【連載】看護師のための輸液講座

第15回 不必要に長い針を使っていることが針刺し事故の原因

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

現在の医療において、感染対策ももちろん重要ですが、医療安全が特に重要なものとなっています。私は、感染対策、医療安全と並んで栄養管理も重要だと考えているのですが、なかなか、重要性を並べて認識してもらえないので困っている、というのが正直なところです。もちろん、感染対策、医療安全は重要であることは間違いありませんし、私自身、栄養管理における感染対策、医療安全という問題についても勉強しているつもりです。
先日、医療安全の領域でものすごく有名な教授の講演を聞きました。すばらしい講演で、医療安全が重要であることを再確認させていただきました。しかし、ひとつ気になったのは、医療安全の領域は、用語を始め、ほとんどすべてが外国製なのですね。用語はほとんどが英語で、これを理解するだけで大変だ、と思ってしまいました。私のように年をとって、記憶力が低下しているとどうしようもないのです。ま、感染対策の領域でも日本製のガイドラインがあるにもかかわらず、CDCガイドラインは絶対に正しいと考えている方が多いのと同じかもしれませんね。 さて、今回の話題は利用安全の領域です。小さな問題かもしれませんが、『針刺し』(図1)という問題に関し、針の長さについて考えてみたいと思います。

リキャップ時の針刺し

現在使用されている注射針の長さ

とにかく針はあぶないのです。人の身体に刺入することを目的にしているのですから、その針が、自分に刺さってしまう危険があるのは当たり前のことです。その対策は、針を使わないことが決定的な対策であるでしょうが、リキャップをしないこと、安全機構が備わった針(翼状針、静脈内留置針)を使用すること、気をつけること、などが重要であるとされています。もちろん、これらは重要です。今回私が考えようと言っているのは、いわゆる普通の注射針です。
現在使用している注射針の長さについて知っていますか?針の長さについて考えたことがありますか?針の長さについて知っている方は少ないでしょうし、針の長さは現状でいいのか、などという問題について考えたことがある方は少ないと思います。

現在、普通に使用されている注射針の長さは、特殊なものを除くと、1.5インチ、1.25インチ、1インチの3種類です。1インチは2.54cmですから、3.8cm、3.2cm、2.54cmのいずれかです(図2)。もちろん、皮内針などは短いものが使われていますし、鎖骨下穿刺の試験穿刺で使用される針はカテラン針と呼ばれる2.4インチ(6cm)、2.8インチ(7cm)という長い針はありますが。しかし、なぜ、こんなに長い注射針が使用されているのでしょうか。しかも針の長さの単位がインチというのもおかしな話です。世界的には長さの単位はm、cmで統一されているはずなのですから。

使用可能な針の長さ

注射針はどんな時に使う?

注射針はどのような場合に使われるのでしょうか?まずは薬剤の混注です。注射針としての使用頻度は、薬剤の混注時が最も多いようです。バイアルやアンプルから薬剤を吸い取る時にもよく使われます。それから、輸液ラインの側注用Y字管への側注、もちろん静脈採血や静脈内へのワンショット薬剤投与、皮下注や筋注でも使われます。局所麻酔時にも使われますし、いろいろな試験穿刺時にも使われます。インスリンの注射などでは特殊な針が使われています。これらの場合は、いくら針を使わないようにすべきである、と言われても、使う必要がある、ということも重要です。針がなければ行うことができない処置、というものもたくさんあります。

現在使われているような長い針は必要?

薬剤混注時には18ゲージのピンク針を使うことが多いはずです。できるだけ早く混注操作を終えて、別の重要な仕事をやりたいので、18ゲージという太い針が便利なのだそうです。18ゲージという太い針がどうしても必要なのか?とナースに質問したことがありますが、18ゲージより細い針では、混注に時間がかかるのでイライラする、どうしても18ゲージ針が必要、なのだそうです。ピンク針の長さは3.8cmです。太さとしては、18ゲージ針が必要だとしても、長さはどうでしょうか?アンプルやバイアルから薬液を吸引して輸液内に混注するので、約4cmという長さはどう考えても必要ないと思われます。輸液バッグ混注口のゴムの厚さは5mmほどです(図3)。

輸液への薬剤混注

全体としては厚そうに見えますが、穿刺部分のゴムは薄くなっています。バイアルのゴム栓の厚さも5mmもありません。アンプルは底の液を吸引するのだから長い針が必要なのでは?と思われるかもしれませんけど、本来、アンプルの薬剤はアンプルを傾けて吸引するのが正しい方法ですので、長い針は必要ないはずです(図4)。

アンプルから薬剤を吸引する場合の針の使い方

このアンプルを傾ける時、ナース達に『実るほど、頭を垂れる稲穂かな』という格言を言うのですが、あまり反応してくれるナースがいないことは寂しいのですけどね。とにかく、アンプルの切り口を少し下げて薬剤を全部吸引できるようにするのが正しい方法なので長い針は必要ありません。特に、バイアルは内容薬液を全部吸引するためにはバイアルを逆さまにしますので、針を途中まで引き戻さなければなりません(図5)。

