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【連載】看護師のための輸液講座

第11回 ヘパリンロックと生食ロックについて

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

日常の輸液管理において、やはり、へパリンロックについての知識は必要です。というか、問題となっているのは、へパリンロックをしなくても生食でロックしておけばいいのではないか、ということですね。ナースの方々もこの問題については興味があると思います。今回は、へパリンロックか、生食でのロックでいいのではないか、という点について解説したいと思います。

なぜ、生食ロックが話題になったのか?

もともとは、カテーテルをロックする場合にはヘパリン加生理食塩水(へパリン生食)が普通に使われていたのです。それでは、なぜ、生理食塩水でのロック、いわゆる生食ロックが話題になったのでしょうか?
まずは、費用の問題です。もちろん、生食の方が安いことは言うまでもありません。
次は、へパリンはさまざまな薬剤との配合禁忌があるため、薬剤を投与する際には手間がかかる、という考え方です。すなわち、へパリンと配合禁忌のある薬剤を投与する場合、まずは生食でルートをフラッシュし、薬剤を投与し、その後、もう一度生食でフラッシュをしてからへパリンロックをする必要がある、ということです。

薬剤の写真

この方法は、SASH(saline-administration-saline-heparin)と呼ばれています。要するに、へパリンロックは時間と費用の浪費である、という考え方が出てきたのです。
また、 へパリンは凝固系を変化させる可能性があるため、出血の危険性を高める可能性もある、ということ、へパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)を引き起こす可能性がある、ということです。この問題に対し、へパリン生食の代わりとして生食でもいいのではないか、ということで検討が行われたのです。

薬剤の写真②

薬剤の写真③

薬剤の写真④

へパリンロックか生食ロックか

1996年のCDCガイドラインで『生理食塩液は、末梢カテーテルを開存させ、静脈炎を減少させるのにヘパリンと同様の効果がある』という条項が記載され、日本でも生食ロックでいいのではないか、という傾向が出現しました。

しかし、2002年のCDCガイドラインではこの条項が削られています。一般的になったからだ、という意見もありますが、実は、1998年Randolph AG(Benefit of heparin in peripheral venous and arterial catherers: systematic review and meta-analysis of RCTs. BMJ 316:969, 1998)が論文を発表し、この中で100単位/mLのへパリンロック液ではカテーテル開存率が有意に高いことが示されたのが理由ではないかと考えています。現に、アメリカで生食ロックの方がへパリンロックよりも多いかと言うと、決してそうではありません。
また、配合禁忌のある薬剤を投与する場合のSASHについてですが、配合禁忌となる薬剤は極めて少ないと理解しておけばいいと思います。100単位/mL程度の濃度ではほとんど配合禁忌となる薬剤はありません。実際の現場で問題になる可能性があるのは、ある種の抗がん剤(ファルモルビシン、テラルビシンなど)だけです。ですから、実際にはSASHをする必要がない場合がほとんどです。これも知っておいてください。

へパリンロックと生食ロックのカテーテル開存率は同じ?

へパリンロックと生食ロックのカテーテル開存率については、欧米と本邦との間で方法が違いますので、欧米の論文をそのまま導入することはできません。また、きちんとした検討は欧米の論文でも行われていないようです。それでは日本ではどうなのか?ということですが。
実は、ナースの雑誌などでは生食ロックの有用性が大きく取り上げられています。『生食ロックでも点滴ライン開存、感染リスク減、業務も効率化』とか、『へパリンロックから生食ロックへ、留置カテーテルの開存維持は低リスクの生食ロックで』などの見出しでの記事などもあります。 しかし、実は、生食ロックの方がへパリンロックよりもカテーテル開存率が高かったという結果を示した、査読のある原著論文は一編もありません。また、生食とへパリン生食の間で差がなかったという論文は、生食ロックでは陽圧ロックを行っているが、へパリンロックの場合にはそれが行われていないなど、ある意味、意図的な検討をした、と言わざるをえないものもあります。ここが重要な問題です。へパリンロックの方が生食ロックよりもカテーテル開存率が高かったというデータは、査読を受けた原著論文でちゃんと示されています。
ということは、へパリンロックの方が開存率が高いということは、信頼性の高いデータとして認められていることを意味しているのです。さらに、『生食ロックで十分』という表現が多いのですが、これは、『本当はへパリンロックの方が有効なんだけど』という前置きがあるはずです。

