【連載】人工呼吸器の基礎知識

第9回 術後低酸素血症

今回は術後低酸素血症 (Postoperative Hypoxemia) について解説いたします。

Q: 術後低酸素血症とはなんですか?

A: 術後低酸素血症は持続性低酸素血症 (Constant Hypoxemia) と反復型低酸素血症 (Episodic Hypoxemia) に大別されます。

持続性低酸素血症とは、術直後から数日間に起こり、動脈血酸素飽和度(SpO2)が持続的に低下した状態で短時間での大きな変化は生じない低酸素血症です。発生原因は麻酔薬の残存効果や鎮痛薬(オピオイドなど)による中枢性もしくは閉塞性の呼吸障害で、開胸手術や上腹部手術では機能的残気量(FRC) の低下も原因といわれています。手術当日~翌日にかけてパルスオキシメータによるモニタリングや酸素投与は、持続性低酸素血症を予防するために行われます。また、SpO2低下が持続する為観察も容易です。

反復型低酸素血症とは4~5%のSpO2の低下が2分以内で反復する低酸素血症で(図1)、術後2晩目以降の夜間(睡眠中)に起こるといわれています。酸素飽和度の低下に伴って心拍数の上昇を認めます。発生原因はレム睡眠のリバウンドといわれています。

反復型低酸素血症児のSpO2HRの変化

Q:  なぜ反復型低酸素血症は術後2晩目以降に発生するのですか?

A: 術後2晩目以降にレム睡眠が顕著に増加するためです (レム睡眠のリバウンド)。

健常人の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に大別されます (睡眠時無呼吸症候群の項参照)。

通常はレム睡眠とノンレム睡眠は周期的に繰り返されますが、術後は手術侵襲により睡眠が頻繁に中断され周期的な睡眠パターンの変化が無くなります。これにより、術後~数日間はレム睡眠がほとんど消失しますが、術後2日目以降になるとレム睡眠が回復し、術前よりもレム睡眠が顕著に増加します (図2)。

レム睡眠中は上気道閉塞が起きやすく呼吸が不安定になりやすい時期でもあり、睡眠の影響によって反復型低酸素血症が発生します。

術前後の睡眠パターンの違い

Q: 反復型低酸素血症によってどのような影響があらわれますか?

A: 術後譫妄や術後心筋梗塞、術後突然死と関連があるといわれています。

術後譫妄

譫妄発症の原因には低酸素血症や低血糖、呼吸性アシドーシスなど脳代謝障害との関与があげられます。
術後の譫妄の原因を検索した報告では、術前後のSpO2を比較したところ、譫妄を生じた群では術後2晩目に有意にSpO2の85%以下への低下、SpO2低下回数の増加を認め(表1)、酸素投与によって譫妄の改善を認めたとしており、術後譫妄と低酸素血症の関係が示唆されています。

Episodic Hypoxemiaと譫妄のデータ

心機能・突然死

胸部外科手術後での研究データでは、術前日と術後2日目のSpO2、心電図を観察した結果、頻脈や不整脈、ST変化が反復型低酸素血症と同時に発症していることが明らかとなりました (図3)。
また、突然死は術後3~5日目に多く発生し、そのほとんどが夜間帯 (0時~8時)で患者の睡眠中に生じていることから、反復型低酸素血症との関連が示唆されています。

術後のST変化

Q:反復型低酸素血症のリスクファクターと予防法はありますか?

A: リスクファクターについては、年齢や肥満(BMI)、睡眠時呼吸障害などがあげられていますが、術前の呼吸機能では予測できないとも言われており術後症例では注意が必要です。また、鎮痛剤の投与や術後無気肺、仰臥位などが助長因子としてあげられており、そのような症例では注意して観察していく必要があります (図4)。

反復型低酸素血症の原因・助長因子と成り行き

まずは、術後管理にかかわる方々が反復型低酸素血症の存在を認識し、少なくとも術後数日間は夜間睡眠時のSpO2のモニタリング、夜間酸素吸入などの対策が必要となります。

反復型低酸素血症は換気障害によっておこるので、換気のモニタであるカプノメータや無呼吸モニタも有用ですが専用の器械が必要となります。最近では低換気による反復する低酸素血症を早期に発見できる機能が搭載されたパルスオキシメータも販売されています。

術後2晩目以降とは、患者が安定したとみなされる時期であり離床が進む時期となりますが、夜間睡眠中の低酸素血症には注意が必要です。

次回は人工呼吸器グラフィックの応用について解説いたします。

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