【連載】看護師のための経腸栄養講座

第10回 外科手術と経腸栄養 -周術期経腸栄養療法-

監修 日本コヴィディエン株式会社

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【目次】


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経腸栄養(経管栄養)とは|種類・手順・看護のポイント


まとめ

1.高度な低栄養状態の患者は、手術を遅らせても、10-14日の術前の栄養管理を行うことが推奨される。
2.生体の免疫能や防御能を高めるとされる特定の栄養素(n-3系不飽和脂肪酸、アルギニン、グルタミン、核酸など)が強化された経腸栄養剤(immune-enhancing diet: IED, もしくはimmune modulating enteral diet: IMD)を用いて、臨床的アウトカムの改善を目的とする栄養療法がimmunonutritionである。感染性合併症発生率の減少(約50%程度)、在院日数、抗生物質使用量、人工呼吸管理期間、多臓器不全の減少、などの効果がある。
3.術後、経口摂取が1週間以上にわたり制限されるような侵襲の大きな手術を受けた場合、術前より低栄養状態のある場合、術後合併症が発生した場合に、術後の積極的な栄養管理が必要となる。
4.術後早期経腸栄養は、静脈栄養に比較し、合併症の減少や入院期間野短縮が期待できる。
5.ERASとは、北ヨーロッパを中心に始まった、早期回復のための周術期管理の包括的プロトコールである。手術における安全性向上、術後合併症の軽減、早期回復、術後在院日数の短縮、コスト低減を目指しておこなわれ、特に大腸がん術後で臨床的効果が検証されてきた。


1、術前栄養管理と経腸栄養

1) 術前栄養管理の必要性

 低栄養患者が手術を受ける場合、術後の合併症の発生率や、死亡率が高く、入院日数も増加し、コストもかかります。14日以上の経口摂取の減少は術後の死亡率が高くなります。そのため、高度な低栄養状態の患者は、手術を遅らせても、10-14日の術前の栄養管理を行うことが推奨されています。

 術前栄養療法に必要な時間は、生理的な機能を回復させるためには4-7日間、さらに体内タンパク質の回復を目標とした場合は7-14日の栄養療法が必要と考えられています。 ESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)ガイドライン(ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition including organ transplantation, 2006)では、術前の栄養管理をおこなう具体的な適応として、以下の場合となっています1)

 ・6か月で10-15%以上の体重減少がある場合
 ・BMI<18.5Kg/m2の場合
 ・SGA(主観的包括的評価)がグレードC(高度低栄養)の場合
 ・血清アルブミン<3.0g/dlの場合(肝臓・腎臓機能異常は除く)

 術前栄養管理の方法としては、原則的には経口を基本とします。しかし、通常の食事摂取が困難な場合には経口補助栄養(ONS:oral nutritional supplements)として経腸栄養剤や濃厚流動食を経口摂取します。それでも、上記の方法が十分にできない場合には、経管栄養、それも難しければ静脈栄養とします。

2) immunonutrition

 生体の免疫能や防御能を高めるとされる特定の栄養素(n-3系不飽和脂肪酸、アルギニン、グルタミン、核酸など)が強化された経腸栄養剤(immune-enhancing diet: IED, もしくはimmune modulating enteral diet: IMD)を用いて、感染を予防、入院期間の短縮、死亡率の低下などの臨床的アウトカムの改善を目的とする栄養療法をimmunonutritionと呼びます。(病態別栄養剤、immunonutritionを参考のこと)。

 ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)ガイドラインによると、対象患者は、待機的な消化器手術症例で、

 [1]中等度から高度の栄養障害(血清アルブミン値<3.5g/dl)を伴う上部消化管手術症例
 [2]高度の栄養障害(血清アルブミン値<2.8g/dl)を伴う下部消化管手術症例

