1. トップ
  2. 看護記事
  3. 医療・看護技術から探す
  4. まとめ記事
  5. 貧血の看護|症状・観察項目・看護計画など

【連載】テーマごとにまとまった記事が読める! まとめ記事

貧血の看護|症状・観察項目・看護計画など

  • 公開日: 2020/7/1

貧血のメカニズム

 人間の生命維持には酸素が欠かせません。

 肺から取り込まれた酸素を全身の組織や臓器に運搬する役割を果たすのが、赤血球に含まれるヘモグロビンです。ヘモグロビンの主成分は、鉄分とタンパク質です。体内に存在する鉄分の量は3.5~5.0g(成人男性)で、そのうち2/3以上がヘモグロビンに含まれています。

 貧血の原因はさまざま(造血機能の低下、溶血亢進、材料となる鉄分の不足、失血など)ですが、代表的な鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することで起こります。

 通常、鉄分は食品から摂取されます。摂取された鉄分は、十二指腸で吸収されたあと骨髄に運ばれ、ヘモグロビンの産生に利用されたり、肝臓や脾臓に蓄えられます。そのため、何らかの原因で体内の鉄分が不足するとヘモグロビンの産生が障害されます。

 ヘモグロビンが低下し酸素の供給が滞ると、全身の組織や臓器は酸欠状態となり、動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状が起こります。

【関連記事】
貧血の指標となる赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン(Hb)の基礎知識
「貧血」は検査データがどのようなときの状態?

貧血の種類

 貧血は、原因により種類が異なります。主な貧血の種類と原因は次のとおりです。

鉄欠乏性貧血

 体内の鉄分が不足し、赤血球に含まれるヘモグロビンの産生が障害されることで起こります。鉄分が不足する主な原因として、鉄分の摂取不足(偏食、過度な節食)、鉄分の需要増加(成長期、妊娠・授乳期)、鉄分の喪失(月経、子宮筋腫、消化管出血など)が挙げられます。

再生不良性貧血

 骨髄に存在する造血幹細胞の減少に伴い、赤血球、白血球、血小板など血液細胞のすべてが減少する疾患です。再生不良性貧血の原因は先天性と後天性に大別され、後天性ではさらに、特発性(原因不明)、続発性(薬剤、化学物質、放射線、妊娠など)、特殊型に分かれます。

溶血性貧血

 赤血球の破壊(溶血)が亢進することで起こる貧血です。原因は先天性と後天性に分類され、先天性では遺伝性球状赤血球症、サラセミア(ヘモグロビンの合成障害)などが挙げられます。後天性は自己免疫性溶血性貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症などが原因として考えられます。

悪性貧血

 ビタミンB12の欠乏により生じる貧血で、巨赤芽球性貧血の一種です。胃の壁細胞に対して自己免疫機能が働くことで内因子が分泌されず、ビタミンB12の吸収が障害されることで起こります。

腎性貧血

 主に腎臓から分泌される、赤血球の産生を促進する造血因子(エリスロポエチン)が減少することで起こります。原因としては、慢性腎不全、急性腎不全、ネフローゼ症候群などの腎疾患が挙げられ、透析患者さんでもみられます。

【関連記事】
貧血の原因を特定!(小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血とは?)
【透析療法とは?】透析患者さんの血液検査データはココを見る!
造血幹細胞移植後、貧血の自覚がなく転倒してしまった患者さん

その他の貧血

高齢者の貧血

 65歳以上の約10%、85歳以上では約20%に貧血を認めるとされています1)

 高齢者の貧血の原因は、悪性腫瘍(特に胃がん、大腸がんなどの消化器系)、感染症、膠原病、慢性腎不全、血液疾患(骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫)、栄養障害など多岐にわたります。また、高齢者は多剤併用の割合が大きく、薬剤の影響も原因の1つとして挙げられます。

 精神神経症状(意識障害、認知機能障害など)、呼吸器・循環器症状(呼吸困難、狭心症、心不全など)、消化器症状(味覚障害、食思不振、口内炎など)といったように、多彩な症状を呈するのも特徴です2)

妊婦の貧血

 妊娠中の貧血の多くは鉄欠乏性貧血です。胎児や胎盤への鉄供給、循環血流量の増加により鉄需要が高まることで起こります。適切な対処をせずに貧血状態が続くと、胎児の発育不全や早産につながるおそれがあります。

術後貧血

 手術に伴う出血で、赤血球数が減少することで生じます。また、胃がん手術(胃切除、胃全摘出)後は、赤血球の産生に必要な鉄やビタミンB12の吸収が著しく低下するため、貧血のリスクが高くなります。

貧血の症状

 貧血では、赤血球数の減少やヘモグロビンが低下し、酸素運搬能が落ちることから、一般的に次のような症状が現れます。貧血の種類によって、特徴的な症状を認めることもあります。

