【連載】循環器科で必要な看護技術を学ぼう!

ペースメーカーの看護|術前術後の観察項目・注意点・禁忌など

執筆 竹田悠人

公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院 ACU 副主任看護師

執筆 山形 泰士

公益財団法人 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院 CCU /呼吸療法認定士/NST専門療法士/集中ケア認定看護師

目次


ペースメーカーとは

 心臓には、刺激伝導系という自ら神経の役割も果たす特殊な心筋があります。刺激伝導系には、洞結節からの電気刺激を心臓の収縮・拡張を司る固有心筋(作業心筋、横紋筋)に伝え、拍動として全身に血流を循環させる役割があります。

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 ペースメーカーとは、刺激伝導系の障害によって起こる徐脈を治療する機器になります。一拍ごとに自己の心拍を監視し、心拍が欠落した際にペースメーカーで電気刺激を補い、心臓を拍動させます。

ペースメーカーの機能

ペーシング

 ペースメーカーの本体であるジェネレーターが電気刺激を出す機能のことをペーシング(Pacing)といい、心電図上ではスパイクとして記録されます。心房に刺激を与えて収縮させるのが心房ペーシング(A pacing)、心室では心室ペーシング(V pacing)と呼びます。刺激する電位が弱すぎると心筋は興奮せず収縮しません。心臓を興奮させるのに必要な最も小さい刺激の強さを閾値といいます。
 

センシング

 ジェネレーターが心筋の興奮を感知する機能のことをセンシング(Sensing)といいます。どの程度の電気刺激を感知するかの設定を感度と呼びます。

ペースメーカーの適応

 めまいや眼前暗黒感、失神などの脳虚血症状、および息切れなどの心不全症状を伴った洞不全症候群、徐脈性心房細動、高度房室ブロック、Ⅱ度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックの患者さんが適応となります。「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」をもとに、慎重に検討されます。

ペースメーカーの禁忌

 禁忌はMRIですが、最近ではMRI対応型ペースメーカーも多くなっています。MRIに対応している機種かどうかを確認することが重要です。

ペースメーカーの看護(観察項目・注意点)

ペースメーカー植え込み術前の注意点

 患者さんが安全・安心に手術を受けられるようにするためには、術前のかかわりが大切です。看護師が術前に確認すべき点や、注意を要する点について解説します。

情報収集
 術前の情報収集として、バイタルサイン、心電図波形、採血データ、アレルギー(造影剤や消毒薬など)の有無、末梢静脈ラインの部位、植え込み部の皮膚の状態および感染の有無、手術歴(左乳房切除)、植え込みに対する不安の程度、シャントの有無、義歯の有無、利き手などの確認が必要です。

末梢静脈ラインの留置位置
 ペースメーカーは原則、左前胸部に留置し、末梢静脈ラインは左前腕に留置します。左前腕に末梢静脈ラインを留置するのは、末梢静脈ラインから造影剤を投与し、腋窩静脈、鎖骨下静脈を確認するためです。また、リード挿入の際に補液を増量することで、リードを挿入しやすくなります。
 
 シャントが造設されている患者さんや手術後(特に左乳房切除)の患者さんでは、末梢静脈ラインを左前腕に留置できない場合があることから、確認が必要です。

COPD、SASの患者さん
 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の患者さんにも注意します。COPDの患者さんは高流量の酸素投与により高二酸化炭素血症になる危険性があり、SASの患者さんは皮膚切開時の鎮静薬の使用によって、気道狭窄を起こす可能性があります。

不安への対応
 ペースメーカー植え込み術に対して不安が強い場合は、共感・受容的な態度で傾聴し、その理由をアセスメントします。精神的動揺が激しい場合は、伝えられた事実を正確に理解し、受け入れることが困難となり、医療者が伝えたことが頭に入っていない場合もあります。その際は説明内容を補足し、再度、医師からの説明の機会をセッティングするようにします。

ペースメーカー植え込み術後の合併症とケア

 術後は合併症が生じる可能性があります。看護師は術後のケアにあたり、以下の点を観察・注意しましょう。

ポケット、創部の異常
 術前から低栄養がある患者さん、糖尿病の既往がある患者さんでは、免疫力の低下から感染する危険性が高いだけでなく、創部の治癒にも悪影響を及ぼします。創部の出血や血腫の有無とともに、炎症徴候として発赤、腫脹、疼痛、熱感の有無に注意して観察します。

リードの先端の位置ずれ
 リードの先端の位置ずれは、植え込み時のリード先端の固定が不十分である場合に起こります。

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 固定が十分でも、植え込み部の腕を肩より上に挙げるとリードの先端がずれてしまう可能性があります。鎖骨下にジェネレーターが埋まっており、腕を肩より上に挙げることで付随しているリードが引っ張られるためです。このようなことから、術後は胸部X線画像で位置を確認します。
 
