【連載】看護師のための輸液講座

第20回 高カロリー輸液のキット製剤について

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

便利な時代になりましたね。かつては・・・と言いましても、私が医師になり、高カロリー輸液を処方するようになった頃は、糖電解質液、アミノ酸液、電解質液、脂肪乳剤は発売されていました。しかし、総合ビタミン剤と微量元素製剤はまだ開発中でした。現在は、高カロリー輸液基本液もダブルバッグ、トリプルバッグ、クワドルプルバックが発売され、本当、何も考えなくても、深い知識がなくても、高カロリー輸液が実施できるようになりました。この「実施できるようになりました」が問題で、その前に「とりあえず」という表現をせざるをえないように思っています。 ここで大事なことは、このTPNキット製剤を使えば、本当に簡単に高カロリー輸液ができる、と考えてしまうようになってはいないか、ということです。本来、糖を何グラム、アミノ酸を何グラム投与し、その比率はどうすれば一番生体にとって有利なのか、と考え、脂肪乳剤も投与しないと脂肪肝になるし、ビタミンも適正量をきちんと投与して、微量元素も日本に1種類しかない製剤(図1)をきちんと投与しなければならないな、と考えて高カロリー輸液を実施しなければならないはずなのです。もちろん、その効果をモニタリングすることも重要です。しかし、ここまで考えて高カロリー輸液を実施している方はどのくらいいるのでしょうか。今回は、世界に類を見ない、便利なTPNキット製剤の意義と問題点について考えてみました。

微量元素も日本に1種類しかない製剤

栄養管理とは

普段、われわれは、自分が食べているものの成分などについてはほとんど考えずに食事をしているのではないでしょうか。食べている料理の中に、糖が何グラム、たんぱく質は何グラム、脂肪は何グラム、鉄や亜鉛がどのくらい、ビタミンがどのくらい、なんて考えてはいませんよね。特に私は、料理に関しては全く知識がないと言っていいくらいです。本当、何も知りません。うまい料理を、楽しく、気持ちよく食べたい、と思っているだけです。このように特別に栄養管理と考えることがなくても、健康な状態を維持することができているのです。それは、われわれが、いわゆる、健康人だからなのでしょう(メタボについてはノーコメントです)。

しかし、患者さんに対する栄養管理においては、その組成、投与量をきっちりと把握しておく必要があります。それが「管理」というものですから。確かに、食事の場合は、ある程度おおまかになってしまうのは仕方ないかもしれません。ただし、患者さん達が食べている食事の成分や組成を知ろうと思えば、専門家である栄養士さんに相談すればいいのです。かなり正確にそれぞれの栄養成分の摂取量を把握することができます。静脈栄養や経腸栄養の場合はもっと正確に把握することができます。組成が正確にわかっているものを投与しているからです。とにかく、患者さんに投与している栄養剤・輸液剤については、正確に把握していなければならない、それが栄養管理です。特に静脈栄養ではすべての組成が明らかになっています。微量元素やビタミンまで正確に明らかにされています。薬剤ですから当然のことです。

さて、高カロリー輸液は英語ではtotal parenteral nutrition:TPNという用語が使われ、日本語では中心静脈栄養、完全静脈栄養とも呼ばれます。輸液だけで栄養管理ができるように意図されたものです。ということは、生命を維持するために必要な栄養素を、現在供給可能な栄養素を、すべて投与すべきであることを意味しています。しかし、実際は、栄養輸液だけで生命を維持することは不可能です。さまざまな栄養素、特に微量栄養素が不足してくる可能性があります。投与できる製剤になっていない成分があるからです。しかし、可能な限り完全に近い栄養輸液を行うためには、現在供給可能な製剤をすべて、必要十分な量を投与するように努力しなければならないはずです。微量元素やビタミンもきちんと投与すべきでしょう。しかも、毎日投与すべきであるはずです。

高カロリー輸液キット製剤:開発の歴史と問題点

静脈栄養は糖、アミノ酸、脂肪、微量元素、ビタミン、電解質、水を組み合わせた輸液を用いて行います。かつては、これらを混合するという作業が必要でした。しかし、混合の手間、その間の汚染、混合に伴う反応やそれに伴う沈殿物の形成、などの問題があるため、さまざまな検討が行われてきました。さらに、便利に、時間をかけずに混合作業を行いたいという流れにのって、さまざまなキット製剤が開発されてきました。 まずは高濃度糖電解質液が開発されました。これは、最初はガラス瓶として開発され(図2)、その後、ソフトバッグに変わってきました。この高カロリー輸液基本液(糖電解質液)にアミノ酸液を加えて基本組成が作られるようになりました(図3)。

高カロリー輸液キット製剤

高カロリー輸液キット製剤+アミノ酸

次は、アミノ酸と糖電解質液の混合に伴う手間と汚染に対する対策として、ダブルバッグが開発されました(図4)。これは画期的な製剤となりました。さらに、脂肪乳剤も配合された製剤も開発され(図5)、いわゆる『3-in-1』製剤(糖、アミノ酸、脂肪)を容易に使用することができるようになりました(しかし、この製剤は日本ではあまり普及していないようです。脂肪の必要性に対する考え方、微量元素やビタミン剤、その他の薬剤の混合に対する制約のためでしょうか。私は非常に優れた製剤だと評価しております。