バイアルからの薬剤吸引

この操作中に針が全部抜けてしまい、あわてて刺し直すという操作をすれば、逆に針が長いことが不便で針刺しの危険性を高めています。確かに、バイアルの薬液を吸う時、長い針を使うと面倒くさい、やりにくい、あぶない、と実感することがあります。

次に注射針をよく使うのは、輸液ラインの側注用Y字管への側注でしょう(図6)。
側注用Y字管からの側注
側注には22ゲージか21ゲージの針がよく使われています。これらは3.2cmの長さものが多いのですが、側注用Y字管のゴム栓の厚さは、通常3mm程度です。私が開発したI-systemのゴム栓は厚くなっていますが、それでも約7mmです。3cm以上の長い針は無駄です。しかも針が長いため、側注用Y字管の構造自体がおかしいことになっています。側注部分がストレートになっていて、メインルートが横から斜めに接続するようになっています。側注部分をストレートにすると、針の全長を挿入した場合に輸液ラインを突き抜けてしまう可能性があるので、このような構造にする必要がある、ということです。また、長い針を使うことによって側注用Y字管のゴム部分という狭い所に針を刺す時、指に針を刺してしまうという問題も起こる可能性があります。
採血用にはある程度の長い針が必要であることは否定できません。通常は22ゲージか21ゲージ針が使われます。しかし、これも採血用針を用いればいいことで、通常の注射針を使う必要はありません。針の全長を刺入して採血をするということは現実にはほとんどないでしょう。ワンショットで静脈注射をする時もおなじような考え方になるでしょう。実際には静脈注射をする場合には翼状針を用いる方が安全です。最近の翼状針には針刺し防止機構がついています。直接、注射器に針を接続してワンショット静注を行う方が費用としては安くなりますが、安全を考えると翼状針を用いる方が有利なことは間違いありません(図7)。ただし、使い方をちゃんと理解しておかないと、針刺し防止機構がついているために逆に針刺し事故が起こってしまった、という話もあります。
針刺し防止機構つき翼状針
外科で処置をする場合には確かに長い針が必要かもしれません。局所麻酔をする場合にはある程度の長い針が必要なことが多いですし、鎖骨下穿刺をする場合もカテラン針などの長い針が必要です(図8)。しかし、このような場合が、逆に特別な場合、ということになる、という考え方もあるでしょう。
局所麻酔をする場合の針

注射針による針刺し事故を防止するために

ということは、特別な場合を除き、現在使用されている針は長すぎるということになります。この問題については、文献を調べても、針刺し事故防止についての本を読んでも、全く記載されていません。
米国と日本の針刺し事故についての比較では、日本の方が高頻度である、日本ではリキャップ時の事故の比率や病室の外での事例が米国に比較して多い、ということが報告されています。米国では病室内に針を処理する場所があるが、日本の病室では針を処理する場所がない。したがって、使用後の針を詰所に持ち帰ることが多いため、針刺し事故を起こすリスクが高く、また、その針を足に落としたりするための足の針刺し事故が米国の3倍以上であることも報告されています。また、日本では針の始末を使用者(医師)ではなく補助者(看護師)が行うことが多いことも、針刺し事故の頻度が高く、病室外に多く、足にも多い、という要因であると言われています。
とにかく、本邦での針刺し事故防止対策は、リキャップをするな、専用廃棄箱に捨てなさい、サンダルではなく靴を履きなさい、などということです。しかし、サンダルではなくて靴を履くことは可能であっても、リキャップをするな、専用廃棄箱に捨てなさい、といわれても、現実としては、なかなかそうもいかない場合も多いようです。
これらに対する対策として私が採用すべきであると考えてずっと訴えてきているのが、短い針を使え、ということです。『短い針』と言っても、そんなものあるの?使えるの?と思う方が多いと思います。『短い針』は、もちろんあります、もちろん発売されています。1/2インチの針があります。1/2インチということは1.27cmです。これで必要十分な長さであると思います。これらの長さの針を使用することによって、実際の臨床の場ではかえって操作がやりやすくなるし、針刺し事故も減るはずです(図9)。問題は、この短い針がある、使える、ということを知らないことでしょう。

リキャップ

当院では側注には21ゲージの1/2インチ(1.3cm)の長さの針を使用しています(図10)。
側注用Y字管からの側注
しかし、この針が定着するのには3年ほどかかりました。ナースは長い針を使用することに慣れていた、短い針を使うという発想自体がなかった、などがその原因です。一旦使い始めると、その使いやすさ、安全性はすぐに理解できるようで、特に側注用Y字管を用いた側注には必ずこの針を使用しています。1.3cmの短い針の方が1インチ(2.5cm)以上の長い針よりも、確実に、使いやすい、針刺しのリスクが低い、のです。
医療安全にこれだけ理論的なシステムの構築などが叫ばれているのに、なぜ、針の長さに『医療安全の専門家』は気付かないのでしょうか?現在使用されている針の長さは、特別な場合を除き、無駄であるだけでなくかえって危険です。針刺し事故防止のためにも、1/2インチの短い針を用いるべきです。

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