんの状態は夜間に辻褄の合わない言動がみられたり、興奮や意思疎通が図れないなどの症状があります。さらに、日中は傾眠であり食欲低下も来しています。Aさんの既往に認知症はありませんが、既往に認知症がある方の場合では、「入院による環境の変化で認知症の症状が悪化した」とアセスメントすることもできます。そこで、一般的に認知症とせん妄の違いを振り返ります。また、低活動型のせん妄はうつ病との違いにも配慮が必要なため表1のような違いを理解する必要があります。Aさんの場合、夜間になると興奮などが見られていることから、日内変動があり、「お客さんが来ている」などの幻視を伴っています。また、せん妄とは、「脳の機能不全により意識変容を来した状態であり、疎通はある程度可能であるにも関わらず、辻褄の合わない言動があり、時に興奮や幻覚を伴う意識障害」のことをいいます2)。Aさんの出現している症状と照らし合わせると、Aさんが夜間せん妄を発症している可能性が高いとアセスメントすることができます。

表1 せん妄、認知症、うつ病の臨床症状の比較
せん妄、認知症、うつ病の臨床症状の比較
山内典子:がん看護 2015;20(5):513.を元に作成

Point② Aさんのせん妄の原因は何か?

 せん妄の原因には表2の3因子が挙げられます。

表2 せん妄の3因子
せん妄の3因子
井上真一郎:レジデントノート① 2019;20(15):2572.より転載

 井上3)は、せん妄を改善するためには直接因子と促進因子を取り除くことが必要だと述べています。Aさんの場合、原疾患として肺がんがあり、肺がんの治療ができることが重要ですが、Aさんの全身状態では肺がんに対する治療は非常にリスクが高い状況です。そのため、Aさんの直接因子を取り除くことは困難です。そこで、直接因子である薬剤と促進因子である身体的苦痛を中心にアセスメントしていく必要があります。せん妄は意識の障害であるため、薬剤によってせん妄が助長されることがあります。そこで、Aさんの使用薬剤を振り返り、中止、変更が可能なものについて検討します。

【Aさんの使用薬剤の検討】
①ステロイド
Aさんにとってステロイドは、全身倦怠感や食欲不振に対して使用されていたと予測されます。しかし、ステロイドを使用しても倦怠感の継続と食欲不振は続いており、効果が得られていないことがわかります。使用期間が不明であるため、一概には言えませんが、継続の必要性については医師、薬剤師も含めて相談が必要だと考えます。

②ブロチゾラム
ブロチゾラムは、ベンゾジアゼピン系薬剤に分類されています。ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬は意識水準を低下させるため、せん妄の原因となりうるので中止することが望ましいです2)。せん妄を発症している場合には、不眠だからと安易に指示の睡眠薬の内服を勧めずに、せん妄か不眠かのアセスメントをした上で適切な薬剤を使用することが必要です。

③オピオイド
Aさんは、呼吸困難に対して医療用麻薬(以下、オピオイド)の塩酸モルヒネ注を使用しています。オピオイドもせん妄を助長する薬剤の一つとして取り上げられていますが、Aさんに出現している身体的苦痛を楽にするためにはオピオイドが不可欠です。先述したように、せん妄の促進因子には身体的苦痛の改善も必要であり、Aさんの身体的苦痛の中には呼吸困難が含まれているため、呼吸困難を改善するためのケアは継続する必要があります。

【Aさんの全身状態】
 Aさんは、化学療法後に間質性肺炎も併発していること、呼吸状態の急激の悪化などから進行性の肺がんです。安静時にも呼吸困難があること、食欲低下などが生じているため予後予測ツールのPPI(Palliative Prognostic Index)4)での評価の結果、12.5点となります。PPIとは、がん患者の予後予測に用いられる指標であり、9点以上で予後が週単位と予測されます。PPIはあくまで指標ですが、Aさんの全身状態は進行性肺がんの終末期であるとアセスメントできます。終末期がん患者さんのせん妄の場合、根本的な原因を除去することが難しいなどの理由から、患者さん、家族ができる限り安楽に過ごすことができるよう支援することが必要となります。

表3 PPI
PPI
日本緩和ケア医療学会:3 治療とケアの実際.苦痛緩和のための鎮静のガイドライン 2010年版.2010より引用

Point③ 多職種で話し合う

 Point1、2でアセスメントした結果を、医師、病棟看護師、薬剤師、緩和ケアチーム担当看護師で話し合いをもち、以下の計画を立てました。

①ベンゾジアゼピン系薬剤はせん妄を助長するため中止し、薬剤師と相談し、リスペリドンを開始することとしました。Aさんは夕方になるにつれ興奮する傾向にあったため、Aさんが覚醒し、且つ興奮する15時頃に一度少量の水分でリスペリドンの内服を促すこととしました。また、睡眠前にリスペリドンとハロペリドールを追加しています。

②終末期のせん妄であるため、せん妄の完全な回復を目指すのではなく、患者の苦痛緩和を優先的に行うこととしました。呼吸困難に対し、オピオイドのベースアップを図り、呼吸困難に対して積極的にレスキューを使用していくこととしました。

③ステロイドは効果が得られていませんでしたが、中止については慎重にしたいという意見もあったため、中止はせずに、身体的苦痛の緩和を積極的に実施した後評価することとなりました。

④妻が来院した際に、全身状態が悪化していることによってせん妄が引き起こされていることを説明し、辻褄の合わない言葉を話すことは病気によって引き起こされていることを説明し理解を得ました。また、今後付き添いを依頼することがあること、医療者にいつでも相談して良いことなどを伝えました。

IV.ケア実践後に評価・アセスメントする

 Aさんは,治療開始後3〜4日間は興奮が落ち着き、夜間の睡眠が確保できるようになりました。薬剤変更後の患者さんの状態から、せん妄に対するケアは一時的に効果があったと判断します。しかし、数日経過した後より夜間せん妄は更に激しくなりました。終末期がん患者のせん妄は、完全に取り除くことは困難ですが、せん妄の治療を継続しながら、サイレースを追加したり、できるだけ抑制をしない生活を心がけ、看護室に近い部屋で過ごしていただくなどの工夫をしました。Aさんはせん妄を発症してから3週間程で亡くなりました。

V.おわりに

 せん妄はエビデンスが積み重なっておらず、未知な点も多くあります。そのため、臨床においては今後も困難を感じるかもしれません。しかし、せん妄によっていつもと異なる患者さんを傍で見ている家族にとっては辛い経験になります。私たち医療者は、適切なアセスメントとケアが提供できるよう知識を身につけていく必要があると考えます。

引用・参考文献

1)日本総合病院精神医学会 せん妄指針改訂班 石澤雄司,他:せん妄の臨床指針[せん妄の治療指針 第2版]日本総合病院精神医学学会治療指針1,星和書店,2015
2)上村恵一,小川朝生,谷向仁,船橋英樹:がん患者の精神症状はこう診る 向精神薬はこう使う,じほう,2015,p.60‐77.
3)井上真一郎:レジデントノート① 2019;20(15):2572.
4)日本緩和医療学会:苦痛緩和のための鎮静のガイドライン.(2019年2月1日確認)https://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2010/index.php

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