へパリンロックと生食ロックのカテーテル開存率

へパリンロックと生食ロックのカテーテル開存率②

へパリンロックと生食ロックのカテーテル開存率③

陽圧ロックをすればカテーテル内に血液は逆流しないのか?

生食ロックでも、陽圧ロックをすれば血液が逆流しないのでカテーテル内で血液が凝固して閉塞することはない、という意見もあります。しかし、これは明らかに間違いです。そもそも陽圧ロックという表現がまぎらわしいのです。陽圧ロックというと、ずっとカテーテル内が陽圧に保たれて、そのために血液はカテーテルの中に入ってくることができない、そう思ってしまっているのではありませんか? カテーテルは閉鎖系ではありません。カテーテルの先端はオープンです。陽圧ロックとは、カテーテルから注射器などをはずす場合、陽圧をかけながらはずしなさい、という意味であって、その直後にカテーテル内にかかっていた陽圧はなくなり、カテーテル内と血管内は同じ圧になるのです。ですから、陽圧ロックをすればカテーテル内に血液は逆流しないし、血液が凝固して閉塞することはない、と言う考え方は間違いです。
それでは、陽圧ロックをする必要があるのはなぜか?カテーテルから注射器などをはずす場合、陽圧をかけておかないと、注射器の先端部分の容積や針など接続部の容積分、血液が血管内に逆流することになるのです(negative displacement)。短い1.3cmの針では3mm程度ですが、注射器では5cm以上、インターリンクの先端部分などでも末梢静脈カテーテルの全長に血液が満たされるくらい逆流します。だから陽圧ロックが必要なのです。
具体的なことになりますが、カテーテルにゴム付き蓋をして針を刺して生食やヘパリン加生食を注入する場合、注入が終わって針を抜くと、針の体積の分だけ血液がカテーテル内に逆流するので、カテーテル内に入ってきた血液が凝固して閉塞する可能性があります。注入しながら針を抜け、というのが陽圧ロックの意味ですが、ま、これは陽圧などと言わなくても、考えればわかることです。当たり前のことです。これにヘパリン生食を用いたら、もっといいのではないかと思うのですけど。私はもう随分前からこの方法は実践しています。I-systemを開発した時からですが。
とにかく、陽圧ロックをすれば、ロック直後は血液は逆流しないでしょう(もちろん、その技術レベルにもよりますが)、しかし、時間の経過とともに徐々に逆流してくる、といのが正しい表現でしょう。また、カテーテルに長い延長チューブを接続してロックする方法の場合は、チューブが圧迫されたりすることによって、簡単に血液が逆流してしまうこともあります。ということは、生食であれば閉塞しやすくなる、はずです。

陽圧ロック説明写真

へパリンではHITの危険性があるじゃないですか

確かに、へパリン起因性血小板減少症:HITはへパリンの副作用としてよく知られています。この副作用が絶対に起こらないという保証はありません。このHITは、ごく少量のへパリンでも発生する場合がある、だからリスクマネジメントとしてもへパリンは使わない方がいいのだ、という考え方があるのです。また、血液透析症例などではHITが問題となることはあるようですが、へパリンロックの場合に使用される量はごくごく微量と考えていいのではないでしょうか。
ごく少量のへパリンが体内に入っても・・・とは言われていますが、本当にそういう問題が起こるのは、実は、症例報告程度しかないはずです。日本でへパリン加生理食塩水のプレフィルドシリンジが発売されてもう7年になります。何億本ものへパリン生食のプレフィルドシリンジが使われています。明らかな副作用として報告されているものはほとんどありません。 確率としては1億分の1以下と言ってもいいくらいです。それなのに、HITの危険性があるからへパリンロックよりも生食ロックを選択する、というのはおかしいのではないでしょうか。

