【連載】看護師のための輸液講座

第21回 上腕ポートについて

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

【目次】


ポート(図1)。既に説明しましたね。使用方法、合併症、利点や欠点、などについてはもう理解していただいていると思います。 さて、ポートを使う目的は何だったでしょうか?具体的なことは別にして、とにかく、ポートを使わない期間には投与ラインから解放され、さらにポート自体が皮下に埋め込まれているため体外部分がない、だから安心してシャワーを浴びたり入浴したりすることができる、でしたね。QOLの維持・向上が主な目的でもあります。
主としてポートが埋め込まれているのは、前胸部です。ここに、いわゆる傷をつけ、胸に硬い器具を埋め込む、この手技自体がQOLを低下させているのではないか、ということも考える必要があります。それを考えて考案したポートが、今回のテーマである「上腕ポート」です。私は「もう1ランク上のQOL」と表現しています。

ポートの写真

上腕ポートとは

通常、ポートは前胸部に留置されます。鎖骨下穿刺や橈側皮静脈あるいは外頚静脈切開によりカテーテルを挿入して先端を上大静脈に留置し、ポートは皮下トンネルを作成して前胸部に埋め込みます。ポートを前胸部のどこに埋め込むか?それは、誰がポートに針刺しを行うかによって決めます。医療従事者や家族が針を刺す場合は、鎖骨の下の、比較的カテーテル挿入部に近い部位になります。自分で針を刺す場合は、座った状態で自分の目で見て操作が可能な部位、乳輪の内下方、ということになります。

前胸部ポート埋め込み部位の写真

そうなのです。これが標準的方法です。何が問題なのだ?・・・。私は「もう1ランク上のQOL」を考えて、ポートを上腕の外側に埋め込む方法を考案して実施しています。Upper arm port、上腕ポートと命名しています。

上腕ポートの写真

上腕ポートを考案した経緯

私自身、1987年頃からポートを用いた在宅静脈栄養法:home parenteral nutrition(HPN)を管理してきました。おそらく、静脈栄養法にポートを用いた結果をまとめて論文にしたのは、日本では私が最初でしょう(井上善文、根津理一郎、宮田正彦、秦 信輔、松尾吉庸、高木洋治、岡田 正、川島康生:完全皮下埋め込み式カテ竏茶eルを用いた在宅静脈栄養法.外科治療 1988;59(1):102-107)。化学療法などに用いた論文はすでに発表されていました。ちなにに、日本で最初にポートをHPNに用いたのは、当時、帝京大学救急部におられた長谷部正晴先生です。外傷で短腸症候群となった男性に、海外から自己輸入したポートを埋め込んでHPNを実施した症例を昭和61年の日本静脈経腸栄養研究会で発表しておられます。患者さんがプールで泳いでいる写真を提示され、非常に印象的だったのを記憶しています。

経験者の写真

この時に『QOL』がポートの最も大きなメリットであるということを教えられました。

その後、安全・簡便ということをより強く意識した方法として前腕にポートを埋め込む方法が行われるようになりました。
前腕にポートの写真
しかし、私はこの方法は採用したくないと思っていました。私は1994年から日本で最初にPICCを使用し、その使用経験について、これも日本で最初ですが、1996年に論文を書いています。この時の経験から、肘の静脈から挿入するPICCの先端が腕の動きに伴って移動することも理解していました。かつて使用されていた硬いポリ塩化ビニル製カテーテルで心房壁が穿孔するという合併症が起こったことは報告されています。前腕にポートを留置するということは、肘関節、肩関節という2つの関節を経由することになりますので、カテーテル先端の位置移動はかなり大きなものになるはずです。それによって心房壁の穿孔という重大な合併症が起こるという可能性は否定できません。それから、前腕部は皮下脂肪も少ないのでポートの隆起が目立つ、それも気になっていました。

上腕内側にポートを埋め込む方法も行われています。エコーガイド下やレントゲン透視下に上腕で尺側皮静脈または上腕静脈を穿刺してカテーテルを挿入し、ポートをその近くの上腕内側に埋め込むという方法です。皮下トンネルを作成する必要がない方法ですので、これも簡便な方法です。しかし、この方法も私は採用したくないと思っていました。その理由は、ポートに針刺しを行って輸液ラインなどを固定して輸液を行いますが、その期間、上腕内側では側胸部に当たって、痛いとか、その部分が当たらないように気を使わなくてはならない、という問題が生じるからです。この問題は、私自身が経験してきた、中心静脈カテーテル挿入方法の修練の経過にもヒントがあります。 私が研修医だった頃には、まだ鎖骨下穿刺法はかなり特殊な技術でした。鎖骨下穿刺が広く普及するまでは中心静脈カテーテルを挿入する方法として、上腕内側での尺側皮静脈切開という方法がよく行われていました。
尺側皮静脈切開により挿入した中心静脈カテーテルの写真

この方法をマスターしてから鎖骨下穿刺を習うという順番で指導されました。鎖骨下穿刺をマスターすると、ほとんどの症例は鎖骨下穿刺でCVCを挿入することになりました。しかし、大阪大学に戻り、IVH研(当時、小児外科教授の岡田正先生が指導)で研究生活を送るようになると、内科や小児科の白血病などの血液疾患患者に対するCVC挿入を依頼されるようになりました。こういう症例では化学療法の副作用として血小板数が1万/mm3以下というような高度の出血傾向になっていて、穿刺は危険でした、というか不可能な状態でした。そこで、上腕で静脈切開を行い、上腕を包帯で巻いて圧迫止血する、という方法を行いました。この方法では上腕内側にカテーテル挿入部が存在するので、その部分が側胸部にあたって擦れる、ドレッシング交換がやりにくい、という問題がありました。そこで、皮下トンネルを介して上腕外側にカテーテルを誘導する方法を行うというアイデアを思いついて実践しました。
上腕外側へ皮下トンネル作成

