【連載】プレスリリース

飢餓状態の細胞がオートファジーを長時間継続させる仕組みを解明

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~ 癌治療の標的となりうるタンパク質の関与を発見 ~

 順天堂大学大学院医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センターの小笠原裕太研究員、藤本豊士特任教授、および名古屋大学大学院医学系研究科の大崎雄樹准教授らの共同研究グループは、外部からの栄養の摂取が制限されている飢餓状態の細胞において、オートファジー(*1)が長時間にわたり継続されるメカニズムを解明しました。

 オートファジーは、自己成分を分解して生存に必要な分子を作り出す仕組みで、飢餓状態におかれた細胞の生存を助ける働きがあります。体内の癌細胞はこの働きを利用して、血液による栄養供給が少ない環境でも生き延びる可能性があると考えられています。しかし飢餓が長期に続く場合、オートファジーを継続させるために必要な生体膜の脂質がどのように供給されるのかは不明でした。今回研究グループは、オートファジーで分解された自己成分から作られる脂肪滴(*2)にCCTβ3(*3)というタンパク質が集合して活性化されることにより、生体膜脂質の合成が促進され、オートファジーの継続が可能になることを見出しました。さらにCCTβ3を欠く癌細胞は長期飢餓時のオートファジー活性が低く、生存率が著しく低下することも明らかにしました。本成果はオートファジーの基本的なメカニズムの1つを解明することにより、CCTβ3が癌治療の標的となりうる可能性を示したものです。本論文はNature Communications誌のオンライン版に2020年9月8日付で公開されました。

本研究成果のポイント
・オートファジーの長時間継続にはCCTβ3というタンパク質が関与
・CCTβ3を欠く癌細胞は長期飢餓時の生存率が著しく低下
・CCTβ3は癌治療の新たなターゲットになる可能性

背景
 オートファジーは細胞が自己成分を分解する現象で、様々な疾患を防ぐ生態防御の機能を持ちます。オートファジーの異常は癌や神経変性疾患など様々な疾患に関連することが知られており、そのメカニズムを理解することは医学の重要な課題となっています。飢餓状態の細胞ではオートファジーが活性化し、自己成分を分解して生存に必要なアミノ酸などの分子が作られます。しかし多くの研究ではごく短時間の飢餓で誘導されたオートファジーを観察しており、より長い期間、たとえば数日にわたって飢餓が続く場合にオートファジーがどのように継続されるのか、特にオートファジーに不可欠な生体膜の脂質がどのように供給されるのかはよくわかっていませんでした。そこで、本研究では生体膜の主要な脂質であるホスファチジルコリンに的を絞り、最長3日間飢餓状態においた細胞を用いて、どのようにホスファチジルコリンが供給されるのか、またその産生がどのような仕組みで長期間維持され、オートファジーを継続させるのかを解明することを目的として実験を行いました。

内容
 オートファジーによる自己成分の分解には、オートファゴソーム(*4)という生体膜構造の形成が不可欠です。本研究では、生体膜の主要な脂質であるホスファチジルコリン(以下PCと略)について、新たに合成されたものだけを標識する技術を用いてオートファゴソームを調べました。その結果、オートファゴソームには新たに合成されたPCが非常に効率的に取りこまれること、そしてPC合成の継続がオートファジー活性の維持に必要であることが明らかになりました。PCの合成はCCTという酵素の活性によって調節されることが知られていますが、本研究では3種類あるCCTのどれが重要なのかを検討し、CCTβ3と呼ばれるタイプがオートファゴソーム形成に関わることを明らかにしました。CCTには、細胞質に浮遊している状態では活性が低く、何らかの膜構造に結合することによって活性が高まるという性質があります。長時間オートファジーが続くと、自己成分の分解で遊離された脂質は脂肪滴として一時的に蓄えられますが、興味深いことにCCTβ3はこの脂肪滴に結合して活性化されることが分かりました。そこで、長時間飢餓状態におかれた細胞におけるCCTβ3とオートファジーの関連を調べたところ、脂肪滴の形成を阻害したり、CCTb3量を減少させるとオートファジーが抑制され、逆にCCTβ3量を増加させるとオートファジーが活性化されました。さらに骨肉腫由来の癌細胞では、CCTβ3を欠損させると長期飢餓時のオートファジーが抑制されるとともに、細胞の生存率が著しく低下することが明らかになりました。
 
 以上の結果から、長期間飢餓状態におかれた細胞では、オートファジーによる自己成分の分解が脂肪滴形成とCCTβ3活性化を引き起こすことにより、さらなるオートファジーの継続に必要なPC合成の活性化をもたらすことがわかりました。このメカニズムによってオートファジーが継続することで、長期飢餓時にも癌細胞の生存が可能になっていると考えられます(図1)。

今後の展開
 今回、研究グループは長期間飢餓におかれた細胞でオートファジーが継続する仕組みを解明しました。体内の癌細胞は栄養分の少ない環境でも生き延びることができますが、それにはオートファジーが関与すると推測されます。今回の結果は、癌細胞の生存にオートファジーが関わる仕組みを解明し、CCTb3の働きや脂肪滴形成を阻害することにより、癌細胞の増殖を抑えられる可能性を示しました。今後、このメカニズムを標的とする薬剤を開発することで、新たな癌治療への応用が期待されます。

用語解説
*1 オートファジー: 細胞が自己成分を分解する現象。自食作用とも呼ばれる。
*2 脂肪滴: 細胞内に存在する脂肪の塊。過剰な脂質を貯蔵する機能がある。
*3 CCTβ3(CTP;phosphocholine cytidylyltransferase β3): 生体膜の主要な脂質であるホスファチジルコリンの合成に関わる酵素。
*4 オートファゴソーム: オートファジーの際、自己成分を取り囲む袋状の構造。生体膜でできている。

原著論文
本研究はNature Communications誌でオンライン公開されました(2020年9月8日付) 。
タイトル: Long-term autophagy is sustained by activation of CCTβ3 on lipid droplets
タイトル(日本語訳): 長期オートファジーは脂肪滴でのCCTβ3の活性化により維持される
著者: Yuta Ogasawara1, Jinglei Cheng2, Tsuyako Tatematsu2, Misaki Uchida2, Omi Murase2,Shogo Yoshikawa2, Yuki Ohsaki2, and Toyoshi Fujimoto1
著者(日本語表記): 小笠原裕太1)、程晶磊2)、立松律弥子2)、内田岬希2)、村瀬桜波2)、吉川翔吾2)、大崎雄樹2)、藤本豊士1)
著者所属:1) 順天堂大学医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センター 分子細胞学分野、2) 名古屋大学医学系研究科 分子細胞学分野
DOI: 10.1038/s41467-020-18153-w

本研究はJSPS科研費JP15H05902, JP17K15545, JP18H04023, JP19K16474の支援を受けて実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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