 となっています。

 またさらに、それに加えて、栄養障害のない消化器手術症例患者にも、栄養障害患者同様に効果が確認されています1,2)。IEDの投与方法は、待機手術症例に術前5-7日、1日1000mlを経口投与します。これに加えて、術後にも、早期経腸栄養として5-7日用いることも行われます。栄養障害のない患者では、術前投与だけでも効果が期待できるとされています。

 Immunonutritionの期待される効果としては、

 [1]感染性合併症発生率の減少(約50%程度)
 [2]在院日数、抗生物質使用量、人工呼吸管理期間、多臓器不全の減少

 などがあげられます3)

 重症敗血症状態にIEDを投与すると死亡率を増加させる可能性があることが報告され、アルギニンによる過剰な炎症反応が原因ではないかと考えられています4)。敗血症状態でのアルギニン含有IED投与には注意を払う必要があります。

2、術後栄養管理と経腸栄養療法

1) 術後の積極的な栄養管理の必要性

 どのような症例に、術後の積極的な栄養療法が必要なのでしょうか?一般的に、以下のような症例に対し術後の積極的な栄養管理を行います。

 ・術後、経口摂取が1週間以上にわたり制限されるような侵襲の大きな手術を受けた場合
 ・術前より低栄養状態のある場合
 ・術後合併症が発生した症例

 また、ESPENのガイドラインでは、以下のような場合に周術期の栄養療法(経腸栄養や静脈栄養)が遅れることなく行われることが推奨されています1)

 ・周術期に1週間以上の絶食となる場合
 ・周術期に経口摂取量が必要エネルギー量の60%以下の状態で10日間以上続く場合

2) 術後異化亢進と術後必要エネルギー

 術後は、生体が必要とするエネルギーや免疫応答や創傷治癒に必要なエネルギーを得るために、生体内では異化が亢進します。そのため、以前は、術後の異化亢進を改善する目的で高カロリーの投与が行われてきましたが、現在はその反省期となっています。

 術直後の異化亢進は手術侵襲に対する生理的な反応で、サイトカインなどにより引き起こされます。そのため、術直後はいくらカロリーを投与しても、この代謝反応を異化から同化へと逆向きに戻すことは困難と考えられます。筋タンパク質が崩壊し、エネルギー源として使われ、外部からの栄養は補助的に過ぎません。また、術直後の高エネルギー強制栄養は、血糖上昇をまねき、感染のリスクも高めます。

 術後におけるエネルギー必要量は、35kcal/kg/dayを最大限と考えて投与すべきと考えられるようになりました。術後などの熱量測定などから、現在では、術直後(72-96時間まで)においては、さらに少な目の20-25kcal/kg/dayを上限とするべきと考えられます。

 これ以上のエネルギー投与はoverfeedingとなり、生体に対して悪影響をおよぼす可能性があります。また、術後のたんぱく質必要量も、手術の侵襲の程度により異なりますが、一般的には1.2-1.5kcal/kg/日程度と考えられます。

3) 術後の栄養投与経路

 原則的には経腸栄養・経口栄養を第一選択とします。しかし、消化管が安全に使用できない場合は静脈栄養を行います。周術期の経腸栄養の禁忌は以下となり、静脈栄養の適応となります。

 ・イレウスや腸の閉塞
 ・消化管の虚血

 術後の必要カロリーを経腸栄養だけでカバーできないことを経験しますが、周術期に経腸栄養で必要カロリーの60%以下しか投与できない場合は、静脈栄養との併用を考慮すべきです1)

4) 術後早期経腸栄養

 早期経腸栄養の定義は「外科手術、外傷、熱傷などの侵襲後、24時間もしくは36時間以内に経腸栄養を開始すること」とされることが一般的です(経腸栄養の特徴と適応、早期経腸栄養の項目参照)。

 早期経腸栄養は術後絶食と比較し、生存率が良好である。術後合併症、在院日数も減少傾向がある。早期経腸栄養は36時間以降に経腸栄養を開始した場合に比べて感染性合併症が約50%減少し、入院期間も短縮すると報告されています5)。静脈栄養に比較して、早期経腸栄養は感染性合併症が少ないという多くの報告があります6,7)