一般的な貧血の症状

・顔面の蒼白
・眼瞼結膜
・倦怠感
・易疲労感
・動悸・息切れ
・頭痛
・めまい
・耳鳴り
・食欲不振

貧血の種類による特徴的な症状

貧血の種類 特徴的な症状
鉄欠乏性貧血 舌炎、口角炎、嚥下障害、匙状爪(スプーンネイル)、氷食症
再生不良性貧血 出血傾向、感染に伴う発熱
溶血性貧血 黄疸、胆石、脾腫、褐色尿
悪性貧血 末梢神経障害、味覚障害、意識障害、食欲低下

※腎性貧血は、一般的な貧血症状が現れることが多い

貧血の観察項目・アセスメント

 貧血は、不足している栄養素を補うことで改善されるものもありますが、重篤な疾患が隠れている場合もあります。原因も患者さんにより異なるため、既往歴や内服歴、生活状況など背景を確認・理解したうえで、身体所見や検査データを組み合わせてアセスメントを進めていきます。

主なアセスメント項目
・既往歴
・内服歴
・手術歴
・妊娠の有無
・バイタルサイン
・血液検査データ(RBC、WBC、Hb、Ht、TP、Alb)
・尿・便検査データ(潜血)
・月経の状態・量・期間
・急激に発症したか、緩徐に発症したか
・倦怠感、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、易疲労感、頭痛などの有無
・顔色、眼瞼結膜、爪、口腔・頬粘膜の色調
・出血傾向
・黄疸の有無
・食生活の状況(1日の食事回数、食欲、偏食の有無)
・飲酒状況(飲酒量、頻度)

【関連記事】
【貧血】検査値を組み合わせてアセスメント

貧血のケア

 ここでは、貧血のほとんどを占める鉄欠乏性貧血のケアについて解説します。

服薬指導

 鉄欠乏性貧血では、原因に対する治療と、鉄剤の服用で体内の鉄分を補う治療が行われます。

 通常、鉄剤の服用から1~2カ月でヘモグロビンは改善されますが、フェリチン(貯蔵鉄)が正常化するまでは服用を続けることが大切です。自己判断で服薬を中止せず、医師の指示を守って服用するよう指導します。

 また、鉄剤は嘔気・嘔吐、胃痛、下痢・便秘など消化器系の副作用が現れることがあります。症状が続く場合は用法・用量を変更したり、注射あるいは点滴による投与が必要になるため、気になる症状がみられたら相談するよう伝えます。

食事指導

 偏った食事やダイエットなどが原因で貧血を起こす患者さんもいます。主食・主菜・副菜を組み合わせたバランスのよい食事を1日3食取るよう指導します。レバーや赤身の肉類、魚、大豆製品、緑黄色野菜、海藻など、鉄分を多く含む食品を積極的に取るのもよいでしょう。

転倒・転落の防止

 貧血の患者さんは、めまいやふらつきによる転倒・転落のリスクがあります。めまいやふらつきを感じた場合は安静な姿勢をとり、急に立ち上がらないよう伝えます。

貧血の看護計画

 「術後貧血を起こしている患者さん」を例に看護計画を紹介します。

看護問題
#1治癒過程遅延のハイリスク状態
#2貧血による転倒・転落のハイリスク状態
#3貧血症状に伴うセルフケア不足
#4薬物療法に伴う副作用の出現

看護目標
・術後管理を通して血液データが改善する
・転倒転落などの事故が起こらない
・貧血症状が軽減する
・適切な服薬管理のもと薬物療法が行える

観察項目
・現病歴・既往歴
・術式
・術中の出血量
・輸血の有無及び輸血量
・栄養摂取状況
・バイタルサイン
・血液検査データ(RBC、WBC、Hb、Ht、TP、Alb)
・尿・便検査データ(潜血)
・創部の状態
・ドレナージによる排液量と性状
・眼瞼や爪の色、顔色
・尿量及び排泄回数
・排便の有無と性状
・貧血の自覚症状:倦怠感、動悸、息切れ、めまい、易疲労感、頭痛など
・鉄剤投与時の副作用:悪心・胃痛・便秘など
・in-outバランス
・食事摂取量
・一日の生活状況
・苦痛や不安の有無

ケア計画
・安静度に応じたベッドサイド環境の調整
・安楽な体位の調整
・保温
・創部ケア
・ドレナージ管理
・安静度や自覚症状にあわせた清潔ケアの実施
・移乗・移動介助
・服薬管理
・食事形態と内容の調整
・排便コントロール
・必要な休息が取れるようにスケジュールを調整
・傾聴

教育計画
・貧血の主症状を説明し、これらの症状を自覚した際は報告するよう指導する
・転倒転落のリスクを説明し、自覚症状に乏しい場合も安静度を守るように指導する
・急な体動を避け、めまいやふらつきなどの症状が出現していないことを確認してから次の動作にうつるよう指導する
・安楽な体位を患者さんと家族が把握し、適宜休息が取れるよう指導する
・服薬指導
・栄養指導

引用文献

1)Patel KV:Epidemiology of anemia in older adults. Semin Hematol 2008;45:210-7.
2)Ohta M: Management of Anemia in the Elderly. JAMA 2009; 52:219-2.

