【連載】看護師のための輸液講座

第23回 本物のNSTとは

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

【目次】


NST(栄養サポートチーム・栄養管理チーム)とは

NSTとは、Nutrition support teamの略語です。日本語では栄養サポートチーム、栄養管理チームと表現されています。この連載を読んでおられる方は、NSTとはなんぞや、という質問には容易に答えることができるようになっていると思います。

確かにNST活動をしている施設の数はかなり増え、現在のところ、日本静脈経腸栄養学会のNST稼働認定施設数は1500を超えています(図1)。しかし、認定されてはいても、きちんとした活動ができているのでしょうか。ここで、NSTとは、という原点に返って考えてみたいと思います。

(図1)日本静脈経腸栄養学会のNST稼働認定施設数

日本静脈経腸栄養学会のNST稼働認定施設数

もともと、NSTは安全にTPNを実施するために設立された

『NSTの対象症例は?』NST活動をされている多くの方は、この質問に対して『高齢者、脳梗塞後遺症患者、摂食嚥下障害患者、褥瘡患者、とにかくPEGの患者』と答えるのではないでしょうか。とにかく経腸栄養を行っている患者さん、と答えるのでしょう。もちろん、これらの患者さん達がNSTの対象症例であることに間違いはありません。

それでは静脈栄養を行ってい患者さん達は?ということになりますが・・・。静脈栄養を行っている患者さんはNSTの対象症例ではないのでしょうか。『静脈栄養実施症例を減らすのがNSTの目的なのです。とにかくTPN症例を減らすためにNST活動をしているのです。』と答える方が多いのでしょうか。しかし、静脈栄養がきちんと管理できなくて、本当のNST活動ができるでしょうか・・・できないはずです。

現在活動しているNSTの多くは、静脈栄養に対する考え方が間違っているのではないかと思います。中心静脈栄養(TPN)は実施してはいけない、と思い込んでいるのではないでしょうか。あるNST研究会での発表で驚いたことがあります。

『PEGからの経腸栄養で誤嚥性肺炎を起こした症例に対して、やむをえずTPNを施行することになった。そこでNST症例から除外した。』という発表がありました。これは、大きな間違いを犯しているのですが、それにも気づいていないからこういう発表になったのでしょうね。

NST活動は、もともとは1968年にStanley J.Dudrick(図2)が発表した、現在行われている形でのTPNを安全に実施するために始まったのです。

Stanley J.Dudrick

(図2)Stanley J.Dudrick。1968年にほぼ現在の形でのTPNを施行し、ビーグル犬で食餌摂取した場合と同様に発育・成長したことを示した。この犬の写真は『超有名』である。(Dudrick SJ, et al: Long term total parenteral nutrition with growth, development, and positive nitrogen balance. Surgery 1968;64:134-142)

アメリカでは、1970年代の初め、画期的な治療法として普及したTPNが、安易に実施されることになってしまって、管理体制が不十分であったためにカテーテル感染(CRBSI)が頻発し、TPNという治療法自体、実施すべきではない、という意見すら出る、という状況になっていました。

しかし、栄養管理法としてTPNは絶対に必要である、TPNでなければ生きていけない患者さんもいる、しかし、合併症発生頻度が高すぎる、ということになりました。そこで、TPNの適応を厳密にし、栄養評価を行いながら効果判定を行い、同時に感染対策もきちんと行う、きちんとしたTPN管理を行う、そのためにはチームで管理する必要がある、ということでNST活動が始まったのです。

本邦でもNST活動は1970年代から始まっていました。その代表が、私も後に所属することになった大阪大学第一外科、IVH研という研究室です。岡田正先生(図3)が日本のTPNのパイオニアとして、大阪大学でNST活動を開始したのが1974年のことです。院内すべての科からの依頼を受けて栄養管理を実施していました(図4)。

大阪大学小児外科の岡田正の写真

(図3)大阪大学小児外科の岡田正(あきら)先生が日本のNSTの草分けである。非常に古い写真であるが、1974年から開始された『IVH回診』の様子である。専用のカートを用い、院内すべての科からの依頼を受けて栄養管理を行っていた。

