【連載】ナースのための認知症ケア

第5回 認知症とは違う心の病

監修 三宅貴夫

社団法人 認知症の人と家族の会 顧問 京都保健会盛林診療所 所長


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うつ状態

 今回は認知症とは違う区別すべき心の病気、精神疾患ついて述べて、認知症の理解をより深めたいと思います。

 うつ状態になると関心が乏しく注意が向かないため、聞いたこと見たことをよく覚えてなく、もの忘れが目立つことがあります。しかしよく聞いてみると自分の年齢や日付など基本的でことは正しく覚えています。うつ状態では、言動が緩慢になり、食欲が低下し、身体の不調を訴えることが多くなります。

 高齢者のうつ状態は、本人の病気や障害、子供との離別、配偶者の死別などをきっかけに起こることが多く、精神療法的なアプローチと抗うつ剤の服用で多くは治る精神障害です。注意したおきたいことは、うつ状態の人に安易に激励しないことです。

 なお初期のアルツハイマー病の人などがうつ状態になることもあり、認知症とうつ状態が共にあるということになります。こうして、多くの高齢者は自分ではもの忘れがひどいと思っていても、身の回りのことは一応できており、大きな混乱もなく一人暮らしができるのです。これも認知症とは違います。

せん妄

 せん妄とは、ぼんやりしているといった意識の低下があり、幻覚妄想を伴い、このため不穏になる状態を言います。高齢者では脳血管障害、肺炎、脱水などの身体疾患に伴って生じることが多いです。軽い意識障害に気づかないで、話したことも忘れてします。

 「訳のわからないこと」を言うなどから認知症と見間違えることがあります。せん妄の高齢者への対応の基本は、せん妄の原因である身体疾患の治療ですが、抗精神病薬を併用すると有効なこともあります。ところで、よく認知症の人に「夜間せん妄」が多いと言われることがありますが、意識障害がなく不穏だけでならせん妄とは言えません。もっとも認知症の人がせん妄という状態なることは稀ではありません。

幻覚妄想状態

 通常、記憶障害はないので認知症と見間違えることがないでしょう。高齢者で「壁に蟻がたくさん這っている」「柱の後に誰か居る」「昔の友人が呼んでいる」といった幻覚妄想状態になることがあります。幻覚は、幻視や幻聴など見えないはずももの、聞こえないはずのものが見えたり聞こえたりする状態を言い、妄想とはありえない出来事をあたかも事実のように思い込むことです。

 こうした状態になる原因の一つとして薬があります。一番多いのはパーキンソン病の薬の場合です。身体疾患でもなることがあります。このため幻覚妄想をみると、薬や身体の病気が原因でないかどうかチェックしておく必要があります。 認知症の人でも幻覚妄想状態になることはありますが、認知症ではない人と異なり記憶障害など認知障害による幻覚妄想が多いです。

妄想症

 妄想症は文字通り妄想をもった状態、多くは被害妄想です。「隣の○○さんがお金を持っていった」「玄関に押しピンがばら撒かれている」などと根拠のないことを言い張る高齢者がいます。このため家庭内や近所でのトラブルが絶えないことになります。

 私の経験上、この妄想症の多くは一人暮らしの女性高齢者です。妄想はあっても記憶障害はなく一人で生活は営めており、認知症とは違います。妄想は頑なで、説得で変わるものではなく、認知症より対応が難しいこともあります。家庭や地域でトラブルや、介護施設でも集団生活に馴染めず、精神科病院に入院せざるをえないこともあります。

性格障害

 性格的な問題のために家庭や介護施設や地域での生活に支障をきたす状態を言います。あまりに頑固で、あまりに自己中心的な言動のために自分自身や周囲の生活を混乱に陥れる高齢者をみることがあります。記憶障害はないので認知症と見間違えることはないでしょう。性格障害の高齢者への対応も容易ではありません。

 性格を変えることは不可能で、性格障害があっても問題を生じさせないよう、生活環境を変えることで解決することもあります。在宅では頑固過ぎて家庭生活を混乱していても、老人ホームでは温和な高齢者に変わることもあるのです。

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