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【連載】最新情報がわかる! 学会・セミナーレポート

日本遺伝看護学会とは? 日本遺伝看護学会第18回学術大会を振り返って

取材 小笹由香

日本遺伝看護学会 理事/東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床試験管理センター 看護師長(助産師 看護学博士)

2019年9月28日(土)、29日(日)、東京・文京区の東京医科歯科大学鈴木章夫記念講堂で第18回日本遺伝看護学会学術大会が開催されました。今大会の大会長であり、日本遺伝看護学会の理事でもある東京医科歯科大学医学部附属病院の臨床試験管理センター看護師長の小笹由香さんに、今大会を振り返りつつ、学会や遺伝看護をとりまく課題などを伺いました。

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幅広い領域をカバーする日本遺伝看護学会

 日本遺伝看護学会は、1992年2月に発足した「遺伝に関する看護を考える会」、同年8月に設立された「日本遺伝看護研究会」を前身として、2005年9月に設立されました。会員数は212人(平成31年3月31日現在)と決して多くはありませんが、11名の理事・監事はほぼ全員が遺伝カウンセリングにかかわってきた臨床家で、活動内容も臨床に軸足を置いた学会といえます。

 学会設立の背景には遺伝医療の急速な発展があり、遺伝性疾患、家族性腫瘍、神経難病、出生前診断(NIPT)といった領域が対象となります。学会設立時は周産期領域を専門にしている理事が多く、NIPTや染色体異常の赤ちゃんを産む妊婦さんなど周産期の対応をすることが求められており、私自身も助産師としてそのような妊婦さんをケアしてきました。

 2018年にがんゲノム中核拠点病院・連携病院が認定され、がん遺伝子パネル検査が保険診療になるなど、がんゲノム医療体制の整備が急務となったことから、それまでの専門領域のみならず、がん領域の啓発・普及に携わることも多くなっています。

第18回学術大会のテーマ「つなげる・ささえる」に集約された思い

 「あなたの医療をつなげる・ささえる遺伝看護」という今大会のテーマには、さまざまな分野・施設の看護師、多職種の人たちがつながりあって、支えていく看護を改めて考えてほしいという思いが込められています。

 がんゲノムが急速に注目を集めたことで、対象となる患者さんとその家族はこれまであまりかかわってこなかった領域へも広がっていきます。今まで以上に施設間連携、多職種連携が重要になりますから、自分には何ができて、誰とつながったらいいのか、各人が自分の場所で考えていかなければ立ちゆかないのです。自分の領域で一生懸命やりつつ、ほかの人の領域と少しずつでも重ね合わせ、抜けのない、シームレスで、継続的なケアを行い、患者さんを支えていく必要があります。

 この思いが、学術大会のテーマである「つなげる・ささえる」という言葉にすべて集約されています。医師や歯科医師、認定遺伝カウンセラー、当事者である患者さん、新聞記者などさまざまな立場の人たちにご登壇いただいたのは、看護師の皆さんに、つながりあう必要がある人たちのことを知ってほしかったからです。

「つなげる・ささえる」を軸にしたプログラム構成

 第18回学術大会の参加者は、この学会として初めて200人を超えました。東京開催だったことも影響していると思いますが、がんゲノムの話題をきっかけに、遺伝看護について知りたいという看護師さんがそれだけ増えてきたということでしょう。がんゲノムに関する勉強会は多数開催されていますが、ほとんどが医師や研究者によるもので、看護に必要な知識が得にくいことから、さまざまな領域について網羅的に勉強してもらえるようにしました。

 「あなたの医療 ささえる つなげる」というシンポジウムでは、NIPTについて3人の方にご登壇いただきました。最初にお話してくださった患医ねっとの鈴木信行さんは、ご自身が二分脊椎という先天性疾患をもつ立場で活動されている方で、患者側からNIPTについてお話しいただくという大変画期的な内容になりました。

 「がんゲノム医療 つなげる ささえる」と題した最新トピックレポートでは、がん看護専門看護師、がんゲノム診療科のがんゲノム医療コーディネーター、遺伝看護専門看護師が登壇し、それぞれの担当領域について話すとともに、ゲノム医療における多職種との連携について紹介しました。この講演は日本医療研究開発機構(AMED)「国内完結型がんクリニカルシークエンスの社会実装と統合データベース構築およびゲノム医療人材育成に関する研究開発」との共催で、「看護職による看護職のための教育プログラム」の構築を目指した活動の一環となっています。

 2日目に行われた教育講演「あなたをささえる 医療情報のつたえ方」もかなりユニークな内容で、長年医療記事を書いている日本経済新聞社記者の前村聡さんに講演をお願いしました。がんゲノム検査が保険収載されることなど、報道されて初めて最新トピックについて知ることが少なくありません。今や医療者と患者さんが同じタイミングで新しい情報に触れることも多いことから、それらの医療情報がどのように収集され発信されているのか、医療安全の問題なども絡めて、情報を発信する立場で話してもらいました。

 このように「つなげる・ささえる」をキーワードにプログラムを構成し、具体的に自分たちで考えてもらえるような材料を用意しました。今大会をきっかけに、自施設に帰ってから何をするか、考えてほしいと思います。

変化に対応できる体制づくりが課題

 がんゲノム医療においては、遺伝子パネル検査が保険適用されたことで、がんゲノム医療中核拠点病院・連携病院には、「効果がある治療薬が見つかるかもしれない」という一縷の望みを抱く患者さんからの問い合わせも多くなりました。
 
 しかし、次世代シーケンサーを用いて遺伝子の網羅的解析を行ったとしても、原因遺伝子を特定できるのは15%程度に過ぎません。治療につながっても治療を完遂できない人なども含めると、85%の人たちはもといた病院に戻ることになりますが、その頃には中断していた緩和医療が行き届かないまま亡くなることもあります。

 このような患者さんや家族に、つながり・ささえるのも看護師の役割です。そのためには、がんゲノム医療についての十分な知識をもたなくてはなりません。学会としても、各地でがんゲノムの勉強会を開催するなどしてサポートしています。

 がん領域は標準治療が確立されているほか、専門看護師・認定看護師も多く、彼らが有する遺伝やゲノムに関する知識をもってすれば、患者さんへの対応も十分可能なこともあるかもしれません。しかし、認定遺伝カウンセラーだけがかかわる状況では、がんゲノムや遺伝性疾患、NIPTや染色体異常について悩む妊婦さんへの対応まで全てを行うのは難しく、このような状況に対応できる看護師、助産師の育成など体制づくりが必要になります。

看護教育を変えるための働きかけと社会に向けた情報発信を強化

 現在、当学会の理事たちが全国を飛び回って、がんゲノムに関する看護の勉強会を開いています。もちろん、難病や助産などの学会と共催し、ゲノムや遺伝に関する交流集会なども参画しています。
 
 どの領域も知りたいというニーズはありますが、教育できる看護職が少ないのも課題で、ベースとなる看護教育を変えていけるよう国に対して働きかけるなど、遅ればせながらロビー活動も少しずつ実施しています。また、積極的に社会に向けて情報を発信することの重要性も感じ、それぞれが活動しているところです。

 来年の第19回学術大会は佐賀で開催することが決まっています。今回「自分の施設でできること」を考えるための材料をたくさんお渡ししたつもりなので、来年の学会では、皆さんが実際に取り組まれたことを発表してくださることを期待しています。

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