【連載】ナースのための認知症ケア

第10回 認知症の薬を使わない治療法とは?

監修 三宅貴夫

社団法人 認知症の人と家族の会 顧問 京都保健会盛林診療所 所長


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 アルツハイマー病の薬があるとはいえ、その効果は限られています。こうしたなかで認知症ケアの現場で薬によらない療法(非薬物療法)が試みられてきました。

 リアリティー・オリエンテーション、音楽療法、回想法、アロマテラピー、ガーデン療法、ダイバージョナルテラピー、ペット療法などの「療法」です。このうち比較的よく知られた代表的な3つの「療法」について述べてみましょう。

リアリティー・オリエンテーション

 リアリティーオリエンテーション(Reality Orientation)は、現実(リアリティー)に関して見当識(オリエンテーション)をより良くしようとするもので、認知症ケアでは比較的以前から行われてきました。認知症の人は、時間、場所、状況について認識や判断が低下しているのでこれ改善することを目的にしたものです。

 実際には、施設で生活している場合、日付、施設名など基本的な情報を書いた掲示板をデイルームなど目に着きやすい場所に取り付けたり、グループで学習したり、日常会話のなかに季節、日付、時間、施設名などを意識的に取り入れるようにします。

 しかし記憶障害の進んだ認知症の人にはこうしたことを繰り返しても覚えにくく効果は少なく、むしろ「雰囲気」が重要ですが、記憶障害の軽い認知症の人ではその時々に現実の基本的情報を得ることができるのである程度効果が期待できる「療法」かもしれません。

音楽療法

 これも比較的以前から行われてきた認知症の人の「療法」です。老人ホームなどで高齢者に楽器を持たせて合奏したり、童謡や唱歌を合唱したりしていたことがあります。このやり方は、認知症の人の各自の能力や好みを無視した集団的ケアで好ましくないと少なくなっているようです。

 音楽療法の本来の意図は、その人その人の好みや思い出に合った音楽を聞いてもらうことによって、認知症の人に残っている情緒的な部分に働きかけることで精神的な安定を図ることにあると理解しています。従って、それぞれの認知症の人に相応しいそれぞれの音楽があり、音楽療法があると考えます。日本でも民間団体の資格を持った「音楽療法士」という専門家が活躍しています。

回想法

 わが国で認知症の非薬物療法のなかで近年、最も普及しているのが回想法ではないでしょうか。認知症の人の回想法は、その方法は確立しており、入居施設や通所施設で広く実践されています。

 回想法は、認知症の人で記憶が比較的よく保持されている古い経験、昔の記憶のなかで経験や思い出を語り合うことで、認知症の人の認知機能の改善や精神的安定を図ろうとするものです。認知症の人は今のことは言われてもすぐ忘れますが、昔の記憶はよく維持されているものです。こうした認知症の人の残存能力に働きかける回想法は、その時々には精神的に安定し、生き生きすることは確かですが、その効果はどの程度持続するのか、認知障害が改善されるのか必ずしも明らかではありません。

非薬物療法は効果があるのか

 こうした非薬物療法は、認知症の「療法」と言えるでしょうか。その多くは科学的な効果の裏づけがないか曖昧なものだったり、経験的なものが少なくないと理解しています。試みている人は効果があると主張しますが、試みている人とその効果を判定する人とが同じ人であることが多く、何もしない対照者との比較なしに判断していることが多いようです。

 これでは試みている方法そのもので効果があるのか、試みている人の良くなってほしいという気持ちと行動が良くしているのかわからなくなります。また「何もしない」対照者を置いて比較している場合でも、試みられている認知症の人の数が少なく、効果の統計的な比較判断はできないことが多いようです。

 医療などの分野で薬など多くの療法の効果について文献的研究で判定、勧告する世界的に権威がある団体「コクラン・コラボレーション」(Cochrane Collaboration)は、現時点で公にされている論文を調べた範囲で上記3つの方法は認知症の人の症状を軽減する効果について科学的視点からその効果を認めていません。

 但し効果がないと言っているわけではありません。こうした理由から非薬物的療法について、認知症の人の症状、状態、背景に合わせ、一つの「療法」に固持しないで、それぞれの「療法」の限界を知りながら日々の認知症ケアに取り入れそれぞれの効果を活かすことは大いに意義があると私は考えています。

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