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【連載】Newsのツボ

「働き方改革」が重点課題 ポイントで理解する2020年度診療報酬改定

  • 公開日: 2020/6/25

2020年度診療報酬の改定が行われました。改訂項目が多く、看護職としてどのような点に注目していけばよいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。そこで、これからの看護を考えていくうえでのポイントを踏まえて、診療報酬請求を専門に医療経営のコンサルテーションを行う株式会社ウォームハーツ代表取締役の長面川さよりさんに、今回の診療報酬改定についてお話をうかがいました。

●ポイント1:重点課題は「医師の働き方改革」

 2024年から「医師の働き方改革(以下、働き方改革)」がスタートします。医療機関の勤務医の時間外労働は原則として年960時間/月100時間(例外あり)以内、月の上限を超える場合には面接指導や就業上の措置がなされるなど、すべての医療機関で規制が行われることになります。それに向け、2021年度からは医療機関での医師労働時間短縮計画の策定の義務化も予定されています。2020年度診療報酬改定は、これらの動きをにらんだものとなりました。

 今回の改定の重点課題は、ずばり働き方改革です。改訂項目として「Ⅰ 医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」「Ⅱ 患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」「Ⅲ 医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」「Ⅳ 効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」という4つの柱が据えられていますが、働き方改革の視点からさまざまな見直し・評価がなされています。

 このように述べると、看護職のみなさんは自分にはあまり関係のないことのように思われるでしょう。しかし、医師の働き方改革に伴う役割分担(タスク・シェアリング/タスク・シフティング)により、看護職の役割や業務が変化する項目が少なくありません。看護職員・看護補助者がかかわる要件が新たに評価されたり、見直されたりしているほか、他職種の活用が評価されることで看護職の業務負担の軽減につながる内容もあります。

●ポイント2:救急医療体制整備と特定行為研修が看護職のキーワード

 2020年度診療報酬改定において、看護職に関係してくる主な改定項目を表にまとめてみました(表1)。2つの柱に位置づけられ重複しているものもありますが、実に多くの項目が看護職とかかわっていることがわかるでしょう。

 これらの看護職にかかわる内容において、特に注目したいキーワードは「救急医療体制整備」と「特定行為研修」です。いずれも、医師の働き方改革に伴う役割分担(タスク・シェアリング/タスク・シフティング)という観点から見直しが図られています。

[Ⅰ–1–① 地域の救急医療体制における重要な機能を担う医療機関に対する評価の新設]
 「地域医療体制確保加算」が新設されており、施設基準のなかに「医師と医療関係職種、医療関係職種と事務職員等における役割分担」が記載されました。これにより、静脈採血や入院説明など看護師が担っている役割が明確に評価される一方で、看護師が担っていた業務の一部が事務職員に分担されるものもあります。

[Ⅰ–1–② 救急医療体制の充実]
 「救急搬送看護体制加算」が新たに1と2に分けられ、加算1については、「専任の看護師が複数名配置されていること」が要件となります。3月31日疑義解釈(その1)で、対応が必要な救急患者が1名等複数名による対応が不要な場合には、ほかの業務に従事してよいと通知されています。医師の負担軽減に加え、看護師の救急外来の役割が評価されました。

[Ⅰ–2–② 医療従事者の勤務環境改善の取り組みの推進]
 総合入院体制加算の施設基準として、「新たに特定行為研修修了者である看護師複数名の配置と活用」が盛り込まれました。

[Ⅰ–3–② 麻酔科領域における医師の働き方改革の推進]
 麻酔管理料(Ⅱ)の算定要件のなかで、「医師の一部の行為を適切な研修を修了した常勤看護師が実施すること」を認めています。疑義解釈では、一部の医療行為を担える特定行為研修とは、次の①または②を示しています。①については6項目すべての研修が終了していることが要件です。

①「呼吸器(気道確保に係るもの)関連」「呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連」「動脈血液ガス分析関連」「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」「術後疼痛管理関連」「循環動態に係る薬剤投与関連」の6区分の研修
②「術中麻酔管理領域パッケージ研修」

 これらの改定は、働き方改革がベースにありますが、看護職をはじめとする医療職種間の役割分担でもあります。看護職以外にも、薬剤師については病棟薬剤業務実施加算の点数の引き上げ、管理栄養士については外来および入院栄養食事指導料での新たな加算の新設など、多くの職種にわたって見直しが行われています。

●ポイント3:専門性と経験・実績の両面で看護師を評価

 2020年度の改定でも、これまでの診療報酬改定と同様、認定看護師の配置が要件になっている加算がいくつかあります。また、その一方で、看護師としての経験を評価し、それを要件としている加算もいくつか出てきています。
*日本看護協会による認定資格