 また、入院期間や非感染性合併症も減少するという報告もあります。しかし、多くの報告で、死亡率には差を認めていません。術後早期経腸栄養の適応は、術後早期に経口栄養ができない場合で、以下のような患者です。

 ・頭頸部および消化器がんの手術後 ・重傷の外傷 ・手術時に明らかな低栄養のある場合  ・10日間以上の期間、必要エネルギーの60%以下しか摂取できない場合

 術後、実際に早期経腸栄養を行うには、術後管理に使用する経腸栄養カテーテルの留置が必要となります。経腸栄養カテーテルの留置の方法は以下のようです(図1,2)8)

腹部手術時の空腸瘻造設の方法
(図1)腹部手術時の空腸瘻造設の方法

胃全摘・Roux-en Y吻合時の経鼻的栄養カテーテル留置法
(図2)胃全摘・Roux-en Y吻合時の経鼻的栄養カテーテル留置法

 ・経腸栄養カテーテル先端は空腸に留置する。
 ・早期経腸栄養の対象例は[1]空腸瘻をNCJ(needle catheter jejunostomy)により術中に造設するか(図3-1,3-2)、[2]経鼻空腸カテーテルを術中に留置する。  ・上部消化管に吻合を行う場合は、吻合の肛門側に経腸栄養カテーテルの先端を留置する。

手術時に用いるneedle catheter jejunostomy(NCJ)キット
(図3-1)手術時に用いるneedle catheter jejunostomy(NCJ)キット

胃全摘時のNSJキットを用いた空腸瘻造設
(図3-2)胃全摘時のNSJキットを用いた空腸瘻造設
①Roux-en Y吻合野Y脚より穿刺針を挿入 ②外套に沿ってカテーテルを吻合部を超えて留置 ③カテーテルを腸に固定して、体外に引き出す ④空腸瘻の部分の空腸と腹壁を縫合する ⑤出来上がったところ

 術後早期経腸栄養の経腸栄養投与法は術後24時間(もしくは36時間)以内に経腸栄養を開始します。経腸栄養剤は標準タイプの半消化態栄養剤が一般的ですが、場合によっては消化態栄養剤、成分栄養剤、IED(immuno-enhancing diet)を用いることもあります。

 経腸栄養注入ポンプを用いて少量から持続投与を開始します。10-20ml/時間の速度で開始し、目標エネルギー量に4-7日で達するように投与法を設定します。著者は、術翌日の朝(24時間以内)から、標準的な消化態栄養剤を用いて、注入ポンプで10ml/時間から開始し、20, 40, 60ml/時間と24時間ごとに漸増する方法をとっています。(表1)

術後早期経腸栄養のスケジュールの例
(表1)術後早期経腸栄養のスケジュールの例

 この術後早期経腸栄養療法の連続25例を検証したところ、スケジュール通りに行えたのは、21例(86%)でしたが、一時的に速度を調節し、経腸栄養を続行できたのは、24例(94%)で、静脈栄養への移行が必要だったのは1例(4%)のみでした。
ちなみに著者が術後早期経腸栄養で消化態栄養剤を使用しているのは、タンパク質が窒素源の半消化態でみられるカード化によるカテーテル閉塞が起こらないからです。

 術後早期経腸栄養の合併症には、[1]カテーテルによる機械的合併症として、腸閉塞(カテーテル周囲の癒着や内ヘルニアによる)、カテーテル閉塞、カテーテルの位置異常、事故(自己)抜去、腸管壊死、pneumatosisintestinalis、などがあり、[2]経腸栄養による合併症として腹部膨満、腹痛、下痢などが挙げられます。