大阪大学小児外科、IVH研の『NST回診』

図4)大阪大学小児外科、IVH研の『NST回診』。きちんとしたスタッフ構成ではなかったが、1974年から院内各科からの依頼を受けて『NST回診』を行っていた。

活動内容の中心はTPNで、カテーテルの管理も重要な内容でした。当時は鎖骨下穿刺という方法すら普及しておらず、TPN自体、特殊な治療法であったのです。しかし、それが輸液製剤、器材、管理方法が普及するにつれて『IVH』はとりあえず実施できるようになった、とりあえず『IVH』さえやっておけば栄養管理はできる、という考えの医師が増えてしまいました。

NST(IVH研)になんか依頼しなくても自分達で『IVH』はできるぞ、栄養管理なんて『IVH』さえやっておけばいいんだ、という雰囲気になっていきました。それに伴って栄養管理に対する興味も薄れていったのです。この傾向は全国的なものとなってしまいました。

1998年、日本静脈経腸栄養学会がNSTプロジェクトを立ち上げ、日本にNSTを普及させる活動を始めました。理事長の小越章平先生が学会の主要プロジェクトとして採用されたのが大きな推進力となったのですが、必要性を感じていた方が多かったのでしょう、徐々にNST活動をする施設が増え、現在では保険適応にもなって1500施設以上が活動している、ということです。

ただ、NSTという用語が突っ走りすぎて、その中身、すなわち、栄養管理というものがおろそかになっていないか、という危惧が私にはあるのです。

現在のNST活動は?

基本的に、適切な栄養管理を行うためにはどうしてもNSTというチームが必要かというと、それは『否』です。チームを構成しなくても適切な栄養管理はできます。これが誤解の一つです。よく、『うちの病院にはNSTがないので、適切な栄養管理ができません。どうしたらいいでしょうか。やはりNSTを設立しなければなりませんね。』という声を聞きます。明らかに勘違いです。

NSTがなくても適切な栄養管理はできます。というか、現在のNSTが対象としている症例は、実は、栄養管理こそが治療の中心とならなくてはならない病態です。ということは、NSTがあろうとなかろうと、適切な栄養管理が実施されなければならないのです。NSTがなくても、です。しかし、NSTというチームが活動していれば、適切な栄養管理を実施しやすい、のは間違いありません。

もう1点、考えておくべきなのは、本邦の医療従事者の臨床栄養に関する知識・技術の不足です。私がプライベートに行った、4000人以上に対する調査の結果では、適切な栄養管理が実施できるレベルではない方が非常に多いことが明らかになりました。『三大栄養素がそれぞれ1g燃焼した時に発生する熱量は?』という問題に対し、糖、たんぱく質、脂肪、すべて正解であった医師は50%以下でした。

しかも、この医師は、臨床栄養のセミナーの受講者です。栄養に興味のない医師ではどの程度の正解率なのだろうと考えると、怖くなります。栄養士、看護師、薬剤師・・・どの職種も知識レベルが低い方が非常に多いことがわかりました。適切な栄養管理が実施できるレベルではないと思われます。どうすればいいのでしょうか?この現状をそのまま受け入れて、患者さんに適切な栄養管理を実施しなければならない、と考えた時、その対策の一つは、栄養管理レベルが高い人が集まって協力して適切な栄養管理を実施すればいい、ということです。

チームとして、栄養管理についての勉強もしながら、いろいろ経験も積みながら、栄養管理レベルを上げればいい、ということになります。いろんな職種、すなわち、医師、栄養士、看護師、薬剤師・・・がチームを構成すればいい、ということになるのです。それが現在、日本静脈経腸栄養学会が推進しているNSTの構成です。

しかし、現在、日本全体としてみた時、NSTが活動していようがいまいが、栄養管理の内容が偏りすぎていないでしょうか。経腸栄養にばかり力を入れているNSTがほとんどです。静脈栄養がきちんと実施できるNSTは非常に少ないと言わざるをえません。ここは非常に大事なポイントです。すべての患者に経腸栄養が実施できるはずがありません。

静脈栄養でないと適切な栄養管理ができない患者さんにはどうするのでしょうか。静脈栄養と経腸栄養は車の両輪であり、両方とも実施できて初めて適切な栄養管理ができる、ということを考えるべきです。静脈栄養がきちんと管理できないNSTは、実は、NSTとは呼べないのではないでしょうか。

