【連載】急変対応マニュアル

【急変事例】術後トイレに行ったら息苦しさで座り込んだ

解説 木下 佳子

NTT東日本関東病院副看護部長 急性・重症患者看護専門看護師

「急変対応の思考過程」に沿って事例で考えてみましょう。「急変対応の思考過程」の1「おかしさに気づく」は満たすものとして、2以降の流れで考えていきます。


事例 術後トイレに行ったら息苦しさで座り込んだ

Cさん(70歳・男性)は、胃の全摘出術を行いました。術後2日目、Cさんは歩いてトイレに向かいました。しかし、トイレに着く前に、途中で息苦しさと胸痛を訴え、座り込んでしまいました。この時、意識は朦朧としていました。

2 なぜおかしいと感じるのか?

Cさんは歩いてトイレに行く途中で息苦しさと胸痛を訴えました。息苦しさからは呼吸困難が疑われ、胸痛という痛みは何らかの異常のサインと考えられます。そして朦朧とした意識は、意識状態の低下とみることができます。

3 何が起こったのか? どんな可能性があるか?

  1. 術後の歩行時に重症肺塞栓症が起こり、呼吸困難感が生じた
  2. 胃の全摘出術後であることから歩行などの運動により出血し、出血性ショックが起こった
  3. 胸痛を訴えていることから、心筋梗塞や狭心症などACS(急性冠症候群)を発症した
  4. 意識が朦朧としていることから、低血糖が起こった

4 同定するために足りない情報は何か?

まずは可能性を精査する(否定できる可能性はないか)

  1. 出血性ショック 血圧低下や頻脈がみられなければ、出血性ショックの可能性は低くなります。
  2. 低血糖 採血で血糖値に問題がなければ、低血糖の疑いは否定できます。  →重症肺塞栓症あるいはACSであることを同定(あるいは否定)する

この事例で考えられる可能性の中で、死に至る危険性が高いのがACSと重症肺塞栓症です。12誘導心電図により、STの上昇や下降、左脚ブロックが認められなければ、ACSである疑いを否定することができます。
その一方で、採血を行い、Dダイマー(D-dimer)検査が陰性であれば、肺血栓塞栓症が否定できます。

5 重症肺塞栓症またはACSだとしたら、何をするか?

まずはショックへの基本的な対応を行います。その一方で、肺血栓塞栓症の診断のために胸部X線写真と心エコーをとります。そして血管造影やCT、MRIなどの画像診断で、確定診断を行います。

肺血栓塞栓症と診断された場合、血栓溶解療法や抗凝固療法、重症例では経皮的心肺補助装置(PCPS)などの治療が行われます。
また、ACSであると診断されたときは、血管撮影室(アンギオ室)でのカテーテルインターベンション、心拍数の調節や心筋収縮力の増大、前負荷・後負荷の調節を行うための薬物治療が行われます。

6 そのために看護師ができることは何か?

まずは気道を確保し、人を呼び、医師への連絡を行い、バイタルサインを測定し、意識状態を確認しながら、モニタリングを行います。このとき、12誘導心電図もとります。静脈路の確保と輸液の準備、採血を行い、血液データからDダイマーや血糖値もチェックします。さらに、酸素投与が必要な場合に備え、酸素を準備し、挿管という選択肢もあるので、その準備もします。

肺血栓塞栓症でもACSでも、血管造影検査は行うので、そのために何をしたらよいかを考え、準備をします。また、治療法に合わせ、どこで治療するかを検討します。タイミングを見計らって、家族への連絡も行います。

(『ナース専科マガジン』2012年6月号より転載)

ページトップへ