【連載】基礎からわかる! 胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤

胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤の看護

執筆 波多江 遵

榊原記念病院 CCU主任

目次

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胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤とは|分類、原因、症状、検査・診断、治療


大動脈瘤とは

 血管は内膜・中膜・外膜の3層からなります。大動脈瘤は何らかの原因で大動脈の内膜が弱くなり、内圧に負けて血管が拡張、または瘤状に大きく膨らんでくる疾患です。
 
 原因は動脈硬化、高血圧、感染、先天性疾患などさまざまです。加齢に伴い血管の弾力性が失われることで血流が悪くなり、心臓が収縮して血液を送り出す際の収縮期血圧が高くなることや、自律神経の働きが低下し、血管の収縮や拡張がうまくできなくなることもリスクとして挙げられます。発症年齢は70歳代が圧倒的に多く、続いて80歳代、60歳代となっています1)

 大動脈瘤は、横隔膜より上部を胸部大動脈瘤、横隔膜より下部を腹部大動脈瘤、瘤が横隔膜を跨いでいる場合は胸腹部大動脈瘤に分類されます。また、動脈瘤の構造によって、真性大動脈瘤、仮性大動脈瘤、解離性大動脈瘤に、さらに瘤の形状から、全体的に膨らんだ「紡錘状大動脈瘤」と、一部が突出した「嚢状大動脈瘤」とに分類できます(図)。

図 大動脈瘤の分類
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 大動脈瘤はほぼ無症状で経過することが多く、偶然に検査を行ったことで発見されるケースも少なくありません。胸部単純X線や超音波検査で判断することもできますが、一番確実なのはCT検査です。一般的な症状として疼痛がありますが、症状が出現するときは、破裂寸前もしくは破裂している可能性があるため、迅速な対応が必要になります。

 今回は大動脈瘤を発症した高齢者を例に、救急受診から緊急手術を迎えるまで、術後急性期、術後回復期のそれぞれに対して、看護のポイントを解説していきます。

救急受診から緊急手術まで:ポイントは急変回避

 前述のように、大動脈瘤はほぼ無症状で経過するケースが多く、ひとたび破裂すると命にかかわります。破裂による重症化や死亡を防ぐために、ポイントを押さえて、迅速かつ適切に対処することが重要です。

瘤の位置や大きさを把握しよう

 診断のためにはCT検査が必須となります。大動脈瘤の位置によって出現する症状はさまざまなため、正確に瘤の位置を把握しましょう。
 
 大動脈瘤は破裂することなく手術を受けられるかが重要になってきます。嚢状瘤のほうが破裂しやすく、上行大動脈瘤は6cm、下行大動脈瘤は5.5cm、そして瘤の位置が上行より下行大動脈にあるほうが破裂するリスクが高いといわれています1)
 
 症状の増悪や出現がみられた場合は、動脈瘤が拡大・破裂している可能性があるため、入院時の症状はしっかりと確認することが大切です。

【入院時に確認すべき主な症状】
<胸部大動脈瘤>
 気管や主気管支、食道の圧排による咳、嚥下障害、反回神経の圧迫による嗄声、胸痛、背部痛、血圧低下、上肢血圧の左右差や痺れ、脳梗塞様症状、上肢下肢血圧差(上肢>下肢)、下肢の対麻痺

<腹部大動脈瘤>
腹痛、腸管虚血症状(イレウス、下痢など)、下肢の疼痛、冷感

瘤の拡大・破裂を防ごう

 手術を受けるまでに重要なことは、降圧管理、脈拍数のコントロール、鎮痛および安静によって、瘤の拡大・破裂を回避することです。明確なエビデンスはありませんが、血圧の目標値を105~120mmHg程度に維持します。
 
 頻脈は心拍出量が増加し、瘤への負荷ともなるため、患者さんの普段の血圧、脈拍を把握し、下げ過ぎないように厳格に管理します。

患者さんに安心・安楽を提供しよう

 瘤の拡大による疼痛は、患者さんの安楽を損ないます。また、循環動態は安定しているものの破裂により疼痛を伴うことで、手術までに血圧が上昇し出血が増悪するリスクが高まります。そのため、早急に鎮痛します。疼痛評価としてNRS(numerical rating scale)を用いて、鎮痛薬の投与前後で評価します。
 
 注意しなければならないことは、鎮痛によって、明確な増悪の指標がなくなるということです。その他の症状に注意し、増悪の早期発見に努めます。

 疼痛や急激な環境変化により、高齢者は混乱しやすい状態になるため、ベットサイドから離れず、患者さんの訴えを傾聴します。その際、なるべく医療用語を使わず、理解しやすい言葉を用いて現状を把握できるようにします。
 
 また、処置が落ち着いたら家族にそばにいてもらい、安心できるような環境を整えます。安静が保てない場合は、患者さんの精神状態を評価し、医師と相談のうえ鎮静薬の使用を検討します。

術後急性期:ポイントは早期離床

 大動脈瘤の治療は人工血管置換術、ステントグラフト治療があります。どちらの術式にもメリット・デメリットがあります。高齢者にとって、適切な術後管理を行うことができれば、早期離床に繋がります。ADLが低下することなく、早期退院、社会復帰にも繋がるため、術式に応じた術後管理は重要になります。

【人工血管置換術】
 開胸もしくは開腹による手術です。切開創が大きく、術後の出血や鎮痛、創部の感染管理が重要となります。特に創部痛は、離床の遅れや呼吸器合併症の原因となるため、痛みの程度をアセスメントし、しっかりと鎮痛を行います。

 また、全身麻酔、脳分離を用いるため、脳梗塞を発症する可能性があります。覚醒状況と神経学的所見の異常の有無を早期に発見できるように努めます。血圧は出血、臓器灌流を考慮し、厳密に管理します。

【ステントグラフト内挿術】
 小切開によるカテーテル治療です。人工血管置換術と比較して切開創は小さく、低侵襲で手術を行うことができます。ただし、ステントグラフトによる側枝血管の閉塞リスクがあります。
 
 閉塞により、対麻痺や腹部臓器への虚血によるイレウスなどの合併症を認めることがあるため、覚醒後の下肢の神経学的所見や腹部症状を観察します。

術後回復期:ポイントは再発予防

 術後の状態が安定すればもとの生活に戻れますが、入院前の生活のままだと再発する可能性があります。大動脈瘤の多くは動脈硬化が原因です。動脈硬化を進行させるのは高血圧や脂質異常症、喫煙などのため、原因となる生活習慣を見直す必要があります。退院までに、患者さんや家族とともに生活習慣を見直して、協力し合える環境を整えていきましょう。

 また、再発時の症状を理解することで、早期の受診行動につながります。患者さんと家族で情報共有を行い、日々の状況を把握し合うよう促します。

引用・参考文献

1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告):大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版),p.14
2)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告):大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版),p.33-39

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