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【連載】この人に聞く 訪問看護のいま・みらい

人々の希望を叶える訪問看護を極めていきたい|佐藤美穂子さん

解説 佐藤美穂子

公益財団法人日本訪問看護財団 常務理事

地域包括ケアシステムの構築が進むなか、訪問看護にはより多様な役割が求められるようになってきています。そのようななか、訪問看護をどのように捉えていけばよいのか、長きにわたり訪問看護に携わってきた公益財団法人日本訪問看護財団常務理事の佐藤美穂子さんにお話をうかがいました。


拡がってきた訪問看護のフィールド

佐藤美穂子さん

 大学の看護学科を卒業後、訪問看護を行っている病院に入職したことに始まり40数年、ずっと訪問看護とかかわってきました。訪問看護に憧れ、その世界に飛び込んで以来、訪問看護一筋でやってきましたが、飽きるということはありませんね。

 1991年の老人保健法等の一部改正で老人訪問看護制度が創設され、翌年から老人訪問看護ステーションの設置が始まりました。そして、1994年には健康保険法等の改正による訪問看護制度の創設により、その対象は全年齢層へと切り替わりました。

 2000年に介護保険制度(1997年に法律制定)のサービスに組み込まれたことで、訪問看護は居宅サービスの1つとして活用されるようになりました。それから20年、地域包括ケアシステムの構築とともに、介護にも医療にもかかわることができる訪問看護の役割は、より重要になってきていると感じます。

 介護保険では看護と介護の一体型サービスとして、療養通所介護が創設され、看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス:介護、看護、リハビリテーションなどの訪問サービス、各種通所サービス、短期入所などの2種類以上を組み合わせて提供するサービス)が誕生しました。医療保険では精神科訪問看護や小児訪問看護へのニーズが高まり、機能強化型訪問看護ステーション(常勤看護師の配置を手厚くし、重症者を受け入れ、24時間対応するなど一定の要件を満たす大規模訪問看護ステーション)の設置が推進されるなど、訪問看護のフィールドは多様化しています。

 しかしその一方で、一般の人たちにはまだまだ知られていないとも感じています。やはり、自分の身の回りで必要になって、あるいは実際に利用して、初めて訪問看護を知るというケースが多いですね。もっと訪問看護を知ってもらい、気軽に利用してもらえる方法を考えていく必要があるでしょう。まずは、慢性疾患や認知症の方の日常生活の健康相談など予防の面でも訪問看護が活用できることを、多方面に積極的にアピールしていきたいと思っています。
 

重症度にかかわらず生活を念頭に置いて支援

佐藤美穂子さん

 訪問看護は当初、「寝たきりの高齢者を対象に、介護に重点を置いた看護とリハビリテーション」といわれました。介護保険は高齢者の長期ケアの保険で、介護保険での訪問看護の対象者は要介護度4、5が多くなっていました。しかし、現在は要介護度1、2、3が多くなり、訪問看護の対象も変化しています。一方、医療保険の訪問看護を利用している方では、精神障がい者や15歳未満の小児、難病やがん末期の方、ターミナルの方などが多くなっています。人工呼吸器や留置カテーテルなどの医療機器を使用したまま在宅に移行する方が増えていること、国が地域での看取りを進めていることなども大きくかかわっているでしょう。

 一般的に介護保険法が優先ですから、介護保険の非該当者であって一定の疾病や期間において医療の必要な方が医療保険、療養が長期に必要な高齢者は介護保険によって訪問看護サービスが提供されることになります。
 
 訪問看護は「在宅で医療処置にかかわるケアを行うもの」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、訪問看護のミッションは「悪化させないこと」です。私たちは、「入院が必要でない慢性疾患や障がいのある方が、在宅で病態・症状を悪化させることなく生活できるように支援すること」が訪問看護の基本と考えています。ですから訪問看護師には、医療の専門知識を備えるとともに、その生活も含めて利用者を丸ごと看ていく姿勢が求められます。例えば、人工呼吸器を使用している利用者であっても、訪問看護師は、呼吸が楽にできる手段として日常的に人工呼吸器を使って生活をしている方と捉え、利用者の生活がベースにあることを念頭に置いています。そして、可能なかぎり希望する生活に近づけながら、より安全に安心して快適に過ごせるよう支援します。
 