この記事を読んでいる人におすすめ

貧血の原因を特定!(小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血とは?)

原因はどのようにしてわかるの? 赤血球の大きさによる分類で原因を検索します 貧血はさまざまな病因で起こりますが、赤血球を作る素材が不足している、造血機能が十分に働かない、赤血球の破壊が亢進している(溶血)、出血しているなどがおもな原因です。 Hb

2017/6/27

「貧血」は検査データがどのようなときの状態?

症状の鑑別に必要な検査値について、よくあるギモンに答えます。 Q 「貧血」は検査データがどのようなときの状態? A ヘモグロビン(Hb)が低下している状態 貧血は、血算検査(CBC)において「ヘモグロビン(Hb)の値が低下した状態」と定義

2016/2/14

【貧血】検査値を組み合わせてアセスメント

関連する検査データを組み合わせて読むと、病態を正しくとらえることができます。 今回は、事例を使って「データを組み合わせて読む方法」を解説します。 事例 Bさん 71歳 男性 主訴:全身倦怠感、動悸 現病歴:最近、身体がだるくふらつく感じ

2014/9/17

第21回 貧血の指標となる赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン(Hb)の基礎知識

採血検査を行えば必ずと言ってよいほど測定される血算。その中には、貧血の指標となるものだけでも、「赤血球数」「ヘマトクリット」「ヘモグロビン濃度」と、いくつもの項目が存在します。これらのどれ1つが低下しても「貧血」と総称して間違いではありませんが、それぞれの値には異なった意

2015/9/30

カテゴリの新着記事

高血糖(糖尿病による)の看護|原因、症状、血糖コントロール、看護計画など

高血糖とは  高血糖とは、血液中のブドウ糖の濃度、つまり血糖値が高い状態を指します。①空腹時血糖値≧126mg/dL、②糖負荷試験(75gOGTT)2時間値≧200mg/dL、③随時血糖値≧200mg/dLのいずれかが2回以上認められた場合、あるいは、①~③のいずれかとHbA1

2022/11/22

アクセスランキング

1位

心電図でみる心室期外収縮(PVC・VPC)の波形・特徴と

心室期外収縮(PVC・VPC)の心電図の特徴と主な症状・治療などについて解説します。 この記事では、解説の際PVCで統一いたします。 【関連記事】 * 心電図で使う略語・用語...

250751
2位

SIRS(全身性炎症反応症候群)とは?基準は?

*この記事は2016年7月4日に更新しました。 SIRS(全身性炎症反応症候群)について解説します。 SIRS(全身性炎症反応症候群)とは? SIRS(全身性炎症反応...

250839
3位

【血液ガス】血液ガス分析とは?基準値や読み方について

血液ガス分析とは?血液ガスの主な基準値 血液ガス分析とは、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素など)の量を調べる検査です。主に、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pH, ...

249974
4位

人工呼吸器の看護|設定・モード・アラーム対応まとめ

みんなが苦手な人工呼吸器 多くの人が苦手という人工呼吸器。苦手といっても、仕組みがよくわからない人もいれば、換気モードがわからないという人などさまざまではないでしょうか。ここでは、人工呼...

250017
5位

陰部洗浄の目的・手順・観察項目〜根拠がわかる看護技術

*2020年4月16日改訂 関連記事 * おむつ交換のたびに陰部洗浄は必要? * 膀胱留置カテーテル 陰部洗浄・挿入・固定のコツ * 在宅療養におけるオムツ使用と陰部洗浄について知...

249675
6位

サチュレーション(SpO2)とは? 基準値・意味は?低下

*2019年3月11日改訂 *2017年7月18日改訂 *2021年8月9日改訂 発熱、喘息、肺炎……etc.多くの患者さんが装着しているパルスオキシメータ。 その測定値である...

249818
7位

アプガースコア(アプガー指数)

【関連記事】 ●新生児仮死における低酸素虚血性脳症の重症度分類|Sarnat分類 ●小児救急におけるトリアージと適切なアセスメント ●第1回 無痛分娩の麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説...

248441
8位

看護問題リスト・看護計画の書き方|看護記録書き方のポイン

ここでは一般的な看護記録を解説しています。また、看護診断名にNANDA-I看護診断を使用しています。実際の記録は院内の記録規定に従いましょう。 【関連記事】 *看護計画の「観察項目...

249544
9位

転倒転落リスクに対する看護計画|高齢で転倒の恐れがある患

高齢の転倒転落リスクに関する看護計画 加齢に伴い筋力や平衡感覚などの身体機能が低下することに加えて、疾患やそれに対する治療、使用する薬剤の副作用、入院環境などさまざまな要因で転倒や転落しやすくな...

313501
10位

バイタルサインとは|目的と測定の仕方、基準値について

*2019年3月13日改訂 *2020年4月15日改訂 *2022年4月28日改訂 バイタルサインとは  バイタルサインとは「生命徴候」のことで、「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「...

249791