生食の方が安いから、病院経営上は生食ロックの方がいいのです

そうです。生食の方が安いことは間違いありません。
プレフィルドシリンジとしても、生食の方が安いのです。しかし、実は、カテーテルをロックするために生食を使用することは、適応ではないのです。そこも知っておくべきでしょう。適応外使用をしていることになります。生食は、もちろん、電解質異常の補正や薬剤の溶解液としての使用方法しか認められていないのです。
さらに、生食ロックをやって閉塞率が高くなれば、入れ換えに伴う患者さんの苦痛は増える、医療者の手間が増える、DPCでは余計なお金がかかる、などの問題もありますので、大きな目で見れば、実は、へパリンロックの方が安くつくかもしれません。とにかく生食のプレフィルドシリンジの方がへパリン生食のプレフィルドシリンジよりも安いんだから、という方を説得することはできない、というのが私の考え方です。どうしようもないでしょう、そういう考えで医療をやっているのだから。

へパリンロックは感染しやすい?

これも大きな誤解です。
確かに、たとえば500mLの生食にヘパリンを加えて多量にヘパリン加生理食塩水を調製し、室温に放置し、必要な時このボトルから10mL程度づつ使うという方法で院内感染が発生して問題となりました。この方法でやれば、感染するのは当り前かもしれません。かつて、プレフィルドシリンジがなかった頃は、冷蔵庫に保存しておいたバイアル入りのヘパリンからその都度1mLずつ吸い取り、生食9mLを追加してヘパリン生食を作っていました。100mLの生食のバイアルにへパリン原液を10mL加えてヘパリン生食を調製し、冷蔵庫に保存して使っていたこともあります。 しかし、必ず冷蔵庫に保存していました。室温放置は、やはり危険です。しかし、へパリン生食のプレフィルドシリンジが開発されて、この問題は解決しているはずです。へパリン生食のプレフィルドシリンジは無菌ですし、その都度、容器から出して使用しますので、無菌です。それなのに、かつての方法で感染率が高かった、という現象を取り上げて、へパリンロックは感染しやすい、という意見があることは、おかしいですよね。プレフィルドシリンジで感染の可能性があるとしたら、それは、手技や使用方法の問題になります。

中心静脈カテーテルでは生食ロックは行うべきではないでしょう

中心静脈カテーテルの場合はどうでしょうか。
CVCの場合には100単位/mLのヘパリン生食を用いたヘパリンロックをきちんと実施するべきです。CVCは閉塞したら抜去しなければなりません。再挿入が必要になる場合も多いでしょう。CVCの挿入については、現在、その合併症が大きな問題になっています。社会問題にもなっていると言ってもいいかもしれません。CVC挿入時に生命に危険をおよぼすような合併症が起こる可能性があります。ですから、カテーテルロック程度の操作でCVCが閉塞するようなことがあってはならないと思います。
また、完全には閉塞していなくて、注射器で圧をかけたら再開通できる、という状況も起こりえます。再開通できたらそれでいいんじゃない?ではありません。再開通させるための操作が必要になります。加わります。おそらく、この場合にはヘパリン生食を使って再開通させようとすると思いますが(それなら、最初からヘパリン生食を使っておけばいいじゃない、そう思うことはしばしばなのですが)、これはカテーテル感染予防対策として得策ではありません。
しかも、これが三方活栓を用いて行うのであれば、感染を誘発していると言ってもおかしくないかもしれません。とにかく、CVCの場合にはヘパリンロックをきちんと行うべきです。生食ロックでいい、と誰かが言ってるから、ということでCVCに生食ロックを行い、CVCが閉塞した、別の部位からCVCを入れ換えた、血胸になった、大変なことになった。これ自体、重大な問題だと思います。

心静脈カテーテルでは生食ロックについて

心静脈カテーテルでは生食ロックについて②

心静脈カテーテルでは生食ロックについて③

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