 もちろん、医療面における病院との連携は必須です。例えば退院患者で亜急性期であれば、入院していた病院の看護師が行う訪問看護・指導を利用します。病院によるバックアップが得られやすい環境のなかで状態を安定させてから、その後を地域に密着した訪問看護ステーションが引き継いで、住み慣れた地域での生活を支援するといった連携が行われるような仕組みです。このような病院と訪問看護ステーションの看護師同士の連携も含め、保健・医療・介護、さらに福祉や教育にわたる連携の輪は、訪問看護を行ううえでは欠かせません。各方面との協力を裏付けに、地域の人々の生活を支援しているのです。

「生き方」も「逝き方」も支える仕事

佐藤美穂子さん

 時代とともに単独世帯や夫婦のみ世帯は増え続けており、世帯ごとの介護力は右肩下がりです。そのため、病気や障がいがあり社会的支援が必要な人は、訪問看護師をはじめ介護福祉士や理学療法士、作業療法士など地域の医療・介護職、ボランティアらが一緒になり、支えていかなければなりません。
 
 たとえ一人暮らしであっても、その人が望むなら最期まで在宅で暮らせるようにしていくことは訪問看護の目標でもあります。訪問看護による生活支援には、「生きる」に加えて「逝く」も含まれます。それは、最期のときまで、自分の力でよりよく生きる手助けをすること。そのために、苦痛の緩和など心身のケアはもちろん、環境を整えること、医師等との連携、家族など介護者支援も訪問看護師の仕事です。
 
 2008年に実施された「終末期医療に関する調査」によると、一般国民の60%は最期まで自宅で療養することを望んでいるという数字が示されています。しかし、家族の負担や急変の不安などがあるため、実現可能と考える人は6%にとどまっています。そして2017年の人口動態統計年表(厚生労働省)では、自宅で亡くなった方は全死亡数の13.2%で2000年から増えておらず、病院以外の施設で亡くなる方が少しずつ増えてきています。私たちは、自宅で最期まで過ごしたいと望む方に、できるかぎり長く寄り添っていきたいと思っています。
 
 人々が自ら望む「生き方」および「逝き方」を実現させるための大きな支えとなるのが訪問看護です。そのためには、価値ある看護を提供できるシステムをつくり上げていかなければなりません。訪問看護ステーションを経営的にも安定した職場にし、地域活動も行えるような規模の拡大と多機能化、ICT化によるネットワークの構築、訪問看護師の教育体制の充足など、今取り組むべきことはたくさんあります。
 
 訪問看護師は現在約5万人となっていますが、厚生労働省は2025年までに12万人必要と試算しています。看護職の皆さんには、ぜひ訪問看護師を志していただきたいと願っています。
 

訪問看護の魅力は看護の原点を実践すること

佐藤美穂子さん

 訪問看護が病棟での看護と異なる点は、治療優先ではなく療養生活の支援ということです。看護体制面においてもいつもそばにいるわけではありません。しかし、必要な医療・看護は継続しますし、オンコール体制があり、利用者は24時間見守られているという安心感をもって暮らしています。
 
 また、看護師はほぼ単独で利用者を訪問し、状態を判断してケアを実施しています。それだけに、訪問看護師には保健師助産師看護師法の改正で実施されている「特定行為に係る看護師研修制度」の領域別パッケージ研修「在宅・慢性期領域」を修了することは、より大きな自信になると思います。
 
 リアルタイムで多職種との連携が難しいという状況はまだあります。
 このように違いはありますが、訪問看護では、利用者と1対1で向き合い、病気や体調だけでなく精神面・生活面のケアも行う「マイナース」としてのかかわりをもつことができます。また、利用者のもてる力を見出して、引き出して、ご本人が発揮していただくことで、どんなささやかな進歩でも利用者と共有でき看護の成果を見ることができます。何よりも訪問を待っていてくれる人がいるということが自らを後押ししてくれます。これらに魅力を感じ、やりがいを感じている訪問看護師は多いでしょう。
 
 フローレンス・ナイチンゲールは、看護を「健康人でも病人に対しても生命力の消耗を最小限度にして、自然治癒力を高め、回復作用を助けること」としています。訪問看護は、まさにこのような看護の原点を実践することです。だからこそ、私は訪問看護を普及させる活動がやめられないのだと思います。



協力:公益財団法人日本訪問看護財団

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