TPNキット製剤

『3-in-1』製剤

次のステップとして、微量元素製剤配合高カロリー輸液キット製剤が開発されました(図6)。ビタミンB1欠乏によるアシドーシスが問題になったことも一つの理由のようです。高カロリー輸液基本液に最初からビタミンB1が配合されていれば、ビタミンB1欠乏によるアシドーシスを完全に予防できる、というリスクマネジメントとしての考え方です。組成としては、それまでに発売されていた『高カロリー輸液用総合ビタミン剤』を『高カロリー輸液基本液』に配合し、トリプルバッグという容器に収納し、隔壁を開通させることによって一瞬のうちに混合させるという製剤です。ビタミン剤の量は、2000mL(ネオパレンでは2000mL、フルカリックでは1号:1806mL、2号:2006mL、3号2206mL)に1日必要量が配合されている、ということになっています。しかし、この製剤が出現したことによってどうなったか?それまでは、確実に一日必要量の高カロリー輸液用総合ビタミン剤が投与されていたのに、輸液量に伴ってビタミン投与量が減少してしまいました。たとえば、ネオパレンを1000mLしか投与しない場合、ビタミン投与量も半分になってしまうという状況になってしまいました。『ビタミンB1は半分の量でも大丈夫なんじゃない?』ということになってしまいました。これでいいのでしょうか。さらに、微量元素の投与が行われなくなりました。フルカリックやネオパレンには、一番欠乏症に陥りやすい亜鉛は入っているから、とりあえず微量元素製剤は投与しなくても『たぶん、欠乏症は起こらない』ということになってしまいました。その理由の最大のものは、微量元素製剤を混合する手間、めんどくさい、ということなのです。そのため、長期TPN施行症例において、微量元素製剤を投与しなかったために、欠乏症が発生した、という症例報告が学会誌に掲載されるようになるという、時代に逆行する現象も出現しております。

総合ビタミン剤配合型

そして、ついに、総合ビタミン剤も微量元素製剤も配合されたTPNキット製剤が発売(図7)。エルネオパです。現在配合可能な栄養成分がすべて配合されています。非常に便利な製品です。確かに優れた製剤です。外国ではこのような製品は発売されていません。しかし・・・と私は考えております。使い方を誤ると、さまざまな問題が発生する可能性がある、ということです。エルネオパ2000mLを投与すれば、一日必要量のビタミンと微量元素を投与することができます。しかし、すべての症例に対して2000mLを投与するはずはありません。体重や代謝状態を考慮すれば、1000mL程度で十分な症例、1500mL程度が適切な症例、いろいろあります。その場合、ビタミンと微量元素投与量もそれに伴って減少します。そこが重要です。もともと、成人に対する1日必要量として設定されているビタミン、微量元素が配合されているものです。その投与量が輸液投与量に伴って減少するというのは、果たして、正しい輸液管理と言えるのでしょうか。特にビタミンB1に関しては、厚労省の安全管理情報として3mgを目安に、という指示が出ています(図8)。『目安に』ですから、厳密に3mgでなくてもいい・・・そういう考え方はありますが、それはおかしいと私は思います。

 高カロリー輸液のキット製剤

 高カロリー輸液のキット製剤②

現在、実施可能な、可能な限り完全に近い静脈栄養の実施方法

まず、現在使用されているキット製剤の内容を理解してください。なぜ、アミノ酸と糖の比率がこうなっているのか?ビタミンや微量元素の配合量は?それらの実際の投与量は?体重あたりで計算すると、1日投与量はどうなる?これも理解しておく必要があるでしょう。キット製剤は、製品によって少し違いますが、2000mL前後を投与して初めて1日必要量のビタミンと微量元素が投与できる、ということも知っておく必要があります。

私の基本的な高カロリー輸液処方を解説します。ビタミンや微量元素配合キット製剤は使用しておりません。ピーエヌツインを使用しています。まずはカロリー投与量と水分投与量を計算します。1バッグとなる場合は、その中に高カロリー輸液用総合ビタミン剤と微量元素製剤を混注します(薬剤部のクリーンベンチ内で無菌調製する。DPC病院であるが、無菌調剤処理加算が算定できる。)。1バッグ+○○mLとなる場合も、最初のバッグ内に高カロリー輸液用総合ビタミン剤と微量元素製剤を混注しているので、確実に一日必要量を投与できます。もちろん、脂肪乳剤は毎日20%製剤100mLを側注しています(mL/時より遅い速度で投与する)。TPN投与量が2000mLとなる症例は、ほとんどありません。栄養障害に陥っている症例で、体重減少がある症例に対してTPNを行っているのですから。ということは、キット製剤を用いることにしていたら、当科のほとんどの症例では、ビタミンと微量元素投与量が不足することになってしまいます。

適正なTPN管理を行うために

私は、アミノ酸と糖電解質液を隔壁で区分けしたピーエヌツインまでの進化でよかったのだと思っています。TPNの基本液を簡便に調製することができれば、それにビタミンや微量元素を混注すればいいのです。それほどの手間がかかるのでしょうか。キット製剤を開発する日本の技術は確かにすばらしいと思います。しかし、それに伴って栄養輸液に対する考え方、知識、関心が低下しているという問題を無視することはできないように思います。技術の進歩に医療従事者のレベルが追随できていない、ということになります。本来、キット製剤を使う場合は、その組成、量を完全に把握し、問題点も理解して使用しなければならないはずです。ビタミン・微量元素・配合型TPNキット製剤まで進化してしまえば、静脈栄養に対する興味を完全に失ってしまうのではないでしょうか。ま、静脈栄養に関する勉強に割く時間を別の領域の勉強に振り分けることができますし・・・。確かに便利です。いろいろメリットもあります。しかし・・・。

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