[Ⅱ-3-⑦ 多職種チームによる摂食嚥下リハビリテーションの評価]
 摂食機能療法の経口摂取回復促進加算を見直し、摂食嚥下支援加算に名称を変更して、摂食嚥下支援チームの設置を施設基準としています。チーム内には摂食・嚥下障害看護認定看護師の配置が要件となりました。

[Ⅱ-7-2-① 認知症ケア加算の見直し]
 認知症ケア加算が2段階から3段階に変更になり、加算2で専任の医師または認知症看護認定看護師*の配置に加えて、病棟における認知症患者に対するケアの実施状況を把握し、病棟職員に対して必要な助言等を行うことが要件となりました。認知症ケアチームが要件である加算1が難しい医療機関においても、算定が可能になったことになります。専門の看護師による病棟職員への教育等の役割が評価されたものと考えます。

「Ⅱ–4–② 移植を含めた腎代替療法情報提供の評価」
 腎代替療法指導管理料が新設され、「医師と腎臓病患者の看護に従事した3年以上の経験を有する専任の看護師」が指導・相談を行うことが要件です。

[Ⅲ–1–⑲ 排尿自立指導料の見直し]
 新設された排尿自立支援加算で、施設基準となっている排尿ケアチームのメンバーに、「下部尿路機能障害のある患者の看護に従事した3年以上の経験があり、所定の研修を修了した専任の常勤看護師」が含まれています。

 このように、診療報酬上でも専門性と実績の両面から看護師を評価する項目が増加しています。

●ポイント4:ICT、AI、IOTの活用を評価

 診療報酬においても、ICT(information and communication technology:情報通信技術)の活用が図られ、2018年度改定から情報通信機器を用いたカンファレンス等が算定されるようになっています。2020年度改定ではさらに活用を推進しようとする動きがあります。

[Ⅰ–4–② 情報通信機器を用いたカンファレンス等の推進]
 感染防止対策加算1・2、入退院支援加算1、退院時共同指導料2、在宅患者緊急時等カンファレンス料、在宅患者訪問褥瘡管理指導料、訪問看護療養費における在宅患者緊急時等カンファレンス加算において、「やむを得ない事情でない場合」でも情報通信機器によるカンファレンスが実施可能となりました。

「Ⅰ–2–⑤ 夜間看護体制の見直し」
 要件に、「ICT、A I(artificial intelligence:人工知能)、IOT(internet of things:モノのインターネット)等の活用により看護職の業務負担軽減を行っている」という内容が含まれています。IOTとは、モノをインターネットにつないで情報を収集したり、操作したりすること。体位変換が自動で行えるベッドやバイタルサインを自動測定する機器などがそれに当たります。さらに、3月31日疑義解釈(その1)では、具体的にどのようなものを活用することが想定されるかの問いに「看護記録の音声入力、AIを活用したリスクアセスメント、ウェアラブルセンサ等を用いたバイタルサインの自動入力等が例として挙げられています。

●ポイント5:看護を見直すヒントがある

 診療報酬における加算の内容や要件を知っておくことにより、日々の皆さんの業務が対価(評価)に反映されることや日常看護の新たな視点に結びつくことは少なくありません。その内容を丁寧にみていくと、以下のような気づきがたくさんあるでしょう。看護職として行ってきた業務の1つ1つが評価され、算定に結びつくことは、看護のプロとしての自信にもつながるのではないかと思います。

[Ⅱ-3-⑦ 多職種チームによる摂食嚥下リハビリテーションの評価]
 対象とする患者の規定が外され、より広い患者に適用されることになって、支援の機会が増えました。また、これまで何気なく行ってきた口腔ケア等の間接訓練や食事介助等の直接訓練、食形態の調整依頼、嚥下しやすいような頸部角度のポジショニング調整などを、多職種共同による摂食嚥下支援計画書に組み込むことは、支援効果を上げることにもつながると思います。

[Ⅲ–1–⑥ せん妄予防の取り組みの評価]
 新設されたせん妄ハイリスク患者ケア加算では、せん妄のリスク因子の確認と対策のためのチェックリストの作成が必要です。予定入院患者についてのリスク因子の確認を、入院時支援加算での情報収集・評価と併せて行うことができれば、両方の加算を算定することができます。看護業務の効率化も図られることになります。

 医師の働き方改革がスタートする2024年度までの間、医療機関には、医師の業務負担を減らすだけでなく、看護職をはじめとする各医療職種を有効に生かせる組織づくりが求められることになります。同時に、目指す組織で活用できる医療職種の育成も重要になります。この4年間は、組織の動きに合わせ、看護職のみなさんが自らのキャリア形成を考えるよいチャンスになるといえるでしょう。

表1 2020年度診療報酬改定で看護職に関連する主な項目
2020年度診療報酬改定で看護職に関連する主な項目
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