そうすると、管理が容易になり(図8a,8b)、ドレッシングが安定して貼付でき、患者さんも動きやすくなりました。皮下トンネルをつくって上腕外側にカテーテルを誘導するという方法も、おそらくは私が開発した方法です。PICC、上腕での静脈切開と上腕外側への皮下トンネルの作成が、上腕ポートを思いつくきっかけになったのです。
実例写真
実例写真②

世界で最初に上腕ポートを実施した患者さん

非常に大げさな表現ですが、世界で初めて私が上腕ポートを採用した患者さんは、当時、16歳の女性でした。クローン病で、エレンタール(成分栄養剤)を飲む、という経腸栄養法が行われていました。しかし、この方法では極めてつらいものとなる患者さんがいます。徐々に飲めなくなり、栄養状態が悪化する場合も多いようです。この患者さんは、まさにその状態でした。そこで、それに対する対策としてHPNを実施することにしました。方法は?もちろんQOLを考えて、ポートを留置した間歇的栄養法(cyclic TPN)で、夜間、寝ている期間に輸液を投与する、という方法です。さて、ポートはどこに埋め込みますか?通常は前胸部です。しかし、よく考えてみてください。16歳の少女に、前胸部を切開してポートを留置しますか?いかにうまく手術をしても、創はできますし、ポートの部分は盛り上がり、触れると硬いことは明らかです。

上腕ポートを実施した患者さんの写真

どうしますか?こういう方法しかないんだから仕方ない?病気なんだから仕方ない?そう言い切ってしまっていいでしょうか?私は、同じ年頃の娘がいました。娘の前胸部にポートを埋め込む?できません。かわいそう・・・それだけです。医師としてだけでなく、親として、人として・・・。 ポートを埋め込む手術をする前の夜、これまでの自分の経験などを考えていた時、上腕にポートを留置する方法を思いつきました。しかし、誰もやったことがありません。当日、本人と母親に十分に説明して、納得していただきました。というか、お願いされました。それだけ、本人と母親も悩んでいたのです。

腕ポート留置方法

手技的には特別な技術ではありません。上腕内側を2cm程度切開して尺側皮静脈または上腕静脈を露出します(現在はエコーガイド下に穿刺で行っています。切開創が数mmになっています)。レントゲン透視下でカテーテルを上大静脈まで挿入します。上腕のどこにポートを留置するかは、あらかじめ決めてマーキングをしておきます。ポートを埋め込む皮下ポケットを作成し、カテーテル挿入部からこの皮下ポケットまで皮下トンネルを作成します。カテーテルとポートを接続し、注入と逆血がスムースであることを再確認し、創を閉鎖して手技は完了です。30分から1時間の手技で、すべて局所麻酔下に行います。皮下トンネルの作成経路に工夫があります。ポートは前胸部に埋め込むものより小さなものを使用します。

腕ポート留置方法

上腕ポートの弱点

ヒューバー針の穿刺と固定が前胸部よりやりにくくなります。なぜなら、片手しか使えないからです。しかし患者さん達はいろいろ工夫してやっておられます。もちろん、管理を誰かがやってくれる場合は前胸部のポートと同じ管理ができます。また、小さなポートを用いますので、穿刺可能回数も少なくなります。ということは、留置期間が前胸部より短くなる可能性があります。しかし、5年以上使用できた患者さんもいますので、十分な留置期間が期待できるとは思っています。

上腕ポートの使用状況

現在、特に女性患者に対しては上腕ポートを第一選択としています。化学療法を施行する患者さんにも、です。特に乳がんの患者さんに対しては上腕ポートを積極的に進めています。なぜなら、乳房温存療法を行って乳房の形が変形しないように、と考えているのに、ポートを前胸部にポートを埋め込むことは、乳房温存療法の目的からはずれることになるからです。

上腕ポートの使用状況

この方法を開発して発表してから、クローン病でHPNを行う患者さんが何人か遠くからもやってこられました。担当医からポートを用いたHPNを薦められているが、前胸部にポートを埋め込むのはいやだ、と思っておられた患者さん達です。若い方からある程度「お年をめされた患者さん」まで。「いくつになっても女性にとってお乳は傷つけたくないものなのです」、と教えられました。
合併症の発生頻度などは、前胸部と差はありません。どこにポートを埋め込むかが重要なのではなく、いかに管理を的確に行うかが、合併症を発生させないためには重要である、ということです。
上腕ポートで5年以上管理ができている患者さんが何人もいます。前胸部より「もう1ランク上のQOL」が維持されていると思います。究極のQOLについては、結局は本人しかわからないものでしょうから。いずれにせよ、私は、医療従事者として、可能な限り患者さんのQOLも考慮した医療を実施したいと思っています。上腕ポートは、HPNや化学療法を施行する患者さんにとって「もう1ランク上のQOL」が達成できる一つの方法として、お薦めすることができる方法です。

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