【連載】人工呼吸器の基礎知識

第6回 人工呼吸管理中の合併症-VAPとは?(人工呼吸器関連肺炎)

前回に引き続き人工呼吸管理中に発生する合併症について解説します。
今回は合併症の中でも院内感染として多くの問題を抱える「人工呼吸器関連肺炎」について解説いたします。

Q:人工呼吸器関連肺炎とはどんな合併症ですか?

A: 人工呼吸器関連肺炎は人工呼吸管理中に発生する院内感染の一つです。

英語では「Ventilator - Associated Pneumonia」と表記され、一般的にはその頭文字をとりVAPと略語で呼ばれます。
人工呼吸器関連肺炎(以下VAP)は、人工呼吸管理開始前には肺炎がないことが条件となり、気管挿管による人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎と定義されています。

肺炎発症時期によるVAPの定義

VAPは発症時期により、大きく2つに分類されます。
気管挿管48~96時間以内に発症した肺炎をEarly-onset VAP(早期VAP)、気管挿管96時間以降に発症した肺炎をLate-onset VAP(晩期VAP)と分類します。

Early-onset VAPは肺炎球菌、インフルエンザ菌、MSSAなど抗生物質感受性菌が起炎菌であることが多いのですが、Late-onset VAPは、緑膿菌、アシネトバクター、MRSAなど抗生物質耐性菌であることが多いと報告されています。
そのため、Late-onset VAPを合併した場合、死亡率や合併症発生率が増加するなどの問題点が発生し、治療や管理を更に難渋させます。

VAPの発生率は、調査方法やVAPの診断基準の違いにより、文献によってその報告にばらつきがあります。
最近のアメリカの大規模データベースでは9.3%と報告されています。また人工呼吸管理が1日増える毎に、VAPの発生率が1%上昇するという報告もあり、長期人工呼吸管理においてはVAP合併の危険性が高まります。

Q:VAPを合併するとどのような問題が生じますか?

A: VAPを合併すると死亡率が非常に高くなり、また、入院日数やICU滞在日数が延長するため、医療コストも増加すると指摘されています。

医療コストにおいては1患者あたり40,000ドル増加するという報告もされており※、死亡率とともに医療の経済的負担を考慮したうえで、VAPは予防が重要となります。
※Rello J, et al, for the VAP Outcomes Scientific Advisory Group. Epidemiology and Outcomes of Ventilator-Associated Pneumonia in a Large US Database. CHEST 2002 ; 122 : 2115-2121

Q:なぜ人工呼吸中に肺炎が発生するのですか?

A: VAPは、人工呼吸そのものが原因ではなく、人工気道が留置されることにより、私たちが元々持っている気道の生体防御機能がバイパスされ下気道へ細菌が侵入することで発症します。

気道は単なる空気の通り道ではなく、外部から侵入してくる埃や最近、ウイルスなどの異物を下気道へ侵入させないためのフィルター機能やクリアランス機能、吸い込む空気に湿度を与える加温加湿機能を持っています。

気道の役割

しかし人工呼吸器が装着される患者のほとんどのケースは、そこに気管チューブや気管切開チューブ等の人工気道が留置されるため、これらの機能がバイパスされます。その結果、上気道の細菌がカフと気道壁の間からあるいは人工気道から直接下気道へ侵入し、生体の防御機能が低下しているときにVAPを発症します。

Q:VAPの感染源と感染経路を教えてください。

A: 図3は実際に挿管されている患者の2つの菌の侵入経路について図解したものです。

VAPの危険因子

Inhalation(吸入)は、本来清潔であるはずの人工呼吸器のデバイスが細菌汚染されたり回路の着脱等で、直接人工気道を介して細菌が侵入する感染経路です。回路汚染の原因として、加温加湿器の水やネブライザの薬液等を扱う際の不潔な操作や、気管吸引や回路交換等で気管を開放した際、回路内を細菌汚染させInhalationを引き起こす可能性等が指摘されています。

Aspiration(誤嚥)は、口腔内や中咽頭部の分泌物が下気道へ侵入する感染経路です。
人工気道の多くはエアリークや誤嚥を防ぐためにカフが付いていますが、カフ上部に貯留した分泌物の垂れ込みを完全に防ぐことはできません。分泌物はカフと気管壁の隙間から少しずつ下気道に垂れ込みます (Silent Aspiration:不顕性誤嚥)。

気管挿管時は口腔内で細菌が繁殖しやすい状況になります。
その原因として、自浄作用のある唾液の分泌が抑制されるうえにオーラルケアも十分に実施できないこと、消化管潰瘍を予防する薬剤や早期の経腸栄養により胃液がアルカリ化し、消化管で繁殖した細菌がチューブを伝って逆行性に口腔内へ移動すること、また経鼻的なチューブ管理により副鼻腔炎を合併しやすいこと等があげられます。

以上のような原因から、繁殖した細菌などが分泌物とともに気管チューブのカフ周囲から下気道へ侵入することが指摘されており、VAPの主因と言われています。したがってVAP予防にはAspirationの経路を断つことが重要であると考えられています。

次回はVAPの具体的な予防策について解説いたします。

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