 位置がずれるとリード先端による横隔膜の神経刺激が起こり、しゃっくりが持続することがあります。

ペーシング不全、センシング不全
 特にペーシング不全、センシング不全については、概要、原因、対策、心電図波形の特徴などを理解しておく必要があります。
 
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 術後はモニターを装着し、ペーシングスパイクの有無とそれに続く心電図波形を観察します。

心電図波形の特徴(VVIモードの場合)
正常 スパイクの後に幅広いQRS波が認められるzu3-1
ペーシング不全 3拍目はペーシングがされているにもかかわらず、スパイクの後にQRS波が出現していないzu3-2
センシング不全:アンダーセンシング 2拍目に自己心拍が出現しているが、センシングせず、ペーシングしてしまっているzu3-3
センシング不全:オーバーセンシング ノイズを自己波形として感知してしまい、心室ペーシングを抑制してしまっているzu3-4

日常生活の注意点と指導

自己検脈
 脈拍数を計ることにより、自己の心臓の働きがわかるだけでなく、身体の異常に気付くことにも繋がります。測定方法として、親指側の手首に右手の人差し指、中指、薬指の3本を合わせて軽く触れてみます。そのまま1分間測定した値が自己の脈拍数です。

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 ペースメーカー手帳で設定を確認し、脈拍が極端に少ない場合や症状が出現した場合は緊急で受診するように指導します。

創部の保護と観察
 ペースメーカーを植え込んだ部位の発赤、腫脹、熱感、疼痛、排膿の有無を入浴時などに観察するように指導します。また、自動車に乗る際はシートベルトが直接当たらないようにタオルで覆ったり、ショルダーバック類は逆の肩にかけたりして、創部を保護するように指導します。

運動と可動域
 ペースメーカーを植え込み後、リードが心臓内に固定されるまでには1~2カ月かかり、その間は植え込み側の上肢を動かすことに制限が生じます。入院中は植え込み側の腕を肩より上に挙げないようにしますが、退院後の日常生活においては特に制限はありません。手術後3カ月ぐらいから、手術側の腕を激しく動かすスポーツ(テニスやゴルフなど)も可能になります。更衣の際は健側から脱ぎ、植え込み側から着るようにすると着替えやすくなります。

電磁干渉の回避
 外部の電磁波の影響で雑音が入り、それが原因で装置が作動してしまうことを電磁干渉といいます。これは退院後の生活のなかでなるべく回避できるように支援していく必要があります。電磁波の影響を受けやすいとされる機器や場所についてまとめました。

影響を受けない 近づくとまたは使用すると影響が出ると思われるもの 影響を受けるもの・場所
・電子レンジ
・電気毛布
・電気コタツ
・洗濯機、冷蔵庫、掃除機
・電気バリカン
・電気カミソリ
・電気マッサージ器
・ヘアドライヤー
・テレビ、ラジオ、
・コピー機、ファクシミリ
・パソコン
・補聴器
・電車
・バイク
・電磁調理器
・IH機器
・ドリル、研磨機、電気のこぎり
・高出力トランシーバー
・携帯電話
・スマートキーシステム搭載車
・盗難防止器
・金属探知機
・体脂肪計
・全自動麻雀卓
※身体に直接通電する機器の使用は控える
※磁石をペースメーカー本体の上に置くことは控える
・誘導型溶鉱炉
・レーダーアンテナ・放送所アンテナ、中継基地
・不良電気器具
・発電設備
・大型モーター
・高電圧設備
・強力な磁場の発生する場所
・自動車のエンジンルームを覗き込む
・低周波及び高周波治療器
・磁気マット
・電気風呂
・体脂肪計

 
 IH機器、自動車のスマートキーに関しては、近づくと影響があるとされています。IH機器を使用する場合は、50~60㎝離れるように伝えます。低周波治療器、体脂肪計などは電磁波の影響を大きく受けるため禁忌とします。
 
 一般的な家庭用電気製品は使用してもおおむね問題ないとされていますが、表に挙げた機器の影響によりペースメーカーの作動に異常を感じた場合は、直ちにその場から離れるか使用中の機器の電源を切ることで、ペースメーカーの作動は通常は元に戻ります。

電池交換の指標

 ペースメーカーの電池の寿命は、患者さんの状態やペースメーカーの種類により異なります。ペースメーカーが作動しなくなると、脈拍の異常(設定の心拍数より極端な頻脈、徐脈)、失神、めまい、しゃっくりが止まらない、浮腫がひどくなる、体重が増加する、息苦しくなるなどの症状が出現することがあります。定期的な検診を促すとともに、万が一症状がみられた場合は、病院を受診するように指導します。電池の寿命が来た場合は、ペースメーカー本体(ジェネレーター)そのものを交換します。

参考文献

●日本循環器学会,他:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版),2019,p.6-9.(2020年4月30日閲覧)https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2018kuritanogami.pdf
●四津良平:IABP・PCPS・ペースメーカー・ICD看護マスターブック、HEARTnursing,2012、p.142-212.

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