NST活動の功罪

NSTがきちんと活動すると、院内の栄養管理レベルが上がると単純に考えてはいませんか?大きな落とし穴があります。仮に、NST活動が院内に浸透したとしましょう。NSTスタッフ以外はどうするでしょうか。栄養管理?NSTにまかせておけばいい、忙しいんだ、他にやらなければならないことがいっぱいなのだから、ということになります。栄養管理自体に対する興味もなくなってしまうのではないでしょうか。

ということは、NSTスタッフ以外の方々の栄養管理レベルは低下することになります。さらに問題なのは、このNSTのレベルが低ければ、その施設の栄養管理レベルは全体としても非常に低いものになってしまい、低くなっていることにすら気づかない、と言う問題が起こることになります。これも考えておくべき大事なポイントです。

NST活動の主要な内容として、院内スタッフの臨床栄養教育、というものを掲げておく必要がありますし、実は、これが最も重要な内容かもしれません。その分、NSTは常に栄養管理のレベルを維持し、高めるための努力が必要である、ということも言えます。

本物のNST活動とは

私が考えている本物のNST活動は、現実的には受け入れられないものかもしれません。理想論かもしれません。しかし、患者さんに適切な栄養管理を実施しようとすれば、以下のようになるはずです。

まず、すべての医療従事者が必要最低限の栄養管理ができるようになっている必要があります。これは、何も高度な知識と技術を必要とする栄養管理ではなく、普通に、常識と考えられるレベルです。栄養評価を行い、きちんと体重の推移を観察する、食事摂取量や静脈栄養や経腸栄養の投与量が計算されている、というものです。『それって、NSTがやるべき内容でしょう?』という意見もあるかもしれませんが、実は、これは、普通に病棟の業務、あるいは患者さんに対する治療として実施されていなければならない内容のはずです。

それができていないからNSTが活動しているんじゃないですか?という意見もあると思いますが、それではレベルの低い栄養管理しかできなくなってしまいます。こういうことが普通にできる医療レベルになっていれば、さまざまな合併症を持っている患者さん、特殊な栄養管理が必要な患者さんに対して、専門的で高度な栄養管理ができるチーム、すなわちNSTが関与して、最適な栄養管理ができるようになるのです。これが本物のNST活動だと思うのですが、いかがでしょうか?

1989年から2年間、私はDuke University Medical CenterのNSS(Nutrition support service)に実際に所属して、栄養管理チームの活動をみてきました(図5)。NSSは栄養管理の専属チームで、医師以外の職種、すなわち、薬剤師、栄養士、看護師、臨床検査技師は、NSSに専従していました。

医師は専従ではなく、病棟医師としても活動していましたが。病棟から依頼を受けると、NSSのスタッフが病棟へ出向き、栄養管理のサポートを行う、というシステムでした。彼らが行う栄養管理レベルは非常に高く、まさしく専門家チームと呼ぶにふさわしいものでした。(表)

Duke University Medical Center : Nutrition Support Service

(図5)Duke University Medical Center : Nutrition Support Service 看護師4人、薬剤師2人、栄養士2人、臨床検査技師1人、医師1人で構成されていた。院内の独立した機関であった。

Duke University Medical Center : Nutrition Support Serviceの構成内容

今後のNST活動の発展へ向けて

現在、適切な栄養管理が実施できている施設がどれくらいあるでしょうか。そして、適切な栄養管理が実施できるNSTがどれくらいあるでしょうか。実際、静脈栄養がきちんと実施できないNSTが多いのですから、適切な栄養管理ができるはずがないのです。そこのところをもっとよく考えて、本物のNST活動を目指していただきたいと思っています。理想論にすぎないのかもしれませんが、でも、そこを目指してNSTががんばれば、きっといい結果が得られるはずです。

具体的には、NSTがチームとしてのレベルを上げる努力が必要だと思います。一人ひとりがきちんとした臨床栄養学の専門家になる努力が必要でしょう。とりあえずNSTのメンバーになっているから、勉強会などに参加していればなんとかなる、それではダメでしょうね。自分できちんと勉強しなくては。

教材は本当にたくさんあります。ありすぎると思ったりしておりますが。その努力をまわりに広げていけば・・・。偉そうなことを言い過ぎですね。私自身、まだ、せっせと基礎的な勉強もしているような状態ですから。

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