 Bozzettiらは、消化器がん術後の早期経腸栄養と静脈栄養の比較を行い、術後合併症と入院期間は経腸栄養群で有意に少なく、経腸栄養の方がコストもかからないことを報告しています9)。しかし、栄養療法による有害事象は下痢など、経腸栄養群で多く、約9%の症例で経腸栄養から静脈栄養への移行が余儀なくされています。

ERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコールと周術期栄養管理

 ERASとは、北ヨーロッパを中心に始まった、早期回復のための周術期管理の包括的プロトコールです。手術における安全性向上、術後合併症の軽減、早期回復、術後在院日数の短縮、コスト低減を目指しておこなわれ、特に大腸がん術後で臨床的効果が検証されてきました1,10)。本邦でも行われるようになり、他の疾患の周術期管理にも用いられるようになってきています。

 ERASプロトコールの内容(図4)は以下のようなもので構成されています。

ERASプロトコールの主な要素
(図4)ERASプロトコールの主な要素
 ・手術後の回復を促進し早期に通常の状態に戻すこと
 ・手術の侵襲を最小限にする術式の選択
 ・早期経口摂取の促進と静脈栄養の早期中止
 ・早期離床
 ・十分な疼痛管理 など

 ERASプロトコールの中で、栄養管理に関する項目は以下のようです。

 ・術前の絶食期間を避ける
 ・術後経口栄養をできるだけ早く開始する
 ・術後血糖コントロールを徹底する
 ・手術ストレスに関連した異化亢進や消化管機能障害を起す要因を排除する

術前絶食の短縮に関しては、術前の深夜からの絶食は必要がないことが強調されています10)。誤嚥のリスクのない術前患者は、麻酔2時間前までclear fluidを飲むことは問題なく、固形食は麻酔の6時間前までの摂取が許可されます。
とくに、ESPENでは、メジャーな手術を受ける患者に手術前夜(800ml)と手術2時前まで(400ml)に炭水化物飲料の摂取を推奨しています。

 早期経口栄養に関しては、一般的には、術後のONSまたは食事の経口摂取は手術の直後から可能であるとされています。特に下部消化管手術においては早期経口栄養が推奨されています。

 経口摂取は、手術の種類や患者の状態により個別に配慮される必要があり、上部消化管手術後に関してははっきりしたエビデンスはありません。ESPENでは大腸切除患者の大半は手術の数時間後からclear fluidを含めた経口摂取が可能であるとしています1)

文献

1)Weimann A, et al: ESPEN Guideline on Enteral Nutrition: Surgery including organ transplantation. Clin Nutr 25: 224-244, 2006
2)Graga M, et al: Preoperative oral arginine and n-3 fatty acid supplementation improves the immunometabolic host response and outcome after colorectal resection for cancer. Surgery 132: 805-814, 2002
3)Waitzberg DL, et al: Postsurgical infections are reduced with specialized nutrition support. World J Surg 30: 1592-1604, 2006
4)Heyland DK, et al: Canadian clinical practice guideline for nutrition support for mechanically ventilated , critically ill adult patients. JPEN 27: 355-373, 2003
5)Marik PE, et al: Early enteral nutrition in critically ill patients: a systematic review. Crit Care Med 29: 2264-2270, 2001
6)Moore FA, et al: Early enteral feeding, compared with parenteral, reduces postoperative septic complications. Ann Surg 216: 172-183, 1992
7)Peter JV, et al: A metaanalysis of treatment outcomes of early enteral versus parenteral nutrition in hospitalized patients. Crit Care Med 33: 213-220, 2005
8)丸山道生:経腸栄養療法の管理、薬局59(7月臨時増刊号、栄養療法と薬学管理):99-109、2008
9)Bozzetti F etal: Postoperative enteral vs parenteral nutrition in malnoutrished patients with gastroinetstinal cancer: a randomized multicentre trial. Lancet 358: 1487-1492, 2001
10)Fearon KCH, et al: Enhanced recovery after surgery: A consensus revciew of clinical care for patients undergoing colonic resection. Clin Nutr 24: 466-477, 2004

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